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第二部
その548 大事件
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◇◆◇ アリスの場合 ◆◇◆
出先からナタリーさんに呼ばれていた私は、彼女の部屋に入るなり言った。
「エメリーさん! 大事件ですっ!」
バタンと扉を開け、ナタリーさんを通り過ぎ、エメリーさんに肉薄する私。
「うぇ?」
エメリーさんがナタリーさんの部屋にいる事は知っていた。
ぽかんと口を開け、小首を傾げるエメリーさん。
「こ、これ! 見てください!」
「通帳? 紙に写すなんて珍しいですね?」
羊皮紙は高く、代書代の手数料もかかるので、自身の預金を書き写してもらう人間は余りいない。最近では活版なんとかというミナジリ共和国から流れてきた機材のおかげもあり大分安くなったが、それでも写す人は少ない。しかし、私はエメリーさんに伝えなければならない事があったので、仕方がなく写しをとったのだ。
「ここ、ここです!」
私が指差した場所に目をずらすエメリーさんは、その金額を見て驚愕する。
「わ、わ!? 凄いっ!」
通帳に顔を埋めるように覗き込むエメリーさん。
この金額を見て驚かないはずがない。
「ミケラルド商店から、白金貨三百十五枚っ!?」
そんなエメリーさんの声を聞き、ナタリーさんの部屋にいたメアリィさん、クレアさん、レミリアさんも驚きを露わにしていた。
ケロッとした表情をしていたのは、部屋の主であるナタリーさんと、ハルバードの手入れをするリィたんさんだった。
「ナタリー、白金貨三百十五枚というのは凄いのか?」
「凄いよ、リィたん。お仕事やめて百年くらい普通に暮らせるんじゃないかな?」
「何だ、百年か」
「リィたん、アリスさんは人間だからね」
「そうか……よかったなアリス、聖女をやめられるぞ」
「やめないやめない」
「む、確かにアリスが聖女をやめるとミックが困るか」
シェルフ族長の娘メアリィさんでさえ驚いているのに、何故ミナジリ共和国出身のこの二人はこんなにも自然体なのか。それが私にはわかりません。
もしかして、ミナジリ共和国というのは闇ギルドより謎で、魔界よりおかしなところなのかもしれない。
「でも、このお金は一体……?」
エメリーさんが聞くと、私は金額を差していた指を斜め下にずらした。それを目で追っていったエメリーさんは、詳細項目を見て口をヒクヒクとさせた。
「……せ、聖女アリス人形……キャラクターグッズ使用料……!?」
それを聞いたナタリーさんが思い出したように言った。
「あぁ、カミナが言ってたやつか。振り込まれたんだね」
「知ってるんですか!? 何なんですか、これ!?」
と、私がナタリーさんに聞くと、
「キャラクターグッズ使用料……じゃないの?」
まるで私の言ってる事が理解出来ないかのようにナタリーさんは真顔で返した。
「そうじゃなくてっ、そうじゃなくてですっ!」
「沢山売れたってカミナが言ってたよ。本当は二百枚くらいって聞いてたんだけど、ミックがね」
ここで現れましたか、存在Xっ!
「魔族軍との戦争が終わったらもっと売れるから振込はギリギリまで待った方が経理が楽って言うもんだから……」
「な、何で戦争すると人形が売れるんですかっ?」
「え、だって戦争で活躍して世界を救った聖女や勇者の人形だよ? 皆、欲しがるでしょう? 各国でまだまだ売れてるらしいよ。本当はクロード新聞の大見出しにしたかったらしいけど、世間的にはお母さんが誘拐されてるから、お父さんの名前は使えなかったの。だから、期間限定の【ミケラルド新聞】で『決着! 世界の救世主、勇者エメリーと聖女アリス!! 勇者の剣と聖女の拳が得た勝利!! 二頭身型勇者人形、聖女人形はミケラルド商店まで!!』って書いたらお客さんがどっと来て……――アリスちゃん?」
いつの間にか蹲っていた私は、火照る顔を覆いながら嘆いていた。
「聖女の拳ってなんですかぁ……うぅ……」
顔から耳から火が出るような感覚。
お金持ちになった事はそりゃ嬉しいが、そうじゃない……そうじゃない……!
「あー……えーっと、それじゃあ私の預金も?」
エメリーさんは自分を指差しながら言った。
「うん、エメリーさんのが売れてるから……――アリスちゃん?」
「お、追い打ちですぅ……」
聖女アリス人形と勇者エメリー人形の何がそんなに違うというのか。
それが疑問でならないけれど、勇者は魔王を倒す宿命を持った人類の希望。ならばこういった結果も仕方ないのかもしれない。
「あ、これがそのミケラルド新聞」
ナタリーさんがぺらりと一枚の紙を見せてくれた。
そこには、エメリーさんがカッコよく剣を構えている姿が描かれ、何故か私が天高く拳を振り上げている姿が描かれていた。杖はどこ、杖は?
身体をくの字にしながら疑問を露わにしていた私に、ナタリーさんが言った。
「そうそう、皆でお買い物行こうって話してたんだ。だからアリスちゃんにも声掛けたんだけど……一緒に行く?」
存在X新聞を見ながらエメリーさんが顔を真っ赤にしている中、私は深い溜め息を吐き、ナタリーさんに言った。
「……はぁ、行きましょう。ちょうど買いたかったものもあるので」
出先からナタリーさんに呼ばれていた私は、彼女の部屋に入るなり言った。
「エメリーさん! 大事件ですっ!」
バタンと扉を開け、ナタリーさんを通り過ぎ、エメリーさんに肉薄する私。
「うぇ?」
エメリーさんがナタリーさんの部屋にいる事は知っていた。
ぽかんと口を開け、小首を傾げるエメリーさん。
「こ、これ! 見てください!」
「通帳? 紙に写すなんて珍しいですね?」
羊皮紙は高く、代書代の手数料もかかるので、自身の預金を書き写してもらう人間は余りいない。最近では活版なんとかというミナジリ共和国から流れてきた機材のおかげもあり大分安くなったが、それでも写す人は少ない。しかし、私はエメリーさんに伝えなければならない事があったので、仕方がなく写しをとったのだ。
「ここ、ここです!」
私が指差した場所に目をずらすエメリーさんは、その金額を見て驚愕する。
「わ、わ!? 凄いっ!」
通帳に顔を埋めるように覗き込むエメリーさん。
この金額を見て驚かないはずがない。
「ミケラルド商店から、白金貨三百十五枚っ!?」
そんなエメリーさんの声を聞き、ナタリーさんの部屋にいたメアリィさん、クレアさん、レミリアさんも驚きを露わにしていた。
ケロッとした表情をしていたのは、部屋の主であるナタリーさんと、ハルバードの手入れをするリィたんさんだった。
「ナタリー、白金貨三百十五枚というのは凄いのか?」
「凄いよ、リィたん。お仕事やめて百年くらい普通に暮らせるんじゃないかな?」
「何だ、百年か」
「リィたん、アリスさんは人間だからね」
「そうか……よかったなアリス、聖女をやめられるぞ」
「やめないやめない」
「む、確かにアリスが聖女をやめるとミックが困るか」
シェルフ族長の娘メアリィさんでさえ驚いているのに、何故ミナジリ共和国出身のこの二人はこんなにも自然体なのか。それが私にはわかりません。
もしかして、ミナジリ共和国というのは闇ギルドより謎で、魔界よりおかしなところなのかもしれない。
「でも、このお金は一体……?」
エメリーさんが聞くと、私は金額を差していた指を斜め下にずらした。それを目で追っていったエメリーさんは、詳細項目を見て口をヒクヒクとさせた。
「……せ、聖女アリス人形……キャラクターグッズ使用料……!?」
それを聞いたナタリーさんが思い出したように言った。
「あぁ、カミナが言ってたやつか。振り込まれたんだね」
「知ってるんですか!? 何なんですか、これ!?」
と、私がナタリーさんに聞くと、
「キャラクターグッズ使用料……じゃないの?」
まるで私の言ってる事が理解出来ないかのようにナタリーさんは真顔で返した。
「そうじゃなくてっ、そうじゃなくてですっ!」
「沢山売れたってカミナが言ってたよ。本当は二百枚くらいって聞いてたんだけど、ミックがね」
ここで現れましたか、存在Xっ!
「魔族軍との戦争が終わったらもっと売れるから振込はギリギリまで待った方が経理が楽って言うもんだから……」
「な、何で戦争すると人形が売れるんですかっ?」
「え、だって戦争で活躍して世界を救った聖女や勇者の人形だよ? 皆、欲しがるでしょう? 各国でまだまだ売れてるらしいよ。本当はクロード新聞の大見出しにしたかったらしいけど、世間的にはお母さんが誘拐されてるから、お父さんの名前は使えなかったの。だから、期間限定の【ミケラルド新聞】で『決着! 世界の救世主、勇者エメリーと聖女アリス!! 勇者の剣と聖女の拳が得た勝利!! 二頭身型勇者人形、聖女人形はミケラルド商店まで!!』って書いたらお客さんがどっと来て……――アリスちゃん?」
いつの間にか蹲っていた私は、火照る顔を覆いながら嘆いていた。
「聖女の拳ってなんですかぁ……うぅ……」
顔から耳から火が出るような感覚。
お金持ちになった事はそりゃ嬉しいが、そうじゃない……そうじゃない……!
「あー……えーっと、それじゃあ私の預金も?」
エメリーさんは自分を指差しながら言った。
「うん、エメリーさんのが売れてるから……――アリスちゃん?」
「お、追い打ちですぅ……」
聖女アリス人形と勇者エメリー人形の何がそんなに違うというのか。
それが疑問でならないけれど、勇者は魔王を倒す宿命を持った人類の希望。ならばこういった結果も仕方ないのかもしれない。
「あ、これがそのミケラルド新聞」
ナタリーさんがぺらりと一枚の紙を見せてくれた。
そこには、エメリーさんがカッコよく剣を構えている姿が描かれ、何故か私が天高く拳を振り上げている姿が描かれていた。杖はどこ、杖は?
身体をくの字にしながら疑問を露わにしていた私に、ナタリーさんが言った。
「そうそう、皆でお買い物行こうって話してたんだ。だからアリスちゃんにも声掛けたんだけど……一緒に行く?」
存在X新聞を見ながらエメリーさんが顔を真っ赤にしている中、私は深い溜め息を吐き、ナタリーさんに言った。
「……はぁ、行きましょう。ちょうど買いたかったものもあるので」
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