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ローザリア様のすすり泣きだけが静かな部屋の中で響いて、ユリシーズ様はただ黙ってそれに寄り添っています。
外は依然として交戦状態らしく、剣戟の音が小さく聞こえてきます。
「なんだか感動的になっているけどさ、王国の為に頑張っている僕は蚊帳の外かい?」
アルフレッド様がその静寂を破りました。ユリシーズ様は振り向きもせず、全く取り合うつもりが無いようです。
「僕がローザリアに涙を飲んでこんな仕打ちをしているのは、王国を守る為なんだけどね」
「何を馬鹿なことを。こんな事が王国の為になるものか」
あまりに芝居がかった言い方を流石に聞き捨てならないのか、ユリシーズ様は再びアルフレッド様の方に顔を向けました。
「ローザリアに力を取り戻してもらって、魔族を再び追い返さないと王国は壊滅してしまうんだよ。僕はその為にローザリアと結ばれる必要があるんだ」
私の中でアルフレッド様に感じていた違和感が、今確信に変わりつつあります。普通に考えればアルフレッド様がローザリア様と結ばれたからと言ってなんだというのでしょうか。彼は明らかに真ルートの話をしているように聞こえます。
案の定、再びユリシーズ様に火がついてしまい、ユリシーズ様はゆっくりとローザリアを解放すると、アルフレッド様に迫りました。
「兄上、ずっと思っていたが気でも触れたのか。あまりに常軌を逸した発言過ぎて、聞き苦しいにも程があるぞ」
ユリシーズ様はそう言ってアルフレッド様の胸ぐらを掴みました。
「ローザリアに説明したら彼女はそれを理解していたよ。その上で断られたんだよ。彼女は王国が滅んでも構わないらしいね」
「ローザリアが理解していただと?」
「アルフレッド様!それ以上はおやめください」
ローザリア様が溜まりかねたような声を上げました。アルフレッド様とローザリア様はお互いの在り方を確認されているようです。
ローザリア様が私の事を話していないと良いのですが。
その様子にユリシーズ様は怪訝な表情でローザリアを見ました。
アルフレッド様とローザリア様が結ばれたら大聖女としての力が戻る。そんなオカルトのような話をローザリア様が否定しないのですから無理もありません。
「何故、ローザリアは王国の危機を救える方法を知っているのにそれを拒むのか分かるかい?」
「それは兄上があまりに気持ち悪いからではないのか?さっきの話が真実だとは考えにくいが、仮にそうだとしても大聖女だからといって自分を差し出してまで王国を救う必要はないだろう」
ユリシーズ様らしい発言だと思います。ローザリア様もなんだか嬉しそうにユリシーズ様を見ています。
流石にアルフレッド様も気に障ったようで、ニヤニヤしていた顔色が変わりました。ユリシーズ様の腕を払って睨みつけます。
「僕は君達とは次元の違う存在なんだよ。この世界の成り立ちを知る神にも等しい僕に対して口の聞き方に気を付けてもらえないかな」
「いい加減にしろよ変態野朗。ローザリアは連れて行くから、一人で神様ごっこでもしていろ」
ユリシーズ様は踵を返してローザリア様のところに戻ろうとしました。
「わかったよ。僕はもう君たちを助けない」
アルフレッド様が吐き捨てるように言うのをユリシーズ様は無視してローザリア様の手を取りました。
「行こうローザリア。魔力なんかなくても俺には君が必要なんだ」
その後ろで、アルフレッド様が不自然に右手をローザリア様の方に向けました。
私の身体が結界を通り過ぎた時のような圧迫感をアルフレッド様の方から感じました。
これは魔力の反応です。
「ローザリア様!危ない!」
私は咄嗟にローザリア様に向かって叫びました。
一瞬アルフレッド様が私の方を見たような気がします。
ユリシーズ様もアルフレッド様の普通ではない様子を感じ取ったようです。
『ホーリーランス』
アルフレッド様が詠唱すると同時に、光の槍がローザリア様に向けて撃ち出されました。
咄嗟にユリシーズ様がローザリア様を抱いて横に飛び、そのまま二人で床に転がります。
外は依然として交戦状態らしく、剣戟の音が小さく聞こえてきます。
「なんだか感動的になっているけどさ、王国の為に頑張っている僕は蚊帳の外かい?」
アルフレッド様がその静寂を破りました。ユリシーズ様は振り向きもせず、全く取り合うつもりが無いようです。
「僕がローザリアに涙を飲んでこんな仕打ちをしているのは、王国を守る為なんだけどね」
「何を馬鹿なことを。こんな事が王国の為になるものか」
あまりに芝居がかった言い方を流石に聞き捨てならないのか、ユリシーズ様は再びアルフレッド様の方に顔を向けました。
「ローザリアに力を取り戻してもらって、魔族を再び追い返さないと王国は壊滅してしまうんだよ。僕はその為にローザリアと結ばれる必要があるんだ」
私の中でアルフレッド様に感じていた違和感が、今確信に変わりつつあります。普通に考えればアルフレッド様がローザリア様と結ばれたからと言ってなんだというのでしょうか。彼は明らかに真ルートの話をしているように聞こえます。
案の定、再びユリシーズ様に火がついてしまい、ユリシーズ様はゆっくりとローザリアを解放すると、アルフレッド様に迫りました。
「兄上、ずっと思っていたが気でも触れたのか。あまりに常軌を逸した発言過ぎて、聞き苦しいにも程があるぞ」
ユリシーズ様はそう言ってアルフレッド様の胸ぐらを掴みました。
「ローザリアに説明したら彼女はそれを理解していたよ。その上で断られたんだよ。彼女は王国が滅んでも構わないらしいね」
「ローザリアが理解していただと?」
「アルフレッド様!それ以上はおやめください」
ローザリア様が溜まりかねたような声を上げました。アルフレッド様とローザリア様はお互いの在り方を確認されているようです。
ローザリア様が私の事を話していないと良いのですが。
その様子にユリシーズ様は怪訝な表情でローザリアを見ました。
アルフレッド様とローザリア様が結ばれたら大聖女としての力が戻る。そんなオカルトのような話をローザリア様が否定しないのですから無理もありません。
「何故、ローザリアは王国の危機を救える方法を知っているのにそれを拒むのか分かるかい?」
「それは兄上があまりに気持ち悪いからではないのか?さっきの話が真実だとは考えにくいが、仮にそうだとしても大聖女だからといって自分を差し出してまで王国を救う必要はないだろう」
ユリシーズ様らしい発言だと思います。ローザリア様もなんだか嬉しそうにユリシーズ様を見ています。
流石にアルフレッド様も気に障ったようで、ニヤニヤしていた顔色が変わりました。ユリシーズ様の腕を払って睨みつけます。
「僕は君達とは次元の違う存在なんだよ。この世界の成り立ちを知る神にも等しい僕に対して口の聞き方に気を付けてもらえないかな」
「いい加減にしろよ変態野朗。ローザリアは連れて行くから、一人で神様ごっこでもしていろ」
ユリシーズ様は踵を返してローザリア様のところに戻ろうとしました。
「わかったよ。僕はもう君たちを助けない」
アルフレッド様が吐き捨てるように言うのをユリシーズ様は無視してローザリア様の手を取りました。
「行こうローザリア。魔力なんかなくても俺には君が必要なんだ」
その後ろで、アルフレッド様が不自然に右手をローザリア様の方に向けました。
私の身体が結界を通り過ぎた時のような圧迫感をアルフレッド様の方から感じました。
これは魔力の反応です。
「ローザリア様!危ない!」
私は咄嗟にローザリア様に向かって叫びました。
一瞬アルフレッド様が私の方を見たような気がします。
ユリシーズ様もアルフレッド様の普通ではない様子を感じ取ったようです。
『ホーリーランス』
アルフレッド様が詠唱すると同時に、光の槍がローザリア様に向けて撃ち出されました。
咄嗟にユリシーズ様がローザリア様を抱いて横に飛び、そのまま二人で床に転がります。
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