上 下
414 / 566
第二部

その413 少しの信頼

しおりを挟む
 陽が沈み、最早もはや夜と言っても過言ではない時刻。
 正規組はボロボロになりながらも聖騎士学校へと戻った。
 身体は疲弊し、顔に色はない。
 だが、彼らの中で何か変わったという事は確かだった。
 教室でじっと待つマスタング講師が、じっと俺たちを見る。

「……驚いたのであーる。これだけの人数が全て三匹のゴブリンを倒したのであるか」

 皆が討伐部位のゴブリンの耳が入った布袋を置き、自席へと戻る。
 戻った後も座る事はなく、立ちながら皆の報告完了を待っていた。

「うむ、見事である! 本日は全員最高得点である!」

 そんなマスタング講師の言葉を聞き、ようやく彼等は解放された。
 大きな溜め息を見せ、自席へどっと身を預けたのだ。
 それを見たマスタング講師はふっと笑い、教室を出て行った。

「明日に疲れを残さぬように! 失礼するのであーる!」

 最後に、そう言い残して。
 隣の席でぐったりと疲れているレティシア嬢が、頬を机に預けながら俺を見る。

「冒険者の方々っていつもあんなに大変な事をしているのですね……」
「生きるため、強くなるために必死ですからね」

 俺が苦笑しながらそう返すと、レティシア嬢の姿を見たルナ王女が顔をしかめる。

「レティシアさん、それは淑女とは言い難い姿ですよ」
「はい……でも身体に力が入らなくて……」

 逆らった訳ではない。いつもレティシアならピッと姿勢を正し、ルナ王女の言う事を聞くはずだ。これを怪訝に思ったルナ王女が俺を見る。
 俺がレティシアの顔を覗き込むと、その理由がわかった。

「魔力の酷使による魔力欠乏症ですね。レティシアお嬢様、立てますか?」
「……うぅ」

 なるほど、返事すらままならない状態という事か。
 俺に気付かせず、ここまでよく頑張ったものだ。

「レティシアお嬢様、失礼します」
「ふぇ? っ!」

 俗に言うお姫様抱っこというやつだ。
 事実、貴族の令嬢は全て姫と言える。以前にもレティシアを抱えた事があったが、こう人前となると恥ずかしいものだ。皆の視線がとても痛い。
 冒険者組が先に帰っててよかった。ナタリーにこんな姿見られてたら、向こう十年くらい話のネタにされそうだ。

「ルナ殿下、行きましょう」
「え、えぇ。そうですね」

 珍しくルナ王女の顔が赤い。風邪だろうか。

「うぅ……」

 レティシア嬢の顔はもっと赤い。
 顔から火魔法でも発動出来そうな赤さだ。
 しかし、ルナ王女が赤くなる意味がわからない。これは一体どういう事だ?
 がしかし、寮に戻る途中、何か考え事をしながら歩いていたルナ王女の言葉により、俺はその意味を知った。

「……そうですよね。婚約、、しているんですものね。これくらい普通ですよね」
「は?」
「貴方とレティシアさんの事です。事前にそういったお話があったと父から聞いています」
「は?」
「確かにあの場ではレティシアさんを部屋へお連れする事が最優先。こういった選択肢が最適だという事も理解出来ます。けれど、耐性のない方々を前にあのような行為は、少々問題というか、目の毒というか目の保養というか……あ、決して羨ましいとかじゃなくてですね。物事には適切な対応というものがありまして、私はその事について言及してるだけであって、深い意味はないのです」
「は?」
「あ、もう部屋が見えました! あそこ、私の部屋です。ご存知でした? 私の部屋なんです! それではっ!」

 ……は?
 最終的にレティシア嬢と同じくらい顔を赤くしたルナ王女は、俺から逃げるように部屋に戻って行った。存じ上げるも何も、隣の部屋で尚且なおかつ毎朝顔を突き合わせているのに。

「はぁ~……」

 俺は深い溜め息を吐いた後、レティシア嬢を部屋まで連れて行った。
 終始無言なこの茹蛸ゆでだこ様は、俺の首に手を回し、離れようとしてくれない。
 ……入るしかないか。

「失礼致します」

 部屋に入ると同時、フローラルというかファンシーな香りが俺の鼻腔を通った。一括りで言うならば、全男子が思い描くような女の子の部屋というべきだろうか。
 しかも公爵令嬢。姫君であらせられる。
 いくら俺が元首とはいえ、サマリア公爵ランドルフが聞いたら頭部からつのが生えそうだ。

「レティシア、おろすよ」

 姫の自室だ。態度を元に戻すも……、

「……私の知らない腕力ですね」

 レティシアの万力は俺の首から離れてくれなかった。

「あの、レティシア?」
「よよよ」

 昭和の姫かよ。
 どうやらある程度は回復したようだ。先程より元気があるのは、道中、レティシアを抱えながら俺が魔力の調整をしていたからだ。魔力を他者へ与える事は出来ない。しかし、外部から魔力を照射してやる事により、その波を一定にし、調整を図る事は可能だ。

「マスタングさんの言葉からして、夜の抜き打ち訓練はないと思いますけど、自主練しないと明日以降がつらいですよ」
「はーいっ」

 言いつつも、レティシア嬢は俺を離してくれなかった。
 だが、部屋に迫る足音が、その力を緩めさせたのだ。
 ここは姫の部屋。小国の王とまで言われる公爵の娘の部屋なのだ。
 だが、部屋の扉は思い切り開かれた。
 レティシアの部屋に入れる人物で、存在感だけで俺を圧倒出来るハーフエルフ、、、、、、は一人しかいない。

「れ~てぃ~し~あ~?」

 ミナジリ国のナの字、、、である。
 ダークエメラの血をしっかり受け継ぎ、ダークナタリーへと変貌していらっしゃる。

「ひゅっひゅ~」

 そんな圧力を受けつつも、レティシアはヘタクソな口笛を吹いていた。
 とても面白い公爵令嬢である。

「……貴族の寮に乗り込んでくる冒険者も珍しいな、ナタリー」
「ミック、外で、『待て』よ」
「あ、はい」

 マスタング講師から少なからず信頼を得た正規組だったが、それとこれとは別の話で、彼等も彼等で青い春を謳歌しているのだ。
 そんな中の一幕として、ナタリーとレティシアの密会は、俺の中の記憶に深く残った。
 まぁ、そんな事より自己紹介をさせてくれ。
 世界の名だたる名士、君主が認めるミナジリ共和国の元首ミケラルド・オード・ミナジリ――そう、何を隠そう俺の事である。
 そしてまたの名を番犬ミック。ナタリーの命令には逆らえない元首とは俺の事だぜ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...