上 下
51 / 60

51

しおりを挟む
ローザリア様のすすり泣きだけが静かな部屋の中で響いて、ユリシーズ様はただ黙ってそれに寄り添っています。

外は依然として交戦状態らしく、剣戟の音が小さく聞こえてきます。

「なんだか感動的になっているけどさ、王国の為に頑張っている僕は蚊帳の外かい?」

アルフレッド様がその静寂を破りました。ユリシーズ様は振り向きもせず、全く取り合うつもりが無いようです。

「僕がローザリアに涙を飲んでこんな仕打ちをしているのは、王国を守る為なんだけどね」

「何を馬鹿なことを。こんな事が王国の為になるものか」

あまりに芝居がかった言い方を流石に聞き捨てならないのか、ユリシーズ様は再びアルフレッド様の方に顔を向けました。

「ローザリアに力を取り戻してもらって、魔族を再び追い返さないと王国は壊滅してしまうんだよ。僕はその為にローザリアと結ばれる必要があるんだ」

私の中でアルフレッド様に感じていた違和感が、今確信に変わりつつあります。普通に考えればアルフレッド様がローザリア様と結ばれたからと言ってなんだというのでしょうか。彼は明らかに真ルートの話をしているように聞こえます。

案の定、再びユリシーズ様に火がついてしまい、ユリシーズ様はゆっくりとローザリアを解放すると、アルフレッド様に迫りました。

「兄上、ずっと思っていたが気でも触れたのか。あまりに常軌を逸した発言過ぎて、聞き苦しいにも程があるぞ」

ユリシーズ様はそう言ってアルフレッド様の胸ぐらを掴みました。

「ローザリアに説明したら彼女はそれを理解していたよ。その上で断られたんだよ。彼女は王国が滅んでも構わないらしいね」

「ローザリアが理解していただと?」

「アルフレッド様!それ以上はおやめください」

ローザリア様が溜まりかねたような声を上げました。アルフレッド様とローザリア様はお互いの在り方を確認されているようです。
ローザリア様が私の事を話していないと良いのですが。

その様子にユリシーズ様は怪訝な表情でローザリアを見ました。

アルフレッド様とローザリア様が結ばれたら大聖女としての力が戻る。そんなオカルトのような話をローザリア様が否定しないのですから無理もありません。

「何故、ローザリアは王国の危機を救える方法を知っているのにそれを拒むのか分かるかい?」

「それは兄上があまりに気持ち悪いからではないのか?さっきの話が真実だとは考えにくいが、仮にそうだとしても大聖女だからといって自分を差し出してまで王国を救う必要はないだろう」

ユリシーズ様らしい発言だと思います。ローザリア様もなんだか嬉しそうにユリシーズ様を見ています。

流石にアルフレッド様も気に障ったようで、ニヤニヤしていた顔色が変わりました。ユリシーズ様の腕を払って睨みつけます。

「僕は君達とは次元の違う存在なんだよ。この世界の成り立ちを知る神にも等しい僕に対して口の聞き方に気を付けてもらえないかな」

「いい加減にしろよ変態野朗。ローザリアは連れて行くから、一人で神様ごっこでもしていろ」

ユリシーズ様は踵を返してローザリア様のところに戻ろうとしました。

「わかったよ。僕はもう君たちを助けない」

アルフレッド様が吐き捨てるように言うのをユリシーズ様は無視してローザリア様の手を取りました。

「行こうローザリア。魔力なんかなくても俺には君が必要なんだ」

その後ろで、アルフレッド様が不自然に右手をローザリア様の方に向けました。

私の身体が結界を通り過ぎた時のような圧迫感をアルフレッド様の方から感じました。
これは魔力の反応です。

「ローザリア様!危ない!」

私は咄嗟にローザリア様に向かって叫びました。
一瞬アルフレッド様が私の方を見たような気がします。
ユリシーズ様もアルフレッド様の普通ではない様子を感じ取ったようです。

『ホーリーランス』

アルフレッド様が詠唱すると同時に、光の槍がローザリア様に向けて撃ち出されました。
咄嗟にユリシーズ様がローザリア様を抱いて横に飛び、そのまま二人で床に転がります。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

悪役令嬢を演じて婚約破棄して貰い、私は幸せになりました。

シグマ
恋愛
伯爵家の長女であるソフィ・フェルンストレームは成人年齢である十五歳になり、父親の尽力で第二王子であるジャイアヌス・グスタフと婚約を結ぶことになった。 それはこの世界の誰もが羨む話でありソフィも誇らしく思っていたのだが、ある日を境にそうは思えなくなってしまう。 これはそんなソフィが婚約破棄から幸せになるまでの物語。 ※感想欄はネタバレを解放していますので注意して下さい。 ※R-15は保険として付けています。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...