上 下
28 / 53

28:まったりー

しおりを挟む
まだお互い荒い息を整えている時、くーっと間抜けな音がした。ニーファの腹の虫の音だ。クリスが思わずといった風に軽く吹き出した。


「……お腹空きました」

「とりあえず風呂に入ってからご飯食べる?」

「はい」


クリスがニーファの腰に触れ、ゆっくりとペニスを引き抜いた。引き抜かれる感触にゾクゾクするが堪える。精液の匂いと甘い花の蜜のような匂いがする。ニーファがクリスの上からどくと、クリスがぐちょぐちょのシーツを引っ張って腹や胸にまで飛んでるニーファの精液をざっと拭いた。そのままシーツをベッドからひっぺがし、丸める。とりあえず濡れたところがベッドのマットにつかないように置いて、クリスがニーファの手を握って、裸のまま風呂に向かった。

風呂場に着くと、洗い場でまずクリスがニーファを洗ってくれる。石鹸をつけてよく泡立てたスポンジで優しく肩や背中を擦り、後ろから抱き締めるように前も洗ってくれる。普段はここまでしてくれない為、ちょっと恥ずかしいけど、ガンガンテンションが上がるニーファである。そのまま文字通り全身まるっと洗われた。
軽く体の泡を流すと、今度は優しく髪の毛を洗ってくれる。実に甲斐甲斐しい。泡を流し、温泉に浸かる時に髪が湯に浸からないように髪を纏めるところまでやってくれた。


「交代」


そう言ってニーファはクリスと場所を交代した。たっぷり泡立てたスポンジでクリスの背中を擦る。さっきしてくれたのと同じように洗っていくが、股間は断固死守された。何故だ。ちょっと拗ねながら今度は髪を洗う。ざぁっ、とお湯で流すと、手を引かれていつもと同じ体勢で温泉に浸かった。2人揃って、大きく息を吐いた。ニーファが、ゆるく抱き締めるように回されたクリスの腕に手を沿えると、クリスがニーファの肩に顎を乗せた。まったりとした空気が流れる。空腹ではあるが、ちょっと眠くなってくる頃にクリスがニーファに声をかけた。


「上がろうか」

「はぁい」


そのままクリスに手を引かれて立ち上がる。手を繋いだまま風呂から上がったはいいが、脱衣場にタオルはあるが、着替えがない。


「忘れてたね」

「部屋で着替えます?」

「そうだね」


クリスがパパっとドライヤーで髪を乾かすと、今度はまだタオルドライをしているニーファの髪を乾かすのを手伝ってくれた。手入れ用の香油を髪に馴染ませて、優しく手で髪をすきながらドライヤーをかけてくれる。ニーファはその優しい手つきに目を閉じて身を任せた。

2人揃って全裸で部屋に戻ると、チェストから着替えを取り出して、もそもそと着替える。部屋に居たときは気にならなかったが、露天風呂から戻ると部屋の匂いがすごい。
酒と精液と甘い花の蜜っぽい匂いが充満している。ニーファはとりあえず窓を開けて換気することにした。ニーファが窓を開けている間にクリスがぐちょぐちょのシーツと枕に巻いていたタオルを取り上げ、洗濯機がある場所に向かった。ニーファも床に落ちていた服を拾い上げ、後を追う。クリスが洗濯機にシーツ類を放り込み、気持ちいつもより多めに洗剤を入れていた。横から服も入れてスイッチを押す。


「ご飯何にしましょうか?」

「今から作るのも何だし、あるものでいいんじゃないかな。まだマーサ様が作ってくれてたのあったよね?」

「はい」


クリスが手を握ってくれたので、手を繋いだまま2人で台所に移動する。冷蔵庫を開け、野菜の煮物や魚のマリネ等を取り出す。


「お酒はどうします?」


何気なく聞くと、クリスが目を泳がせた。


「あー……今はいいかな……」

「はーい」


特に気にせず、お茶を淹れるためにヤカンに水を入れ、火にかける。その間に料理を運ぶが、テーブルの上には酒瓶と食べ終えた皿が乱立していた。


「どかすよ」

「お願いします」


クリスが手早く皿を重ねて、瓶を一ヶ所にまとめた。空いたスペースにとりあえず料理を置くと、2人で床にもあった酒瓶もまとめて台所に運ぶ。ざっと瓶を水で洗って、乾いてる皿を洗い桶に入れると、ちょうど湯が沸いた。
皿を洗うのは後ででいいだろう。洗い桶に水を張って、お茶を淹れる。
そういえば、喉がカラカラだった。
ニーファは、2人分のお茶を淹れると、お盆にのせてテーブルまで運んだ。クリスが取り皿や箸を並べてくれていた。


「食べようか」

「はい」

「いただきます」

「いただきまーす」


空腹を満たすように、母の美味しい料理をパクパク食べる。熱いお茶を飲むと、やっと人心地ついた気がする。あっという間に皿が空になった。


「足ります?」

「うん。俺はもういいよ」

「はーい」


今何時なんだろう、と時計に視線を向ける。
日付まで表示される壁掛け時計は2日の5時と表示されていた。もうそろそろ日が昇る頃だ。
とりあえず皿を片付けるとして、これからどうしよう。眠い気がするが、今から寝たら、また中途半端な時間に起きる事になる。ニーファは、ゆっくりと熱いお茶を飲んでいるクリスに目を向けた。


「片付けた後、どうしましょう」

「んー……特にやることないね」

「ですよね」

「また寝るのはちょっとね……」

「もうすぐ日が昇るし、家の周りの散策でもしますか?」

「あぁ。それがいいね……」


と言いかけて、クリスがちらりとニーファを見た。言うか言わまいか躊躇するように口を動かした後、クリスが口を開いた。


「……身体キツくない?」


ニーファは一瞬置いて、カッと赤くなった。言われてみれば正直あらぬところが軽く痛いが、問題ない。しどろもどろにそれを伝えると、クリスが少しほっとした顔をした。

2人で皿を片付け、洗濯物を干す頃には日が昇っていた。雲ひとつない快晴である。これなら夕方までには洗濯物も乾くだろう。
お昼用の米だけ仕掛けて、2人で森のなかを歩く。クリスが手を繋いでくれたのが嬉しくて、指を絡めて軽く手を振りながら歩いた。
家の周りの森は暖かく、緑が生い茂っている。森の外じゃ今の季節には咲いていない花も沢山咲いていて、蜜を求めて虫や小さな鳥か飛んでいた。長閑である。こんなにゆっくり外を歩くのは何時ぶりだろうか。
家から半径2キロ以内だが、ニーファは上機嫌で散策を楽しんだ。

のんびり歩いて回ったからか、家に戻ったのは昼前だった。
冷蔵庫の中身とにらめっこして、折角なので水の国産らしき魚を取り出す。


「クリス先生ー」

「ん?」

「魚は塩焼きと煮付け、どっちがいいですか?」

「あー……じゃあ、煮付けで」

「はーい」


ついでに冷蔵庫に入っていた浅利も取り出す。野菜は何がいいだろう?一瞬悩んでキャベツを取り出した。
浅利を砂抜きする為にボールに濃い目の塩水を作り、洗った浅利を入れて大きめの鍋の蓋を被せる。キャベツは4分の1に切り洗って、そのまま皿にのせ魔動レンジに入れてチン。
魚は鱗と内臓は既に取り出されていたので、鍋に調味料を入れて沸かした後、そのまま入れる。
キャベツが加熱できたら、レンジから取り出して冷ます。浅利の砂抜きはもういいだろう。鍋に水を入れて沸いたら浅利を入れる。魚を一度ひっくり返し、落し蓋をして更に煮る。冷めたキャベツを刻んで絞り、醤油と酢、柚子の果汁と柚子皮を入れて混ぜる。
浅利の鍋を見ると、全部開いたようである。火を止めて鍋に味噌を入れる。
魚もいい具合に煮えていたので、そちらも火を止めた。
皿に盛れば、お昼ご飯の完成である。

ニーファがテーブルにいそいそと運ぶと、クリスが顔を綻ばせた。


「いい匂いだね」

「えっへへー」


我ながらいい出来である。誉められて素直に嬉しい。皿を並べて、お茶を淹れると早速食べる。散策でお腹もだいぶ空いていた。


「いただきます」

「いただきまーす」

「ん。美味しい」

「良かったです」


熱々のご飯に魚の煮付けを解したものを乗せて口に頬張る。脂がのっていて美味しい。浅利の味噌汁も出汁がよく出ている。キャベツの酢の物も柚子の香りが効いていて美味しい。
二人であっという間に食べきってしまった。食後に新年の祝い菓子を摘まみつつ、熱いお茶を飲む。
まったりとした空気が心地好かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。 村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。 攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。

【完結】A市男性誘拐監禁事件

若目
BL
1月某日19時頃、18歳の男性が行方不明になった。 男性は自宅から1.5㎞離れた場所に住む40歳の会社員の男に誘拐、監禁されていたのだ。 しかし、おかしな点が多々あった。 男性は逃げる機会はあったのに、まるで逃げなかったばかりか、犯人と買い物に行ったり犯人の食事を作るなどして徹底的に尽くし、逮捕時には減刑を求めた。 男性は犯人と共に過ごすうち、犯人に同情、共感するようになっていたのだ。 しかし、それは男性に限ったことでなかった… 誘拐犯×被害者のラブストーリーです。 性描写、性的な描写には※つけてます 作品内の描写には犯罪行為を推奨、賛美する意図はございません。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

勇者よ、わしの尻より魔王を倒せ………「魔王なんかより陛下の尻だ!」

ミクリ21
BL
変態勇者に陛下は困ります。

処理中です...