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私が辺境伯様達だけとお話がしたいと申し上げたところ、辺境伯様とラザフォード様と私達だけで夕食になりました。騒がしいだけのユリシーズ様達には遠慮していただいています。

「アルフレッド様は間違いなくローザリア様を追ってくると思いますけれど、ローザリア様を囲っているということは、辺境伯様としては今度は自ら王国と対立する決心をされたということでしょうか?」

私は早速、辺境伯の意思を確認しました。それが私の希望する辺境伯様の役目ですから。

「そうだ。前国王が崩御したということであれば、王国を潰す絶好の機会だ。ユリシーズ様が亡命して来たことからも、王宮の混乱は目に見えるようだからな」

「辺境伯様はそれ程の力を蓄えられているのですね」

私がそう言うと、辺境伯様がライムストーン辺境伯領について、私の知らない力の片鱗を語ってくださいました。

ライムストーンでは、石灰岩を大量に埋蔵している地層がある島を保有していて、その石灰岩が多用途に産業利用できるらしいです。

前世から科学についてはさっぱりだった私には、辺境伯様のおっしゃることは半分もわかりませんでしたけど。

とりあえず、その石灰岩を使うことで鉄の品質を上げてライムストーン鋼を作ることができたり、石灰岩を処理すると丈夫な麦を作るための肥料にできたりするそうです。耳を疑うような素晴らしい効能をもつものです。

この街中に使われていた白いタイルも全て石灰岩だったようです。

「交流を絶った700年間で人間の技術がそこまで進歩しているとは驚きだ」

オブシディアン様も話を聞いて驚いていました。

「これは農業のみで食いつないでいた私達が王国にただ食い物にされることがないように磨き上げた牙なのです。ライムストーンはこの技術のおかげで、他の南部の農耕一本の領主より一歩上の力を持っています」

「是非、我が魔王様にお伝えしたい話だ。この領地は我々と取引する気は無いか」

オブシディアン様が話を脱線させていきます。そう言えば魔王様は人間界の新しい技術を取り入れて、今までにないものを作り出したいとかおっしゃっていました。

「魔族と交易ですか?対等な条件で商売ができるなら願ってもないことですが」

そちらはラザフォード様が専門なのか、割と前のめりで食いつかれています。この様子だと案外商売に不慣れな魔族より、人間の方が上手く魔族を利用することもあり得るかもしれません。

「我が領でも全てを賄えるわけではなく、鉄鋼業においては燃料となる石炭や原料となる鉄鉱石の供給は他領に頼る形になっています。一例ではありますが、そういったものをご提供いただけるなら、お互いに商売になるかもしれません」 

「石炭というと燃える石か。それならば何とかなるかも知れぬな。原料というのは我々ではわからぬ。ただ、確かに面白そうだ」 

ちょっと面倒な感じになってきました。オブシディアン様が止まりそうにありません。

「あのオブシディアン様、また全て終わってからゆっくり考えませんか」

「すまぬ、あまりに興味深くてつい話し込んでしまった」

私は気を取り直して、確認したいことは済んだので単刀直入に用件を伝えることにしました。

「辺境伯様が王国を取られる際に私達も同行させていただきたいのです」

「魔族がいったい何の目的なのだ?それともマリアライトの代表として申しているのか?」

辺境伯様は訝し気にこちらを見ています。隙を見て国を乗っ取ろうとしているとでも思われているのでしょうか。

私が欲しい物はライムストーンの利益を損なわない物だと思います。

「私が欲しいのは私を陥れた者の首ですわ。他にもいくつか捕らえたい者がおりますが」

アルフレッド様、教皇様、ベルンハルト、使用人と侍女辺りが思いつく人達です。兵士達まで挙げていたらキリがないですけれど。

「ふむ……これも何かの縁か。マリアライト伯爵令嬢のお主に頼みがあるのだが」

辺境伯様がマリアライトの名前を出されました。お父様とはあれ以来なので、お役に立てるでしょうか。
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