上 下
505 / 566
第二部

その502 プリシラの家

しおりを挟む
「何ですって……?」

 俺は一瞬、プリシラが言っている事がわからなかった。
 だが、プリシラは俺の前で儚く、しかし明るい笑みを浮かべて言った。

「つまり、これ以上先は視られないという事さ」

 老化による能力の制限……という顔じゃない。

 ――――そうだよ、私は君に会いたくなかった。

 それはつまり、そういう事、、、、、なのか。

「そう、おそらく私は今日を最後にまともに動けなくなる。寿命ってやつだよ。なるほど、道理で今日はすこぶる調子が良い訳だ。頭では否定したくとも身体は今日が出歩ける最後だと知っていたみたいだね」
「あ、貴方には今日を今日だと選ばない選択もあったはずです……そうすれば――」
「――未来が変わったかも、と?」
「……そうです」
「確かに、君の下へ荷物を受け取りに行かないという選択もあった。けど、それでは私じゃない。散々この能力に頼ってきたんだ。今更この能力を否定する事は出来ないんだよ」
「……賢者とは思えない理屈ですね」
「そうかい? 古代の賢者も頑固だったと聞くけどね」

 にへらと笑ったプリシラの言葉は、やはり理屈からきているものではなかったようだった。
 そしてプリシラは俺を引き連れるようにまた歩き出した。

「行こう、我が家へ招待するよ」

 足取り軽く、空気は重く。
 俺はそれきり、何も言えずにプリシラの背中を見守った。
 やがて森に入り、プリシラが指差す方へ歩き、歩き、歩き、歩いた。
 まるで順路を違えばソコにたどり着けないかのような進み方。直線に歩く訳ではなく、ポイントごとに右へ左へ。そんな九十度が加算され、千の角度を超える頃、俺は何とも形容しがたい古びた家を見つけた。

「どうだい? 私のお手製だ」
「民族って感じがしますね」

 自慢するプリシラの言葉通り、これはお手製なのだろう。
 魔法を使った形跡のない……あしわら、木を使って造った日曜大工の産物。そんな印象を抱く家だった。

「オホン、入ってくれたまえ」
「……キャラじゃないですよね」
「久方ぶりの客人だからね。テンションも上がろうものだろう?」
「ヒルダさんとは会ってないんですか?」
「彼女が闇人やみうどに見張られている事、君が知らない訳ないだろう?」
「確かに」

 つまり、ヒルダが俺に手渡した手紙は、何らかの手段を使って、ここ以外で、直接的、あるいは間接的に受け取ったという事か。
 それだけで納得した俺は、プリシラにいざなわれるまま、家の中へ入った。

「どうだい?」

 外装に続き、内装もコメントが欲しい様子。

「狭いっす」
「なるほど、それが君のキャラという訳か」
「信頼は得られたようなので、いいかなと」
「まぁ、そうじゃなきゃこんなところに連れて来ないか。そこに座ってて。今お茶を出すから」
「どこに?」
「そこ」

 なるほど、地べたに座れという事らしい。
 流石にここで土塊操作を発動するのは違うと思った俺は、大人しくその場に腰を下ろした。
 しかし、こんなところでお茶……どうやって作るつもりなのだろうか?
 とか考えてたら、プリシラは普通に魔法を使い、水を出し、水を温め、お茶を作った。

「情緒は?」
「そんなものは犬に食わせておけばいい」

 なるほど、賢者である。

「お手製のこの家は?」
「試用運転中に作った副産物だよ」

 実に賢者である。
 肉体の魔力的維持を作った時に、造ったのか。
 お茶が入ったコップをプリシラから受け取ると、彼女は俺の隣にちょこんと座った。

「ところで、『ベッドから起き上がれないのにどう身体を維持すればいいのか』とか仰ってませんでした?」
「ついさっきの事だね」
「ベッドはどこに?」
「これまでは必要なかっただけだよ。まぁ、これからは必要になるだろうけどね」
「用意があるんですね」
「用意してあるところに行くのさ」
「ヘぇ」

 プリシラとそんな話をしていると、俺は先の話を思い出した。

「暗い話に戻っても?」
「あれは光魔法の話だろう?」

 なるほど、賢者だ。なんか色々悟っていらっしゃる。

「……それで、あの光魔法、私が【立体映像ホログラム】と言った時、貴方は『やはりか』と仰いましたよね。あれには一体どういう意味が?」
「教わったんだよ」
「誰に?」
「賢者に」
「ここにいるプリシラさんも賢者と呼ばれていたのでは?」
あの人、、、が消えた後にね」
「前代の賢者……という事ですかね」
「まぁそう言えなくもないね。私に魔法を教えてくれたのだから」
「では……」

 そう言いながら、俺はギャレット商会にプリシラが流したアレを闇空間の中から取り出した。

「この打刀はどうやって?」
「もらったのさ、賢者に」
「プリシラさんの師匠に……」

 飲み物を啜りながらこくんと頷いたプリシラは、どこか楽し気だった。
 間もなく生き死にの世界に入るというのに、この陽気さは何なんだ。
 いつ死んでもいいって言ってたし、悟るのはわかるがもう少し雰囲気が欲しいものだ。
 だが、これでわかった。ここで終わって欲しかったが、プリシラの先にまだ一人……謎の賢者がいるようだ。

「……その方、ご存命で?」
「さぁ、どうだろうね」

 行方の知れない賢者がな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

処理中です...