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29:揉め事のお終い

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 隣村の村長とやりあった数日後。
 村に、領主の使いと隣村の女衆を取りまとめているという老婆がやって来た。急遽、ロルフとガルバーンは呼び出されて、他の村の男衆と一緒に、村長の家に集まった。

 領主の使いの説明によると、隣村の男衆は、村長に唆されて、違法な薬物の材料となる植物をこっそり栽培していたらしい。
 元々、隣村は、服の材料となる植物を男衆が育て、女衆がそれを糸にして織って、出来上がった機織物で、主な生計を立てていた。隣村は、麦や野菜を育てるのには、あまり適していない土地なので、機織物を売って、食料となるものを他所の村から買って暮らしていた。
 女衆を束ねている老婆によれば、村長から、糸の質を落として、もっと機織物を量産しろと命じられたらしい。それが嫌で、村長に反発する形で、女衆は仕事をしなくなった。男衆がこそこそ何かしているのには気づいていたが、まさか違法な薬物の材料を育てているとは、流石に思っていなかったらしい。
 違法な薬物に関わっていた全ての男達が拘束され、近いうちに処刑されることになった。それだけ、危険性の高い薬物らしい。
 隣村は、多くの男手が無くなることになるが、老婆は、これは誰も村長を止めなかったせいだから、自分達の罪でもある。頑張って償って、落ちた信用を取り戻していかなければいけない、と話していた。

 領主の使いと隣村の老婆が帰った後、村の男衆の間で、なんとも言えない重い空気が漂った。
 村長が、大きな溜め息を吐いた。


「なんとも気の毒な話だね。あ、勿論、隣村の女衆の話だよ。あそこの村の男は、馬鹿しかいなかったのかねぇ」

「金に目が眩んだんだろうよ。金があれば、女衆にデカい顔されずに済むからな」

「やれやれ。まぁ、でも、とりあえず、こちらには被害は無いからいいけどね」

「あっ!!」

「どうした? ロルフ」

「まだ謝ってもらってないっ! ガルに! あと皆に!」

「あー。もう拘束されてるから、今頃、檻の中だよ。諦めな」

「むぅ……なんか、なんか、腹立つ」

「そうさな。スッキリしねぇ終わり方だなぁ」

「全くだ」


 ロルフがむすっとしていると、隣に胡座をかいて座っていたガルバーンが、ロルフの腰を掴み、ひょいとロルフを自分の胡座をかいた足にのせた。後ろからゆるく抱きしめられて、ロルフは、ガルバーンの肩に、後頭部をぐりぐりぐりぐりと押しつけた。ガルバーンが、ムカムカしているロルフを宥めるように、やんわりと手を握って、にぎにぎと優しくロルフの手を揉んだ。ぷしゅーーっと、怒りとか苛立ちだとかが、頭の中から抜けていくような感じがする。


「ロルフ」

「はい」

「もう終わった事だ」

「むぅ……でもぉ、地面に額擦りつけて謝らせたかったです」

「俺は気にせん。お前が俺を守るから」

「当然です! ガルは僕のお嫁さんですから!」

「そうだな」

「おーい。お前さん達。イチャイチャすんのは家でやれ」

「え? イチャイチャなんかしてませんけど?」

「しとるわ」


 近くにいたおじさんが、何故か呆れた顔をした。
 後味が悪いが、とりあえず今回の件はこれでお終いということで、解散となった。

 ロルフが、ガルバーンと手を繋いで歩いていると、ダラーが話しかけてきた。


「ベッド、もうちょい頑丈なのにするか? どこまで頑丈にできるか、限界に挑戦してみてもいいぞ」

「……壊れてからでいい」

「なんでベッドを頑丈にしなきゃいけないの?」

「あっ……ガルさん。なんか頑張れ」

「なぁ……この村には純真無垢な男しかいないのか?」

「いや? ただ、なんかロルフとはそういう話がしにくかっただけ」

「……しておいて欲しかった……」

「え? なんの話?」

「なっ。こいつ、天然入ってるし、ぽわぽわしてっから、そっちの話はしにくいんだよ」

「それは確かに」

「えー! ちょっと本当に何の話ー!?」

「ロルフは気にするな。気になるなら、帰ってからガルさんに聞けよ」

「ガル」

「ロルフ。帰ったら甘いミルクが飲みたい」

「あっ。じゃあ、作りますね。昨日、ハンナおばさんから、干した果物いっぱいのケーキを貰ったから、帰ったら食べましょうか」

「ん」

「……うーん。お見事。ガルさんも苦労するなぁ。超頑丈ベッドの出番はまだ先だな。こりゃ」


 ダラーの呆れた声が聞こえたが、ロルフの意識は完全にガルバーンに向かっていたので、さらっと聞き流していた。
 ダラーや他の村人達と別れ、自分達の家に向かう。

 家に帰り着いたら、ロルフは、早速、いそいそと台所へ行き、手早く甘いミルクを作った。干した果物いっぱいのケーキも切って、皿にのせ、居間のテーブルに運ぶ。

 甘いミルクを飲んだガルバーンが、微かに口角を上げた。


「美味い」

「えへへへ。ありがとうございます」

「ん。ケーキも美味い。作り方を習ってくる」

「明日は、午後からは特に何もすることが無いので、一緒にハンナおばさんに習いに行きますか?」

「あぁ。里帰りから戻ったら、家用にも干した果物も作るか」

「いいですねー。そのままでも、おやつにもなりますしね」


 2人揃って、ちびちびと美味しいケーキを食べながら、なんともまったりとした空気が流れた。

 夕食を終え、風呂にも入った後。ロルフは、湯たんぽを抱えて、ガルバーンと手を繋いで、二階のガルバーンの部屋に移動した。

 ロルフが布団の足元に湯たんぽを置いていると、ガルバーンに名前を呼ばれた。
 振り返ってみれば、ガルバーンの日焼けした顔が真っ赤になっていて、何故か、寝間着の裾をもじもじと弄っている。目を泳がせているガルバーンが、ボソッと呟いた。


「その……するか? ……触りっこ」

「します!」

「そ、そうか」


 ロルフは、パァッと顔を輝かせた。前回、触りっこをした後、ガルバーンの様子がちょっとおかしかったから、本当は嫌だったんじゃないかと、こっそり悩んでいたのだ。ガルバーンから、お誘いがあったということは、ガルバーンは、ロルフと触れ合うのが、嫌ではなかったのだ。嬉しくて、どうにもだらしなく顔がゆるんでしまう。

 ロルフが喜んでガルバーンに抱きつくと、ガルバーンがしっかりと抱きとめてくれた。少しだけ背伸びをして、ガルバーンの唇にキスをすれば、ガルバーンもロルフの唇に触れるだけのキスをしてくれた。

 間近で、ガルバーンが、ふっと笑った。驚くロルフの頬にキスをして、ガルバーンが、ぎゅっとロルフの身体を抱きしめた。


「ガル?」

「俺のお婿さんは世界一いい男だ」

「え? えへ。えへへへへ。照れちゃいます。僕のお嫁さんも世界で一番すごいのです! なんてったって、『笑顔の導き手』なんですから!」

「……そうか」


 ガルバーンに抱きしめられたまま、抱き上げられて、ベッドの上に移動した。ガルバーンが真っ赤な顔で、ロルフの頬にキスをして、また唇にもキスをしてくれた。
 嬉しくて、でもちょっと照れくさくて、ロルフがへらっと笑うと、ガルバーンが小さく口角を上げた。

 ガルバーンが、ロルフの額や頬にキスをしながら、ロルフの寝間着のシャツを脱がせ始めた。ロルフは素直にされるがままになり、あっという間に、全裸になった。ベッドに上がってきたガルバーンも、寝間着も下着も脱ぎ捨て、全裸のまま、ロルフを抱きしめ、ころんと寝転がった。ガルバーンの熱い肌が直接触れて、ちょっと落ち着かないけれど、全然嫌じゃない。

 ロルフは、ガルバーンに抱きしめられたまま、ガルバーンの唇にキスをした。

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