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第二部
その401 愛娘
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「はぁ!? 学校での護衛!?」
一瞬、ランドルフとブライアン王が何を言ってるのかわからなかった。
多少声が荒くなってしまうのも無理はないだろう。
「お二人は、私が聖騎士学校で講師をすると知っていたと記憶していますが……?」
「週一回数時間程度と聞いているな」
ブライアン王が顎を揉みながら思い出すように言った。
「よかった、存じ上げていらっしゃったのですね。でもやれと?」
「……出来ればな」
なるほど、本当ならば他国の元首には頼りたくても頼れない状況。がしかし、相手が俺なら、頼らなくてはならない状況とも言える。
「無論、出来る事ならばこちらからのバックアップについては心配するな。資金も、人員もだ」
経費は全てリーガル国持ち、か。
「ルナ王女とレティシア嬢……おそらく二人は正規ルートからの入学ですよね?」
「そうだ。聖騎士学校には他国の大貴族や王族が入学する。ルナもレティシアも入学可能な年齢となった以上、諸国に顔を売る必要がある。が、クルス殿から聖騎士学校の闇について聞いた事もある。タダの虫ならばタダの護衛で済む。がしかし、闇ともなれば話は別。余とランドルフの大事な娘だからな……」
愛娘というやつか。
聖騎士学校を卒業しても聖騎士になれる人間は一握りである。
がしかし、卒業と同時に騎士の称号は得られるのだ。ルナ王女はわからないが、レティシアは実力的に聖騎士になる事は難しいだろう。聖騎士学校という名前は確かに貴族としては大事だ。ランドルフの狙いもわかるし、ルナ王女の味方としてもレティシアは聖騎士学校に入学させるべきだ。
ランドルフの息子のラファエロは長男だったが、聖騎士学校ではなく騎士学校に入学している。これはおそらく当時サマリア家は公爵家ではなく侯爵家だったというのもあるし、リーガル王族と同年代でもなかったから、という事もあるのだろう。
国同士の横の繋がりを構築するためには、どうしてもこういった弊害はあるか。仕方ない……のだろうな。
「頼む、ミック……!」
「陛下!」
まさかブライアン王が頭を下げるとはな。
これは王として、そして友人としてなのだろう。
「私からも頼む、ミック」
ランドルフにも頭を下げられ、何とも重い空気である。
仕方ない、受けるしかない……か。
「わかりました、講師の時間以外は可能な限り御傍にいるようにしましょう」
「「おぉ!」」
またミケラルド最強女装の【ミィたん】に活躍してもらお――
「感謝するぞミック。正規ルートの入学者枠にねじ込むのには苦労したからな」
「ん?」
何だ? ブライアン王は何を言ってるんだ?
「実は既にミックの制服を用意していたのだ。ささ、こちらに!」
「……ん?」
制……服? ランドルフめ、異国の言葉を話してるんじゃないか?
◇◆◇ ◆◇◆
「「おぉ~!」」
ミナジリ屋敷で感嘆の声をあげるのは、リィたんとナタリーだった。
そう、俺を見て。
黒いパンツと白いシャツ、そしてベージュのジャケット。勇者の剣の刺繍が入ったネクタイをすれば、ミケラルドおじさんの学生姿の完成である。
身長は百七十センチメートル前後にし、色白黒髪の青年へと【チェンジ】。
そう、ありふれたエロゲー主人公のように。
「ねぇねぇミック、お名前は!?」
ナタリーが嬉しそうに聞いてくる。
「……【ルーク・ダルマ・ランナー】です」
裏の顔を持つ主人公とかありがちだが、第四の顔まで持つ事になるとは、俺も来るところまで来ちゃった感じだな。
ケラケラと笑うナタリーとリィたんに、俺は何も言えない。
本気の笑いが半分、喜び半分といったところだろうか。
彼女たちは俺の入学を喜んでくれているのだ、そう、半分だけ。
奥で困った顔を浮かべているのは、わが国の頭脳――ロレッソ君である。
きっと彼の頭の中には、今後の国の動きとか俺のスケジュールとか色々入っていたのだろう。だが、それを一気に白紙にしてしまったのだ。
「だ、大丈夫です。何とかなりそうです……」
今の一瞬で三日分くらいのエネルギーを使ったであろうロレッソ君は、とても疲れていた。可哀想なので、今度ボーナス出すなり休ませるなりさせるか。
有能な部下故に負担がかかるのも困りものだな。
俺が心の中でロレッソに平謝りしていると、ナタリーが目元の涙を指で拭いながら言ってきた。
「それじゃあミックは、先生と生徒どっちもやるって事ね。あーおかしかった……ぷくくく」
と言いつつ、ナタリーは今も小刻みに震えてる。
どうやら現在進行形で笑いを堪えているようだ。女を泣かせちゃいけないとかよく聞くけど、どんどん笑い泣けばいいと思う。
「く、苦しい……」
そう、これに限って言えばどんどん苦しめばいいと思う。
がしかし、彼女たちの制服も中々に似合っている。
基本的には男子学生と同じものだが、女物としてパンツはスカートに、ジャケットはウエストが引き締まったものに、ネクタイはリボンに。
リィたんもナタリーもとても似合っている。
正規ルート組と冒険者招致組はクラスが違うとは思うが、何とも、面白そうな聖騎士学校生活になりそうである。
直後、俺の耳に荒々しい声が聞こえてきた。
「はぁはぁはぁ……くっ!」
声、というより息遣い。
振り向くとそこには、疲弊し、舌を出し項垂れるZ区分の魔族がいたのだ。
「ジェ、ジェイルさん……?」
「よ、ようやく着いた……」
倒れるジェイルと傾く俺の首。
これはもしかして……大事件なのかもしれない。
一瞬、ランドルフとブライアン王が何を言ってるのかわからなかった。
多少声が荒くなってしまうのも無理はないだろう。
「お二人は、私が聖騎士学校で講師をすると知っていたと記憶していますが……?」
「週一回数時間程度と聞いているな」
ブライアン王が顎を揉みながら思い出すように言った。
「よかった、存じ上げていらっしゃったのですね。でもやれと?」
「……出来ればな」
なるほど、本当ならば他国の元首には頼りたくても頼れない状況。がしかし、相手が俺なら、頼らなくてはならない状況とも言える。
「無論、出来る事ならばこちらからのバックアップについては心配するな。資金も、人員もだ」
経費は全てリーガル国持ち、か。
「ルナ王女とレティシア嬢……おそらく二人は正規ルートからの入学ですよね?」
「そうだ。聖騎士学校には他国の大貴族や王族が入学する。ルナもレティシアも入学可能な年齢となった以上、諸国に顔を売る必要がある。が、クルス殿から聖騎士学校の闇について聞いた事もある。タダの虫ならばタダの護衛で済む。がしかし、闇ともなれば話は別。余とランドルフの大事な娘だからな……」
愛娘というやつか。
聖騎士学校を卒業しても聖騎士になれる人間は一握りである。
がしかし、卒業と同時に騎士の称号は得られるのだ。ルナ王女はわからないが、レティシアは実力的に聖騎士になる事は難しいだろう。聖騎士学校という名前は確かに貴族としては大事だ。ランドルフの狙いもわかるし、ルナ王女の味方としてもレティシアは聖騎士学校に入学させるべきだ。
ランドルフの息子のラファエロは長男だったが、聖騎士学校ではなく騎士学校に入学している。これはおそらく当時サマリア家は公爵家ではなく侯爵家だったというのもあるし、リーガル王族と同年代でもなかったから、という事もあるのだろう。
国同士の横の繋がりを構築するためには、どうしてもこういった弊害はあるか。仕方ない……のだろうな。
「頼む、ミック……!」
「陛下!」
まさかブライアン王が頭を下げるとはな。
これは王として、そして友人としてなのだろう。
「私からも頼む、ミック」
ランドルフにも頭を下げられ、何とも重い空気である。
仕方ない、受けるしかない……か。
「わかりました、講師の時間以外は可能な限り御傍にいるようにしましょう」
「「おぉ!」」
またミケラルド最強女装の【ミィたん】に活躍してもらお――
「感謝するぞミック。正規ルートの入学者枠にねじ込むのには苦労したからな」
「ん?」
何だ? ブライアン王は何を言ってるんだ?
「実は既にミックの制服を用意していたのだ。ささ、こちらに!」
「……ん?」
制……服? ランドルフめ、異国の言葉を話してるんじゃないか?
◇◆◇ ◆◇◆
「「おぉ~!」」
ミナジリ屋敷で感嘆の声をあげるのは、リィたんとナタリーだった。
そう、俺を見て。
黒いパンツと白いシャツ、そしてベージュのジャケット。勇者の剣の刺繍が入ったネクタイをすれば、ミケラルドおじさんの学生姿の完成である。
身長は百七十センチメートル前後にし、色白黒髪の青年へと【チェンジ】。
そう、ありふれたエロゲー主人公のように。
「ねぇねぇミック、お名前は!?」
ナタリーが嬉しそうに聞いてくる。
「……【ルーク・ダルマ・ランナー】です」
裏の顔を持つ主人公とかありがちだが、第四の顔まで持つ事になるとは、俺も来るところまで来ちゃった感じだな。
ケラケラと笑うナタリーとリィたんに、俺は何も言えない。
本気の笑いが半分、喜び半分といったところだろうか。
彼女たちは俺の入学を喜んでくれているのだ、そう、半分だけ。
奥で困った顔を浮かべているのは、わが国の頭脳――ロレッソ君である。
きっと彼の頭の中には、今後の国の動きとか俺のスケジュールとか色々入っていたのだろう。だが、それを一気に白紙にしてしまったのだ。
「だ、大丈夫です。何とかなりそうです……」
今の一瞬で三日分くらいのエネルギーを使ったであろうロレッソ君は、とても疲れていた。可哀想なので、今度ボーナス出すなり休ませるなりさせるか。
有能な部下故に負担がかかるのも困りものだな。
俺が心の中でロレッソに平謝りしていると、ナタリーが目元の涙を指で拭いながら言ってきた。
「それじゃあミックは、先生と生徒どっちもやるって事ね。あーおかしかった……ぷくくく」
と言いつつ、ナタリーは今も小刻みに震えてる。
どうやら現在進行形で笑いを堪えているようだ。女を泣かせちゃいけないとかよく聞くけど、どんどん笑い泣けばいいと思う。
「く、苦しい……」
そう、これに限って言えばどんどん苦しめばいいと思う。
がしかし、彼女たちの制服も中々に似合っている。
基本的には男子学生と同じものだが、女物としてパンツはスカートに、ジャケットはウエストが引き締まったものに、ネクタイはリボンに。
リィたんもナタリーもとても似合っている。
正規ルート組と冒険者招致組はクラスが違うとは思うが、何とも、面白そうな聖騎士学校生活になりそうである。
直後、俺の耳に荒々しい声が聞こえてきた。
「はぁはぁはぁ……くっ!」
声、というより息遣い。
振り向くとそこには、疲弊し、舌を出し項垂れるZ区分の魔族がいたのだ。
「ジェ、ジェイルさん……?」
「よ、ようやく着いた……」
倒れるジェイルと傾く俺の首。
これはもしかして……大事件なのかもしれない。
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