上 下
276 / 566
第一部

その275 オベイルの質問

しおりを挟む
「ウチの硬貨ですね。ガンドフにも出回り始めてるとは驚きです」

 ミナジリ銀硬貨をテーブルに置き、オベイルの言葉を待つ。
 すると、オベイルはそのテーブルに肘を突いて声を落として言ったのだ。

「こいつは突拍子もない話だが……」

 そんな前置きを述べ、オベイルは一度天井を見てから続ける。

「ミナジリ共和国、もしかしてミケラルドの背後バックには龍族が付いているのか?」

 おっと、当たらずとも遠からず。
 俺は硬貨に彫られた水龍リバイアタンにトンと指を置き答える。

「その理由がこれだと?」
「伝説とまで言われる水龍リバイアタン、ミナジリ共和国の紋章にそれが描かれる理由、そして何よりお前の護衛の一人」

 まぁ、ジェイルではないよな。

「あのリィたんって女、その名前。流石に安直過ぎて疑いたくもなくなるが、あの戦闘力を間近で見りゃ誰もが信じるだろうよ。ヤツがそう、、だってな」

 安直とは心外だな、ストレートと言って欲しい。
 何故ならあのニックネームはナタリーが一瞬で決めたものなのだから。

「……そう、とは?」
「全部を語らせる気か?」
「そういう場だと思っているので」
「……ミケラルド、俺様はな、正直お前の事が気に入っている」
「それは嬉しい事ですね」

 直後、オベイルの視線がほんの少し鋭くなる。

「だがな、お前のそういうところは嫌いだ」

 そう、ほんの少しだけ。

「私は一国の元首、それに元々商人です。他を守るために嫌われるのも仕事の内ですよ」
「そういう風に、もっともらしい理屈をこねるところも嫌いだ」
「貴重なお言葉という事で、今後の参考にさせて頂きます」
「あー言えばこう言うところもな」
「オウム返しよりはマシかと」
「チッ」

 やたらどでかい舌打ちだった。
 まぁ、ここまで煽れば少しは怒るか。

「……リィたんは水龍リバイアタン……違うか?」

 なるほど、やはり踏み込んで来るか。
 俺がそれを答えようか迷っていた時、個室にノック音が響く。
 入って来たのは、当然注文をしたウェイター。
 俺とオベイルの飲み物を配膳し、静かに頭を下げて去って行く。
 というより逃げて行った。配膳したところまでは流石プロだったな。
 殺気こそないものの、オベイルの迫力は来店時とは完全に別物だったからだ。
 彼は、そんな嫌な空気を感じとったのだろう。
 まったく、料理を注文するのはいつになる事やら……。

「……答えが返ってくると思ったんですか?」
「答えないつもりかよ?」
「別に、そんなつもりはありませんよ。ただ一つ、先に答えて頂きたい事があるだけです」
「……何だよ?」

 不機嫌そうな顔をしてオベイルは、腕を組んでからすんと鼻息を吐いた。

「この答えを知った後、オベイルさんはどうするつもりですか?」
「どういう意味だよ?」
「そのままの意味ですよ。当然、ミナジリ共和国は誰がいらしても原則拒否する事はありません。ただ、その相手がSSダブル剣鬼けんきオベイル……ともなると、こちらも慎重にならざるを得ないんですよ」
「入国拒否ってやつか」
「いえ、存在そのものをね……」
「…………澄ました顔でとんでもねぇ事言うな、お前」
「当然の警戒ですよ。こちらは立国したばかりの身、剣鬼けんきオベイルに勝てる戦士を用意出来ても、局所的に動かれるとミナジリ共和国は打撃を受ける。だからこその用心です。そして私は、この選択が間違っているとは思わない」
「どうやらその部分は、ミケラルドとしての言葉じゃねぇみたいだな」
「当然、国のトップとしての答えです」
「なるほどな。だったら俺様も答えは慎重にならなくちゃいけない。そういう事だな」
「そういう事です」

 すると、オベイルはエールが入ったジョッキを持ち、そのジョッキと俺を交互に見た。

「乾杯……は、出来ないよな」
「今のところは」

 そしてオベイルはエールで数回喉を鳴らした後、静かにジョッキを置いた。

「こちらの答えもお前と同じだ」
「というと?」
「どんな答えを聞いたとしても、現状敵対する事はないだろう」
「現状、ですか?」
「おう、現状は、だ」
「ではその理由を聞きたいところです」
「あぁ? さっき言っただろう」
「……聞き逃したつもりはなかったんですけどねぇ?」

 首をかしげる俺に、オベイルも同じように首を傾げた。
 そして再度言った。

「お前のそういうところは嫌いだ」
「……嫌いなのが理由だと?」
「その前の話だっ」

 ちょっとムキになったオベイル。
 はて? その前の話? 一体何の事を言ってるんだ、この人は?

「嫌い以外の回答があっただろうが! 全部言わせんな!」

 声を荒げ、しかし少し恥ずかしそうに言うオベイルの顔を見て、俺はようやく思い出した。ほんの数分前の話を。

 ――――俺様はな、正直お前の事が気に入っている。

「……あ」

 その言葉を思い出した時、俺はきっと何とも言いようのない表情をしていただろう。
 そして、何とも言いようのない溜め息を吐いたのだ。

「何の溜め息だそれ」
「最近、男性にばかりモテるんですよ、私」

 直後、オベイルが立ち上がり俺を指指ゆびさす。

「俺様の『気に入ってる』はそういう意味じゃねぇからなっ!」
「わかってますよ。多分」
「っ! また嫌いなところが増えたぜ……!」
「おや、オベイルさんの存在拒否までまた近付きましたね」
「また一つ……」
「あー言えばこう言う部分は既にカウントされていたはずでは?」
「揚げ足をとる部分だ!」
「それじゃまず、乾杯からいかがでしょう? あ、これ美味しいですね」
「とか言いつつ飲んでんじゃねぇ!」
「オベイルさんだって先に飲んだでしょう? あ、さっきの答えですけどね、そうですよ」
「重々しく答えろや!」

 俺がくすりと笑い、オベイルが半笑いでテーブルを持ち上げた後、溜め息を吐いたウェイターが注文を取りに来た。流石プロである。
 何故ならあの張り詰めた空気は、いつの間にか消えていたのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

処理中です...