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第一部
その387 ギュスターブ辺境伯領
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四日目の朝、俺はギュスターブ辺境伯領にいた。
各国が【真・世界協定】に参加する事を当然ギュスターブ辺境伯も知っている。
リーガル国のブライアン王の指示により、ギュスターブ辺境伯は法王クルスを歓待する事になっていたそうだ。
とすれば、ここが最後の休憩地点。特にここはリーガル国の領内だ。
……気が抜けないな。
「気を張ってるな、ミィたん」
「アーダインさん」
俺の警戒に気付いたのか、アーダインが言った。
ギュスターブ辺境伯が用意した部屋にいるのは俺、アーダイン、そして法王クルスだ。
「まぁ、そうなるのも無理はないか。この国で問題が起きればリーガル国の責任問題になる恐れがある」
「えぇ、ウチだけならまだいいんですけど、ミナジリ共和国に行くにはどうしてもギュスターブ辺境伯領を通ります。ブライアン王も気を張り巡らせている様子」
「確かに、警備も厳重だった。リーガルのギルドマスター【ディック】と、シェルフのギルドマスター【ゲミッド】も来てたしな」
と、アーダインが言ったところで、ノック音が響いた。
「誰だ?」
『ディックです』
扉の外から聞こえたのは、正に噂の人だった。
扉を開けると同時に、ディックは俺を見て目を丸くさせた。
「……イイ」
この姿なら世界の男を牛耳れるかもしれないな。
「いいから入れ」
アーダインが言いながらディックの首根っこを掴んで部屋へ入れた。
アーダイン相手だと完全にディックが子供だな。
「わ、ととと。たく、強引なお人だ」
「能書きはいい。何の用だ?」
「……その侍女の方は?」
俺の素性を知りたいのではなく、遠回しに人払いの申し出だな。
「私ですよ、ディックさん」
声帯だけ元に戻し、ディックに言う。
「っ!? そ、その声……!」
ディックは咄嗟に自分の口を塞いだ。名前までは言わないし、言えないのだ。
言いそうになったから堪えたのだろう。
そして小声になり、俺に言った。
「どういう事だ、昨日アッチに寄った時は玉座でニコニコしてただろう?」
「あれは影武者です」
正確には俺の分裂体だ。
「お前みたいな顔のヤツが世界に二人いてたまるか……!」
酷い言われようだ。
まぁ、俺をよく知る人間なら、俺が二人いたら気味悪く思うかもしれないな。
「内緒話は終わったか?」
アーダインが聞くと、ディックは姿勢を正して咳払いをした。
「コホン、失礼しました。報告があります。間もなくガンドフ国のウェイド王が到着するそうです」
「ほぉ、それは朗報だな」
窓から町の景観を眺めていた法王クルスが振り向く。
ガンドフの【ウェイド・ガンドフ】王か。立国の親書を持って行った時に挨拶した以来だな。
という事は、護衛任務に付いてるイヅナもいるという事だな。
「ならば明日の出発を合わせる提案をしよう」
「ありがとうございます。そう仰ると思っておりました。では、後程ウェイド王が到着次第その打ち合わせを」
「うむ、苦労を掛ける」
一番苦労してるのはおそらくギュスターブ辺境伯だろうな。
法王国とガンドフの両国がギュスターブ辺境伯領に滞在するのだ。侯爵に並ぶ大貴族と言えども緊張するだろうに。
後日ミナジリ共和国から何か送っておくか。帰りも寄るだろうし、大役だ。
「お二人とも、ちょっと」
話を終えたであろうディックが扉に目をやる。
おそらく、本題はこちらなのだろう。
だが――、
「ここで構わぬよ」
法王に言われたらディックも何も言えない。
「……あ、はい。まことに申し上げにくいのですが、聖騎士の方が町に出られて困っています」
ピクリと反応する法王クルス。
「何故だ? 任務とはいえ、休憩地。交代で休みをとってはいけないというのか?」
「勿論それは問題ありません。しかし、その休み方ってのが……」
「言ってみろ」
アーダインが言う。
「全ての行動において騎士然とはしています。がしかし、彼等は町を歩く際、身に宿る魔力を解放しながら歩いています」
「「っ!」」
「あれじゃあ町の住民はおっかなくて気が気じゃないですよ」
なるほど、そう動いたか。
「どう見る?」
法王クルスがアーダインに聞く。
「傍から見れば、リーガル国を田舎の辺境国と見た威圧行為。だが、そうとも言いきれない。奴らも馬鹿じゃない。何か意図があっての事だろう」
「ふむ……私からの叱責を覚悟の上と見るのが正解だろうな」
聖騎士の管轄は法王クルスから離れ独立していると言っても過言ではない。
全員が全員でないにしても、聖騎士たちは何を考えている?
法王クルスの評判に傷が付くのを見越して……となると。
「クルス殿の印象操作、ですかね」
「っ! ……なるほど、聖騎士の管理不行き届き。私への非難は免れまい」
俺の言葉に法王クルスが納得する。
しかし、それだけじゃない。
「それと……」
「まだあるのか?」
「聖騎士の評判も悪くなりますね」
「それは、自身の首を絞めているとも言えるのではないか?」
法王クルスの言葉は尤もだ。
だが、それが狙いだとすれば、話が変わってくる。
「いや、待て……」
法王クルスの言葉の後、
「「なるほど」」
法王クルスとアーダイン、二人が気付いたか。
「どういう事です?」
ディックの言葉を受け、俺が説明する。
「聖騎士学校ですよ」
その一言で、ディックが皆に追いつく。
「……そういう事か、聖騎士学校の冒険者招致。聖騎士団側は反対って事だな」
法王クルスの評判が悪くなれば、冒険者招致は失敗だったと流布される。
そして、聖騎士の評判が悪くなれば、冒険者からも辞退者が出るかもしれない。
いるな、聖騎士の中に。
……闇人が。
各国が【真・世界協定】に参加する事を当然ギュスターブ辺境伯も知っている。
リーガル国のブライアン王の指示により、ギュスターブ辺境伯は法王クルスを歓待する事になっていたそうだ。
とすれば、ここが最後の休憩地点。特にここはリーガル国の領内だ。
……気が抜けないな。
「気を張ってるな、ミィたん」
「アーダインさん」
俺の警戒に気付いたのか、アーダインが言った。
ギュスターブ辺境伯が用意した部屋にいるのは俺、アーダイン、そして法王クルスだ。
「まぁ、そうなるのも無理はないか。この国で問題が起きればリーガル国の責任問題になる恐れがある」
「えぇ、ウチだけならまだいいんですけど、ミナジリ共和国に行くにはどうしてもギュスターブ辺境伯領を通ります。ブライアン王も気を張り巡らせている様子」
「確かに、警備も厳重だった。リーガルのギルドマスター【ディック】と、シェルフのギルドマスター【ゲミッド】も来てたしな」
と、アーダインが言ったところで、ノック音が響いた。
「誰だ?」
『ディックです』
扉の外から聞こえたのは、正に噂の人だった。
扉を開けると同時に、ディックは俺を見て目を丸くさせた。
「……イイ」
この姿なら世界の男を牛耳れるかもしれないな。
「いいから入れ」
アーダインが言いながらディックの首根っこを掴んで部屋へ入れた。
アーダイン相手だと完全にディックが子供だな。
「わ、ととと。たく、強引なお人だ」
「能書きはいい。何の用だ?」
「……その侍女の方は?」
俺の素性を知りたいのではなく、遠回しに人払いの申し出だな。
「私ですよ、ディックさん」
声帯だけ元に戻し、ディックに言う。
「っ!? そ、その声……!」
ディックは咄嗟に自分の口を塞いだ。名前までは言わないし、言えないのだ。
言いそうになったから堪えたのだろう。
そして小声になり、俺に言った。
「どういう事だ、昨日アッチに寄った時は玉座でニコニコしてただろう?」
「あれは影武者です」
正確には俺の分裂体だ。
「お前みたいな顔のヤツが世界に二人いてたまるか……!」
酷い言われようだ。
まぁ、俺をよく知る人間なら、俺が二人いたら気味悪く思うかもしれないな。
「内緒話は終わったか?」
アーダインが聞くと、ディックは姿勢を正して咳払いをした。
「コホン、失礼しました。報告があります。間もなくガンドフ国のウェイド王が到着するそうです」
「ほぉ、それは朗報だな」
窓から町の景観を眺めていた法王クルスが振り向く。
ガンドフの【ウェイド・ガンドフ】王か。立国の親書を持って行った時に挨拶した以来だな。
という事は、護衛任務に付いてるイヅナもいるという事だな。
「ならば明日の出発を合わせる提案をしよう」
「ありがとうございます。そう仰ると思っておりました。では、後程ウェイド王が到着次第その打ち合わせを」
「うむ、苦労を掛ける」
一番苦労してるのはおそらくギュスターブ辺境伯だろうな。
法王国とガンドフの両国がギュスターブ辺境伯領に滞在するのだ。侯爵に並ぶ大貴族と言えども緊張するだろうに。
後日ミナジリ共和国から何か送っておくか。帰りも寄るだろうし、大役だ。
「お二人とも、ちょっと」
話を終えたであろうディックが扉に目をやる。
おそらく、本題はこちらなのだろう。
だが――、
「ここで構わぬよ」
法王に言われたらディックも何も言えない。
「……あ、はい。まことに申し上げにくいのですが、聖騎士の方が町に出られて困っています」
ピクリと反応する法王クルス。
「何故だ? 任務とはいえ、休憩地。交代で休みをとってはいけないというのか?」
「勿論それは問題ありません。しかし、その休み方ってのが……」
「言ってみろ」
アーダインが言う。
「全ての行動において騎士然とはしています。がしかし、彼等は町を歩く際、身に宿る魔力を解放しながら歩いています」
「「っ!」」
「あれじゃあ町の住民はおっかなくて気が気じゃないですよ」
なるほど、そう動いたか。
「どう見る?」
法王クルスがアーダインに聞く。
「傍から見れば、リーガル国を田舎の辺境国と見た威圧行為。だが、そうとも言いきれない。奴らも馬鹿じゃない。何か意図があっての事だろう」
「ふむ……私からの叱責を覚悟の上と見るのが正解だろうな」
聖騎士の管轄は法王クルスから離れ独立していると言っても過言ではない。
全員が全員でないにしても、聖騎士たちは何を考えている?
法王クルスの評判に傷が付くのを見越して……となると。
「クルス殿の印象操作、ですかね」
「っ! ……なるほど、聖騎士の管理不行き届き。私への非難は免れまい」
俺の言葉に法王クルスが納得する。
しかし、それだけじゃない。
「それと……」
「まだあるのか?」
「聖騎士の評判も悪くなりますね」
「それは、自身の首を絞めているとも言えるのではないか?」
法王クルスの言葉は尤もだ。
だが、それが狙いだとすれば、話が変わってくる。
「いや、待て……」
法王クルスの言葉の後、
「「なるほど」」
法王クルスとアーダイン、二人が気付いたか。
「どういう事です?」
ディックの言葉を受け、俺が説明する。
「聖騎士学校ですよ」
その一言で、ディックが皆に追いつく。
「……そういう事か、聖騎士学校の冒険者招致。聖騎士団側は反対って事だな」
法王クルスの評判が悪くなれば、冒険者招致は失敗だったと流布される。
そして、聖騎士の評判が悪くなれば、冒険者からも辞退者が出るかもしれない。
いるな、聖騎士の中に。
……闇人が。
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