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ヤーマンの話だと、お父様はあの後、私を魔の島に連れて行く船にマリアライトが買収した者を乗せたそうです。

流石に乗組員全員とはいきませんでしたが、彼らは他の乗組員を説得して私を魔の島以外の場所に連れて行く役目を負っていました。

あくまで航海中に気の毒になってという形で話を進めないといけません。万が一にも王国に露見すれば、マリアライトは犯罪者を逃した罪まで負わなくてはならないでしょう。

お父様は何箇所か候補地を見繕って、そこに私が住めるように準備していたようです。

「説得は大変だったそうです。それが、やっと魔の島でお嬢様を置き去りにする直前になって船員達が覚悟を決めた矢先、お嬢様は復讐を誓って帰りの船に乗ることを拒んだと聞き及びました」

それは船員が勧めてくれたのに私が自ら潰した話でした。私にも目的がありましたので全く後悔してはおりませんが、非常に嫌な汗が出てきました。

その結果にお父様は落胆されたようです。それからお母様は散々お父様をなじって家を出て行ってしまうし、すっかり酒に溺れてあの様子だったとか。

でも、それで許せというなら虫の良い話です。私はお父様に顔を打たれて無様にも地面を這うことになり、酷い言葉を投げかけられました。

それに、仮にお父様の策が実現したとしても名を捨てて生きていかねばならなかったのですから。

何より、あの状況で王族の話だけを鵜呑みにして、私を全く信用してくださらなかったことが、私には許せないのです。

「やめよヤーマン。結局のところ、娘を信じることが出来ずに、みすみす死地に送り込んでしまった私は、エリザベートに言われた通り親として人間として失格だ」

私の心を読んだようなことを言いました。
エリザベートとは怒って実家に帰った私のお母様のお名前です。

私は振り上げた拳を下ろす場所を見失ったような気持ちに陥りました。

「ベアトリス、改めて聞くがあれは王族の謀略だったのだな?」

「あの時そう申し上げたではございませんか」

お父様は酷く悲しそうな顔をなさいました。今更そんな顔をしないでください。もう何もかも遅いのです。

「ベアトリス、許して貰えると思わないし、許されたいが為に言う訳ではないが、あえて言わせてくれ。本当にすまなかった。お前が生きていてくれたのがせめてもの救いだ」

あの時の記憶は今でも忘れられません。
ここに来るまでお父様の顔を見るのがどれ程怖かったことか。

「お前の言う復讐には私も含まれているだろう。私はどのような償いでもするつもりだ」

「やめてください!今更そんなことを言われても許せるものではありません」

気づけば私はお父様の顔を力いっぱい叩いてしまいました。お父様は特に抵抗もしません。
余計に腹が立って何度も叩いてしまいました。

私のあの時の絶望がどれほどのものか、誰にもわからないでしょう。
王族などに何を言われても私の心は怒りしか湧かなかったのです。

ですが最後のお父様の仕打ちと言葉だけは私の心が一時的に壊れてしまうのに十分でした。
それをこんな綺麗事で許せるはずがないではありませんか。

それなのに、それなのに……今のお父様の言葉を聞くと私は気持ちが救われてしまうのです。
あんなことを許して良いはずがないのに。

手が痛いです。私は人を叩いたこともないので、お父様は大して痛くないかもしれませんけど。

そのとき、立ち尽くす私の横にオブシディアン様が来て、手を握ってくださいました。

「こう覚悟を決めた者には何をしても無駄だ。だが溢れた杯の水は元には戻らぬ。この男の罪を許せないのは当然のことだが、もし君が情に絆されて僅かに許してしまったとしても君が恥じることは何もない」

そうオブシディアン様に優しく言われ、私はお父様の目も気にせずオブシディアン様に抱きついてしまいました。困ってしまって男に縋るなんて私は弱い女です。

「オブシディアン様、私はどうしたら良いのでしょうか」

もう動揺してしまって何も考えることが出来ず、ついオブシディアン様に聞いてしまいました。

「君はここに来るまでに、どうするか決めていたのだろう。その通りにすれば良いではないか」

オブシディアン様は当たり前のように言いましたが、私はすぐに気持ちの整理ができません。

少し考えたいので、ヤーマンに言って今日は屋敷に泊めてもらうことにしました。
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