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私達が王都に行っている間に辺境伯様が進軍する可能性が充分にあるので、お父様には事情を全てお話しして辺境伯様とのことはお任せしました。

私が王都に乗り込むことについて、流石にお父様に心配されましたが、オブシディアン様が説明してお父様を安心させてくださいました。

ここ数日でオブシディアン様は何度かお父様とお酒を飲んでいたようです。オブシディアン様は辺境伯様にご馳走になった時、魔法ではなく実際に作ったお酒を気に入られたようで、お父様の秘蔵のお酒を楽しんでおられました。

そして私達は王都に向けて出発しました。

王都はマリアライトが持つ中央山脈を越えてすぐなので、翌日には私達は王都内の宿屋に到着しています。
先程までガーネット様が諜報員から様子を伺っていたところです。

山脈の麓から馬車で来たのですが、王都に近づいてから商人の格好をして上手くターバンで耳を隠した諜報員の案内で正門から王都に侵入できました。

どうやって連絡を取り合うのかわかりませんが、諜報員というのは便利過ぎではないでしょうか。

彼らの話だとローザリア様は王宮内の西の離れに幽閉されているとのことで、思っていたより随分と酷い扱いと言えます。

そこは高貴な罪人を逃げ出せないように留置するための場所だからです。きちんと整えられた場所なので不自由はありませんが。
実際に留置された私が言うのだから間違いありません。

実はひとつ不安があったので、その報告を聞いて安心しました。私はすっかりベルンハルトルートのことを失念していたのです。

ベルンハルトルートでは、ここでユリシーズからローザリアを奪ったベルンハルトが、ローザリア様の願いを聞いて逃避行するのです。

ローザリア様は隠しルート狙いでしょうから、ちゃんと王宮にいるようですね。

それを聞いて、案の定ユリシーズ様が激昂しています。

「ローザリアを罪人扱いなんて兄上は何を考えているのだ。あの清楚なローザリアが硬いベッドで寒い思いをしていると考えるだけで辛くなるではないか」

「まあ私もあなた方に閉じ込められた場所ですね。居心地は悪くない場所なので大丈夫ですよ」

「ぐ……」

少し煩いので落ち着いていただきました。別に本当の事なので安心していただいて良いと思います。

ユリシーズ様が言う侵入経路はローザリア様と脱出する時にも使った、王宮の外壁の崩れた人ひとり通れる程度の穴で、ちょうど中からは茂みに隠れて見えなくなっているそうです。

子供の頃から王子兄弟とベルンハルトで抜け出したりしていたそうですが、それだと相手も知っている気がします。

いろいろと問題がありますが、もし窮地に陥ったところでオブシディアン様の力押しで乗り切れるので、とりあえず王宮に行くことにしました。

私は街娘風の服を着て髪をうしろで括っています。一応、頬被りをして色々とごまかしてみました。

ユリシーズ様も旅装に帽子で誤魔化していますが、この人は兄のアルフレッド様と違って背が高くて目鼻立ちがはっきりしているので、割と目立ちます。

「別に褒めているわけではないので勘違いなさらないでほしいのですけど、ユリシーズ様の外見だとその程度の変装ではお忍びの貴族にしか見えなくて逆に怪しく見えていらっしゃいますよ」

足手まといなのでお留守番していて欲しいと言外に覗かせました。

「いや、君こそちょっと隠したってそんな艶々の髪の平民はいないし、顔も白すぎて目立っているよ。煤でも塗ったらどうかな」

人が下手に出ていたら言いたい放題です。お手伝いを辞退して差し上げようかと思ってしまいます。

「君達はどっちもどっちだ。隠密行動には向かないことこの上ない」

尋常ではない長身のフードを被った怪しげな男性、オブシディアン様にそう言われました。
私はもちろん、オブシディアン様に恐怖を植え付けられているユリシーズ様も、言い返すことができません。

しっかり隠密行動の身なりを整えたガーネット様と諜報員の方々がため息をついていました。
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