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第二部

その544 新たな依頼

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 さて、闇ギルドにとってファーラが敵でない事がわかった。闇ギルドの仲間である以上、俺たちの敵であるファーラに今後注視するとして、シギュンが俺をここへ呼んだ理由はまだあるはずだ。
 何故なら彼女はファーラの話題を振った時、俺にこう言ったからだ。
 ――まずはそれ、と

貴方あなた、勇者エメリーと聖女アリスと仲が良いそうね」
「は?」

 ミケラルドとしてならエメリーとは仲が良いと思う。
 しかし、ルークとしてはそこまででもないはずだ。
 更に言えば、アリスは先程までそのルークを汚物を見るような目で見ていたというのに、仲が……良い?

「う~ん……」
「何を真剣に悩んでいるのかしら」
「仲が良いのでしょうか……?」

 俺の言葉で一瞬沈黙したシギュンはこめかみをトンと押さえ呆れた顔を見せた。

「……傍から見ればそういう事になっているそうです」

 シギュンの子飼い、、、から聞いた情報か? 二年? だとすれば、そんなところまで見られないはず。ならば一年? ふむ、操られていなくともそれくらいの情報なら渡す……か。

「はい、仲が良く見えるそうです」
「どこか引っかかる言い方だけれど……まぁいいでしょう。今後はその二人に監視を絞ってください」
「何故でしょう?」
「理由が必要?」
「モチベーションにも必要かと」
「上手い逃げ方ですね。貴方だったら今すぐにでも聖騎士団に通用するでしょう。……わかりました。先の連合軍と魔族軍の戦争は聞き及んでいる事でしょう。どうやらあの時の魔族軍は、リプトゥア国の占領以外にも勇者エメリー、聖女アリスを狙っていたという情報が入りました。勇者と聖女は魔王の天敵……ならば魔族の狙いもその二人になります。覚醒前であれば何かと不都合がない、という事です」
「つまり、私が二人を監視し危険が及ばないように努めろ……と?」
「本業の学業もある事でしょうし、全てを担えという訳ではありません。二人が……それこそ一人になるような事があれば、私か……そうですね、マスタング講師に連絡をお願いします」

 なるほど、本格的に二人に狙いを定めたという事か。

「……かしこまりました。勇者エメリー、聖女アリスを注視し、当該人物が危険の及ぶ行動をとった際、シギュン様、マスタング講師に報告致します」
「結構です」
「ではご褒美を――」
「――もう出て行って構いませんよ」

 ◇◆◇ ◆◇◆

「あんの女狐めぎつねめぇええええええええええええっ!! ご褒美の! ご褒美の約束はどうしたんだぁああああああああああああああ!! くそ! くそっ!!」

 純情なミケラルド君は、部屋に戻るなりベッドに顔をうずめて悲しみを露わにしていた。

「くそぉ……」

 世界は時として残酷だ。特に俺には。

つらい……」

 ささくれをえてさかむけに剥くくらい辛い。
 心の保養を求め、そしてシギュンとの密談を報告するために、俺は分裂体を部屋に残し、ナタリーの部屋へと転移した。
 勿論、いきなりナタリーの部屋に転移し、ラッキーなシーンを見られるという保養は得られない。何故なら、ナタリーに事前に確認をとらなければならないからだ。このシステムは完璧で、俺のDNAに生まれる前から書き込まれているくらいには完璧だ。
 この約束システムを破った場合、俺はダークナタリーに聖水漬けにされて、聖加護の宿った縄でがんじがらめにされ、重りを付けられて聖水で満たされた湖に沈められてしまうだろう。
 この拷問のキツイ点は、聖水も聖加護の宿った縄も、重りも、聖水で満たされた湖も、俺自身が用意しなければならない点だろう。

「あ、ミック。どうだった?」
「ファーラの監視を解除、代わりにエメリーさんとアリスさんの監視だってさ」
「え?」
「なっ!?」

 この「え?」と「なっ!?」は、ナタリーから発された言葉ではなかった。何故かはわからないが、「え?」の人は、どこかエメリーっぽくて、「なっ!?」の人はどこかアリスっぽかった。というかエメリーとアリスだった。

「……遊びに来てたんですね」

 俺が二人にそう言うと、ナタリーがその理由を補完してくれた。

「あんなに堂々とシギュンに呼ばれたんだから、皆気になるでしょう?」

 言いながら、ナタリーが周囲を見渡すよう俺に促した。
 驚いた事に、ここにはメアリィもクレアも、そして剣聖レミリアもいたのだ。
 ん? レミリア?
 俺は首を傾げ、レミリアを見る。そのレミリアは俺に近付き、顔を覗き込むように見た。

「なるほど、ルークさんはミケラルドさんでしたか」
「そうだった、レミリアさんにはまだ教えてませんでしたもんね」
「面白いものが見られると聞き、ナタリーさんに誘ってもらったのですが……なるほど、本当に面白い」
「はははは……」

 乾いた笑いを浮かべ、俺はナタリーを見る。
 そして、ここまでの重要人物たちが集まる部屋に不可解を感じたのだ。

「でも、ラッツさんたちは呼ばなかったんだ?」

 俺がそう言うと、ナタリーは肩をすくめて言った。

「ラッツさんはともかく、キッカさんやハンさんがルークの事黙っていられると思う?」
「思わない」

 自分が思っているより即答だった気がする。
 確かに三人の事は信頼している。しかし、外部にバレる可能性があると判断するのも、ある意味では彼らへの信頼なのかもしれない。
 そう思う事にしたミケラルド君だった。
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