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6:お仕事しますよー
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ペーターは午前中いっぱいお貴族マナー講座を受けると、ぐったりと疲れた状態で食堂に向かった。食堂に行けば、シグルドが書類を片手に執事のバニヤンと話していた。のろのろと椅子に座れば、すぐに使用人達が美味しそうな料理を運んできてくれる。
今日の昼食のメインは、豚肉の香草焼きだった。ふわふわ香る美味しそうな匂いに、ぐーっと腹が鳴る。シグルドが書類をテーブルに置いて食べ始めたので、ペーターも食べ始めた。
香草焼きを口に含めば、ふわっと香草のいい匂いが鼻に抜け、じゅわぁっと豚肉の甘い脂と肉汁が口いっぱいに広がる。素直に美味しい。バターの香りがいいふわふわパンも最高に美味しいし、野菜たっぷりのスープも優しい味わいで美味しい。デザートに焼き菓子もあって、幸せな気分になる。シグルドと2人だけの時は、お貴族マナーを気にしなくていいと言われているので、ペーターはリラックスして、美味しい料理をもりもり食べた。
午後からはシグルドの仕事の手伝いである。シグルドは、騎士団用の馬の育成の管理と羊毛生産の管理を任されている。シグルドの予想通りになったのだが、どちらも経験したことがないことだし、書類を見ているだけじゃ分からないことばかりなので、視察に行くことも多い。
今日も馬を飼育している所へ視察に行くことになった。シグルドと一緒に馬車に乗って、視察に向かう。馬を飼育している所は、屋敷からそう遠くない。若い頃からこの仕事に携わってきたという壮年の執事バニヤンから色んな話を聞きつつ馬車で現地に向かい、実際に馬の飼育をしている者達からも話を聞いていく。
今年は子馬の数が例年よりも少し少ないらしい。たまにこういう年があるそうだ。それでも、広い草原で草を食む馬達は健康そうだったし、子馬達は順調に育っているようだ。
屋敷に帰ると書類仕事が待っている。ペーターが現場で聞いた話を書類に書き起こしている横で、シグルドが時折唸りながら数字と闘っている。シグルドは騎士団の隊長をしていた時も数字関係の書類仕事は苦手だから副隊長に手伝ってもらっていたと聞いている。ペーターはどちらかといえば数字に強い方なので、書き起こし作業が終わったら、シグルドの手伝いをする。計算はそれなりに速い方なので、シグルドから褒めてもらえるようになった。国立魔法学園時代は、実技は悲惨だったが、座学はそれなりに成績がよくて、勉強することには慣れている。分からないことはバニヤンに聞きながら、書類仕事にも少しずつ慣れてきた気がする。
夕食の後も少しだけ勉強がてら仕事をしてから、ぐったりしているシグルドと一緒に風呂に入る。シグルドは身体を動かす方が性に合っているみたいだ。ペーターはどちらかと言えば頭脳労働派なので、今の仕事は大変だけど嫌いじゃない。領民のための大事な仕事だし、今は離れてしまった騎士団のための仕事でもある。魔獣討伐に馬は必要不可欠だ。しっかりした馬を騎士団に渡したい。ペーターは慣れない仕事に四苦八苦しながらも、新しい仕事をそれなりに楽しんでいた。
風呂から出ると、ガウンを着て二階の寝室に向かう。シグルドが毎晩寝酒を飲むので、ペーターも一杯だけ付き合っている。というか、グラス一杯飲んだらすぐに寝てしまう。ペーターはどうやら酒に弱い方だったらしい。シグルドは酒豪で、きつい蒸留酒を一瓶空にしてもけろっとしている。
仕事は毎日ではなく、何事もなければ、5日に一度休みがある。休みの日の前の晩は、シグルドはのんびり好きなだけ酒を飲んでいる。翌日仕事の日は、シグルドもグラス一杯だけにしている。
ペーターがちびちび舐めるように果実酒を飲んでいると、一時期無くなっていた顎髭が完全に復活しているシグルドが話しかけてきた。
「おい。明日は羊の所に行くぞ。そろそろ毛刈りが始まる時期だ。今年の羊毛の生産量の見積もりを確かめたい」
「はぁい。子羊ちゃん達、大きくなってますかねー」
「それなりに大きくなってるだろうよ」
「あっ! シグルドさん。お仕事の邪魔にならなければ、羊の毛刈りをやってみたいです!」
「あー? まぁいいけどよ」
「やったー! 毛刈りってどんなのか、前から気になってたんですよー」
「羊に怪我をさせるなよ。へっぽこ」
「手先は器用な方ですぅ。何故かそれが魔法に反映されないだけで」
「ほんとかよ。まぁ、好きにしろ」
「羊の所に行くなら、今回も泊りがけですか?」
「あぁ。息抜きも兼ねて三泊くらいするか」
「はぁい。このお屋敷も楽に息ができますけど、やっぱりいつ母屋から呼び出しがあるのか分かんないから、なんかドキドキしちゃいますもんねー」
「母上と兄上がなぁ。嫌いじゃないが面倒くさい」
「ぶっちゃけた」
「『子供はまだか』の圧力が鬱陶しい」
「それは確かにー。まぁ、セックスしてないから子供なんてできないんですけどね」
「お前、俺とセックスしたいか?」
「全然。シグルドさんは?」
「全く。これっぽちもしたいと思わねぇ。大体、俺の歳で子供産むって、かなりきついもんがあるだろ。もうそろそろ36だぞ。俺」
「年増ですね!」
「よーしよしよしよし」
「あぎゃーー! それよしよしじゃなくてぐりぐりー! いたいいたいいたいいたいーー!」
「生意気言ってんじゃねぇぞ。クソガキ」
「すんませんっしたーー!!」
シグルドが気が済むまでこめかみをぐりぐりされまくったペーターは、頭を抱えて低く唸った。シグルドは拳骨も半端なく痛いが、ぐりぐりもものすごく痛い。じんじん痛むこめかみに、ちょっと酔いが醒めた。
シグルドがクックッと低く笑って、くっと一息でグラスの酒を飲み干した。グラスをサイドテーブルに置いたシグルドが手を出してきたので、半分果実酒が残っているグラスを手渡す。残っていた果実酒も一息で飲み干したシグルドがベッドに寝転がったので、ペーターもシグルドの隣に寝転がった。お互いに下着一枚で寝るのにはすっかり慣れている。すぐに豪快な鼾が聞こえてきたので、ペーターも目を閉じた。
翌日。半日以上かけて馬車で移動して、羊を飼育している場所に着いた。今日は少しだけ羊毛生産の責任者と話をしたら、宿に行く。羊の毛刈り体験は明日させてもらえることになった。ベテランの老爺が毛刈りの仕方を教えてくれるらしい。
ペーターは早くもワクワクしながら、真面目な顔を取り繕って、真剣な顔で責任者から話を聞いているシグルドの隣でメモを取った。今夜のうちに聞いた話を書類にまとめるつもりなので、しっかりとメモを取る。明日は毛刈りを楽しみたいので、今日できる仕事は今日のうちに終わらせるつもりだ。
責任者との話が終わると、宿に行き、宿の部屋で早速聞いたばかりの話を書き起こしていく。がりがりとペンを動かすペーターの側で、シグルドはバニヤンと話をしていた。2人の話をなんとなく聞きながら、さくっとメモした内容をまとめてしまう。国立魔法学園時代に培ったレポート作成能力がこんなにも役立つ日が来るとは思っていなかった。
出来上がった書類をシグルドとバニヤンに確認してもらい、問題なかったので夕食の時間である。この宿の料理は屋敷の料理よりも素朴な感じだが本当にすごく美味しいので、実はこの宿に泊まるのが好きだったりする。まだほんの数回しか泊まったことがないが、使用人達の目がない分、離れの屋敷よりもリラックスできる。元々平民のペーターには、使用人がいる生活は正直息が詰まる。いつかは慣れるのかもしれないが、まだまだ慣れる感じではない。
明日の仕事もとい羊の毛刈りを楽しみに、ペーターはシグルドと同じベッドでぐっすり眠った。
今日の昼食のメインは、豚肉の香草焼きだった。ふわふわ香る美味しそうな匂いに、ぐーっと腹が鳴る。シグルドが書類をテーブルに置いて食べ始めたので、ペーターも食べ始めた。
香草焼きを口に含めば、ふわっと香草のいい匂いが鼻に抜け、じゅわぁっと豚肉の甘い脂と肉汁が口いっぱいに広がる。素直に美味しい。バターの香りがいいふわふわパンも最高に美味しいし、野菜たっぷりのスープも優しい味わいで美味しい。デザートに焼き菓子もあって、幸せな気分になる。シグルドと2人だけの時は、お貴族マナーを気にしなくていいと言われているので、ペーターはリラックスして、美味しい料理をもりもり食べた。
午後からはシグルドの仕事の手伝いである。シグルドは、騎士団用の馬の育成の管理と羊毛生産の管理を任されている。シグルドの予想通りになったのだが、どちらも経験したことがないことだし、書類を見ているだけじゃ分からないことばかりなので、視察に行くことも多い。
今日も馬を飼育している所へ視察に行くことになった。シグルドと一緒に馬車に乗って、視察に向かう。馬を飼育している所は、屋敷からそう遠くない。若い頃からこの仕事に携わってきたという壮年の執事バニヤンから色んな話を聞きつつ馬車で現地に向かい、実際に馬の飼育をしている者達からも話を聞いていく。
今年は子馬の数が例年よりも少し少ないらしい。たまにこういう年があるそうだ。それでも、広い草原で草を食む馬達は健康そうだったし、子馬達は順調に育っているようだ。
屋敷に帰ると書類仕事が待っている。ペーターが現場で聞いた話を書類に書き起こしている横で、シグルドが時折唸りながら数字と闘っている。シグルドは騎士団の隊長をしていた時も数字関係の書類仕事は苦手だから副隊長に手伝ってもらっていたと聞いている。ペーターはどちらかといえば数字に強い方なので、書き起こし作業が終わったら、シグルドの手伝いをする。計算はそれなりに速い方なので、シグルドから褒めてもらえるようになった。国立魔法学園時代は、実技は悲惨だったが、座学はそれなりに成績がよくて、勉強することには慣れている。分からないことはバニヤンに聞きながら、書類仕事にも少しずつ慣れてきた気がする。
夕食の後も少しだけ勉強がてら仕事をしてから、ぐったりしているシグルドと一緒に風呂に入る。シグルドは身体を動かす方が性に合っているみたいだ。ペーターはどちらかと言えば頭脳労働派なので、今の仕事は大変だけど嫌いじゃない。領民のための大事な仕事だし、今は離れてしまった騎士団のための仕事でもある。魔獣討伐に馬は必要不可欠だ。しっかりした馬を騎士団に渡したい。ペーターは慣れない仕事に四苦八苦しながらも、新しい仕事をそれなりに楽しんでいた。
風呂から出ると、ガウンを着て二階の寝室に向かう。シグルドが毎晩寝酒を飲むので、ペーターも一杯だけ付き合っている。というか、グラス一杯飲んだらすぐに寝てしまう。ペーターはどうやら酒に弱い方だったらしい。シグルドは酒豪で、きつい蒸留酒を一瓶空にしてもけろっとしている。
仕事は毎日ではなく、何事もなければ、5日に一度休みがある。休みの日の前の晩は、シグルドはのんびり好きなだけ酒を飲んでいる。翌日仕事の日は、シグルドもグラス一杯だけにしている。
ペーターがちびちび舐めるように果実酒を飲んでいると、一時期無くなっていた顎髭が完全に復活しているシグルドが話しかけてきた。
「おい。明日は羊の所に行くぞ。そろそろ毛刈りが始まる時期だ。今年の羊毛の生産量の見積もりを確かめたい」
「はぁい。子羊ちゃん達、大きくなってますかねー」
「それなりに大きくなってるだろうよ」
「あっ! シグルドさん。お仕事の邪魔にならなければ、羊の毛刈りをやってみたいです!」
「あー? まぁいいけどよ」
「やったー! 毛刈りってどんなのか、前から気になってたんですよー」
「羊に怪我をさせるなよ。へっぽこ」
「手先は器用な方ですぅ。何故かそれが魔法に反映されないだけで」
「ほんとかよ。まぁ、好きにしろ」
「羊の所に行くなら、今回も泊りがけですか?」
「あぁ。息抜きも兼ねて三泊くらいするか」
「はぁい。このお屋敷も楽に息ができますけど、やっぱりいつ母屋から呼び出しがあるのか分かんないから、なんかドキドキしちゃいますもんねー」
「母上と兄上がなぁ。嫌いじゃないが面倒くさい」
「ぶっちゃけた」
「『子供はまだか』の圧力が鬱陶しい」
「それは確かにー。まぁ、セックスしてないから子供なんてできないんですけどね」
「お前、俺とセックスしたいか?」
「全然。シグルドさんは?」
「全く。これっぽちもしたいと思わねぇ。大体、俺の歳で子供産むって、かなりきついもんがあるだろ。もうそろそろ36だぞ。俺」
「年増ですね!」
「よーしよしよしよし」
「あぎゃーー! それよしよしじゃなくてぐりぐりー! いたいいたいいたいいたいーー!」
「生意気言ってんじゃねぇぞ。クソガキ」
「すんませんっしたーー!!」
シグルドが気が済むまでこめかみをぐりぐりされまくったペーターは、頭を抱えて低く唸った。シグルドは拳骨も半端なく痛いが、ぐりぐりもものすごく痛い。じんじん痛むこめかみに、ちょっと酔いが醒めた。
シグルドがクックッと低く笑って、くっと一息でグラスの酒を飲み干した。グラスをサイドテーブルに置いたシグルドが手を出してきたので、半分果実酒が残っているグラスを手渡す。残っていた果実酒も一息で飲み干したシグルドがベッドに寝転がったので、ペーターもシグルドの隣に寝転がった。お互いに下着一枚で寝るのにはすっかり慣れている。すぐに豪快な鼾が聞こえてきたので、ペーターも目を閉じた。
翌日。半日以上かけて馬車で移動して、羊を飼育している場所に着いた。今日は少しだけ羊毛生産の責任者と話をしたら、宿に行く。羊の毛刈り体験は明日させてもらえることになった。ベテランの老爺が毛刈りの仕方を教えてくれるらしい。
ペーターは早くもワクワクしながら、真面目な顔を取り繕って、真剣な顔で責任者から話を聞いているシグルドの隣でメモを取った。今夜のうちに聞いた話を書類にまとめるつもりなので、しっかりとメモを取る。明日は毛刈りを楽しみたいので、今日できる仕事は今日のうちに終わらせるつもりだ。
責任者との話が終わると、宿に行き、宿の部屋で早速聞いたばかりの話を書き起こしていく。がりがりとペンを動かすペーターの側で、シグルドはバニヤンと話をしていた。2人の話をなんとなく聞きながら、さくっとメモした内容をまとめてしまう。国立魔法学園時代に培ったレポート作成能力がこんなにも役立つ日が来るとは思っていなかった。
出来上がった書類をシグルドとバニヤンに確認してもらい、問題なかったので夕食の時間である。この宿の料理は屋敷の料理よりも素朴な感じだが本当にすごく美味しいので、実はこの宿に泊まるのが好きだったりする。まだほんの数回しか泊まったことがないが、使用人達の目がない分、離れの屋敷よりもリラックスできる。元々平民のペーターには、使用人がいる生活は正直息が詰まる。いつかは慣れるのかもしれないが、まだまだ慣れる感じではない。
明日の仕事もとい羊の毛刈りを楽しみに、ペーターはシグルドと同じベッドでぐっすり眠った。
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