上 下
56 / 60

56

しおりを挟む
その場には私の希望通りアルフレッド様、ローザリア様と私の3人だけが残されました。
アルフレッド様には魔王様の強力な拘束の魔法がかかっていて微動だにできないようですけれど。

「ローザリア、君が力を取り戻したいなら僕と結ばれるしか方法は無いはずだ。今なら間に合うから魔王とやらを説得して僕を解放してくれないかな」

アルフレッド様がローザリア様に訴えています。確かに真ルートではそういう話になっていますが、もう今のローザリア様ならそんなものに頼らずとも力が戻りそうな気がします。

「貴方とどうこうなるくらいなら力なんか要らないです。それに私気付いたんです。この世界はゲームの世界ってだけじゃないって。私もみんなもこの世界で生きているんだって」

「ローザリア様はユリシーズ様と共に歩まれるのですか?王国はかなり多難な道のりを進むことになりますよ」

「ええ、ですからユリシーズ様の側にいて助けてあげたいと思います。大聖女の力が戻ればそれも役に立つかなと思うんです」

王国を政治的にも経済的にも破綻させてユリシーズ様に引き渡そうと考えていましたが、ちょっと手心を加えた方が良さそうな気がしてきました。

お父様は大変でしょうけど、ライムストーンへの仲裁とマリアライトが引き続き支援できるように私が準備しておくことにしました。
我ながら甘いことです。

「ユリシーズだって?僕よりあんな噛ませ犬みたいなキャラが良いっていうのか」

「確かにさっきのユリシーズ様は格好良かったですよね。随分と痛そうでしたけど」

「私がライムストーンで捕まった時も身を挺して庇おうとしてくれました。私、あれからずっと考えていたんです。こんなに私のことを想ってくれる人は他にいないって」

この人は好きな相手のことを語る時、本当にキラキラした目をされます。今はそれがユリシーズ様に決まったようですね。

「先程ユリシーズ様が助けに現れてくれた時にそれを確信しました。ですから私はこの辺りで失礼しますね。ユリシーズ様とお話ししたいので。あとはお二人で話してください」

ローザリア様はすっかりアルフレッド様を無視しています。本当にアルフレッド様に関わりたくないのでしょう。挨拶もそこそこにユリシーズ様の方に歩いて行きました。

それにしても久しぶりに見るアルフレッド様は以前の優等生っぽい雰囲気が全く無くなっています。前世の記憶なんてものも良し悪しですね。

「この僕が一生牢獄暮らしなんてあり得ない。ローザリアと結ばれるなければ必ず死ぬ運命を変えたくて頑張ってきたのに」

アルフレッド様は随分と落ち込んでいるようです。
なるほど、死にたくない一心、それがアルフレッド様の行動の意味だったのですね。

「アルフレッド様はやはり隠しルートをご存知無いようですね」

アルフレッド様が驚いたように私を見ました。

「ベアトリス、何を言っているんだ。まさか君も転生者なのか……」

「貴方に殺されかけた時に全てを思い出したのです。知識を総動員してなんとか生き長らえました。隠しルートでは魔族がいろいろ助けてくれるのです」

隠しルートを知らなければアルフレッド様があのようなことをしたのもわからなくはありませんね。
私はそのことをアルフレッド様に詳しく説明してさしあげました。

「ローザリアの行動に最初から合点がいかなかったけど、ローザリアはそのルートを狙っていたのか」

「ローザリア様は露骨に皆様を避けていたと聞きました」

「ああ。特に僕を酷く拒んでいるように見えて焦ったよ。僕がもし何もしなければ、僕達は全員幸せなままでいたのだろうか」

そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。この世界はゲームの中のことではないのですから。

「前世の記憶なんて言っても、私は親の顔も友達の顔も思い出せないし愛着も感じないんです。逆に、この世界には大切な人がたくさんいます。それって、私はベアトリスでしかない証拠だと思うんです」

ローザリア様にはフラれてしまったので、私は目の前にいるアルフレッド様に思っていたことを言ってみました。

一人語りになると思っていましたが、アルフレッド様は意外と感銘を受けたような顔をされています。

「確かに僕も自分がどうやって死んだのかすら思い出せなかった。余計なことを考えずにアルフレッドとして生きていれば、こんなことにはならなかったのだろうか」

いろいろ知りたくて話す機会を作りましたが、事情を聞くと赦してしまいそうになります。これ以上は話しても仕方ないでしょう。

「ゲームのことばかり考えて、焦って間違いばかりしてしまったようだ。まだ何があるかわからないし、僕は牢の中で生き長らえようと思う」

アルフレッド様はそんなことを言いました。
でも、あの魔王様ならあれだけの魔法を使用して見せたアルフレッド様を牢から出して使うこともあるかもしれません。

「そうですか。ではごきげんよう、アルフレッド様」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される

日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。 そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。 HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!

運命の選択が見えるのですが、どちらを選べば幸せになれますか? ~私の人生はバッドエンド率99.99%らしいです~

日之影ソラ
恋愛
第六王女として生を受けたアイリスには運命の選択肢が見える。選んだ選択肢で未来が大きく変わり、最悪の場合は死へ繋がってしまうのだが……彼女は何度も選択を間違え、死んではやり直してを繰り返していた。 女神様曰く、彼女の先祖が大罪を犯したせいで末代まで呪われてしまっているらしい。その呪いによって彼女の未来は、99.99%がバッドエンドに設定されていた。 婚約破棄、暗殺、病気、仲たがい。 あらゆる不幸が彼女を襲う。 果たしてアイリスは幸福な未来にたどり着けるのか? 選択肢を見る力を駆使して運命を切り開け!

【最弱勇者】100回目の転生

黒崎
BL
過去に99か所の世界を救ったベテランの勇者が100回目の転生は全能力1の縛りプレイで転生することにした。順調に進んだと思われていたが、過去最大の難所に立ち向かうのである。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

貴方にとって、私は2番目だった。ただ、それだけの話。

天災
恋愛
 ただ、それだけの話。

【完結】復讐の館〜私はあなたを待っています〜

リオール
ホラー
愛しています愛しています 私はあなたを愛しています 恨みます呪います憎みます 私は あなたを 許さない

処理中です...