16 / 41
16:面倒臭い酔っぱらい
しおりを挟む
ミケーネを寝かしつける時間になると、アイディーはミケーネを抱っこして2階の自室に移動した。ロバートは居間で今夜も酒を飲んでいる。
ミケーネと並んでベッドに寝転がり、ミケーネが比較的最近ロバートに買ってもらったお気に入りの絵本を広げ、アイディーは絵本を読み始めた。
絵本が終盤に差し掛かった頃。突然アイディーの部屋のドアがノックもなしに開いた。驚いてドアの方を見れば、枕を持ったロバートがすたすたと入ってきた。ロバートはベッドのすぐ側に来ると、にーっと上機嫌そうに笑った。
「俺も一緒に寝る!」
「あ?」
「……やぁぁぁぁだぁぁぁぁぁ!!パパやぁぁぁぁ!!」
「げっ」
「な、なん、なんでっ、ミケーネ、う、うぇっ、う、う、うぅ……」
眠いのもあって、不機嫌にイヤイヤ叫びだすミケーネ。そんなミケーネの反応に泣き出す酔っぱらいのオッサン。とても面倒臭い状況になったことを察したアイディーは眉間に皺を寄せた。
アイディーは俯せに寝転がっていた体勢から身体を起こし、ベッドの上に胡座をかいて座ってから、とりあえずヤダヤダ言っているミケーネを抱っこした。
「そっかー。坊っちゃん嫌かー」
「やぁぁぁぁぁん」
「だってよ」
アイディーがロバートを見上げれば、くしゃっとロバートの顔が悲しげに歪み、ボロボロと大粒の涙を溢した。完全に酔っている。
「ひど、ひどい、うっ、うっ、う……」
自分の枕を抱き締めて泣いている面倒臭いオッサンにアイディーは小さく溜め息を吐いて、そもそも何故ロバートが一緒に寝るということを言い出したのか、理由を聞くことにした。
「旦那様よぉー、何で一緒に寝んの?」
「うっ、ぐずっ、1人、寒いし、うえっ、さみしい……」
「子供か」
「うっ、うっ、うぇっ、うぇっ」
「あーちゃぁぁ!あぁぁぁぁ……」
「あ、やべ。こっちも泣き出した」
アイディーの部屋に大人と子供の2人分の泣き声が響くという中々にカオスな状態になってしまった。アイディーはミケーネを抱き締めて背中を優しくポンポンしてやりながら、子供のように泣いている面倒臭くて情けないオッサンを見上げた。泣き上戸の酔っぱらいが心底面倒臭いが、なんとかせねばなるまい。
「坊っちゃんと一緒に寝てぇの?」
「うぇ、うぇ、うん……」
「だってよ。坊っちゃん、パパが一緒に寝てぇんだって」
「やぁぁぁぁだぁぁぁぁぁ!!」
「おー。すっげぇ嫌がりようだな、おい」
「ひ、ひど……うぅっ……」
「うーわ。鼻水垂れ流し」
酔っぱらいが心底面倒臭い。アイディー的にはミケーネを最優先にしたいので、面倒臭い酔っぱらいに退場してもらうのが1番いい。とはいえ、いい歳したオッサンが1人は寂しいと泣いているのも、面倒臭いがなんだか気の毒な気もする。あんまり詳しい話は聞いていないが、どうやらロバートは伴侶に捨てられたっぽい。ロバートは気持ちが悪い変態だし、情けない馬鹿だし、酔うと心底面倒臭いので、普通に納得してしまう事実だが、1人が寂しいという気持ちは分からないでもない。アイディーだって、どうにも寂しくて、ミケーネと寝るようになった。100年以上魔術師として働いているのなら、当然身内は死んでいるだろうし、ロバートにとっての家族はミケーネただ1人だ。
ロバートは1人じゃ満足にミケーネの相手をできないが、アイディーが一緒だと割と普通にミケーネと遊んでやれるようになったし、ミケーネを喜ばせようと数日に1度はちょっとした土産を買ってきたりする。ロバートはダメ親父なりにミケーネの為に努力をしているのだと思う。ロバートは変態丸出しの情けない馬鹿なオッサンだが、ミケーネを大事に思う父親でもある。ろくでもない条件付きとはいえ、家政夫を雇うことにしたのもミケーネの為なのだろう。アイディーがミケーネを最優先にして、ロバートを割と適当に扱っても、何も文句は言わない。ロバートにとっても最優先なのはミケーネだからだと思う。
特に最近、ミケーネが笑っていると、ロバートはほっとしたような顔をする。ミケーネが自分から何かを食べると、本当に嬉しそうな顔をする。痩せて小柄だったミケーネがじわじわ太って大きくなり、少しずつではあるが、幼児らしいぷくぷく感が出てきたのがかなり嬉しいらしく、ミケーネの頬を指でふにふにして、本当に嬉しそうに微笑んでいることも多い。
ミケーネはアイディーにくっつくのが好きなので、抱っこやおんぶの時がまだ割と多いが、それでも最近は自分で歩いたり、走り回ることが増えてきている。アイディーのすぐ側をちょこちょこ歩くミケーネの後ろをロバートがついて歩き、カルガモかよ状態な時もある。ミケーネは少しずつだが日々成長しており、その成長をロバートが本当に喜んでいるのが見ていれば分かる。
ロバートは、ものすごく不器用でも、ミケーネを愛しているいい父親だ。
アイディーは鼻水を垂れ流して泣いている情けないオッサンに、少しだけ手を貸してやることにした。
「坊っちゃん」
「あぁぁぁぁぁ!」
「3人で寝ようぜー。3人ならぬっくぬくだぜ。ぬっくぬく」
ミケーネは1度泣き出すと中々泣き止まないので多少時間はかかったが、最終的に頷いてくれた。
アイディーは泣き疲れてうとうとし始めたミケーネを抱きしめたまま、未だにぐずぐず泣いているロバートを手招きした。
「旦那様。寝るぞ」
「……うん」
垂れ流しの鼻水や涙で汚いロバートの顔をロバートの枕に巻いていた大判のタオルでごしごし拭き、アイディーはロバートと枕を並べてベッドに寝転がった。ミケーネをいつも通り自分の身体の上に乗せると、ロバートがうとうとしているミケーネの小さな手を握った。泣きすぎて瞼が腫れている目を細め、ロバートが小さく笑った。その後、アイディーの腕を抱き枕のように片手で抱き締めながら寝落ちやがったことはどうにも解せないが、ミケーネの小さな手をやんわり握ったまま眠るロバートはとても穏やかな寝顔をしていたので、まぁいいかとアイディーも目を閉じた。酒臭いのは今夜くらいは我慢してやろう。腕を拘束されているのも、まぁ許してやろう。今日は新しい年の始まりの日なのだし。
アイディーはいつもより温かい中、ストンと眠りに落ちた。
ーーーーーー
ロバートは鈍い頭痛で目が覚めた。じわじわ感じる吐き気に、ロバートは目を閉じたまま、低く唸った。間違いなく二日酔いである。ロバートは自分の腕の中のなんだか温かいものをぎゅっと抱き締め、額をぐりぐり擦り付けた。抱き枕なんて持っていないので、自分はまた毛布を丸めて抱き締めてしまっているのだろう。それにしては温い。眠くなりそうな温かさだが、鈍い頭痛と吐き気が眠りを邪魔してくる。ロバートは再び低く唸って、嫌々目を開けた。
目の前には淡いピンク色が広がっていた。ロバートの毛布は深い緑色だ。ピンク色の毛布なんて持っていない。ロバートは訝しく思い、少しだけ頭を動かした。ミケーネの穏やかな寝顔が視界に入った。ロバートはパチパチと瞬きをした。少しだけ視線を動かすと、今度はアイディーの寝顔が見えた。ロバートは驚いて、ピシッと固まった。何故、3人で同じベッドで寝ているのだ。ロバートの脳裏に昨日の記憶が甦る。ロバートはどれだけベロベロに酔っぱらっても、記憶はしっかり残る方だ。昨日の自分の恥態もしっかり覚えている。ロバートは片手で顔を覆い、低く唸った。なんということだ。あまりにもあんまりな自分の行動の記憶が、ロバートの心をゴリゴリ削ってくる。
ロバートは自分のあまりの情けなさに涙目になった。涙目のまま、ロバートはミケーネの可愛らしい寝顔を眺めた。ミケーネと一緒に寝るのは実は初めてだ。ミケーネがもっと小さい頃は赤ちゃん用の小さなベッドに寝かせていたし、今は子供部屋で寝かせている。休日にミケーネがアイディーと一緒に昼寝をしている様子を、少し離れた所から眺めるのが実は密かな楽しみだったりする。本当はミケーネと一緒に寝たいと、中々言い出せなかった。
ロバートは眠るミケーネの小さな手をそーうっと慎重にやんわり握った。ミケーネの手は、小さくて、柔らかくて、温かい。じんわり胸に温かいものが広がっていく。
ロバートは鈍い頭痛と吐き気と昨夜の自分の恥態を忘れ、ふっと微笑んだ。ミケーネが本当に可愛くて、愛おしい。本当に少しずつだが、日々成長していくミケーネの今の姿をハルファにも見せてやりたい。ロバートは小さな棘が刺さるようなチクンとした胸の切ない痛みに少しだけ眉間に皺を寄せた。ミケーネのことを本当に愛して大切に思い、いつも必死だったハルファ。もっとロバートがしっかりしていれば、今もハルファはここにいたのかもしれない。ロバートはぎゅっと強く目を閉じた。酔いがまだ残っているのかもしれない。本当にまた泣いてしまいそうだ。ミケーネがいてくれるというのに、寂しくて堪らないと思ってしまう弱くて情けない自分が大嫌いだ。ロバートは泣くのを堪える為に、強く下唇を噛んだ。ハルファが今ここにいないのは、ロバートに原因がある。それなのに自分勝手な感情でめそめそ泣くなんて、情けないにも程がある。ミケーネの世話はほぼ全てアイディーがしてくれているが、ミケーネの父親は自分なのだ。この愛おしい小さな温もりを守る為に、もっとちゃんとしっかりしなくてはいけない。ロバートはぎゅっとすがりつくように、アイディーの腕を抱き締めたままの片腕に力を入れた。そして次の瞬間に、はっと慌ててアイディーの腕から手を離した。幸い、アイディーはまだ寝ている。ロバートはしゅんと眉を下げた。自分はどこまで情けないのだろう。まだ10代の少年に頼りきって、甘えている。特に昨日の自分はさぞ面倒くさかっただろう。ロバートはそっとミケーネの手から手を離し、眠る2人を起こさないように、静かにベッドから抜け出た。
寂しいけど、寂しいなんて思ってはいけない。ミケーネがいてくれるのだから。アイディーに頼りきってもいけない。アイディーは仕事だからロバートを助けてくれるのだ。
ロバートは静かにアイディーの部屋を出て、寒い廊下でぐっと握り拳を強く握った。
昨日、新しい年を迎えた。今年こそは、もっとしっかりしなければ。ミケーネの家族は自分しかいないのだから。ミケーネを守るのは父親である自分の役目だ。
ロバートは今にも泣き出しそうな心を見ないフリして、のろのろと冷たい自分の部屋へと戻った。
ミケーネと並んでベッドに寝転がり、ミケーネが比較的最近ロバートに買ってもらったお気に入りの絵本を広げ、アイディーは絵本を読み始めた。
絵本が終盤に差し掛かった頃。突然アイディーの部屋のドアがノックもなしに開いた。驚いてドアの方を見れば、枕を持ったロバートがすたすたと入ってきた。ロバートはベッドのすぐ側に来ると、にーっと上機嫌そうに笑った。
「俺も一緒に寝る!」
「あ?」
「……やぁぁぁぁだぁぁぁぁぁ!!パパやぁぁぁぁ!!」
「げっ」
「な、なん、なんでっ、ミケーネ、う、うぇっ、う、う、うぅ……」
眠いのもあって、不機嫌にイヤイヤ叫びだすミケーネ。そんなミケーネの反応に泣き出す酔っぱらいのオッサン。とても面倒臭い状況になったことを察したアイディーは眉間に皺を寄せた。
アイディーは俯せに寝転がっていた体勢から身体を起こし、ベッドの上に胡座をかいて座ってから、とりあえずヤダヤダ言っているミケーネを抱っこした。
「そっかー。坊っちゃん嫌かー」
「やぁぁぁぁぁん」
「だってよ」
アイディーがロバートを見上げれば、くしゃっとロバートの顔が悲しげに歪み、ボロボロと大粒の涙を溢した。完全に酔っている。
「ひど、ひどい、うっ、うっ、う……」
自分の枕を抱き締めて泣いている面倒臭いオッサンにアイディーは小さく溜め息を吐いて、そもそも何故ロバートが一緒に寝るということを言い出したのか、理由を聞くことにした。
「旦那様よぉー、何で一緒に寝んの?」
「うっ、ぐずっ、1人、寒いし、うえっ、さみしい……」
「子供か」
「うっ、うっ、うぇっ、うぇっ」
「あーちゃぁぁ!あぁぁぁぁ……」
「あ、やべ。こっちも泣き出した」
アイディーの部屋に大人と子供の2人分の泣き声が響くという中々にカオスな状態になってしまった。アイディーはミケーネを抱き締めて背中を優しくポンポンしてやりながら、子供のように泣いている面倒臭くて情けないオッサンを見上げた。泣き上戸の酔っぱらいが心底面倒臭いが、なんとかせねばなるまい。
「坊っちゃんと一緒に寝てぇの?」
「うぇ、うぇ、うん……」
「だってよ。坊っちゃん、パパが一緒に寝てぇんだって」
「やぁぁぁぁだぁぁぁぁぁ!!」
「おー。すっげぇ嫌がりようだな、おい」
「ひ、ひど……うぅっ……」
「うーわ。鼻水垂れ流し」
酔っぱらいが心底面倒臭い。アイディー的にはミケーネを最優先にしたいので、面倒臭い酔っぱらいに退場してもらうのが1番いい。とはいえ、いい歳したオッサンが1人は寂しいと泣いているのも、面倒臭いがなんだか気の毒な気もする。あんまり詳しい話は聞いていないが、どうやらロバートは伴侶に捨てられたっぽい。ロバートは気持ちが悪い変態だし、情けない馬鹿だし、酔うと心底面倒臭いので、普通に納得してしまう事実だが、1人が寂しいという気持ちは分からないでもない。アイディーだって、どうにも寂しくて、ミケーネと寝るようになった。100年以上魔術師として働いているのなら、当然身内は死んでいるだろうし、ロバートにとっての家族はミケーネただ1人だ。
ロバートは1人じゃ満足にミケーネの相手をできないが、アイディーが一緒だと割と普通にミケーネと遊んでやれるようになったし、ミケーネを喜ばせようと数日に1度はちょっとした土産を買ってきたりする。ロバートはダメ親父なりにミケーネの為に努力をしているのだと思う。ロバートは変態丸出しの情けない馬鹿なオッサンだが、ミケーネを大事に思う父親でもある。ろくでもない条件付きとはいえ、家政夫を雇うことにしたのもミケーネの為なのだろう。アイディーがミケーネを最優先にして、ロバートを割と適当に扱っても、何も文句は言わない。ロバートにとっても最優先なのはミケーネだからだと思う。
特に最近、ミケーネが笑っていると、ロバートはほっとしたような顔をする。ミケーネが自分から何かを食べると、本当に嬉しそうな顔をする。痩せて小柄だったミケーネがじわじわ太って大きくなり、少しずつではあるが、幼児らしいぷくぷく感が出てきたのがかなり嬉しいらしく、ミケーネの頬を指でふにふにして、本当に嬉しそうに微笑んでいることも多い。
ミケーネはアイディーにくっつくのが好きなので、抱っこやおんぶの時がまだ割と多いが、それでも最近は自分で歩いたり、走り回ることが増えてきている。アイディーのすぐ側をちょこちょこ歩くミケーネの後ろをロバートがついて歩き、カルガモかよ状態な時もある。ミケーネは少しずつだが日々成長しており、その成長をロバートが本当に喜んでいるのが見ていれば分かる。
ロバートは、ものすごく不器用でも、ミケーネを愛しているいい父親だ。
アイディーは鼻水を垂れ流して泣いている情けないオッサンに、少しだけ手を貸してやることにした。
「坊っちゃん」
「あぁぁぁぁぁ!」
「3人で寝ようぜー。3人ならぬっくぬくだぜ。ぬっくぬく」
ミケーネは1度泣き出すと中々泣き止まないので多少時間はかかったが、最終的に頷いてくれた。
アイディーは泣き疲れてうとうとし始めたミケーネを抱きしめたまま、未だにぐずぐず泣いているロバートを手招きした。
「旦那様。寝るぞ」
「……うん」
垂れ流しの鼻水や涙で汚いロバートの顔をロバートの枕に巻いていた大判のタオルでごしごし拭き、アイディーはロバートと枕を並べてベッドに寝転がった。ミケーネをいつも通り自分の身体の上に乗せると、ロバートがうとうとしているミケーネの小さな手を握った。泣きすぎて瞼が腫れている目を細め、ロバートが小さく笑った。その後、アイディーの腕を抱き枕のように片手で抱き締めながら寝落ちやがったことはどうにも解せないが、ミケーネの小さな手をやんわり握ったまま眠るロバートはとても穏やかな寝顔をしていたので、まぁいいかとアイディーも目を閉じた。酒臭いのは今夜くらいは我慢してやろう。腕を拘束されているのも、まぁ許してやろう。今日は新しい年の始まりの日なのだし。
アイディーはいつもより温かい中、ストンと眠りに落ちた。
ーーーーーー
ロバートは鈍い頭痛で目が覚めた。じわじわ感じる吐き気に、ロバートは目を閉じたまま、低く唸った。間違いなく二日酔いである。ロバートは自分の腕の中のなんだか温かいものをぎゅっと抱き締め、額をぐりぐり擦り付けた。抱き枕なんて持っていないので、自分はまた毛布を丸めて抱き締めてしまっているのだろう。それにしては温い。眠くなりそうな温かさだが、鈍い頭痛と吐き気が眠りを邪魔してくる。ロバートは再び低く唸って、嫌々目を開けた。
目の前には淡いピンク色が広がっていた。ロバートの毛布は深い緑色だ。ピンク色の毛布なんて持っていない。ロバートは訝しく思い、少しだけ頭を動かした。ミケーネの穏やかな寝顔が視界に入った。ロバートはパチパチと瞬きをした。少しだけ視線を動かすと、今度はアイディーの寝顔が見えた。ロバートは驚いて、ピシッと固まった。何故、3人で同じベッドで寝ているのだ。ロバートの脳裏に昨日の記憶が甦る。ロバートはどれだけベロベロに酔っぱらっても、記憶はしっかり残る方だ。昨日の自分の恥態もしっかり覚えている。ロバートは片手で顔を覆い、低く唸った。なんということだ。あまりにもあんまりな自分の行動の記憶が、ロバートの心をゴリゴリ削ってくる。
ロバートは自分のあまりの情けなさに涙目になった。涙目のまま、ロバートはミケーネの可愛らしい寝顔を眺めた。ミケーネと一緒に寝るのは実は初めてだ。ミケーネがもっと小さい頃は赤ちゃん用の小さなベッドに寝かせていたし、今は子供部屋で寝かせている。休日にミケーネがアイディーと一緒に昼寝をしている様子を、少し離れた所から眺めるのが実は密かな楽しみだったりする。本当はミケーネと一緒に寝たいと、中々言い出せなかった。
ロバートは眠るミケーネの小さな手をそーうっと慎重にやんわり握った。ミケーネの手は、小さくて、柔らかくて、温かい。じんわり胸に温かいものが広がっていく。
ロバートは鈍い頭痛と吐き気と昨夜の自分の恥態を忘れ、ふっと微笑んだ。ミケーネが本当に可愛くて、愛おしい。本当に少しずつだが、日々成長していくミケーネの今の姿をハルファにも見せてやりたい。ロバートは小さな棘が刺さるようなチクンとした胸の切ない痛みに少しだけ眉間に皺を寄せた。ミケーネのことを本当に愛して大切に思い、いつも必死だったハルファ。もっとロバートがしっかりしていれば、今もハルファはここにいたのかもしれない。ロバートはぎゅっと強く目を閉じた。酔いがまだ残っているのかもしれない。本当にまた泣いてしまいそうだ。ミケーネがいてくれるというのに、寂しくて堪らないと思ってしまう弱くて情けない自分が大嫌いだ。ロバートは泣くのを堪える為に、強く下唇を噛んだ。ハルファが今ここにいないのは、ロバートに原因がある。それなのに自分勝手な感情でめそめそ泣くなんて、情けないにも程がある。ミケーネの世話はほぼ全てアイディーがしてくれているが、ミケーネの父親は自分なのだ。この愛おしい小さな温もりを守る為に、もっとちゃんとしっかりしなくてはいけない。ロバートはぎゅっとすがりつくように、アイディーの腕を抱き締めたままの片腕に力を入れた。そして次の瞬間に、はっと慌ててアイディーの腕から手を離した。幸い、アイディーはまだ寝ている。ロバートはしゅんと眉を下げた。自分はどこまで情けないのだろう。まだ10代の少年に頼りきって、甘えている。特に昨日の自分はさぞ面倒くさかっただろう。ロバートはそっとミケーネの手から手を離し、眠る2人を起こさないように、静かにベッドから抜け出た。
寂しいけど、寂しいなんて思ってはいけない。ミケーネがいてくれるのだから。アイディーに頼りきってもいけない。アイディーは仕事だからロバートを助けてくれるのだ。
ロバートは静かにアイディーの部屋を出て、寒い廊下でぐっと握り拳を強く握った。
昨日、新しい年を迎えた。今年こそは、もっとしっかりしなければ。ミケーネの家族は自分しかいないのだから。ミケーネを守るのは父親である自分の役目だ。
ロバートは今にも泣き出しそうな心を見ないフリして、のろのろと冷たい自分の部屋へと戻った。
38
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したから継母退治するぜ!
ミクリ21 (新)
BL
継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したダンテ(8)。
弟のセディ(6)と生存のために、正体が悪い魔女の継母退治をする。
後にBLに発展します。
配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!
ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて
素の性格がリスナー全員にバレてしまう
しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて…
■
□
■
歌い手配信者(中身は腹黒)
×
晒し系配信者(中身は不憫系男子)
保険でR15付けてます
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました
くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。
特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。
毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。
そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。
無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる