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第二部
その490 予定調和
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「「おぉ……!」」
ミナジリ共和国の国営巨大倉庫を見上げ、感嘆の声を上げる荷運び員たち。
ドマーク商会が持って来た積荷を馬車から降ろし、搬入して行く。
そんな中、ドマーク君がゴマすりしながら話している人間がいた。
「いやぁ、【ロレッソ】様にはいつも感謝しております」
少なくとも、俺はドマークにあんな指紋が消えるような高速ゴマすりはされた事がない。
「……ふむ、いつもと違う方々ですね?」
ロレッソが荷運び員たちを見ながら目を細める。
「流石がロレッソ様。細部にまで行き渡る鋭い眼を持っていらっしゃる。実はこの後、新たな支店への積み込みがありましてな」
なるほどな。やはり、ドマーク商会がミナジリに新店舗を出店するのか。
「そうでしたか。では、その後は彼らの契約は解除という事ですか?」
「えぇ、そうなりますが?」
「でしたら、希望者がいればで構いませんのでこちらに回してもらってもよろしいでしょうか? 何かと人手が必要なものでして」
「そういう事でしたか。かしこまりました、では希望者を募って手配しましょう。今日中には終わると思いますので、明日……屋敷でよろしいですか?」
「結構です。十三時にお願いします。ダイモンには話を通しておきますので」
「かしこまりました」
という事にしたのは、何を隠そう俺の提案である。
本来であれば、ロレッソ君がこんなところに来る事はない。
たまたま偶然居合わせたという無理やりな設定をロレッソに押し付け、ドマークに引き合わせたのだ。つまりこれは予定調和と言える。
しかし何故自分の家に入るのに、これほど工作しなければならないのか。
◇◆◇ ◆◇◆
「ホント、私としては甚だ疑問だと思うが、どう思うかね、ロレッソ君」
「おふざけになる余裕がおありなようで。デューク・スイカ・ウォーカー殿」
ドマークの仕事を終えた後、俺は自由の身となった。
そして、翌日のミナジリ屋敷の仕事の件も含め、カンザスに報告。
その翌日が今日って訳だ。
流石はドマークが採用した者なだけあって、荷運び員としての元同僚は優秀なようで、希望者は全員ミナジリ家に力を貸してくれている。
その後、採用者の仕事を振り分け、俺が一人になったところでロレッソ君に呼ばれたのだ。
ロレッソは終始難しい顔をしながら俺の対面のソファに腰を落とした。
「それで、どうなさるおつもりですか?」
「エレノアの目的はミケラルド・オード・ミナジリの調査。これは俺の弱点なり、つけ入る隙を探すためだと思う」
「でなければこのような大それた事をしないでしょうね。そうでした、これを」
俺に同意を見せたロレッソが、懐から一枚の紙を俺に差し出した。
「これは?」
「ラジーンと私で考えたミナジリ家の弱点とその優先度。一介の荷運び員が監視の目を掻い潜って集められる情報のまとめです」
「SSS程度の実力者でってところは含まれてるの?」
「ジェイル様に監修を依頼しました」
「さっすがロレッソ」
「私は、主に弱点を忠言すべき立場なのですが、何故それを流出させなければならないのか……」
額を押さえ嘆くロレッソをよそに、俺はその紙に書かれている事に目を通す。
「凄いな、クロードさんとエメラさんがトップだ」
「彼らはミケラルド商店の中枢であると共に、収入は勿論、情報発信に欠かせない存在です。【クロード新聞】の知名度は今や世界規模。これがなくなる痛手を考えただけでもゾッとします」
「確かに……因みに、何でナタリーとかはこんなに低いの?」
「リィたん様の加護があるからです」
「あぁ、そういえばそうだった」
「寧ろ、そこを狙えないから敵陣の本拠地に狙いを定めたのかと」
「クロードさんたちはどうするの?」
「問題ありません。先延ばしにしていたプロジェクトを立ち上げるため、既にミナジリ共和国に戻らせています。先程昼食をご一緒したところです」
「誘ってくれればよかったのに」
「闇人を?」
「ミケラルドを」
「何ですか、その得意気な顔は?」
「元々こんな顔だよ」
「こちらの情報を小出しに闇ギルドに提供し、事前に我々が手を打っておけば――」
「――数ターンは稼げるか」
「ターン、ですか?」
「まぁそれは気にしないで」
「そうですか。無論、タダで情報を渡すつもりはありませんが」
「何か考えがあるのか」
ニコリと笑うロレッソ。
何とも頼りになる味方である。
「あぁ、そうそう。さっき言ってた『先延ばしにしていたプロジェクト』って何?」
「【国立ミナジリミュージアム】の建設です」
「あー、前にそんな計画書があったね。博物館やら美術館は国にそこそこの歴史があって初めて意味するからって先延ばしにしてたやつ。……え、もう造るの? 国家が出来てまだ一年だよ?」
「ミナジリ共和国の創始――ミナジリ村やミケラルド商店から遡れば、数多く展示するものがあります」
「えぇ? そんなものもう捨てちゃったでしょう?」
「大丈夫です。本日優秀な人材を雇い入れましたので」
「闇人を?」
「ミケラルドを」
「様がないんだけど? 後、その得意気な顔をどうにかしろ。って、え? もしかして俺に全部思い出して造れって事っ?」
「素材は全て買い揃えておきましたので、存分にお力を発揮出来るかと。ご安心を、荷運び員の給金はこちらに書かれている通りです」
書かれている給金欄を見ると、荷運び員にしては少々多いものの、これからのハードワークを想像すると安過ぎる金額が書かれていた。
なるほど、「タダで情報は渡せない」とはこの事か。
ホント優秀な参謀だ事。
ミナジリ共和国の国営巨大倉庫を見上げ、感嘆の声を上げる荷運び員たち。
ドマーク商会が持って来た積荷を馬車から降ろし、搬入して行く。
そんな中、ドマーク君がゴマすりしながら話している人間がいた。
「いやぁ、【ロレッソ】様にはいつも感謝しております」
少なくとも、俺はドマークにあんな指紋が消えるような高速ゴマすりはされた事がない。
「……ふむ、いつもと違う方々ですね?」
ロレッソが荷運び員たちを見ながら目を細める。
「流石がロレッソ様。細部にまで行き渡る鋭い眼を持っていらっしゃる。実はこの後、新たな支店への積み込みがありましてな」
なるほどな。やはり、ドマーク商会がミナジリに新店舗を出店するのか。
「そうでしたか。では、その後は彼らの契約は解除という事ですか?」
「えぇ、そうなりますが?」
「でしたら、希望者がいればで構いませんのでこちらに回してもらってもよろしいでしょうか? 何かと人手が必要なものでして」
「そういう事でしたか。かしこまりました、では希望者を募って手配しましょう。今日中には終わると思いますので、明日……屋敷でよろしいですか?」
「結構です。十三時にお願いします。ダイモンには話を通しておきますので」
「かしこまりました」
という事にしたのは、何を隠そう俺の提案である。
本来であれば、ロレッソ君がこんなところに来る事はない。
たまたま偶然居合わせたという無理やりな設定をロレッソに押し付け、ドマークに引き合わせたのだ。つまりこれは予定調和と言える。
しかし何故自分の家に入るのに、これほど工作しなければならないのか。
◇◆◇ ◆◇◆
「ホント、私としては甚だ疑問だと思うが、どう思うかね、ロレッソ君」
「おふざけになる余裕がおありなようで。デューク・スイカ・ウォーカー殿」
ドマークの仕事を終えた後、俺は自由の身となった。
そして、翌日のミナジリ屋敷の仕事の件も含め、カンザスに報告。
その翌日が今日って訳だ。
流石はドマークが採用した者なだけあって、荷運び員としての元同僚は優秀なようで、希望者は全員ミナジリ家に力を貸してくれている。
その後、採用者の仕事を振り分け、俺が一人になったところでロレッソ君に呼ばれたのだ。
ロレッソは終始難しい顔をしながら俺の対面のソファに腰を落とした。
「それで、どうなさるおつもりですか?」
「エレノアの目的はミケラルド・オード・ミナジリの調査。これは俺の弱点なり、つけ入る隙を探すためだと思う」
「でなければこのような大それた事をしないでしょうね。そうでした、これを」
俺に同意を見せたロレッソが、懐から一枚の紙を俺に差し出した。
「これは?」
「ラジーンと私で考えたミナジリ家の弱点とその優先度。一介の荷運び員が監視の目を掻い潜って集められる情報のまとめです」
「SSS程度の実力者でってところは含まれてるの?」
「ジェイル様に監修を依頼しました」
「さっすがロレッソ」
「私は、主に弱点を忠言すべき立場なのですが、何故それを流出させなければならないのか……」
額を押さえ嘆くロレッソをよそに、俺はその紙に書かれている事に目を通す。
「凄いな、クロードさんとエメラさんがトップだ」
「彼らはミケラルド商店の中枢であると共に、収入は勿論、情報発信に欠かせない存在です。【クロード新聞】の知名度は今や世界規模。これがなくなる痛手を考えただけでもゾッとします」
「確かに……因みに、何でナタリーとかはこんなに低いの?」
「リィたん様の加護があるからです」
「あぁ、そういえばそうだった」
「寧ろ、そこを狙えないから敵陣の本拠地に狙いを定めたのかと」
「クロードさんたちはどうするの?」
「問題ありません。先延ばしにしていたプロジェクトを立ち上げるため、既にミナジリ共和国に戻らせています。先程昼食をご一緒したところです」
「誘ってくれればよかったのに」
「闇人を?」
「ミケラルドを」
「何ですか、その得意気な顔は?」
「元々こんな顔だよ」
「こちらの情報を小出しに闇ギルドに提供し、事前に我々が手を打っておけば――」
「――数ターンは稼げるか」
「ターン、ですか?」
「まぁそれは気にしないで」
「そうですか。無論、タダで情報を渡すつもりはありませんが」
「何か考えがあるのか」
ニコリと笑うロレッソ。
何とも頼りになる味方である。
「あぁ、そうそう。さっき言ってた『先延ばしにしていたプロジェクト』って何?」
「【国立ミナジリミュージアム】の建設です」
「あー、前にそんな計画書があったね。博物館やら美術館は国にそこそこの歴史があって初めて意味するからって先延ばしにしてたやつ。……え、もう造るの? 国家が出来てまだ一年だよ?」
「ミナジリ共和国の創始――ミナジリ村やミケラルド商店から遡れば、数多く展示するものがあります」
「えぇ? そんなものもう捨てちゃったでしょう?」
「大丈夫です。本日優秀な人材を雇い入れましたので」
「闇人を?」
「ミケラルドを」
「様がないんだけど? 後、その得意気な顔をどうにかしろ。って、え? もしかして俺に全部思い出して造れって事っ?」
「素材は全て買い揃えておきましたので、存分にお力を発揮出来るかと。ご安心を、荷運び員の給金はこちらに書かれている通りです」
書かれている給金欄を見ると、荷運び員にしては少々多いものの、これからのハードワークを想像すると安過ぎる金額が書かれていた。
なるほど、「タダで情報は渡せない」とはこの事か。
ホント優秀な参謀だ事。
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