上 下
15 / 51

15:朝寝坊の日

しおりを挟む
 ガルバーンは、ふと目覚めた。布団の中が、いつもより温かい。特に腕が、温かいものに包まれている。ガルバーンは寝ぼけ眼で、何気なく温かい方を見て、一瞬ぎょっとした。
 ロルフが、同じ布団の中にいる。しかも、ガルバーンの腕に抱きつくようにして寝ている。ガルバーンは、ピシッと固まったが、ふと、そういえば、昨日から一緒に寝ることになったのだと思い出した。
 しかも、言い出したのは自分である。

 お互いに、夫婦の情……と言っていいのか分からないが、とにかく好意は持っている。夫婦だし、一緒に寝てもいいかもしれないと思って、頑丈なベッドを作ってもらった。
 昨日、寝る前は、どうにも落ち着かなくてそわそわして、いざ寝るとなかったら、ガルバーンは、落ち着かなくて中々眠れなかった。ぴったりくっついてきたロルフは、すぐに穏やかな寝息を立て始めた。なんだか、ガルバーンだけが妙に意識している気がする。普通、好きあっている夫婦が一緒に寝るとなったら、こう……何かちょっとくらいあってもいいだろう。が、何も無かった。その事がちょっと残念で、ちょっと安心している。

 ガルバーンは、今のロルフとの関係が心地いい。無理に関係を先に進めなくてもいいと思っているが、全く何も無いというのも少しだけ寂しい気がする。ロルフは間違いなく雑魚寝感覚だ。現在進行系で、ガルバーンの腕に抱きついて暖をとりつつ、ぐっすり寝ている。

 ガルバーンは、なんとなく、ロルフの寝顔を見つめた。短い睫毛が伏せられていて、間抜けに少し口を開けて、涎を垂らしている。ガルバーンは、ロルフを起こさないように、ロルフにしがみつかれていない方の手で、ロルフの鼻先をむにっと軽く押した。ロルフの鼻が豚みたいになって、間抜け顔になった。ガルバーンは、笑いたくなるのをぐっと堪えて、今度は、ロルフの髪に触れた。ロルフの髪は癖がなく、存外柔らかい髪質をしている。毛の量は多いが、少し猫っ毛だ。そういえば、寝癖をなおす前は、よく頭がもふぁと軽く爆発しているので、癖がつきやすいのだろう。ロルフの柔らかい髪を梳くようにして、ロルフの頭をやんわりと撫でれば、ロルフがもぞもぞと身動ぎして、額をガルバーンの肩に擦りつけた。ちょっと可愛い。

 そろそろ起きて、水汲みをしなければいけないのだが、ロルフにしがみつかれていて、動けない。ぐっすり気持ちよさそうに寝ているロルフを起こすのは、少し気の毒だ。ロルフは、毎日、朝早くから夜まで、ずっと動き回っている。きっと疲れているだろうから、もう少し寝かせてやりたい。

 ガルバーンは、そーっと慎重に寝返りをうって、こちらを向いて眠るロルフと向き合うと、やんわりとロルフの身体を抱きしめた。ガルバーンよりも細いが、しっかりとした筋肉質な身体つきなのが分かる。ロルフの体温が心地よくて、ガルバーンまで、また眠くなってくる。
 たまには、朝寝坊もいいか、と思い、ガルバーンはロルフの柔らかい髪に鼻先を埋めて、静かに目を閉じた。腕の中の温もりに、胸の奥まで、ぽかぽかしてくる。
 ガルバーンは、小さく口角を上げて、温かな二度寝をした。

 ガルバーンは、腕の中で、何かがもぞもぞと身動ぎする感覚で目が覚めた。目を開ければ、間近にロルフの顔があった。


「あ、起きた。おはようございます」

「……おはよう」

「完全に寝坊しちゃいましたね。もうすっかり朝日が昇っちゃってます」

「あー……たまにはいいだろう」

「はい。お腹空いたので、そろそろ離してもらっていいですか?」

「ん?」


 ガルバーンは、改めて、自分の体勢に気づいた。ロルフの身体をしっかりと抱きしめている。腹は減っているのだが、抱きしめているロルフの身体が温くて、もう少しだけ、こうしていたい。


「……あとちょっと」

「えー。僕、また寝ちゃいそうなんですけど」

「寝ろ。俺は寝る」

「……まぁ、いいか」


 ガルバーンの腕の中で、ロルフがもぞもぞと動いて、ガルバーンの背中に腕を回してきた。さっきまでより密着して、股間に硬いものが当たる感覚がした。ガルバーンは、ん? と思ったが、単なる朝勃ちだろうということで、気にしないことにした。ガルバーンも朝勃ちしてるから、お互い様だ。足も絡めて、ロルフの身体をぎゅっと抱きしめる。ロルフから、ガルバーンと同じ石鹸の匂いと共に、昨日風呂上がりに塗っていた保湿剤の爽やかな匂いがする。
 ガルバーンが、うとうとしていると、ロルフの規則正しい寝息が聞こえてきた。ロルフの寝息に誘われるようにして、ガルバーンは、また温かい眠りに落ちた。

 結局、2人揃って起きたのは、昼前の時間だった。大急ぎで水汲みをして、自分達の食事の前に、家畜達に餌をやる。いつもより遅れたからか、山羊に軽く突進された。痛くない程度のものだが、少々ご立腹らしい。ガルバーンは、餌をやりながら、機嫌をとるように、餌をもっしゃもっしゃ食べる山羊の背中を撫でた。

 2人でバタバタと家畜の世話をしていたら、昼時の時間になった。朝食を食べていないので、かなり空腹である。
 家畜の世話が終わるなり、ガルバーンは、ロルフと一緒に台所に移動した。


「お腹空いてるから、がっつり肉を焼きますか」

「あぁ。鹿肉が残っていただろう」

「はい。あ、濃いめに味をつけて焼いて、パンに挟んで食べます? パンが焼きあがるのに、少し時間がかかるから、その間にスープを作りましょうか。あ、パンを仕込んだら、ちょっと蕪を採ってきます。芋と蕪と干し肉のゴロゴロスープです!」

「ん。肉を焼いておく」

「お願いします。先に下味をつけておきますね」

「頼む」


 ガルバーンは、ロルフと一緒に、バタバタと朝食兼昼食を作り、出来上がった料理を居間のテーブルに運んだ。
 下味をつけて焼いた鹿肉を挟んだ焼き立てパンが、素直に美味しい。芋と蕪がゴロゴロ入っているスープも、干し肉がいい感じの仕事をしていて美味しい。ガルバーンが、ガツガツ食べていると、ロルフがのほほんと笑って、口を開いた。


「一緒に寝ると、温かくて快適過ぎて、寝過ぎちゃいますねぇ」

「ん」

「でも、あの快適さを知っちゃったら、1人で寝るのも嫌だなぁ」

「……今日も一緒に寝たらいい。明日は叩き起こす」

「あ、お願いします。ちゃんと起こしてくださいね」

「あぁ」


 あんなに気持ちよさそうに眠るロルフを叩き起こせるか、正直自信は無いが、ガルバーンは、とりあえず頷いておいた。

 朝食を終えると、急いで後片付けをして、今度は冬野菜の収穫である。急いで、八百屋や飯屋に持っていかなければ。
 ガルバーンは、ロルフと一緒に大急ぎで収穫をして、野菜と一緒にロルフも荷車に乗せると、荷車を押して、全速力で走り、村の中心部に向かった。

 遅くなってしまったことを各所で謝りながら、野菜を売ったり、配ったりして、荷車が空っぽになると、ガルバーンはロルフと一緒に荷車を押しながら、のんびり歩いて家に向かった。


「やー。ガルって、めちゃくちゃ足が速いですねぇ。まさか、僕まで荷車に乗るとは思いませんでした」

「お前を乗せて俺が走った方が早い」

「ものすごく速くて、風が気持ちよかったです」

「そうか」

「ガル。汗かいたでしょう? 今日は先にお風呂に入りましょうか。風邪を引くといけないですし。急ぎの仕事もないから、今日はもうお終いです」

「あぁ」

「ガルがお風呂に入ってる間に、晩ご飯を作っておきますね。鹿肉がまだ残ってるから、今夜は鹿肉のスープです。あと、芋を蒸してチーズをかけて焼こうかなぁ」

「チーズは多めがいい」

「はい」


 ガルバーンは、隣を歩くロルフを見下ろして、ちょこっとだけ口角を上げた。起きてからが、ずっとバタバタだったが、たまには、朝寝坊も悪くない。今夜も、ロルフと一緒に寝れると思うと、なんだか、少しだけそわそわしてしまう。ロルフと寝ると、温かくて、胸の奥が擽ったい感じがする。今は、なんとなーく落ち着かないが、それもそのうち慣れてくるだろう。

 ガルバーンは、家に帰り着くと、玄関の所で台所に向かったロルフを見送り、荷車を裏庭に置いて、風呂を沸かす準備を始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。 短編用に登場人物紹介を追加します。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ あらすじ 前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。 20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。 そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。 普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。 そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか?? ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。 前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。 文章能力が低いので読みにくかったらすみません。 ※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました! 本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!

大好きな乙女ゲームの世界に転生したぞ!……ってあれ?俺、モブキャラなのに随分シナリオに絡んでませんか!?

あるのーる
BL
普通のサラリーマンである俺、宮内嘉音はある日事件に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 しかし次に目を開けた時、広がっていたのは中世ファンタジー風の風景だった。前世とは似ても似つかない風貌の10歳の侯爵令息、カノン・アルベントとして生活していく中、俺はあることに気が付いてしまう。どうやら俺は「きっと未来は素晴らしく煌めく」、通称「きみすき」という好きだった乙女ゲームの世界に転生しているようだった。 ……となれば、俺のやりたいことはただ一つ。シナリオの途中で死んでしまう運命である俺の推しキャラ(モブ)をなんとしてでも生存させたい。 学園に入学するため勉強をしたり、熱心に魔法の訓練をしたり。我が家に降りかかる災いを避けたり辺境伯令息と婚約したり、と慌ただしく日々を過ごした俺は、15になりようやくゲームの舞台である王立学園に入学することができた。 ……って、俺の推しモブがいないんだが? それに、なんでか主人公と一緒にイベントに巻き込まれてるんだが!? 由緒正しきモブである俺の運命、どうなっちゃうんだ!? ・・・・・ 乙女ゲームに転生した男が攻略対象及びその周辺とわちゃわちゃしながら学園生活を送る話です。主人公が攻めで、学園卒業まではキスまでです。 始めに死ネタ、ちょくちょく虐待などの描写は入るものの相手が出てきた後は基本ゆるい愛され系みたいな感じになるはずです。

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

転生したら、ラスボス様が俺の婚約者だった!!

ミクリ21
BL
前世で、プレイしたことのあるRPGによく似た世界に転生したジオルド。 ゲームだったとしたら、ジオルドは所謂モブである。 ジオルドの婚約者は、このゲームのラスボスのシルビアだ。 笑顔で迫るヤンデレラスボスに、いろんな意味でドキドキしているよ。 「ジオルド、浮気したら………相手を拷問してから殺しちゃうぞ☆」

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

BLゲームの世界に転生!~って、あれ。もしかして僕は嫌われ者の闇属性!?~

七海咲良
BL
「おぎゃー!」と泣きながら生まれてきた僕。手足はうまく動かせないのに妙に頭がさえているなと思っていたが、今世の兄の名前を聞いてようやく気付いた。  あ、ここBLゲームの世界だ……!! しかも僕は5歳でお役御免の弟!? 僕、がんばって死なないように動きます!

処理中です...