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第二部

その498 元首のお休み2

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 美女と小動物系美少女。ニコルとネムとの会話は、長くは続かなかった。
 というのも、昼間とはいえ昼過ぎだったという事もあり、早々に帰ってきたパーティや冒険者がいたからだ。
 休憩を終えたネムが受付に戻り、ニコルも残念そうにその場を後にした。
 俺は最後の蜂蜜酒ミードを飲み終えると、冒険者ギルドの外に出た。
 間もなく夕方……か。

「ミケラルド様!」

 と言って俺に腕を絡めてくる猛者はそうそういない。こんなにも甘えた声で言って来る女性は、ミケラルド商店をエメラと共に任せているカミナくらいしかいないのである。
 冒険者ランクはBで止まっているが、時々ジェイルの訓練に参加しているようで、実力的にはランクA冒険者となんら遜色ない。ただ彼女の場合、ミケラルド商店を任せているが故に依頼自体を受けていない事でランクアップが出来ないのだ。

「聞いてくださいよ、ミケラルド様! 聖女アリス人形と勇者エメリー人形、馬鹿売れです!」
「え、そんなに?」
「ダークマーダラーの土塊つちくれ操作で増産体制に入ったくらいです」
「マジか」
「特に、ミケラルド様デザインの、銀細工で作った『1/8スケール勇者エメリー像のいぶし銀仕様』は、コレクターたちがこぞって買いに来てます」
「職人たちのキャパシティキャパ大丈夫です?」
「ガンドフの職人たちを新たに雇用しましたので問題ありません。週休二~三日、ちゃんと確保してます」
「いやぁ、頑張って許可もらった甲斐があるね」
「はい! 来月には、アリスさんとエメリーさんに結構な額のお金が振り込まれるでしょうね」
「……因みにどのくらい」
「法王白金貨で二百枚はいくかもしれませんね」

 におくえん。
 高校生間近の少女に二億円。そう考えるとこの額の恐ろしさがわかるだろうか。
 まぁ、予め話は通してあるし問題ない……か。

「っと、失礼しました。今日はお休みでしたね!」
「え、もうそんな情報出回ってるの?」
「最優先周知事項に」
「何それ怖い」
「後日、詳細をまとめたものを提出しますのでご確認ください!」
「ういー」
「では…………また!」

 カミナは少々名残惜しそうだったが、そう言ってから行ってしまった。
 きっと忙しいのだろう。あの子、ちゃんと休んでるんだろうか。後で確認してみよう。

 ◇◆◇ ◆◇◆

 そう思いやって来ましたミナジリミュージアム建設予定地。
 そこの仮設休憩小屋では、エメラとクロードが仲良くお茶していた。

「あらミケラルドさん」
「お邪魔しちゃいました?」
「いえとんでもない。どうぞお掛けになってください」

 そうエメラに言われ、俺はクロードの隣に腰を下ろした。
 すると、クロードが言った。

「ちょうど今、ミケラルドさんの話をしていたんですよ」
「え、どんな話ですか?」
「ようやく休みをとった、と」
「あ、あはははは」

 お茶を俺の前に置いたエメラがニコリと微笑みかけてくれる。

「そ、そういえばさっきカミナに会ったんですが、お二人は勿論、カミナってちゃんと休んでるんですか?」
「えぇ、ミケラルドさんの指示通りに」
「あ、そうですか」
「カミナがそれを破る事はありませんよ」
「え、どうしてです?」
「ミケラルドさんの指示だからです」
「あ、はい」

 などと談笑していたら雑談がてら二人にナタリーの事を話してみた。

「そうですか、しっかり成長していますか……」

 クロードが手を組み、嬉しそうに握る。

「あの子、聖騎士学校の事あまり話してくれないもので、ミケラルドさんからそういう話を聞くのは新鮮なんですよ」

 エメラがわざとらしく困り顔を浮かべ言う。

「え、でも結構戻ってるはずですよね?」

 テレポートポイントを渡しているはずだから、部屋から自由自在に帰省出来るし、事実しているはずだ。

「戻って来ても聞くのはミケラルドさんの話ばかりですから」

 愚痴か悪口か。
 まぁ、ナタリーの場合悪口はないな。愚痴がほとんどだろう。

「ご迷惑を……」
「はははは、お気になさらず。ナタリーたちと戦ったという話は耳に新しいですよ」

 炎龍を守ってたガーディアンズと、オベイル、イヅナ……それに対し俺が一人で挑んだってやつか。
 クロードがそう笑っていたのは束の間。すぐにクロードはこう言った。

「……ロレッソ殿から、我々の境遇については伺っております」
「聞きましたか……」
「襲われる可能性があると聞き、私もエメラも安堵しているところです」
「安……堵?」
「ミナジリ共和国に貢献出来ている証拠だと」
「あぁ……いや、確かにそうなんですけどね?」
「ミケラルドさん、ご安心を」
「へ?」
「国を挙げて私たちを守って、それでも守り切れなかった場合、それはもう相手を褒めるしかないでしょう」
「た、達観してますね……」
「達観もしましょう」
「うぇ?」
「我々は今世界一安全な場所にいるのですから」

 クロードにそう言われた時、俺はもう何も言えなくなっていた。
 法王国すら凌ぎつつあるミナジリ共和国の国力。人口こそ少ないものの、武力で見れば世界一。ましてや俺が目の前にいるのだ。達観もしよう……クロードはそう言っていた。
 何も言えなくなり、手持ちぶさたになった俺がお茶をすする。
 するとエメラが思い出したように言った。

「あなた、今日はミケラルドさんお休みですよ」
「おっと、そうだった」

 と、とぼけて言ったのだ。
 タイミングを作ってくれたエメラとクロードに感謝しつつ、俺もいつものようにとぼけ返す。

「ははは、お二人ならばプライベートでもお守りしますよ」

 そう言うと、二人は見合ってから微笑んでくれたのだった。
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