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第二部
その456 同族
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「で、何でミックがここにいるんだ?」
ジト目を向けて来る若々しい爺こと法王クルス。
ここはホーリーキャッスル。法王国の中枢である。
俺はエレノアと話を終えた後、地下道を通ってまた首都へと戻った。
そして、ホーリーキャッスルの法王クルスの部屋に忍び込んで彼を待っていたのだ。
床に体育座りしている俺を、呆れた目で見る法王クルス。
「今何時だと思ってるんだ」
「三時くらいですかね」
「最早侵入だろう、これは」
「あ、ホーリーキャッスルの壁、通り抜けられるようになってましたよ」
「なってないなってない。それが出来るのはミックくらいだ」
人間界ほど壁抜けの能力が役立つ場所はない。
「それにしても随分遅かったですね。果物食べちゃいましたよ?」
「くつろぎすぎではないか?」
「あ、これクルス殿のうさちゃんリンゴです」
「おぉ! これは確かに兎だな! って違う!」
「てっきりミケラルド選手の控え室にあるケータリングかと」
「法王の部屋を控え室とはよくぞ言ったものだな。それでどうした?」
「先程刻の番人になったのでご報告を」
「は?」
「あ、サブロウは手中におさめました」
「は?」
「それで、あそこにいる手練れが私の失われし位階です」
「は?」
「名前を聞いたら好きなように呼べって言うんで、適当に名前を付けました。右からヒミカ、フミカ、ミミカ、ヨミカです。四つ子らしくチームプレイに定評があるそうです。小柄ながら腕力もあって強いですよ。あ、勿論、私の手の内にあります」
「は?」
「それでご相談なんですけど、刻の番人になった瞬間に闇ギルドのトップから指令もらっちゃって、炎龍を抹殺しろっていうんですけどね? 私困っちゃって困っちゃって。何か良い案ありませんか?」
「待て、待て待て待て。多い! 多いぞミック!」
中々良いダイジェストだったと思うんだが、これでも多かったか。しかもこの流れ、どこかで見た事がある。
頭の中で情報を整理しているであろう法王クルス。
しかし、流石は賢王と呼ばれるだけあって、彼はすぐにコホンと咳払いをした。
「まずはうさちゃんリンゴからだ」
そこ重要?
「いや、やはりいい。これは最後に聞く」
やっぱり聞くのか。
「まずはそうだな……サブロウを手中にしたと言ったな。彼をここへ連れて来る事は可能か?」
「サブロウの動き次第ですが、可能かと」
「では、手はずはミックに任せる」
「わかりました」
「それで、刻の番人になったというのは本当か?」
「闇ギルドでの暗躍が功を奏しまして」
「何故闇の中で隠れて踊れるのかが不思議だ。がしかし、これで闇に対しかなり有利に立てた事になる。ミックが刻の番人の中で信頼を掴めば、より懐に潜りやすいしな」
「ですよね」
「そこの四人も練達した強者のようだな」
「まぁ、四人でかかればクルス殿くらいなら……多分」
「まったく、こうして見ると闇ギルドとの戦力差を思い知らされるな」
嘆く法王クルスに、俺はくすりと笑いながら言った。
「いえいえ、表の世界も決して負けていませんよ」
「ミックがいなければすぐに崩壊しているさ」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「さて、信頼を得るためにも任務をこなさなければならない。だが、その対象が炎龍となるとミックの本意ではない。そういう事か」
「せっかく受け入れ先と保護者を見つけたのに、そうした本人が炎龍を狙うのはおかしな話ですからね」
「ふむ……つまりは炎龍の実力は既に闇ギルドも把握しているという事か」
「まぁ、SS程度ですし、私には倒せると思ったんでしょうね。寧ろ、彼女たちでも可能ですよ」
俺はちらりとヒミカたちを見た。
「つまりは刻の番人の入隊試練のようなものか」
「おそらく。オベイルさんの目をかいくぐって炎龍を倒すとなると、SSSクラスの実力が求められます。私がオベイルさんを防いでいる間に、彼女たちが炎龍を倒すか、その逆か。まぁ、彼女たち四人分の力を見せなくちゃいけないって事ですよ」
「……なるほどな」
そう言って少し考えた後、法王クルスはうさちゃんリンゴをシャリと一口食べた。
「うまい」
「いや、そこは妙案を言うところでしょうよ」
「簡単な話だ」
「え、本当ですか?」
「炎龍側の戦力をミックたち以上にすればいい」
「あー、そういう?」
「アーダインには話を通しておく」
「ありがとうございます」
さて、行動を起こすなら明日の放課後だろうか。
「さぁ、うさちゃんリンゴについて詳しく聞こう」
その後、法王クルスとヒミカたちへの刀工指導が始まった。
気付いたら朝になっていたのは言うまでもない。
◇◆◇ ◆◇◆
「オベイルだ」
そうだった、今日はオベイル君の特別授業だった。
今頃、炎龍はイヅナと一緒に茶でもしばいているのだろう。
「大抵の事はマスタングの野郎から教わってるだろうから、俺が教えてやれる事はほとんどねぇ」
まぁ、オベイルの場合は剛力中心の攻撃だしな。
前提条件を満たしていない正規組や、魔法使い組には厳しいだろう。
いや、ラッツでさえ無理なんじゃなかろうか?
「だから今日は最初なもんで、殺気の使い方でも教えてやろうと思った訳よ」
なるほど、オベイルらしい。
直後、オベイルはデカい紙を広げ、壁に貼り付けた。
それはまるで、武闘大会のトーナメント表のようだった。
「殺気大会だ」
何それ、怖い。
しかし、俺はトーナメント表に自分の名前を見つけてピタリと止まった。
ルーク選手の初戦相手の名前には【ファーラ】の名前が書かれていた。
なるほど、【同族】が相手ですかそうですか。ちょっと探りを入れてみよう。
そしてシギュンに報告するんだ。もしかしたらご褒美が貰えるかもしれないからな。
ジト目を向けて来る若々しい爺こと法王クルス。
ここはホーリーキャッスル。法王国の中枢である。
俺はエレノアと話を終えた後、地下道を通ってまた首都へと戻った。
そして、ホーリーキャッスルの法王クルスの部屋に忍び込んで彼を待っていたのだ。
床に体育座りしている俺を、呆れた目で見る法王クルス。
「今何時だと思ってるんだ」
「三時くらいですかね」
「最早侵入だろう、これは」
「あ、ホーリーキャッスルの壁、通り抜けられるようになってましたよ」
「なってないなってない。それが出来るのはミックくらいだ」
人間界ほど壁抜けの能力が役立つ場所はない。
「それにしても随分遅かったですね。果物食べちゃいましたよ?」
「くつろぎすぎではないか?」
「あ、これクルス殿のうさちゃんリンゴです」
「おぉ! これは確かに兎だな! って違う!」
「てっきりミケラルド選手の控え室にあるケータリングかと」
「法王の部屋を控え室とはよくぞ言ったものだな。それでどうした?」
「先程刻の番人になったのでご報告を」
「は?」
「あ、サブロウは手中におさめました」
「は?」
「それで、あそこにいる手練れが私の失われし位階です」
「は?」
「名前を聞いたら好きなように呼べって言うんで、適当に名前を付けました。右からヒミカ、フミカ、ミミカ、ヨミカです。四つ子らしくチームプレイに定評があるそうです。小柄ながら腕力もあって強いですよ。あ、勿論、私の手の内にあります」
「は?」
「それでご相談なんですけど、刻の番人になった瞬間に闇ギルドのトップから指令もらっちゃって、炎龍を抹殺しろっていうんですけどね? 私困っちゃって困っちゃって。何か良い案ありませんか?」
「待て、待て待て待て。多い! 多いぞミック!」
中々良いダイジェストだったと思うんだが、これでも多かったか。しかもこの流れ、どこかで見た事がある。
頭の中で情報を整理しているであろう法王クルス。
しかし、流石は賢王と呼ばれるだけあって、彼はすぐにコホンと咳払いをした。
「まずはうさちゃんリンゴからだ」
そこ重要?
「いや、やはりいい。これは最後に聞く」
やっぱり聞くのか。
「まずはそうだな……サブロウを手中にしたと言ったな。彼をここへ連れて来る事は可能か?」
「サブロウの動き次第ですが、可能かと」
「では、手はずはミックに任せる」
「わかりました」
「それで、刻の番人になったというのは本当か?」
「闇ギルドでの暗躍が功を奏しまして」
「何故闇の中で隠れて踊れるのかが不思議だ。がしかし、これで闇に対しかなり有利に立てた事になる。ミックが刻の番人の中で信頼を掴めば、より懐に潜りやすいしな」
「ですよね」
「そこの四人も練達した強者のようだな」
「まぁ、四人でかかればクルス殿くらいなら……多分」
「まったく、こうして見ると闇ギルドとの戦力差を思い知らされるな」
嘆く法王クルスに、俺はくすりと笑いながら言った。
「いえいえ、表の世界も決して負けていませんよ」
「ミックがいなければすぐに崩壊しているさ」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「さて、信頼を得るためにも任務をこなさなければならない。だが、その対象が炎龍となるとミックの本意ではない。そういう事か」
「せっかく受け入れ先と保護者を見つけたのに、そうした本人が炎龍を狙うのはおかしな話ですからね」
「ふむ……つまりは炎龍の実力は既に闇ギルドも把握しているという事か」
「まぁ、SS程度ですし、私には倒せると思ったんでしょうね。寧ろ、彼女たちでも可能ですよ」
俺はちらりとヒミカたちを見た。
「つまりは刻の番人の入隊試練のようなものか」
「おそらく。オベイルさんの目をかいくぐって炎龍を倒すとなると、SSSクラスの実力が求められます。私がオベイルさんを防いでいる間に、彼女たちが炎龍を倒すか、その逆か。まぁ、彼女たち四人分の力を見せなくちゃいけないって事ですよ」
「……なるほどな」
そう言って少し考えた後、法王クルスはうさちゃんリンゴをシャリと一口食べた。
「うまい」
「いや、そこは妙案を言うところでしょうよ」
「簡単な話だ」
「え、本当ですか?」
「炎龍側の戦力をミックたち以上にすればいい」
「あー、そういう?」
「アーダインには話を通しておく」
「ありがとうございます」
さて、行動を起こすなら明日の放課後だろうか。
「さぁ、うさちゃんリンゴについて詳しく聞こう」
その後、法王クルスとヒミカたちへの刀工指導が始まった。
気付いたら朝になっていたのは言うまでもない。
◇◆◇ ◆◇◆
「オベイルだ」
そうだった、今日はオベイル君の特別授業だった。
今頃、炎龍はイヅナと一緒に茶でもしばいているのだろう。
「大抵の事はマスタングの野郎から教わってるだろうから、俺が教えてやれる事はほとんどねぇ」
まぁ、オベイルの場合は剛力中心の攻撃だしな。
前提条件を満たしていない正規組や、魔法使い組には厳しいだろう。
いや、ラッツでさえ無理なんじゃなかろうか?
「だから今日は最初なもんで、殺気の使い方でも教えてやろうと思った訳よ」
なるほど、オベイルらしい。
直後、オベイルはデカい紙を広げ、壁に貼り付けた。
それはまるで、武闘大会のトーナメント表のようだった。
「殺気大会だ」
何それ、怖い。
しかし、俺はトーナメント表に自分の名前を見つけてピタリと止まった。
ルーク選手の初戦相手の名前には【ファーラ】の名前が書かれていた。
なるほど、【同族】が相手ですかそうですか。ちょっと探りを入れてみよう。
そしてシギュンに報告するんだ。もしかしたらご褒美が貰えるかもしれないからな。
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