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第一部

◆その324 依頼

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 リプトゥア国から軍が出ようという二日前、首都リプトゥアから離れる冒険者パーティがあった。
 パーティ名【緋焔ひえん】。
 先頭を歩くラッツは、大きな鎧を着こみ、その背には大剣。
 その後ろにはハン。軽装ながら急所部分には強固なプロテクターを付け、腰元に装備するダガーをチラチラと見ながらニヤけている。
 ハンの隣を歩くキッカは、難しい顔をしながら神々しく光る杖を見つめている。
 そんなキッカにラッツが言う。

「やはり気になるか、この依頼」
むしろ、気にならない方がおかしいでしょ。何たって報酬が桁違いだし、何よりこの前払い、、、も異常よ」

 すると、未だニヤついていたハンが言う。

「いいじゃねぇか。オリハルコン、、、、、、の武具なんて普通はお目に掛かれないぜ? 俺のダガーとプロテクターやキッカの杖はともかく、ラッツの大剣と鎧なんて、きっと報酬より高ぇぞ」
「きっとじゃなく確実よ。それにこのローブだって、ミスリルを編み込んで芯の部分にオリハルコンを使ってる。ラッツの鎧よりこっちのがヤバいでしょ。武器にはラッツの大剣に火、ハンには風、私には光のエンチャントがしてあるし、そんじょそこらの金持ちの依頼じゃないわよ、これ」

 キッカの言葉を聞き、ハンが思い出すように中空を見る。

「確か、依頼人の名前は――」
「――【存在エックス】」

 ラッツが依頼書を改めて見ながら言う。

「依頼内容は『法王国で【オリハルコンズ】なるパーティと合流し、法王国に潜む闇を探れ』」
「まず、依頼人の名前は何? 意味わかんないでしょ。名前を伏せるにしても別の名前があったんじゃないの?」

 悪態を吐くキッカに、ハンが肩をすくめる。

「俺はこれでよかったぜ? これまでずっとリプトゥアをホームタウンにしてきたが、良い時期だってな」

 ラッツが頷く。

「同感だ。戦争には参加しないにしても、その行く末は気になるところ。何より相手は武闘大会を賑わせたあの二人――」
「――リィたんとミケラルドさんようするミナジリ共和国……か」

 キッカが言うと、ラッツが静かに目を伏せ思い出す。
 リィたんと繰り広げた熱き戦いを。
 そんなラッツにハンが聞く。

「で、ミケラルドしのキッカはわかるが、ラッツはどうなんだよ? あのリィたんって女、本当にワルだと思うか?」
「攻撃に芯があった」
「それだけか?」
「善だろうと悪だろうと、信念を持って戦う者は強い。単純な攻撃力以上の重みがある。そんなリィたん殿がミケラルド殿をあるじと仰ぐのだ。大きな存在である事は間違いない」
「確かに、リプトゥア国に真正面から喧嘩売った国家は、これまでなかったな」

 静かに頷くラッツと、腕を組んで考えるハン。

「話は戻るんだけど、アンタたちオリハルコンズって知ってる?」
「聞かねぇな」
「うむ、私も聞いた事がない」

 ハンとラッツがその質問に答えると、キッカは自分が持つオリハルコンの杖に目をやる。

「世界にオリハルコンの武具を持つ冒険者って何人いるのかな?」

 そんなふとした疑問に、ハンが答える。

「ガンドフの鍛冶師ガイアス以外にゃ鍛えられないって話だろ? 勇者の剣がリプトゥア国に運ばれた以降、最近剣聖と剣鬼が手に入れたって話だな。俺の知る限りだとさっき話題に上がったリィたんとミケラルド、それに剣神あたりが有名だな。……ん? どうしたラッツ?」
「…………剣聖殿がオリハルコンの武器を手に入れた?」
「そう聞いてるな」
「剣聖殿は、リプトゥア国を離れ、確か今はミナジリ共和国にいるのではなかったか?」
「……そういやそうだな?」
「時期はいつだ?」
「ん~~~……………………あり? ミナジリ共和国に行ってから広まった噂だな?」
「対して、剣鬼殿がオリハルコンの武器を手に入れたのは、鍛冶師ガイアスが彼のために槌を振ったから」
「戦争を食い止めたご褒美って話だな」

 そこまで聞いたキッカが、改めて自分のローブと杖を見る。

「という事は、これは鍛冶師ガイアスが打ったモノじゃない可能性が高いって事ね」
「あん? どういう事だよ?」

 ハンの疑問にラッツが答える。

「ミナジリ共和国に腕の良い鍛冶師がいるという事だろう」
「うぇっ!? そ、それじゃあ俺たちに依頼してきた依頼人って――」
「――十中八九じゅっちゅうはっく、ミナジリ共和国の要人」

 直後、キッカが顔を覆う。

「ど、どうしたんだよ……キッカ?」
「わかっちゃった……」
「何が?」
「【存在X】が誰か」
「マジかよっ!?」
「ミナジリ共和国の要人で、私たちの事知ってて、こんなふざけた偽名使う人って言ったら一人しかいないじゃん……!」
「そいつってもしかして……!」

 震えるキッカとハン。
 答えを最初に口にしたのは緋焔のリーダーだった。

「ミナジリ共和国元首――ミケラルド・オード・ミナジリ」

 ラッツがそう言った直後、ハッとしたハンが言った。

「そうだ、思い出した! この数日、法王国に超大型パーティが出来たって噂話があった! パーティが二人しかいないのにランクSパーティ認定されたって飲みの席で少し話題になったんだった!」
「それが【オリハルコンズ】っ?」

 キッカの見解にハンが頷く。

「あぁ、多分そうだ。パーティ全員がオリハルコンの武具を付けてるって聞いたぜ」

 すると、キッカが一つの答えに辿り着く。

「一人はミケラルドさん、だとしたらもう一人はリィたんさん?」
「……そうだとしたら我らの耳にも入ってるはずだ。……確か、ギルド本部長のアーダイン殿がオリハルコンの武器を持っていたな」

 ラッツが立ち止まり、振り返ってから言う。

「本部長が今更パーティ組んだらそれこそ大事件でしょ!」
「だとしたら皇后アイビス様が確かオリハルコンの杖を――」
「――いや」

 ラッツの記憶をハンが否定する。

「皇后アイビス様の下には既にオリハルコンの杖はない。新たな勇者と共に現れた新たな聖女に渡ってるはずだ」
「という事は……オリハルコンズのもう一人は、聖女アリスっ?」

 キッカが驚きを露わにし、ラッツが静かに空を見上げる。

(ミケラルド殿は、一体我々に何をさせる気なのだ?)

 そんなラッツの横を二人のパーティメンバーが横切る。

「おい、陣形を崩すな」

 ラッツが言うも、

「アンタが勝手に止まったんでしょ! さっさと行くわよ! 法王国!」
「面白そうじゃねぇか! 面白そうじゃねぇかっ! 面白そうじゃねぇかっ!!」

 キッカとハンはそれぞれ思いの丈を零し、足早に法王国へ向かう。
 溜め息を吐いて歩き始めるラッツの足取りも、何故かいつもより早かったのだった。
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