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第一部
その288 変なおじさん
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いや、言わないけど、あの状況であんな事言われたら世代として嬉しくなっちゃうじゃないか。
大人しく捕まっちゃったりするじゃないか。
警邏隊の取調室で色々聞かれたりしちゃうじゃないか。
「変なお兄さん、そろそろ口を開けてくれないかね?」
「違います! 変なおじさんなんです!」
「私にはどう見ても二十前後のお兄さんに見えるがね?」
ダメだ、このおっさんには何言っても通じない。
溜め息を吐いた警邏隊のチョビ髭おっさんは、一度天井を見てから声を落として言った。
「もう帰ってもいいぞ」
「え? 尋問は?」
「被害者が消えてしまったからね。証言がない以上、壁に立っていた不審者……としか言えないんだ。まぁどうせあの娘はケルベロスの末端構成員だろうからな。ここに来られる程綺麗な身体はしてないと思うよ」
「ケルベロス?」
また厨二的な名前だが、構成員となると何らかの組織という事だろうか。
「何だい、お兄さん法王国は初めてかい?」
「えぇ」
「この法王国には二つの裏組織があるんだ」
観光客だと思っている俺に話すレベルだと、それは最早表組織なのでは?
「一つはケルベロス。町の南を根城にしてるって話だ」
なるほど、詳細は不明って訳か。
「もう一つはグレーターデーモン。町の北を根城にしてるそうだ。この二つの組織は非常に狡猾でね。さっきみたいな子供に犯罪をさせて金を集め、幹部は矢面に立たないって話だ。あんなところにいたからお兄さんが集金人かとも思ったんだけど……その顔は初めて聞いたって顔だねぇ」
まぁ、これだけ大きな国ってなると、全てを管理するのは難しいか。
ざっと見てリーガル国の数倍あるしな。人口は百万人規模なのでは?
そんな法王国がよくも小国のミナジリ共和国と同じ目線に立って話してくれたものだ。うんうんと頷きながら俺は警邏隊の詰め所を出る。
さっきのセリスという女の子にもう一度会って話を聞きたいところだが、この大都市から女の子一人探すのは無理があるというもの。犯罪組織の話を聞けただけよしとするか。
そう自分を納得させ、俺は冒険者ギルドへ向かったのだった。
◇◆◇ ◆◇◆
「へ?」
「おめでとうございます、ミケラルド様。今回の報告を以てSSへ昇格致しました」
簡単な報告故に窓口で報告したのが間違いだった。
一気にどよめく冒険者ギルド内。
ここは法王国の冒険者ギルド。SSになる冒険者がこんなにあほ面してていいのか。いや、否だ。オベイルみたいに不敵な表情にするか、イヅナみたいに達観した表情となるか、はたまた皇后アイビスみたいにSSになって当然という顔をすればいいのか疑問だが、最高峰とも言える冒険者ギルドで、俺はSS昇格の宣告を受けてしまった。やはり、味方の多いシェンドかミナジリで報告すればよかったか。
エクソシストして、オリハルコンの輸送任務して、勇者の剣運んで、自分の手紙の郵便配達しただけでSSになれるのだ。本当にこれでいいのだろうか。
「おい、あれって確か……立国したばかりのミナジリ共和国のトップだろ? つい先日ランクSになったばかりだろ? 何だ、金でも積んだのか?」
「人聞き悪い事言うんじゃねーよ。ポッと出とは言えお偉い様だ。金じゃねぇよ。さぞかしたかーい徳を積んだんだろうよ」
「それってつまり、金って事だろ?」
「はっ、SSって称号しか見えてねぇやつにはわからねーんだろうよ。重要なのは称号じゃなく冒険者然とした心構えだってな」
慣れてない場所のせいか、やっかみが多いのはどこも同じか。
特にこの二人の男は声が大きいな。
陰で言わず、面と向かって言ってくれれば対処出来るのだが、こういう場合は聞き流すに限るな。
「ほぉ? 冒険者ギルドは金を積めばランクを簡単に上げてくれるのか?」
と、聞こえてきたのは別の場所からの声だった。
「「え?」」
二人の男が見るのはほぼ天井という高い位置。
正直、ビックリする程でかい。サイクロプスの子供なんじゃないかってくらいでかい。
オベイルより二回り以上も大きな巨躯が、二人の男に近づく。
「教えてくれんか? どこに金を積めばランクを上げてくれるのかを」
「あ、いや……」
「そうは言ってないかと……」
途端に口籠る男たち。
俺は受付のカウンターに肘を置き、受付員に聞く。
「あの人どなたです?」
「当ギルドのギルドマスターです」
「……ん? 確かここのギルドマスターって本部のトップじゃ……?」
「えぇ、総括ギルドマスターとも呼ばれています」
それって確か、さっき法王クルスとの会話の中に出てきた人では?
「んん? もしあるのであれば、教えて欲しいのだが?」
鋭い眼光、ありゃちょっと怒ってるな。
まぁ自分の会社が馬鹿にされてるのだ。怒らない方がおかしいだろう。
「し、知らないです」
「聞いた事もない、よな?」
「あぁ、うん。です」
「なるほど。自由な発言大いに結構。冒険者だからな。だが、証拠もなく小言を言う冒険者と、その小言を耳に入れながらも沈黙を選ぶ冒険者。君が言う冒険者然としているのは……はて、どちらかな?」
とんでもない圧力。これは魔力というより気当たりに近い。
仕方ない、そろそろ当人が絡んでも怒らないだろう。
そう思い、俺は冒険者ギルド本部総括ギルドマスター――【アーダイン】に声を掛ける。
「すみません」
「む?」
「法王白金貨千枚でSSSの称号売ってくれませんか?」
とりあえず、念のため、一応聞いてみよう。
大人しく捕まっちゃったりするじゃないか。
警邏隊の取調室で色々聞かれたりしちゃうじゃないか。
「変なお兄さん、そろそろ口を開けてくれないかね?」
「違います! 変なおじさんなんです!」
「私にはどう見ても二十前後のお兄さんに見えるがね?」
ダメだ、このおっさんには何言っても通じない。
溜め息を吐いた警邏隊のチョビ髭おっさんは、一度天井を見てから声を落として言った。
「もう帰ってもいいぞ」
「え? 尋問は?」
「被害者が消えてしまったからね。証言がない以上、壁に立っていた不審者……としか言えないんだ。まぁどうせあの娘はケルベロスの末端構成員だろうからな。ここに来られる程綺麗な身体はしてないと思うよ」
「ケルベロス?」
また厨二的な名前だが、構成員となると何らかの組織という事だろうか。
「何だい、お兄さん法王国は初めてかい?」
「えぇ」
「この法王国には二つの裏組織があるんだ」
観光客だと思っている俺に話すレベルだと、それは最早表組織なのでは?
「一つはケルベロス。町の南を根城にしてるって話だ」
なるほど、詳細は不明って訳か。
「もう一つはグレーターデーモン。町の北を根城にしてるそうだ。この二つの組織は非常に狡猾でね。さっきみたいな子供に犯罪をさせて金を集め、幹部は矢面に立たないって話だ。あんなところにいたからお兄さんが集金人かとも思ったんだけど……その顔は初めて聞いたって顔だねぇ」
まぁ、これだけ大きな国ってなると、全てを管理するのは難しいか。
ざっと見てリーガル国の数倍あるしな。人口は百万人規模なのでは?
そんな法王国がよくも小国のミナジリ共和国と同じ目線に立って話してくれたものだ。うんうんと頷きながら俺は警邏隊の詰め所を出る。
さっきのセリスという女の子にもう一度会って話を聞きたいところだが、この大都市から女の子一人探すのは無理があるというもの。犯罪組織の話を聞けただけよしとするか。
そう自分を納得させ、俺は冒険者ギルドへ向かったのだった。
◇◆◇ ◆◇◆
「へ?」
「おめでとうございます、ミケラルド様。今回の報告を以てSSへ昇格致しました」
簡単な報告故に窓口で報告したのが間違いだった。
一気にどよめく冒険者ギルド内。
ここは法王国の冒険者ギルド。SSになる冒険者がこんなにあほ面してていいのか。いや、否だ。オベイルみたいに不敵な表情にするか、イヅナみたいに達観した表情となるか、はたまた皇后アイビスみたいにSSになって当然という顔をすればいいのか疑問だが、最高峰とも言える冒険者ギルドで、俺はSS昇格の宣告を受けてしまった。やはり、味方の多いシェンドかミナジリで報告すればよかったか。
エクソシストして、オリハルコンの輸送任務して、勇者の剣運んで、自分の手紙の郵便配達しただけでSSになれるのだ。本当にこれでいいのだろうか。
「おい、あれって確か……立国したばかりのミナジリ共和国のトップだろ? つい先日ランクSになったばかりだろ? 何だ、金でも積んだのか?」
「人聞き悪い事言うんじゃねーよ。ポッと出とは言えお偉い様だ。金じゃねぇよ。さぞかしたかーい徳を積んだんだろうよ」
「それってつまり、金って事だろ?」
「はっ、SSって称号しか見えてねぇやつにはわからねーんだろうよ。重要なのは称号じゃなく冒険者然とした心構えだってな」
慣れてない場所のせいか、やっかみが多いのはどこも同じか。
特にこの二人の男は声が大きいな。
陰で言わず、面と向かって言ってくれれば対処出来るのだが、こういう場合は聞き流すに限るな。
「ほぉ? 冒険者ギルドは金を積めばランクを簡単に上げてくれるのか?」
と、聞こえてきたのは別の場所からの声だった。
「「え?」」
二人の男が見るのはほぼ天井という高い位置。
正直、ビックリする程でかい。サイクロプスの子供なんじゃないかってくらいでかい。
オベイルより二回り以上も大きな巨躯が、二人の男に近づく。
「教えてくれんか? どこに金を積めばランクを上げてくれるのかを」
「あ、いや……」
「そうは言ってないかと……」
途端に口籠る男たち。
俺は受付のカウンターに肘を置き、受付員に聞く。
「あの人どなたです?」
「当ギルドのギルドマスターです」
「……ん? 確かここのギルドマスターって本部のトップじゃ……?」
「えぇ、総括ギルドマスターとも呼ばれています」
それって確か、さっき法王クルスとの会話の中に出てきた人では?
「んん? もしあるのであれば、教えて欲しいのだが?」
鋭い眼光、ありゃちょっと怒ってるな。
まぁ自分の会社が馬鹿にされてるのだ。怒らない方がおかしいだろう。
「し、知らないです」
「聞いた事もない、よな?」
「あぁ、うん。です」
「なるほど。自由な発言大いに結構。冒険者だからな。だが、証拠もなく小言を言う冒険者と、その小言を耳に入れながらも沈黙を選ぶ冒険者。君が言う冒険者然としているのは……はて、どちらかな?」
とんでもない圧力。これは魔力というより気当たりに近い。
仕方ない、そろそろ当人が絡んでも怒らないだろう。
そう思い、俺は冒険者ギルド本部総括ギルドマスター――【アーダイン】に声を掛ける。
「すみません」
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