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第一部
その322 重罪奴隷ロレッソ
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「解放者か……まぁ、そうなれればいいんだけどね」
「……? おかしな事を言いますね。まるで、これからそれを体現しようとしているかのようだ」
「そのつもりだったんだけど、どうも時間が足りないみたい」
俺が苦笑しながら言うと、ロレッソは首を傾げ俺に聞いた。
「……どういう事ですか?」
「申し訳ありませんでした、ミケラルド様。私の精査が甘かったが故に……」
コバックが謝る事で、ロレッソは更に疑問を持つ。
「何故、奴隷商のあなたが彼に謝罪を?」
「……ミケラルド様の言う通り、お前は重犯罪人ではないようだ」
コバックがその説明をすると、ロレッソはまた俺を見た。
「体面的な罪の重さではなく、本物の犯罪者を求めているその理由を知りたいのですが」
「俺はね、卑怯者なんだよ。これからしでかす事に、少しでも自分の罪の意識が和らぐ事を期待して、相手に重罪人を選んだに過ぎないんだ」
「一体……貴方は何をしようと?」
「別に、この国にいる多くの貴族と変わる事はない」
「っ! 【人体実験】っ!」
なるほど、このロレッソという男、かなりの切れ者だ。
この少ない情報で、そこまで考える思考力、そして判断力。鎖に繋がれても尚、動じない胆力。どれをとっても素晴らしい。
「まさか貴方は……奴隷契約の解除を試みようとっ!?」
「凄いね。まさかそこまで読むとは思わなかったよ」
「奴隷の王、重罪奴隷、人体実験、更には戦争間近のこの時期という四つの理由が重なっては、貴方が起こしうる行動は一つに絞られる」
「優秀だね。どう? ミナジリ共和国で働く気ない?」
「……魔族が営む国家で、でしょうか」
「っ!」
凄いな、このロレッソという男。
宦官とはいえ、どれだけの情報を集めていたんだ?
ミナジリ共和国が戦時下にある理由は二つ、勇者を匿い、魔族との交流があるという事だけ。公に公表されているのはそれだけなのだ。
リプトゥア国の中枢で、ミナジリ共和国に魔族との接点があるという事実が広まったのは、つい最近。つまり彼は、それ以前から魔族との繋がりをミナジリ共和国に感じていた。若しくは調べていた?
「……何にせよ、コバックが用意する奴隷なだけはあるね」
そうだった、コバックは奴隷商でも闇奴隷商人。
彼が受け持つのは、表で取引されない奴隷なのだ。
つまり、彼は闇奴隷商に渡されるべき……【重要人物】。
「お引き受けしましょう」
「……え、今何て?」
「人体実験、及びミナジリ共和国での従事。お引き受けすると言ったのです」
「いや、流石にそれは……――」
「――今は、悩んでいる場合ではないのでは?」
ロレッソの判断力は異常とも言えた。
「おそらく、人体実験の内容は奴隷契約の解呪。リプトゥア国とミナジリ共和国が戦争直前だというのに、ミナジリ共和国の元首自らリプトゥア国に来たのには、解呪の魔法がほぼ完成したから。しかし、ミナジリ共和国には奴隷と呼べる者がいない。だから人体実験用に重罪奴隷が必要だった。そういう事でしょう」
「……顔を隠しておけばよかったと後悔してるよ」
「吸血鬼の異能――【チェンジ】……ですか?」
「お手上げだね」
俺は小さく両手を上げ、ロレッソに完敗の意を示した。
コバックが腰元の剣に手を添えながら俺を見る。
「いや、いい。素晴らしい人材を用意してくれたね」
「しかし、ミケラルド様。この者は知り過ぎています」
「それはこちらの落ち度。それに、リプトゥア国の方がよく知ってるって事でもあるでしょう?」
俺がちらりとロレッソを見ると、ロレッソは静かに教えてくれた。その正体を。
「ゲオルグ王が直轄、作戦統括室元室長ロレッソにございます」
「……なるほど、闇商人と言えどその情報は渡せないか」
「本来であれば私はすぐに殺されるべきでした。事実、ゲオルグ王からの命は私の口封じ。しかし、人とは欲深き者……」
「口封じの担当者がロレッソの重要度を理解せずに重罪奴隷として横流し……か」
俺がコバックを見ると、コバックはロレッソの経歴書を破り捨てた。
「手が滑りました」
曲がった情報を渡された事に腹を立てたのだろう。
まぁ、外道を行く闇奴隷商だ。嘗められて当然なのだが、取引先の不備は怒って然るべきだ。だからコバックも明確な怒りを示さないのだろう。
「さぁ、我が主よ。解呪の魔法を」
「……はぁ、これはまだ実用段階じゃないんだ」
「わかっております。そのための人体実験だと」
「いや、わかってない。この【闇喰らい】の魔法は、対象に掛かってる闇魔法の全てを喰らう闇魔法だ。解呪の際、痛みや苦しみが伴う可能性もあるんだよ」
「実験に痛みは付き物です」
彼はこれまで一体どんな実験をしてきたのだろう。
「この忌まわしき呪いが解呪されるのであれば、多少の痛みや苦しみ等、私には塵も同義。そしてそれは、多くの奴隷が思っている事でしょう」
目を伏し、つらつらと言葉を吐くロレッソはとても活き活きとしていた。
胡散臭くはあるものの、彼以外の重罪奴隷を用意したのではもう時間がない。
俺は深い溜め息を吐き、静かにロレッソへ歩み寄る。
そして鎖を解くと、ロレッソはすっと立ち上がって俺を見た。
「どうなっても知らないからね」
「私は重罪奴隷。何を迷う事がありましょう」
遂には自分を重罪だと偽ったロレッソの目には、強い意思があった。
これ以上は何を言っても無駄だと思い、俺は彼に【闇喰らい】の魔法を発動したのだった。
「……? おかしな事を言いますね。まるで、これからそれを体現しようとしているかのようだ」
「そのつもりだったんだけど、どうも時間が足りないみたい」
俺が苦笑しながら言うと、ロレッソは首を傾げ俺に聞いた。
「……どういう事ですか?」
「申し訳ありませんでした、ミケラルド様。私の精査が甘かったが故に……」
コバックが謝る事で、ロレッソは更に疑問を持つ。
「何故、奴隷商のあなたが彼に謝罪を?」
「……ミケラルド様の言う通り、お前は重犯罪人ではないようだ」
コバックがその説明をすると、ロレッソはまた俺を見た。
「体面的な罪の重さではなく、本物の犯罪者を求めているその理由を知りたいのですが」
「俺はね、卑怯者なんだよ。これからしでかす事に、少しでも自分の罪の意識が和らぐ事を期待して、相手に重罪人を選んだに過ぎないんだ」
「一体……貴方は何をしようと?」
「別に、この国にいる多くの貴族と変わる事はない」
「っ! 【人体実験】っ!」
なるほど、このロレッソという男、かなりの切れ者だ。
この少ない情報で、そこまで考える思考力、そして判断力。鎖に繋がれても尚、動じない胆力。どれをとっても素晴らしい。
「まさか貴方は……奴隷契約の解除を試みようとっ!?」
「凄いね。まさかそこまで読むとは思わなかったよ」
「奴隷の王、重罪奴隷、人体実験、更には戦争間近のこの時期という四つの理由が重なっては、貴方が起こしうる行動は一つに絞られる」
「優秀だね。どう? ミナジリ共和国で働く気ない?」
「……魔族が営む国家で、でしょうか」
「っ!」
凄いな、このロレッソという男。
宦官とはいえ、どれだけの情報を集めていたんだ?
ミナジリ共和国が戦時下にある理由は二つ、勇者を匿い、魔族との交流があるという事だけ。公に公表されているのはそれだけなのだ。
リプトゥア国の中枢で、ミナジリ共和国に魔族との接点があるという事実が広まったのは、つい最近。つまり彼は、それ以前から魔族との繋がりをミナジリ共和国に感じていた。若しくは調べていた?
「……何にせよ、コバックが用意する奴隷なだけはあるね」
そうだった、コバックは奴隷商でも闇奴隷商人。
彼が受け持つのは、表で取引されない奴隷なのだ。
つまり、彼は闇奴隷商に渡されるべき……【重要人物】。
「お引き受けしましょう」
「……え、今何て?」
「人体実験、及びミナジリ共和国での従事。お引き受けすると言ったのです」
「いや、流石にそれは……――」
「――今は、悩んでいる場合ではないのでは?」
ロレッソの判断力は異常とも言えた。
「おそらく、人体実験の内容は奴隷契約の解呪。リプトゥア国とミナジリ共和国が戦争直前だというのに、ミナジリ共和国の元首自らリプトゥア国に来たのには、解呪の魔法がほぼ完成したから。しかし、ミナジリ共和国には奴隷と呼べる者がいない。だから人体実験用に重罪奴隷が必要だった。そういう事でしょう」
「……顔を隠しておけばよかったと後悔してるよ」
「吸血鬼の異能――【チェンジ】……ですか?」
「お手上げだね」
俺は小さく両手を上げ、ロレッソに完敗の意を示した。
コバックが腰元の剣に手を添えながら俺を見る。
「いや、いい。素晴らしい人材を用意してくれたね」
「しかし、ミケラルド様。この者は知り過ぎています」
「それはこちらの落ち度。それに、リプトゥア国の方がよく知ってるって事でもあるでしょう?」
俺がちらりとロレッソを見ると、ロレッソは静かに教えてくれた。その正体を。
「ゲオルグ王が直轄、作戦統括室元室長ロレッソにございます」
「……なるほど、闇商人と言えどその情報は渡せないか」
「本来であれば私はすぐに殺されるべきでした。事実、ゲオルグ王からの命は私の口封じ。しかし、人とは欲深き者……」
「口封じの担当者がロレッソの重要度を理解せずに重罪奴隷として横流し……か」
俺がコバックを見ると、コバックはロレッソの経歴書を破り捨てた。
「手が滑りました」
曲がった情報を渡された事に腹を立てたのだろう。
まぁ、外道を行く闇奴隷商だ。嘗められて当然なのだが、取引先の不備は怒って然るべきだ。だからコバックも明確な怒りを示さないのだろう。
「さぁ、我が主よ。解呪の魔法を」
「……はぁ、これはまだ実用段階じゃないんだ」
「わかっております。そのための人体実験だと」
「いや、わかってない。この【闇喰らい】の魔法は、対象に掛かってる闇魔法の全てを喰らう闇魔法だ。解呪の際、痛みや苦しみが伴う可能性もあるんだよ」
「実験に痛みは付き物です」
彼はこれまで一体どんな実験をしてきたのだろう。
「この忌まわしき呪いが解呪されるのであれば、多少の痛みや苦しみ等、私には塵も同義。そしてそれは、多くの奴隷が思っている事でしょう」
目を伏し、つらつらと言葉を吐くロレッソはとても活き活きとしていた。
胡散臭くはあるものの、彼以外の重罪奴隷を用意したのではもう時間がない。
俺は深い溜め息を吐き、静かにロレッソへ歩み寄る。
そして鎖を解くと、ロレッソはすっと立ち上がって俺を見た。
「どうなっても知らないからね」
「私は重罪奴隷。何を迷う事がありましょう」
遂には自分を重罪だと偽ったロレッソの目には、強い意思があった。
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