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第二部
その439 ギャレット商会
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リーガル国の首都リーガルの南端、東側。
ドマーク商会のドン、ドマークが教えてくれた場所は確かここら辺だ。
「マジか……」
裏通りも裏通り。こんな場所に店があったとして、人が気付くのかすら疑問である。寧ろ、この店の存在を知っていたドマークは流石と言えるだろう。
周囲を【探知】で探ってみても、人っ子一人いない。
そう、この【ギャレット商会】にもな。
念の為、俺はルークの容姿でミナジリ共和国からやって来たのだが、正解だったな。ミケラルドの姿は、最早世界規模で知られている。
最初に見る顔がミケラルドであれば、相手に強い警戒を与えてしまう。
まったく、生きにくくなったものだ。
入った瞬間、チリンと鳴る申し訳程度のドアベル。
見れば、店内は古臭い空間の中に、古めかしい絵や壺、何に使うのかわからない壊れた武具等を見つけた。
――ギャレット商会。
俺が初めてシェンドの町で武具を買った時、リィたんはハルバード、俺は【打刀】を買った。その店の店主が俺に言ったのだ。
【ギャレット商会から流れてきたんだけど扱いにくくてね、処分に困ってたんだよ。流石に打った人はわかんねーな。詳しく知りたければ、ギャレット商会に問い合わせてくれ】と。
その後、誘拐の冤罪で護送されたり公爵家の悪事を暴いたりと色々している内に、俺はその事をすっかり忘れてしまっていたのだ。
しかし、このギャレット商会の手引きで、魔族が聖騎士学校に入学しているのであれば、この店の謎を探らない訳にはいかない。
当然、【打刀】についてもだ。
この世界で、刀という存在は希少というレベルではない。認知すらされていない場合が殆どだ。
「……いらっしゃい」
店の奥から聞こえたのは、しゃがれた老けたダミ声。
かつて購入した打刀を腰に携え、俺は店の奥へ入って行った。
「お邪魔します」
「これはこれは、お若い方とは珍しい。それも貴族の方……ですかな?」
俺の纏う衣服と肌艶。そこから身分を推察したのだろう。
濃い白眉をした腰の折れた老人――というのが男の第一印象だった。
「とある方に奉公しております」
「ほぉ? さぞご立派な御方なのでしょうな。それで、本日はどういったご用件でしょう?」
「以前、シェンドの町でこの剣を購入したのですが……店主からこちらのギャレット商会から流れたモノだと伺いました」
「これは……えぇ、確かにウチが流したモノですな。これを手にするとは、旦那もお目が高いね」
旦那、ねぇ。
「ありがとうございます。手に馴染んだもので、出荷元を探していたのです。この剣をどなたが打ったのか知りたいのですが、差支えなければお教え願えませんか?」
「これを打った鍛冶師? あ、いやぁ……それはわからねぇな」
まったく、調子のいい爺さんもいたものだ。
「それでよく【お目が高い】なんて言えたもんだな」
「は? あ、それは……」
俺は打刀を抜き、瞬時に店主の首元に突き付けた。
「ひっ!? だ、だだ旦那ぁ、強盗ならここにゃ金目のものはねぇよっ!」
「いい加減その爺芝居はやめたらどうだ?」
「し、芝居……? 何の事だかサッパリでさぁ……」
店主を壁まで追い込み、首に刃を押し当てる。
「ここに人間がいない事はわかっている。その三文芝居を今すぐやめないと、首を切り落とす」
この時、店主の目の光が鈍いモノへと変わった。
「チッ、下手に出てればいい気になりやがってっ!」
「そうそう、最初からそっちのがわかりやすいよ」
店主は打刀を鷲掴みにし、刃も恐れず強く握りしめた。
瞬間、打刀は甲高い音を発して折れた。
「へっ、今更泣き喚いたって遅いからな」
折れてた腰はすっと真っ直ぐになり、店の出入り口からは二人の男女が現れる。
「助けを呼んだところで誰も来ない。ここがそういうところだって事は、わかるだろう?」
なるほど、人通りが少ない利点か。
ここに物を売りに来た人間が、消息不明になろうとも知った事ではないという事か。
これだけのボロを扱っていても利益が出る訳だ。
「だからどうした?」
左手で店主の胸倉を掴み、更に肉薄する。
「ぐぉっ!? な、何て力だ」
「知らないのか、腕力っていうんだ」
「くっ! 戯れ言を! お前たち、やっちまえ!」
赤く光る目をした男女が、俺の背後に迫る。
「死んで詫びろや、餓鬼ぃ!」
「「はぁっ!」」
殴りかかった二人の男女の手が痺れる。
「「ぐぉっ!?」」
「何っ!?」
店主が目を見開いて驚く。
俺は店主を掴む手を緩める事はなかった。
「で、いつ詫びればいいんだ?」
「ば、馬鹿な……!?」
男女が近くの武器を持って突こうにも、斬ろうにも、俺に傷が付く事はない。
そして、背後の男女が息切れし始める頃、店主はようやく自分に訪れた脅威がどれほどのものか理解したのだった。
歯をガチガチと鳴らし、恐怖に顔を染めたのだ。
そして店主も、後ろの二人も俺の変化に気付き始めた。
「あ……あぁ……」
「嘘……」
「何故ここに……!?」
そう、俺はミケラルドの姿へと戻って見せたのだ。
「さて、私の質問に答えてもらおう」
次の瞬間、店主は膝から崩れ落ちていたのだった。
ドマーク商会のドン、ドマークが教えてくれた場所は確かここら辺だ。
「マジか……」
裏通りも裏通り。こんな場所に店があったとして、人が気付くのかすら疑問である。寧ろ、この店の存在を知っていたドマークは流石と言えるだろう。
周囲を【探知】で探ってみても、人っ子一人いない。
そう、この【ギャレット商会】にもな。
念の為、俺はルークの容姿でミナジリ共和国からやって来たのだが、正解だったな。ミケラルドの姿は、最早世界規模で知られている。
最初に見る顔がミケラルドであれば、相手に強い警戒を与えてしまう。
まったく、生きにくくなったものだ。
入った瞬間、チリンと鳴る申し訳程度のドアベル。
見れば、店内は古臭い空間の中に、古めかしい絵や壺、何に使うのかわからない壊れた武具等を見つけた。
――ギャレット商会。
俺が初めてシェンドの町で武具を買った時、リィたんはハルバード、俺は【打刀】を買った。その店の店主が俺に言ったのだ。
【ギャレット商会から流れてきたんだけど扱いにくくてね、処分に困ってたんだよ。流石に打った人はわかんねーな。詳しく知りたければ、ギャレット商会に問い合わせてくれ】と。
その後、誘拐の冤罪で護送されたり公爵家の悪事を暴いたりと色々している内に、俺はその事をすっかり忘れてしまっていたのだ。
しかし、このギャレット商会の手引きで、魔族が聖騎士学校に入学しているのであれば、この店の謎を探らない訳にはいかない。
当然、【打刀】についてもだ。
この世界で、刀という存在は希少というレベルではない。認知すらされていない場合が殆どだ。
「……いらっしゃい」
店の奥から聞こえたのは、しゃがれた老けたダミ声。
かつて購入した打刀を腰に携え、俺は店の奥へ入って行った。
「お邪魔します」
「これはこれは、お若い方とは珍しい。それも貴族の方……ですかな?」
俺の纏う衣服と肌艶。そこから身分を推察したのだろう。
濃い白眉をした腰の折れた老人――というのが男の第一印象だった。
「とある方に奉公しております」
「ほぉ? さぞご立派な御方なのでしょうな。それで、本日はどういったご用件でしょう?」
「以前、シェンドの町でこの剣を購入したのですが……店主からこちらのギャレット商会から流れたモノだと伺いました」
「これは……えぇ、確かにウチが流したモノですな。これを手にするとは、旦那もお目が高いね」
旦那、ねぇ。
「ありがとうございます。手に馴染んだもので、出荷元を探していたのです。この剣をどなたが打ったのか知りたいのですが、差支えなければお教え願えませんか?」
「これを打った鍛冶師? あ、いやぁ……それはわからねぇな」
まったく、調子のいい爺さんもいたものだ。
「それでよく【お目が高い】なんて言えたもんだな」
「は? あ、それは……」
俺は打刀を抜き、瞬時に店主の首元に突き付けた。
「ひっ!? だ、だだ旦那ぁ、強盗ならここにゃ金目のものはねぇよっ!」
「いい加減その爺芝居はやめたらどうだ?」
「し、芝居……? 何の事だかサッパリでさぁ……」
店主を壁まで追い込み、首に刃を押し当てる。
「ここに人間がいない事はわかっている。その三文芝居を今すぐやめないと、首を切り落とす」
この時、店主の目の光が鈍いモノへと変わった。
「チッ、下手に出てればいい気になりやがってっ!」
「そうそう、最初からそっちのがわかりやすいよ」
店主は打刀を鷲掴みにし、刃も恐れず強く握りしめた。
瞬間、打刀は甲高い音を発して折れた。
「へっ、今更泣き喚いたって遅いからな」
折れてた腰はすっと真っ直ぐになり、店の出入り口からは二人の男女が現れる。
「助けを呼んだところで誰も来ない。ここがそういうところだって事は、わかるだろう?」
なるほど、人通りが少ない利点か。
ここに物を売りに来た人間が、消息不明になろうとも知った事ではないという事か。
これだけのボロを扱っていても利益が出る訳だ。
「だからどうした?」
左手で店主の胸倉を掴み、更に肉薄する。
「ぐぉっ!? な、何て力だ」
「知らないのか、腕力っていうんだ」
「くっ! 戯れ言を! お前たち、やっちまえ!」
赤く光る目をした男女が、俺の背後に迫る。
「死んで詫びろや、餓鬼ぃ!」
「「はぁっ!」」
殴りかかった二人の男女の手が痺れる。
「「ぐぉっ!?」」
「何っ!?」
店主が目を見開いて驚く。
俺は店主を掴む手を緩める事はなかった。
「で、いつ詫びればいいんだ?」
「ば、馬鹿な……!?」
男女が近くの武器を持って突こうにも、斬ろうにも、俺に傷が付く事はない。
そして、背後の男女が息切れし始める頃、店主はようやく自分に訪れた脅威がどれほどのものか理解したのだった。
歯をガチガチと鳴らし、恐怖に顔を染めたのだ。
そして店主も、後ろの二人も俺の変化に気付き始めた。
「あ……あぁ……」
「嘘……」
「何故ここに……!?」
そう、俺はミケラルドの姿へと戻って見せたのだ。
「さて、私の質問に答えてもらおう」
次の瞬間、店主は膝から崩れ落ちていたのだった。
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