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第二部
その538 三者面談
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「怖かった。怖かったぞミック」
応接間に入るなり、俺に愚痴を零す男が一人。
それは、古代勇者を支えたとされる長い歴史を持った法王国――その長である法王クルスだった。
「何か問題でもありましたかぁ?」
ソファの背もたれの上に後頭部を載せ、法王クルスに皮肉を垂れる系元首のミケラルドです。
「いや、ないがな?」
「あの場で責任の所在を明らかにしないと、どの国も被害を受けるんですよ」
「私が被害を受けてるが?」
「国のトップというのは自由を代償に権力という名の力を得るんですよ」
「最近、元首が板についてきたんじゃないか?」
「違いますよ。元首と冒険者の板挟みになる事が多いからそう見えるだけです」
「言い得て妙だな」
と、俺と法王クルスとの話に落ち着きが見えたところで、総括ギルドマスターのアーダインが俺に本題を振った。
「で、ミック? 我々をここへ呼んだ理由は? 冒険者への礼など、わざわざ俺を通さなくてもいいだろう?」
アーダインも俺の発言の意図に気付いていたようだ。
しかし、その中身までは気付かなかったようだ。
周囲の盗聴対策をした後、俺は本題について二人に話した。
「今回の戦争……【不死王リッチ】、【牙王レオ】、【吸血公爵スパニッシュ・ヴァンプ・ワラキエル】という三人の【魔族四天王】が動き、闇ギルドの【刻の番人】最強の手札である【魔人】すらも動きました。正直、元ゲオルグ王なんておまけみたいな感じでしたよ」
「いよいよ魔族も本腰を上げてきたと我々も理解しているが、それ以外に何かあるのか?」
法王クルスの言葉に首を縦に振る俺。
「聖騎士団を襲った【メデューサ】と【ドルイド】。この二つの魔族の特徴を考えた結果、私はある一つに仮説に行き着きました」
法王クルスとアーダインが顔を見合わせ、そして答えを求めるように俺を見る。
「『本当に動いたのは三人の魔族四天王のみなのか?』と」
「「っ!?」」
「魔族四天王にはもう一人……【魔女ラティーファ】という、いかにも魔法使いな魔族がいるじゃないですか」
「確かに、【メデューサ】や【ドルイド】の特性を考えれば、【魔女ラティーファ】が関わった可能性は捨てきれない」
法王クルスの肯定と共に、アーダインも唸る。
「と、それは本題の前段階のお話なんですよね」
「まだあるのか!?」
「うっさ!?」
法王クルスはテーブルから身を乗り出し俺に肉薄するも、すぐに自制心が働いたご様子。まぁ、アーダインも目を丸くしているけどな。
「あぁいや、すまん……コホン。続けてくれ、ミック」
「【メデューサ】も【ドルイド】も知能が高い魔族です。私が魔族四天王だとすれば、この圧倒的武力をもった魔族部隊に対し何を命令するか。ここが今回の本題です」
「……つまり、今回の魔族の目的にはリプトゥア、勇者と聖女、更には聖騎士団の三つにあったと?」
「あくまで可能性の話です」
俺がそう言うと、アーダインが鋭い視線を向け言った。
「だが、考慮すべきである。そう言いたいんだろう、ミック?」
「そういう事です。クルス殿、緊急でお願いしたい事があります」
「何だ?」
「聖騎士団の被害者の数。その内、オルグ派だった人数を調べて頂きたい」
「「なっ!?」」
俺の言葉の後、法王クルスとアーダインは声を漏らす程驚きに満ちていた。
そして、俺の言葉の真意に気付きわなわなと震え出したのだ。
「【メデューサ】と【ドルイド】が二千五百もいて、何故たった六百の聖騎士団が生き残ったのか。シギュンに心酔しているオルグ団長が生き残るものの、そのオルグ団長に付き従う聖騎士は闇ギルドにとって邪魔。今回、【刻の番人】と呼ばれる【シギュン】副団長とその副官である【クイン】が同行しなかった理由は、聖騎士団の過剰戦力にあったと考えます。オルグ派の戦力を削ぐ事で、シギュンが聖騎士団の実権を完全に握る。これが闇ギルドの狙いだったと考えるのが自然です」
押し黙ってしまった法王クルスには酷だが、この仮説を伝えなければ、この話は先に進まないのだ。
「【魔女ラティーファ】……部下の情報では、多くの謎に包まれた女の魔法使いであるというだけ。しかし、女である情報を元に、様々な接点を考察していき、私はこう考えるようになりました。【魔女ラティーファ】こそが【刻の番人】のトップ【エレノア】である可能性が非常に高い、と」
これを受け、二人は驚く訳でも悲嘆にくれる訳でもなく、ただ……頭を抱えた。
魔族からしても【魔女ラティーファ】の情報が少ない。何故なら奴は【エレノア】として人間界にいるのだから。そう考えれば考える程、しっくりくる。俺は一度【エレノア】と出会い、奴の存在感を目の当たりにした。なるほど、奴が魔族四天王であるならそれは納得だ。
「まぁ、長々と話しましたが証拠もありません。まずはオルグ派の聖騎士たちについて調べてみるのが先決かと」
「あぁ……うむ、そう……だな……」
法王クルスのその返事は、複雑且つ重いものだった。
法王国に巣食う闇ギルド。しかし、その闇自体が魔である可能性を聞かされたのだ。無理もない。
だが、俺たちは戦うしかない。この戦いの勝利の先にこそ、真の平和があるのだから。
応接間に入るなり、俺に愚痴を零す男が一人。
それは、古代勇者を支えたとされる長い歴史を持った法王国――その長である法王クルスだった。
「何か問題でもありましたかぁ?」
ソファの背もたれの上に後頭部を載せ、法王クルスに皮肉を垂れる系元首のミケラルドです。
「いや、ないがな?」
「あの場で責任の所在を明らかにしないと、どの国も被害を受けるんですよ」
「私が被害を受けてるが?」
「国のトップというのは自由を代償に権力という名の力を得るんですよ」
「最近、元首が板についてきたんじゃないか?」
「違いますよ。元首と冒険者の板挟みになる事が多いからそう見えるだけです」
「言い得て妙だな」
と、俺と法王クルスとの話に落ち着きが見えたところで、総括ギルドマスターのアーダインが俺に本題を振った。
「で、ミック? 我々をここへ呼んだ理由は? 冒険者への礼など、わざわざ俺を通さなくてもいいだろう?」
アーダインも俺の発言の意図に気付いていたようだ。
しかし、その中身までは気付かなかったようだ。
周囲の盗聴対策をした後、俺は本題について二人に話した。
「今回の戦争……【不死王リッチ】、【牙王レオ】、【吸血公爵スパニッシュ・ヴァンプ・ワラキエル】という三人の【魔族四天王】が動き、闇ギルドの【刻の番人】最強の手札である【魔人】すらも動きました。正直、元ゲオルグ王なんておまけみたいな感じでしたよ」
「いよいよ魔族も本腰を上げてきたと我々も理解しているが、それ以外に何かあるのか?」
法王クルスの言葉に首を縦に振る俺。
「聖騎士団を襲った【メデューサ】と【ドルイド】。この二つの魔族の特徴を考えた結果、私はある一つに仮説に行き着きました」
法王クルスとアーダインが顔を見合わせ、そして答えを求めるように俺を見る。
「『本当に動いたのは三人の魔族四天王のみなのか?』と」
「「っ!?」」
「魔族四天王にはもう一人……【魔女ラティーファ】という、いかにも魔法使いな魔族がいるじゃないですか」
「確かに、【メデューサ】や【ドルイド】の特性を考えれば、【魔女ラティーファ】が関わった可能性は捨てきれない」
法王クルスの肯定と共に、アーダインも唸る。
「と、それは本題の前段階のお話なんですよね」
「まだあるのか!?」
「うっさ!?」
法王クルスはテーブルから身を乗り出し俺に肉薄するも、すぐに自制心が働いたご様子。まぁ、アーダインも目を丸くしているけどな。
「あぁいや、すまん……コホン。続けてくれ、ミック」
「【メデューサ】も【ドルイド】も知能が高い魔族です。私が魔族四天王だとすれば、この圧倒的武力をもった魔族部隊に対し何を命令するか。ここが今回の本題です」
「……つまり、今回の魔族の目的にはリプトゥア、勇者と聖女、更には聖騎士団の三つにあったと?」
「あくまで可能性の話です」
俺がそう言うと、アーダインが鋭い視線を向け言った。
「だが、考慮すべきである。そう言いたいんだろう、ミック?」
「そういう事です。クルス殿、緊急でお願いしたい事があります」
「何だ?」
「聖騎士団の被害者の数。その内、オルグ派だった人数を調べて頂きたい」
「「なっ!?」」
俺の言葉の後、法王クルスとアーダインは声を漏らす程驚きに満ちていた。
そして、俺の言葉の真意に気付きわなわなと震え出したのだ。
「【メデューサ】と【ドルイド】が二千五百もいて、何故たった六百の聖騎士団が生き残ったのか。シギュンに心酔しているオルグ団長が生き残るものの、そのオルグ団長に付き従う聖騎士は闇ギルドにとって邪魔。今回、【刻の番人】と呼ばれる【シギュン】副団長とその副官である【クイン】が同行しなかった理由は、聖騎士団の過剰戦力にあったと考えます。オルグ派の戦力を削ぐ事で、シギュンが聖騎士団の実権を完全に握る。これが闇ギルドの狙いだったと考えるのが自然です」
押し黙ってしまった法王クルスには酷だが、この仮説を伝えなければ、この話は先に進まないのだ。
「【魔女ラティーファ】……部下の情報では、多くの謎に包まれた女の魔法使いであるというだけ。しかし、女である情報を元に、様々な接点を考察していき、私はこう考えるようになりました。【魔女ラティーファ】こそが【刻の番人】のトップ【エレノア】である可能性が非常に高い、と」
これを受け、二人は驚く訳でも悲嘆にくれる訳でもなく、ただ……頭を抱えた。
魔族からしても【魔女ラティーファ】の情報が少ない。何故なら奴は【エレノア】として人間界にいるのだから。そう考えれば考える程、しっくりくる。俺は一度【エレノア】と出会い、奴の存在感を目の当たりにした。なるほど、奴が魔族四天王であるならそれは納得だ。
「まぁ、長々と話しましたが証拠もありません。まずはオルグ派の聖騎士たちについて調べてみるのが先決かと」
「あぁ……うむ、そう……だな……」
法王クルスのその返事は、複雑且つ重いものだった。
法王国に巣食う闇ギルド。しかし、その闇自体が魔である可能性を聞かされたのだ。無理もない。
だが、俺たちは戦うしかない。この戦いの勝利の先にこそ、真の平和があるのだから。
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