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第二部

その467 報告

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「へぇ、ノエルの報告は拳神ナガレが窓口なんだ」
「はい、私の失われし位階ロストナンバーたちは各地で情報収集をしており、その者たちの中の一人にナガレ殿が合流場所を伝えるのです」

 なるほど、ナガレの地位はときの番人の中でもそこそこ高いようだな。
 確かに、剣神イヅナとやり合って生き残れるだけの実力者であればそうなるか。
 孤立化したナガレさえ発見出来れば、こちらの【呪縛】で操り易い。
 周囲にノエルの失われし位階ロストナンバーの気配はなかったのもこのせいだろう。

「ノエルの失われし位階ロストナンバーは何の情報収集を?」
「【ヘルワーム】について」
「っ! Z区分ゼットくぶんの特殊モンスターか」
「はい」
「【ヘルワーム】は知性を持たない残虐なモンスターだろう? エレノアは何を考えている」
「申し訳ありません。ただ『次なる戦力だ』と」
「……ふーん、つまり【エレノア】は【ヘルワーム】を戦力として使える準備があるって事か」
「おそらくそうだと思われます」
「わかった。では、一度失われし位階ロストナンバーに招集をかけておけ。そのタイミングでまた合流しよう」
「かしこまりました」
「それまではイヅナさんの監視に戻ってて」
「では、失礼致します」

【呪縛】を使えば使う程、この能力の恐ろしさを知る。
 敵意を向けた相手限定とはいえ、この能力は恐ろしい性質を持っている。
 もしかして、奴はコレが狙いなのか? いや、まだそう判断するには早い。
 情報を集めつつ、様子を見つつ……は変わらないか。
 さて、次は――、

「久しぶりだなヒミコ。呼び寄せて悪かった」
「とんでもない事ですわぁ。ミケラルド様の望みこそ我が望み」
「近くにいて助かったよ。ノエルを引きつけてくれたおかげで逃がさず捕らえられた」
「この身には過分なお言葉に存じます」
「うん、予定があれこれ変わって申し訳なかった。色々忙しくて中々こっちに戻せなくてね」
「構いません。ミケラルド様の思惑を知る者は魔界にはおりませぬ故」
「ははは、無事で何よりだよ。それで、何かわかったか?」
「お耳に入れたい事が二点」

 この半年で更に情報が増えたようだ。

「まずはお父君の事です」
父上スパニッシュの事?」
「聖騎士学校に魔族が入ったとの事ですが、その後はかわりなく?」
「今のところはな」
「現在ワラキエル家は不死種を屋敷で雇用しております。そこで情報を集めたところ、お父君はその魔族の事を【毒】と言い表していたそうです」
「毒? 気になるな。それ以外には?」

 首を横に振るヒミコ。

「わかった。もう一つの話ってのは?」
「不死王リッチ様が動きます」
「っ! このタイミングでか?」

 こくりと頷くヒミコ。

「具体的には?」
「不死種や妖魔族含め、多くの配下を集め軍備を整えています」
「狙いは?」
「不明です。ただ、不死王リッチ様の居城は魔界の西端」
「なら、迂回が大変だろう?」
「いえ、リッチ様が率いる軍は疲労を知りません。人間界に一番近いワラキエル家から南下し、ガンドフを目指すのは愚策と言えるでしょう」
「リッチは頭が回るって聞いたしな。……ん? て事は別の道があるのか?」
「オリンダル高山をご存知でしょう?」
「え、あの山脈を越えるの?」
「妖魔族は岩肌をすり抜け、不死種は疲れる事なく山脈を渡ります」
「……マジか」

 オリンダル高山は魔界と人間界を仕切る山とも言えるべき場所だ。
 そこからオリンダル山脈が西へ広がっているが、南ではなく南西に突っ切る事が出来るとすれば――なるほど。

「リプトゥア国に一直線だな」
「その通りです。今リプトゥア国の軍備は、リーガル国が許す最低限のもの。そこをリッチ様が急襲すれば――」
「――魔界のリプトゥア支部の完成だな。だとしたら、あの人がいそうだな」
「はい、集められた配下の中に旧リプトゥア王、【ゲオルグ】の姿を発見しました」

 …………懲りない男だな、まったく。

「わかった。よく知らせてくれたな。これからは俺も留守が多くなるだろう。俺の失われし位階ロストナンバーと共にルナ王女とレティシアお嬢様の警護を任せる」
「かしこまりました」

 ◇◆◇ ◆◇◆

 ヒミコの姿を【チェンジ】を使い人間の姿にした後、俺は今回の報告のため法王国の地下へと向かった。
 そこで待つのはやはり、エレノアに直接繋がるだけの水晶があるだけだった。
 まぁ、そんなにすぐ信用されるとは思っていないが、そろそろ顔の一つや二つ拝みたいところだ。

『報告を聞きましょう』
「言わずともわかっていらっしゃるでしょうが、念のため。任務は失敗。冒険者ギルドに先を越されました」
『確かに、たかが冒険者と言える戦力ではなかったようですね』

 流石、耳が早いな。

『デューク殿』
「何でしょう。降格でしょうか?」
『あの戦力を前に破れたとて、誰が責められましょう。ですが一つだけ聞かせてください』
「はい?」
『何故挑んだのです? 相手は剣神、剣鬼、勇者、剣聖、炎龍、更には水龍を抱える謂わば死地とも言える場所です。挑まずに機を見るか、私へ報告にいらっしゃれば別の手立てがあったかもしれないでしょう?』
「お言葉ですが、私は、これは入会試験のようなものだと理解しています」
『否定をするつもりはありません』
「ならば、あの集団から生き残るだけの戦力を見せつければ、入会資格を得られると思ったまで。最初から尻込みしては、こちらの不利になるような状況でしたから」
『……なるほど』
「元々ある程度の信頼さえ得られていれば、私も様子見なり報告するなりしたでしょうが、その時、その場で私はそういう状況になかった」
『よくわかりました。どうやらこういった報告はデューク殿の不審を買ってしまいそうですね』

 おやおや? いいんですか?

『では、次の任務です。これを終えた時、直接お会いする事をお約束しましょう』

 でも、難しいんでしょう?

「聞きましょう」
『ディノ大森林へ向かい、破壊魔パーシバルと共に木龍の所在を掴みなさい』

 パーシバルが俺をいびる姿が容易に想像出来る任務だな。
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