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3:連れ込み宿

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ウーゴはセオに連れられて、連れ込み宿の入り口を通った。落ち着いた雰囲気のフロアにあるカウンターでセオが慣れたように部屋を取り、宿の店員から鍵を預かってウーゴの手を握って近くにある階段の方へ歩きだした。手に触れる少し低いセオの体温にちょっとドキッとした。
手を繋いだまま2階に上がり、1番奥にある部屋の前まで歩いた。連れ込み宿に来るのは初めてだが、意外と静かで落ち着いた雰囲気である。セオが部屋の鍵を開けて、中に入った。ウーゴも続いて中に入る。
部屋の中を見回すと、然程広くない室内には存在感のある大きなベッドとその隣に箱ティッシュと小さな時計、何かのボトルが置いてある小さなテーブルだけがあった。部屋に入ったすぐ側にドアが1つある。
キョロキョロしているウーゴをセオが上着を脱ぎながら微笑ましそうな目で見た。


「連れ込み宿も初めて?」

「うん」

「そ。ここさ、結構いい所なんだよ。部屋にトイレとシャワーがついてるのは普通なんだけど、ローションが1本ならおまけでついてくるし、なにより防音結界が張ってあるんだ」

「そうなの?」

「うん。安い所は防音結界なんてないから、廊下歩いてる時も部屋に入ってからも普通に他人の喘ぎ声とか聞こえるよ」

「うわぁ……」

「ローションもいちいち持参するか宿のカウンターで買わなきゃいけないしね」

「へぇー」

「先にシャワーどうぞ。タオルとバスローブは備えつきがあるよ。上着とか脱いだ服はそこにクローゼットがあるから、そこに置くといいよ」

「あ、うん」


ウーゴはセオに促されるまま、トイレ兼シャワー室のドアを開けた。中に入ると、奥にバスタブとシャワーがあり、手前にトイレの便器があった。小さな洗面台もある。バスタブとトイレの間には半透明のカーテンがあり、おそらくシャワーを使う時はトイレの辺りが濡れないようにカーテンを閉めるのだろう。洗面台の上に棚があり、タオルとバスローブらしきものが置いてある。バスタブの奥の壁の方にも小さな棚があり、液体石鹸のボトルとシャンプーのボトルが置いてあった。
ウーゴは便器の蓋をして、シャツを脱いだ。脱いだシャツを便器の蓋の上に置き、シャツの下に着ていたタンクトップやズボンを脱いでいく。全裸になると狭いバスタブに入ってカーテンを引き、シャワーの蛇口を捻った。少し熱めのお湯を浴びながら、備え付けの石鹸で身体を洗い、ついでにシャンプーで髪も洗う。
今からセックスをするのだろうか。多分間違いなくするのだろう。なんだか全然現実感がない。セオ相手にちゃんと勃起するのだろうか。男同士のセックスの仕方は一応知識としては知っている。自称・愛とエロスの伝道師、土の神子マーサが講師の『即実践で使える性教育講座』を受けたことがあるからだ。マーサは祖母フェリと兄妹のような関係で仲がよく、ついでにウーゴが産まれた頃はマーサを筆頭に4人の神子とその娘達が同時期に何人も出産しているので、乳飲み子の頃は同時期に産まれた他の子供達と一緒くたにマーサの家で育てられた。ウーゴはマーサの母乳も飲んでいたらしい。マーサはフリオ達とも仲がよく、ウーゴはよくフリオやエドガー、祖父のクラウディオらに連れられて、マーサの家にも遊びに行っていた。豊穣を司る土の神子は性的な方面に詳しいらしく、ウーゴや他の子供達の性教育はマーサに一任されていた。マーサのめちゃくちゃ詳しいけど何故かエロい気分にならない不思議な座学でセックスの手順やコツなどは分かるが、果たしてうまく実践できるのだろうか。
身体と頭の泡をシャワーで流してシャワーを止め、背中の中程まで伸びている髪をまとめてぎゅっと絞って適当に水気をきる。魔力を操って風で髪と身体をさっと乾かすと、ウーゴはカーテンを開けてバスタブから出た。じわじわ緊張しながら薄いバスローブを羽織る。下着は着けなかった。着けた方がいいのか一瞬悩んだが、多分すぐに脱ぐので必要ないだろうと判断した。脱いだ服をまとめて持ち、サンダルを履いてドアを開ける。
ベッドの方に目を向けると、セオがベッドに腰かけて携帯通信具を弄っていた。
携帯通信具は比較的最近販売開始された魔導製品で、遠隔地同士でも会話や短い文章のやり取りができるという画期的な代物である。ウーゴが所属している第5研究部の隣の第4研究部が開発したものだ。ウーゴも持っている。
携帯通信具に視線を落としていたセオがウーゴを見た。


「あ、出た?早かったね」

「あ、うん」

「じゃあ、僕もシャワー使ってくるね」

「うん」


立ち上がったセオは携帯通信具を小さなテーブルの上に置いて、ウーゴと入れ替わるようにシャワー室のドアの向こうに消えた。すぐに水の音が聞こえてくる。ウーゴは落ち着かない気持ちでクローゼットを開けて適当に自分の服を放り込んだ。
なんとなくそわそわしながら、大きなベッドに腰かける。チラッと小さなテーブルを見ると、ローションのボトルが目に入り、これからすることがじわじわと現実味を帯びていく。ドキドキしながら微かに聞こえる水音に耳をすませていると、水音が止まり、少ししてからドアが開く音がした。
薄いバスローブを着たセオが出てきた。肩にかけたタオルで濡れた短い髪を拭きながらウーゴに近づいてくる。


「タオル使わなかったの?」

「あ、うん。風で乾かした」

「あぁ。風の民だし、魔術師だもんね」

「あー……髪。乾かそうか?」

「いいの?」

「うん」

「じゃあお願い」


セオが淡く微笑んでウーゴのすぐ隣に腰かけた。近い。腕が触れあいそうなくらい近い。ウーゴはどぎまぎしながら、魔力を操って弱めの風を起こし、セオの短い髪をパッと乾かした。セオは自分の髪に触れて、面白そうな顔をした。


「凄いね。本当に乾いてる。便利だなぁ、風の魔力」

「土の魔力も便利じゃん。結界魔術と相性いいし。農作業する時とかも鍬いらずで」

「僕は魔力が人並みだからね。結界魔術は使えないし、農作業もしたことがないよ。普段使うのは浄化魔術だけだよ」


浄化魔術は超初歩的な魔術で、消費魔力も少なく、小学校で皆習う誰でも使える魔術だ。身体を清潔にする為のものである。そして男同士のセックスに必要不可欠な魔術だ。直腸にかけることで、直腸内をキレイにしてくれる。

セオがタオルをポンッと小さなテーブルに放り投げた。セオがウーゴに更に近づき、ウーゴの背中を優しく撫でた。


「じゃあ、する?」

「え、あ、う、うん」


途端にウーゴの心臓がバクバク激しく動き出した。ガチガチに固まったウーゴの背中を宥めるようにセオが優しく撫で、そっとウーゴの顔に顔を寄せ、チュッと小さな音を立ててウーゴの頬にキスをした。頬に感じた柔らかいセオの唇の感触になんだかドキドキする。


「キスしていい?」

「あ、うん」


セオがふっと笑って、ウーゴの唇に触れるだけのキスをした。ウーゴはキスをするのも初めてである。自分の唇に感じる柔らかい感触にドキドキしてしまう。嫌悪感はまるでない。キスをする時、鼻で呼吸をすることは知っているが、自分の鼻息がセオにかかるのではないかと気になって、ウーゴは思わず息を止めた。すっごい至近距離に目を閉じたセオの顔がある。近くで見ると意外とセオは睫が長い。唇をセオに軽く吸われながら、じーっとセオの睫を見つめているとセオが目を開けた。アーモンド色のセオの瞳に何故だか吸い込まれるような気がした。セオが楽しそうに目を細めた。唇を触れあわせながら、セオが囁いた。


「ふふっ。見すぎだよ」

「え、あ、ごめん」

「ははっ。もしかしてキスも初めて?」

「う、うん」

「鼻で息をするのは知ってる?」

「あー……うん。あの、でもさ」

「ん?」

「その……鼻息かかんない?」

「ふっ、ははっ!そんなの気にしないよ。お互い様じゃん」

「え、あ、そうなんだ……」


クックッとセオが超至近距離で笑った。セオからは酒の匂いとウーゴと同じ備え付けの石鹸の匂いがする。なんとなく居たたまれなくて、ウーゴは目を泳がせた。
セオがまたウーゴの唇に唇で触れた。そのまま小さな声で囁く。


「ね。口開けて」

「あ、うん」


ウーゴが素直に口をパカッと大きく開けると、途端にセオが面白そうに静かに笑った。


「ふはっ。そんなに大きく開けなくてもいいよ」

「あ、はい」

「舌入れていい?」

「あ、えっと、うん。ど、どうぞ」

「はははっ。緊張してる?」

「あー……うん」

「ふふっ。そんなにガチガチにならなくても大丈夫だよ。気持ちいいことするだけだし」

「う、うん……」


セオが少し顔を離した。ウーゴの緊張を解すように、やんわり背中と頭を撫でられる。セオがウーゴの頭を優しく撫でながら、ウーゴの頬や鼻筋に何度もキスをした。ウーゴの頭の形をなぞるように優しく撫でてくるセオの手の感触がなんだか心地いい。思わずウーゴが目を細めると、セオがまた笑った気配がした。
ウーゴの唇にセオの唇がまた触れた。ぬるっとセオに下唇を舐められる。ウーゴが少しだけ口を開くと、すかさずセオの舌が口の中に入ってきた。ウーゴの口内を探るようにセオの舌がゆったり動いている。歯列をなぞり、上顎をねっとり舐められると、なんだかゾクゾクする。舌も舐められて、舌同士を絡ませるようにされると、なんだか気持ちがいい。ウーゴはセオにされるがままになった。酒で普段より高い体温が更に上がってきた気がする。セオはウーゴの口内を舐め回しながら、ウーゴの頬を優しく撫でた。微かに濡れた音がする。なんだかいやらしい。
頬を撫でていたセオの手がウーゴの首筋をやんわり撫で、そのままウーゴの肌に手を這わせながらバスローブをはだけさせた。セオの手がウーゴの胸元を撫で、肩に触れ、二の腕あたりを触れるか触れないかという微妙な力加減で撫でてくる。ただ肌を撫でられているだけなのに、なんだかゾクゾクして、じわじわと下腹部に熱が溜まっていく感覚がする。
セオがウーゴの上半身を撫で回しながら、小さく口を開いて誘うように舌先でウーゴの舌をつついた。ウーゴは誘われるがままにセオの口内に自分の舌を入れた。セオの真似をするように、ぎこちなく舌を動かして、セオの歯列をなぞり、おずおずと上顎を舐めてみる。『いい子』とでも言うように、セオがウーゴの頭を優しく撫でた。
息が上がるまで、セオとじゃれあうように長いキスをした。セオが顔を離すと、ウーゴの目にセオの濡れた唇が映った。少し上気した頬も相まって、なんだかセオが色っぽく感じる。セオがチラッとウーゴの下半身に視線を向けた。


「ふふっ。勃ってる」


楽しそうにそう言うセオの視線を追うように自分の股間を見ると、確かにウーゴのぺニスは勃起していて、バスローブを押し上げていた。なんだか恥ずかしい。ぶわっと顔が熱くなる。
セオがクスクス小さく笑いながら、バスローブを脱ぎ捨てた。思わずセオの下半身を見ると、下着を着けていないセオの勃起したぺニスが直で見えた。
何故だか口内に唾が溜まり、ウーゴはごくっと唾を飲んだ。


「ウーゴも脱いでよ」

「う、うん」


ウーゴは中途半端にはだけられていたバスローブを、緊張か興奮かで微かに震える手で脱ぎ捨てた。


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