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第一部
その297 ミケラルドの領域
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この聖女アリスの場合はどうなのかわからないが、俺の場合、正直今回の依頼に関しては少々乗り気である。
何故なら彼女の成長は今後の世界の役に立つのだから。
そう、これは決して彼女のためではない。今後の世界のための話である。
魔王が復活すれば【聖女】の役割は【勇者】と対を成す程に重要だ。
当然、自分の成長も絶対だが、この世にはどうしようもない理不尽だったり理不尽だったりがあるのだ。
例えば、勇者しか魔王を倒せないような世界の不具合があった時には、俺はこの世界の設計者に対してカスタマーサポートを通さずクレームを入れたくなるだろう。そう、そんな事がないとも限らないのだ。
よって、勇者の成長と聖女の成長を助ける事に関しては、俺としても賛成という訳だ。
ガタンと立ち上がる聖女アリスが、胸元のナプキンをバンとテーブルに置く。
名残惜しそうにエルフでマカロン――略してエフロンを見ながらも俺を睨む。
「ミケラルドさん!」
「はい?」
「サポートをしてと言いましたが、私の言うサポートはこういう事じゃありません!」
ひょっとして下のお世話の方だろうか?
いや、どうもそうは見えない。
「具体的には?」
「ミケラルドさんが戦い! 私が後方支援をするような! そんなサポートを求めてます!」
それはサポートというよりメインでは?
そう思ってしまうものの、つまるところ、彼女は俺に前衛に立って欲しいと言ってるのだ。
念のため確認してみよう。
「私が前衛で、アリスさんが後衛。そういう事で?」
「よかったです! ちゃんと伝わりました!」
俺の言葉をなぞってるあたり、この一日で彼女も随分成長したものだ。
しかし、俺としてはこれは懸念事項となる。彼女の成長がではない。俺が前衛に立つ事がだ。
◇◆◇ ◆◇◆
「はい終わりー。宝箱が空だったのは残念ですが、お疲れ様です! 帰って打ち上げでもします?」
爽やかな笑顔を振りまき、俺は聖女アリスに言った。
杖を持ち、俯くアリスがワナワナと震えている。決壊の時まで三、二、一……はい。
「ちっがーうっ!!」
まぁ、これは予想の範囲内の話である。
「そうじゃない! いえ、こうじゃないんです! ミケラルドさんが一瞬で勝負つけちゃうから私何もやってないじゃないですか!」
「そんな事ありません!」
「へ? わ、私何かしてました!?」
「後ろでオロオロするアリスさんがとても良かったです!」
正直、ミナジリ共和国のマスコットキャラクターとして常駐して欲しいくらいだ。
「だから! そういうふざけた態度がそもそもおかしいんですって! 私は【聖加護】のコントロールが出来るようになりたいんです! これじゃずっと出来ないままじゃないですかっ!」
「え? だって今までそうやって出来なかったんですよね?」
「ぐっ」
「ならいつもと違うやり方をする方が建設的では?」
「そ、それがこれだと!?」
「何もしないのも手……というのもおかしいですが、SSの冒険者の実力を間近で見るのも勉強だと思いまして、はい」
じとりと見るアリスの目も中々いいものだ。
ナタリーとは違った可愛さを感じてしまう。
「……ミケラルドさんって本当にSSなんですか?」
俺はアーダインの許可証をもう一度ペラリと見せる。
「そうじゃないです! 私が言ってるのは実力の話です!」
「あー。……んー、その内世間に広まるだろうから言っておきます。この前イヅナさんに勝ちました」
「へ?」
「剣神イヅナさんに勝ったんですよ。今回のSSの称号も、イヅナさんとオベイルさんが推薦してくれたかららしいですよ。異例の大出世ですね♪」
「なんですってぇええええええ!?」
昭和的なヒロイン像にピッタリだな、この人。
聖女アリスは俺の胸倉をぐわしと掴み、ぶんぶんと振った。
「剣神イヅナっていえば、単身の実力で言えば世界最強と言われてる方ですよ! そんな人に勝ったとか本当ですか!? 嘘だったら承知しませんからね! でもでも、アーダインさんのあの話し方からして本当なのかも! え? え!? 何で!? 何でこんな存在Xが!?」
こんな時に【聖加護】の能力が発動しなくてもいいのだが、発動してしまったのだから仕方ない。
俺の胸には文字通り電流みたいな衝撃が走り、ところどころに火傷を負いながらも笑顔を保ち続けた。世界は聖女のために無言と笑顔を貫く、俺のこの功績をもっと称えてもいいんじゃないかと思う程の献身である。
ところで、存在Xってナニ?
「はぁ……はぁ……はぁ……」
腕に乳酸が溜まったのか、【聖加護】行使による疲れか、或いはそのどちらもなのかはわからないが、彼女は肩で息をしていた。
「お疲れ様です。この調子で沢山【聖加護】使っていきましょう♪」
こうやって聖女を煽る事で力を使えるようにするという手もあるんじゃないか?
今時、世界の人間愛せとか無理な話だと思うけど、皇后アイビスって聖女か何かなの?
「え? 私今使えてたんですか?」
「ほんの少し」
「な、何でミケラルドさんにそんな事がわかるんですか!」
「光魔法の一つで、【聖加護チェッカー】というのがありましてね。それを使っただけです」
大嘘ですけど。
「そんな魔法が……!」
聖女はヒロインとして扱われがちだが、彼女はチョロイン枠の子かもしれない。
何故なら彼女の成長は今後の世界の役に立つのだから。
そう、これは決して彼女のためではない。今後の世界のための話である。
魔王が復活すれば【聖女】の役割は【勇者】と対を成す程に重要だ。
当然、自分の成長も絶対だが、この世にはどうしようもない理不尽だったり理不尽だったりがあるのだ。
例えば、勇者しか魔王を倒せないような世界の不具合があった時には、俺はこの世界の設計者に対してカスタマーサポートを通さずクレームを入れたくなるだろう。そう、そんな事がないとも限らないのだ。
よって、勇者の成長と聖女の成長を助ける事に関しては、俺としても賛成という訳だ。
ガタンと立ち上がる聖女アリスが、胸元のナプキンをバンとテーブルに置く。
名残惜しそうにエルフでマカロン――略してエフロンを見ながらも俺を睨む。
「ミケラルドさん!」
「はい?」
「サポートをしてと言いましたが、私の言うサポートはこういう事じゃありません!」
ひょっとして下のお世話の方だろうか?
いや、どうもそうは見えない。
「具体的には?」
「ミケラルドさんが戦い! 私が後方支援をするような! そんなサポートを求めてます!」
それはサポートというよりメインでは?
そう思ってしまうものの、つまるところ、彼女は俺に前衛に立って欲しいと言ってるのだ。
念のため確認してみよう。
「私が前衛で、アリスさんが後衛。そういう事で?」
「よかったです! ちゃんと伝わりました!」
俺の言葉をなぞってるあたり、この一日で彼女も随分成長したものだ。
しかし、俺としてはこれは懸念事項となる。彼女の成長がではない。俺が前衛に立つ事がだ。
◇◆◇ ◆◇◆
「はい終わりー。宝箱が空だったのは残念ですが、お疲れ様です! 帰って打ち上げでもします?」
爽やかな笑顔を振りまき、俺は聖女アリスに言った。
杖を持ち、俯くアリスがワナワナと震えている。決壊の時まで三、二、一……はい。
「ちっがーうっ!!」
まぁ、これは予想の範囲内の話である。
「そうじゃない! いえ、こうじゃないんです! ミケラルドさんが一瞬で勝負つけちゃうから私何もやってないじゃないですか!」
「そんな事ありません!」
「へ? わ、私何かしてました!?」
「後ろでオロオロするアリスさんがとても良かったです!」
正直、ミナジリ共和国のマスコットキャラクターとして常駐して欲しいくらいだ。
「だから! そういうふざけた態度がそもそもおかしいんですって! 私は【聖加護】のコントロールが出来るようになりたいんです! これじゃずっと出来ないままじゃないですかっ!」
「え? だって今までそうやって出来なかったんですよね?」
「ぐっ」
「ならいつもと違うやり方をする方が建設的では?」
「そ、それがこれだと!?」
「何もしないのも手……というのもおかしいですが、SSの冒険者の実力を間近で見るのも勉強だと思いまして、はい」
じとりと見るアリスの目も中々いいものだ。
ナタリーとは違った可愛さを感じてしまう。
「……ミケラルドさんって本当にSSなんですか?」
俺はアーダインの許可証をもう一度ペラリと見せる。
「そうじゃないです! 私が言ってるのは実力の話です!」
「あー。……んー、その内世間に広まるだろうから言っておきます。この前イヅナさんに勝ちました」
「へ?」
「剣神イヅナさんに勝ったんですよ。今回のSSの称号も、イヅナさんとオベイルさんが推薦してくれたかららしいですよ。異例の大出世ですね♪」
「なんですってぇええええええ!?」
昭和的なヒロイン像にピッタリだな、この人。
聖女アリスは俺の胸倉をぐわしと掴み、ぶんぶんと振った。
「剣神イヅナっていえば、単身の実力で言えば世界最強と言われてる方ですよ! そんな人に勝ったとか本当ですか!? 嘘だったら承知しませんからね! でもでも、アーダインさんのあの話し方からして本当なのかも! え? え!? 何で!? 何でこんな存在Xが!?」
こんな時に【聖加護】の能力が発動しなくてもいいのだが、発動してしまったのだから仕方ない。
俺の胸には文字通り電流みたいな衝撃が走り、ところどころに火傷を負いながらも笑顔を保ち続けた。世界は聖女のために無言と笑顔を貫く、俺のこの功績をもっと称えてもいいんじゃないかと思う程の献身である。
ところで、存在Xってナニ?
「はぁ……はぁ……はぁ……」
腕に乳酸が溜まったのか、【聖加護】行使による疲れか、或いはそのどちらもなのかはわからないが、彼女は肩で息をしていた。
「お疲れ様です。この調子で沢山【聖加護】使っていきましょう♪」
こうやって聖女を煽る事で力を使えるようにするという手もあるんじゃないか?
今時、世界の人間愛せとか無理な話だと思うけど、皇后アイビスって聖女か何かなの?
「え? 私今使えてたんですか?」
「ほんの少し」
「な、何でミケラルドさんにそんな事がわかるんですか!」
「光魔法の一つで、【聖加護チェッカー】というのがありましてね。それを使っただけです」
大嘘ですけど。
「そんな魔法が……!」
聖女はヒロインとして扱われがちだが、彼女はチョロイン枠の子かもしれない。
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