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突然私は号泣してしまいまして、ヤーマンは驚いた様子でした。

「な、何をおっしゃっているのです!お嬢様が気に病む事など何もございませぬ。お嬢様が亡くなったのに我々がおめおめと生き延びて何の意味があるのかと皆絶望しておりました」

「でも、私が上手くやれなかったから、あんな酷いことになって……」

なんだか押し問答のようになってしまいましたが、私の感情は止まりませんでした。

「お嬢様が悪いと思っている者などおりません。どうか気を落ち着けてください」

ヤーマンを困らせても仕方ないので、私は深呼吸いたしました。まだ少し声を詰まらせてしまいますが、なんとか落ち着きました。

「ヤーマンありがとう。本当は合わせる顔が無かったのですけれど、大切な要件があって戻りました。お父様はいらっしゃいますか?」

「伯爵様はご在宅ですが、とてもどなたかとお会いできる状態ではなく。実際見ていただければわかるかと思いますが」

辺境伯様の使いをことごとく無視している状況というとまるで想像がつきません。ヤーマンの言う通り実際に見るのが早いでしょう。

「では、お父様に会わせてください」

私達はヤーマンに連れられて屋敷の中に入りました。

ヤーマンの話を聞いて、この屋敷も随分と荒んだ状況だとわかりました。

まず、お母様が私の流刑をみすます許したお父様に激怒して、跡取りである弟のルドヴィックを連れて王国西部にある実家に帰っていました。

また、資産の半分をアルフレッド様に支払った上、宝石の採掘権を失い先の見通しが立たなくなったため、屋敷の使用人を賄いきれなくなりそうです。

大勢の文官達も領主を見限ったり不安を感じたりで、半数は他領に流れて行ったようです。

そしてお父様は、自分の部屋に篭って滅多に出てこないそうです。

「ライムストーン辺境伯様からお父様宛てに連絡が来ていませんか?」

「はい、流石に内容を見るわけにはいかないのですが、火急の要件とは伺っております。しかし、伯爵様がこの有様ですので」

そう言いながら案内された先にいたお父様は、酒に溺れてまともな状態とは言い難いものでした。
お父様は胡乱な目をしていて、私を見ているのかすらわかりません。

正直、お父様があの日のまま誤解していたら、何を言われるのかわからなかったので、私はかなり身構えていました。あまりに酷いようなら私も我慢できずオブシディアン様達に迷惑をかけてしまうことまで心配していたので、少し拍子抜けです。

「お父様、ベアトリスです。ただ今戻りました」

私が声をかけると視点の合っていなさそうな目が僅かに動いたような気がしましたが、返事もしてくれません。

これでは要件を伝えても無駄でしょう。

「オブシディアン様に一応お父様を紹介したかったのですけど」

「人間界で家長が子弟の結婚相手に深く関わる風習は理解しているつもりだが、私は君と結ばれるのであってそれ以外のことはさほど重要ではないから大丈夫だ」

なんだか親戚付き合いのできない最近の駄目夫のようなことを言っています。マ◯オ様の爪の垢でも煎じて飲ませて差し上げたいです。

恥ずかしい父親を見せているのはこちらなので申し訳ありませんが。気を遣って言ってくださってるだけかもしれませんね。

ふと、もしオブシディアン様と結ばれるようなことがあってもらご両親には会わせていただけないのかと思ってしまいました。

それ以前に魔族はどうやって生まれてくるのでしょう。木の股から出てくるわけでもないでしょうから、ご両親はいると思うのですが。

いずれにしても、このままでは拉致があかないので私はお父様のコンディションを戻すことにしました。

『キュア』

アルコールも毒のようなものです。これで癒されてくれると良いのですが。

「お嬢様、それはいったい……」

「ふふ、私も成長しているのです」

お父様の顔が正気に戻ったように見えます。そのまま寝たりしないと良いのですが。

「なんだヤーマン、騒々しいぞ」

まだ覚醒しないのかお父様は頭を振って眉間を押さえています。

「イゴール様、お嬢様がお戻りになりましたよ」

「何を訳のわからんことを」

顔を上げたお父様がこちらを見たので、私はフードを取り再び挨拶をします。イゴールというのはお父様のお名前で、正確にはイゴール・マルクス・マリアライトといいます。

「お父様、ベアトリスです。ただ今戻りました」
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