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59 最終話②

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新調したドレスとアクセサリーを身につけて、式場に到着しました。

仕立てた衣装を見に纏ったオブシディアン様はいつも以上に輝いていて、私で釣り合うのか不安になってしまいます。
魔王様もとても羨ましがっていて、次はご自身も人間界で仕立てると言っていました。

私達は早速ユリシーズ様とローザリア様に挨拶に向かいます。魔族を連れて歩く私はかなり悪目立ちしているようで、周りの視線が少し気になります。

ユリシーズ様と寄り添うローザリア様から少し離れたところでベルンハルトが目を光らせています。側近というわけではなさそうですが、ユリシーズ様はそのうち使うつもりなのかもしれません。

「ユリシーズ様、ローザリア様、この度はご成婚誠におめでとうございます。このような素晴らしい式典に招待いただき、光栄でございます」

公式の場ではありますが、あえて敬称ではなくお名前で呼ばせていただきました。これが魔族流なのです。最近は魔王様のことも口に出す時は本人の希望でジェバイト様とお呼びしています。

「ありがとうベアトリス。国家の救世主である君を呼ばないと始まらないからな。豪華絢爛とは言えないが今日は楽しんで行ってくれ。できれば暫く滞在して、ローザリアの話し相手になってあげて欲しいのだが」

相変わらずローザリアローザリアですが、悪い気はいたしません。ユリシーズ様の一途な態度は非常に好感が持てるものですから。思えば彼と私の関係も随分と変わったものです。

当のローザリア様は少しふっくらとされて、美しさに磨きがかかっていました。まだ少女の面影が濃い彼女でしたが、少し大人びた感じがいたします。あと、それだけではない何かがあります。

「ベアトリス様、お会いできて嬉しいです。こんな素晴らしい日が訪れたのも、全てベアトリス様のおかげだと思います。良ろしければ、これからも長くお付き合いいただけたら幸いです」

「ローザリア様も苦労されましたもの。幸せになってくださいね。ご結婚もですけど、なんだかそれ以上の幸せが訪れているようにも見受けられるのですが」

実はローザリア様はお腹を隠すようなゆったりとしたドレスを着ているのです。彼女は相変わらず細身で、流行的にも身体のラインが出る服の方が本来はお似合いですから、理由は想像がつきました。

「ベアトリス様に隠し事はできませんね。実はベアトリス様のご想像通りです。こんなに幸せになって良いのかと思うくらいです」

ローザリア様は頬を赤らめながら言いました。相変わらず可愛らしい方です。

「それで、こちらの風習は不安なことがたまにあるので、ベアトリス様に相談したいことがいろいろあって。さっきのユリシーズ様の話ですが、一度でもいいのでお願いしたいです」

こちらの風習というのは、この世界の常識という事でしょう。確かに剣と魔法の世界では出産に関して私たちの常識とは異なる部分は多いでしょう。それ以上に初めての出産で不安なのかもしれませんね。

私も詳しいわけではありませんがお話するだけでも充分なのでしたら、ローザリア様の不安を取り除くお手伝いくらいいたしましょうか。

最近はそうでもありませんが、最初の雰囲気からローザリア様は随分若い時に亡くなって転生された気がいたします。先日はそう言ったこともあまり話せていないので、親交を深める良い機会かもしれませんね。

「大変おめでたいことです。ラピス様がお二人を祝福している証拠だと思います。では、時間はありますのでまた寄らせていただきます。今のところはこれで失礼いたします」

主賓への挨拶は長引くと列ができてしまうので、この辺りで切り上げました。魔王様やオブシディアン様もそれぞれの言葉でお二人を祝福していました。

ライムストーン辺境伯様に声をかけられたので、ご挨拶しました。ライムストーンと魔界とは交易はしていますが、辺境伯様とは最後の調停での話し合い以来お会いしていませんでした。

ライムストーンが華やかになったことを指摘すると少し複雑そうでした。ライムストーンでも他の南部領主同様、女性もあまりお洒落に興味の無い方が多かったのですが、最近ではユリシーズ様の社交会の度に奥様やお嬢様にいろいろとねだられるらしく、お財布がいくらあっても足りないようです。

それでも王国の税金を免除され、穀物の供給価格も良心的なものになり、南部全体が余裕ができて王国への不満は解消されてきたと喜んでいました。


パーティーもダンスが終わって少し落ち着いてまいりました。オブシディアン様だけでなく、魔王様にも散々一緒に踊らされた私は少し疲れたので外の空気を吸いにロフトに出て、風を感じながら夜空を眺めています。

後ろからオブシディアン様がやってきました。
なんだかいつもより真面目な顔をされています。

もう半年以上一緒に暮らしていますけど、オブシディアン様は変わらず優しくて素敵な男性です。

アルフレッド様を捕らえた日は、私が窮地に陥って魔王様に救われたことを自分の失態として、随分と落ち込んでおられました。そんな彼も可愛かったのですけど本人には言えません。

こうして夜空の下で向かい合っていると、あのオブシディアン様に救っていただいた夜を思い出します。
オブシディアン様の漆黒の髪は夜の闇に溶け込むのですが、月や星の光をよく映してとても綺麗なのです。

「こうしていると君と出会った夜を思い出す。君はあの時から変わらず、いや、あの時以上に綺麗だ」

オブシディアン様も同じことを考えていたようです。いつも私のことを褒めてくださいますが、今日は私も着飾っているので少しはオブシディアン様に相応しくなっていると嬉しいのですけど。

「ありがとうございます。私もあの夜を思い出しておりました。オブシディアン様には今の私の全てをいただいたようなものです。私は本当に幸せ者です」

「私の方こそ君に出会えて良かったと思う。……これでは押し問答だな。今日は君に渡したいものがあるんだ」

そう言って、オブシディアン様は胸元から何かを取り出しました。見せていただくと、赤い宝石のついた指輪でした。その赤い宝石は、中で月の光を幾重にも反射していて大変幻想的な美しいものです。

「これはレッド・ベリルという宝石だ。君達人間が転移門のある島をその名で呼んでいたはずだ。私が君と出会ったあの場所の名前を持つ宝石を君に送って、私は君に求婚したいと思った」

珍しく照れ臭そうにそういうオブシディアン様を見て、私は嬉しくて涙が出てきました。オブシディアン様は私との思い出をこんなにも大切にしてくださっているのです。

「ベアトリス、私の伴侶となって共にいて欲しい。私はそのために、君に永遠の愛を誓う」

オブシディアン様がそう言いながら、私に指輪を嵌めてくださいました。

「私も大好きなオブシディアン様とずっと一緒にいたいです。これからもよろしくお願いします」

私がオブシディアン様に抱きつくと、オブシディアン様も強く抱きしてめてくれました。


でも、結構前途多難ですよね。私とオブシディアン様の種族差があるから、私はオブシディアン様より5倍以上早く歳を取るわけで。

これで私の話は終わりますが、そのうち解決策を探して魔界を旅する時が来るかもしれません。おばさんになって捨てられたら困りますからね。

では、また会う日まで。
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