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22:ガルバーンの悩み
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ガルバーンは、今、とても悩んでいる。というか、とても困っている。
ドルーガに届けてもらった諸々が、ロルフに見つかってしまった。それだけなら、まだいいが、よりにもよって、ここ数日、毎晩毎晩、『男色指南書』を音読されている。昨日は、ついに挿入編にまで入った。ロルフは、読むのに一生懸命で、内容までは理解していないようだが、聞かされるガルバーンの身にもなってほしい。どう考えても、軽い拷問である。
ガルバーンは、ロルフのことを性的には見ていない。別にセックスがしたいとは思わない。が、毎晩、同じベッドで、露骨に生々しく詳しいセックスの仕方を音読されると、気まずくて仕方がない。その後、ロルフは普通にいつものようにガルバーンにくっついて寝るが、ガルバーンは、中々すぐに寝つけない日が続いていた。
ロルフと一緒に寝るようになって、困った事が一つだけある。自慰ができなくなった。風呂でするのは、ガルバーンの後でロルフも入るのでしにくいし、トイレでがーっと擦って出すのも、ちょっと躊躇してしまう。ガルバーンとて、まだまだ若い。溜まるものは溜まるし、そんな中で、男同士のセックスとはいえ、生々しい話を聞かされると、どうしても、下腹部がなんとなくうずうずしてしまう。そのうち、夢精でもしてしまうんじゃないかと、戦々恐々としている毎日である。
ガルバーンは、山羊の乳搾りをしながら、ふと、ロルフは溜まらないのだろうかと思った。ロルフの方が若いのだから、普通に考えて、溜まる筈である。ロルフは、いつ、自慰をしているのだろうか。
一度気になりだすと、本当に気になってきた。いっそ、単刀直入に、ロルフに聞いてみようか。
ガルバーンは、ぼーっと考えながら、手だけはしっかり動かしていた。
1日の仕事が終わり、夕食後に風呂に入ると、軽い拷問の時間がやってくる。今日からは、体位編である。ロルフの音読を聞くのもキツいが、ロルフから『これ、何ですか?』と聞かれて、解説をしなければいけないのも、正直キツいものがある。
本当に、いっそのこと、一度腹を割って、そっちの話をしてみようか。
少しだけ悩んだガルバーンは、開き直ることにした。
いつものように、ベッドに上がって、並んで座ると、ロルフがやる気満々な様子で、『男色指南書』を手に取った。生々しい図説もある『男色指南書』を見るのも、正直キツい。
ガルバーンは、ロルフが体位編を読み始める前に、ロルフに声をかけた。
「ロルフ」
「何です?」
「お前は……その……1人でしないのか?」
「何をですか?」
「あー……自慰」
「じい。じい? ってなんです?」
「嘘だろおい。その、あれだ。なんだ」
「どれです?」
「……自分のナニを擦って、出すことだ」
「それなら普通にしますけど。トイレで」
「トイレでしてたのか!?」
「あ、はい。妹が生きてた頃は、よく妹が僕のベッドに突撃してきてましたし、お風呂でするのもちょっとどうかなって感じだったんで、ずっとトイレでしてますよ?」
「……そもそも、お前が自慰をしていた事にビックリです」
「何で敬語!? えー。どうしたんですか? 急に」
「い、いや。ちょっと気になってただけだ」
「えー? あ、もしかして、ガルはしてないんですか?」
「……まぁ……」
「トイレでしても大丈夫ですよー。僕もしてますし」
「そ、そうか……」
あっけらかんと言うロルフに、ガルバーンは、何故だか、たじたじになった。セックスの知識はろくに無かったが、流石に自慰は知っていたし、普通にしているらしい。ロルフが自慰をするって、ちょっと想像がつかない。いや、想像する必要も無いのだが。
「それじゃあ、読みますね。えーと。『たいい。せっくすのときのたいいには、さまざまなものがある。まず、いっぱんてきな、せいじょうい? からかいせつする』」
ロルフが読み始めてしまった。ガルバーンは、本当に頭を抱えたくなってきた。確かに、ガルバーンにも必要になるかもしれない知識なのだが、殆ど無垢なロルフに、生々しい性の話を音読させているという今の状況が、本当に何とも言えない。気まずいどころじゃない。
しかし、一生懸命、本を読めるようになろうとしているロルフから、『男色指南書』を取り上げるのも、躊躇われる。いや、いっそのこと、しれっと別の本を買って、そっちを読ませたらいいのか。
ガルバーンは、今夜と悶々と悩みながら、生々しい男同士のセックスの仕方を聞いた。
ーーーーーー
一週間後。そこそこ分厚い『男色指南書』を、漸くロルフが最後まで読み終えた。これでやっと軽い拷問から開放されると、ガルバーンが喜んだのも束の間、ロルフがとんでもない事を言い出した。
「次はもっとスラスラ読めるようになりますね!」
「嘘だろおい。次があるのか!?」
「だって、まだ、つっかえつっかえですし」
「もう十分上達してると思うぞ!」
「いえいえ。まだまだ。内容もいまいち理解できてませんから、ちゃんとスラスラ読めて、内容を理解できるようにならないと!」
「理解しなくても問題ない! ロルフ。本を買おう。ちゃんとまともな本。普通の物語の方が、間違いなく読んでいて楽しいぞ」
「えー。でも、高いじゃないですか」
「これは必要経費だ! 同じものを読むより、違うものを読んだ方が上達するぞ!」
「そんなもんですか?」
「あぁ! 俺も読み書きを覚える時に、色んな本を読まされた!」
「んーーーー。じゃあ、一冊だけ買ってください。できたら、分厚い本がいいです。いっぱい読みたいので」
「分かった。次に商人が来るのは、来週だったな。その時に、絶対に本を買うぞ」
「はい。えへへ。楽しみですね」
「そ、そうだな。だから、『男色指南書』を読むのはお終いだ」
「分かりました。あ、でも、これ読みながら書き写したら、字の練習になりませんか?」
「新しく買ったやつでやろうな!」
「あ、はい」
「んんっ。これは、元の場所に戻しておく」
「あ、はい」
「連日、頭を使って疲れているだろう。今日は、早めに寝よう」
「大丈夫ですよ?」
「俺が一緒に早く寝たい」
「えー。じゃあ、寝ましょうか」
「あぁ」
ガルバーンは、素早くロルフから『男色指南書』を取り上げて、大急ぎでベッド下の皮袋の中に突っ込んだ。
完全に寝る体勢になっているロルフの隣に寝転がり、ロルフの身体をゆるく抱きしめると、ガルバーンは、ほっと息を吐いた。
なんとか、この軽い拷問の時間はお終いにできそうである。本は、この辺りでは確かに高価なものだが、ロルフの為ならば、一冊どころか、十冊や二十冊買っても構わない。『男色指南書』を音読されるより、余程マシである。
ガルバーンは、すぴーと穏やかな寝息を立て始めたロルフを抱きしめたまま、ロルフの柔らかい髪に鼻先を埋めた。石鹸の匂いに混ざって、ほんのり汗の匂いがする。全然嫌な匂いじゃない。むしろ、ちょっと落ち着く匂いだ。ガルバーンは、ロルフの匂いをすんすん嗅いで、ちょっと乱れていた心を静めると、そのまま、寝る体勢になった。
これで、漸く安眠ができそうである。
ガルバーンの胃が痛くなりそうな日々は、こうして幕を閉じた。
ドルーガに届けてもらった諸々が、ロルフに見つかってしまった。それだけなら、まだいいが、よりにもよって、ここ数日、毎晩毎晩、『男色指南書』を音読されている。昨日は、ついに挿入編にまで入った。ロルフは、読むのに一生懸命で、内容までは理解していないようだが、聞かされるガルバーンの身にもなってほしい。どう考えても、軽い拷問である。
ガルバーンは、ロルフのことを性的には見ていない。別にセックスがしたいとは思わない。が、毎晩、同じベッドで、露骨に生々しく詳しいセックスの仕方を音読されると、気まずくて仕方がない。その後、ロルフは普通にいつものようにガルバーンにくっついて寝るが、ガルバーンは、中々すぐに寝つけない日が続いていた。
ロルフと一緒に寝るようになって、困った事が一つだけある。自慰ができなくなった。風呂でするのは、ガルバーンの後でロルフも入るのでしにくいし、トイレでがーっと擦って出すのも、ちょっと躊躇してしまう。ガルバーンとて、まだまだ若い。溜まるものは溜まるし、そんな中で、男同士のセックスとはいえ、生々しい話を聞かされると、どうしても、下腹部がなんとなくうずうずしてしまう。そのうち、夢精でもしてしまうんじゃないかと、戦々恐々としている毎日である。
ガルバーンは、山羊の乳搾りをしながら、ふと、ロルフは溜まらないのだろうかと思った。ロルフの方が若いのだから、普通に考えて、溜まる筈である。ロルフは、いつ、自慰をしているのだろうか。
一度気になりだすと、本当に気になってきた。いっそ、単刀直入に、ロルフに聞いてみようか。
ガルバーンは、ぼーっと考えながら、手だけはしっかり動かしていた。
1日の仕事が終わり、夕食後に風呂に入ると、軽い拷問の時間がやってくる。今日からは、体位編である。ロルフの音読を聞くのもキツいが、ロルフから『これ、何ですか?』と聞かれて、解説をしなければいけないのも、正直キツいものがある。
本当に、いっそのこと、一度腹を割って、そっちの話をしてみようか。
少しだけ悩んだガルバーンは、開き直ることにした。
いつものように、ベッドに上がって、並んで座ると、ロルフがやる気満々な様子で、『男色指南書』を手に取った。生々しい図説もある『男色指南書』を見るのも、正直キツい。
ガルバーンは、ロルフが体位編を読み始める前に、ロルフに声をかけた。
「ロルフ」
「何です?」
「お前は……その……1人でしないのか?」
「何をですか?」
「あー……自慰」
「じい。じい? ってなんです?」
「嘘だろおい。その、あれだ。なんだ」
「どれです?」
「……自分のナニを擦って、出すことだ」
「それなら普通にしますけど。トイレで」
「トイレでしてたのか!?」
「あ、はい。妹が生きてた頃は、よく妹が僕のベッドに突撃してきてましたし、お風呂でするのもちょっとどうかなって感じだったんで、ずっとトイレでしてますよ?」
「……そもそも、お前が自慰をしていた事にビックリです」
「何で敬語!? えー。どうしたんですか? 急に」
「い、いや。ちょっと気になってただけだ」
「えー? あ、もしかして、ガルはしてないんですか?」
「……まぁ……」
「トイレでしても大丈夫ですよー。僕もしてますし」
「そ、そうか……」
あっけらかんと言うロルフに、ガルバーンは、何故だか、たじたじになった。セックスの知識はろくに無かったが、流石に自慰は知っていたし、普通にしているらしい。ロルフが自慰をするって、ちょっと想像がつかない。いや、想像する必要も無いのだが。
「それじゃあ、読みますね。えーと。『たいい。せっくすのときのたいいには、さまざまなものがある。まず、いっぱんてきな、せいじょうい? からかいせつする』」
ロルフが読み始めてしまった。ガルバーンは、本当に頭を抱えたくなってきた。確かに、ガルバーンにも必要になるかもしれない知識なのだが、殆ど無垢なロルフに、生々しい性の話を音読させているという今の状況が、本当に何とも言えない。気まずいどころじゃない。
しかし、一生懸命、本を読めるようになろうとしているロルフから、『男色指南書』を取り上げるのも、躊躇われる。いや、いっそのこと、しれっと別の本を買って、そっちを読ませたらいいのか。
ガルバーンは、今夜と悶々と悩みながら、生々しい男同士のセックスの仕方を聞いた。
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一週間後。そこそこ分厚い『男色指南書』を、漸くロルフが最後まで読み終えた。これでやっと軽い拷問から開放されると、ガルバーンが喜んだのも束の間、ロルフがとんでもない事を言い出した。
「次はもっとスラスラ読めるようになりますね!」
「嘘だろおい。次があるのか!?」
「だって、まだ、つっかえつっかえですし」
「もう十分上達してると思うぞ!」
「いえいえ。まだまだ。内容もいまいち理解できてませんから、ちゃんとスラスラ読めて、内容を理解できるようにならないと!」
「理解しなくても問題ない! ロルフ。本を買おう。ちゃんとまともな本。普通の物語の方が、間違いなく読んでいて楽しいぞ」
「えー。でも、高いじゃないですか」
「これは必要経費だ! 同じものを読むより、違うものを読んだ方が上達するぞ!」
「そんなもんですか?」
「あぁ! 俺も読み書きを覚える時に、色んな本を読まされた!」
「んーーーー。じゃあ、一冊だけ買ってください。できたら、分厚い本がいいです。いっぱい読みたいので」
「分かった。次に商人が来るのは、来週だったな。その時に、絶対に本を買うぞ」
「はい。えへへ。楽しみですね」
「そ、そうだな。だから、『男色指南書』を読むのはお終いだ」
「分かりました。あ、でも、これ読みながら書き写したら、字の練習になりませんか?」
「新しく買ったやつでやろうな!」
「あ、はい」
「んんっ。これは、元の場所に戻しておく」
「あ、はい」
「連日、頭を使って疲れているだろう。今日は、早めに寝よう」
「大丈夫ですよ?」
「俺が一緒に早く寝たい」
「えー。じゃあ、寝ましょうか」
「あぁ」
ガルバーンは、素早くロルフから『男色指南書』を取り上げて、大急ぎでベッド下の皮袋の中に突っ込んだ。
完全に寝る体勢になっているロルフの隣に寝転がり、ロルフの身体をゆるく抱きしめると、ガルバーンは、ほっと息を吐いた。
なんとか、この軽い拷問の時間はお終いにできそうである。本は、この辺りでは確かに高価なものだが、ロルフの為ならば、一冊どころか、十冊や二十冊買っても構わない。『男色指南書』を音読されるより、余程マシである。
ガルバーンは、すぴーと穏やかな寝息を立て始めたロルフを抱きしめたまま、ロルフの柔らかい髪に鼻先を埋めた。石鹸の匂いに混ざって、ほんのり汗の匂いがする。全然嫌な匂いじゃない。むしろ、ちょっと落ち着く匂いだ。ガルバーンは、ロルフの匂いをすんすん嗅いで、ちょっと乱れていた心を静めると、そのまま、寝る体勢になった。
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