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第一部

その267 ガンドフ

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 翌朝、俺が最初に転移したのはガンドフだった。
 そう、俺はガンドフにもテレポートポイントを置いていたのだ。
 法王国の皇后アイビスと鍛冶師ガイアスが勇者の剣(仮)を造った後、済ませた一つの所用というのがガンドフの土地購入と新店舗の設置である。
 あれは剣神イヅナにストーキングされる前、いや、あの時もされていたのだが、流石にイヅナも店舗の中までは入って来なかった。
 だが、その店舗の中で消える訳にもいかないのがつらいところだ。
 彼にはまだ転移魔法の存在を知られる訳にはいかないからな。

「「何用だ!」」

 ドワーフの門番二人が槍を交差してガンドフ城への侵入を阻む。
 俺はギルドからの依頼表を前に出し名乗る。

「ランクS冒険者のミケラルドです。この度、新たに立国したミナジリ共和国からの書状を持って来ました。担当官吏かんりの方はおられるか?」

 すると、ドワーフ二人はギルドの依頼表をじっと見てから、俺の顔へ視線を移動させた。

「ミナジリ共和国ぅ? 聞かない名だな?」
「えぇ、そりゃ立国したばかりですからね」
「う~む……」
「先輩、どうしましょう?」
「ギルドからの依頼表は本物のようだ。これも仕事だ、いっちょ報告して来い」
「はい!」

 若いドワーフが場内へ駆けて行く。
 先輩ドワーフに奇異の視線で見られる事数分、若いドワーフが必死の形相で戻って来た。

「す! すすすす! すいませんでしたぁああああああああああああっ!」

 若いドワーフは跳躍と共に、先輩ドワーフの後頭部を掴み、着地と同時に二人で頭を下げたのだ。

「おい!? いきなりどういう――」
「――貴方様が先日ガンドフを救って下さったミケラルド様とは知らず、大変失礼な事を致しました!」
「うぇ!? こ、こいつは失礼を!!」

 いや、門番としてアレは当たり前の反応だと思うぞ。
 俺の名前は知ってても顔や姿を観たのはガンドフの兵士だけだ。
 門番なんて要職に付いていれば、戦場に出る機会も少ないだろうし、他の兵士との交流も少ない。
 彼らに俺の情報が伝わっていなくとも不思議ではない。

「まさかミケラルド様自らいらっしゃるとは思わず、何の歓待の準備もございません。どうか今しばらくお待ち頂けないでしょうか!?」
「私は今冒険者として来ています。そして、依頼もまだ完了していない身。この場に留まる訳にもいかないのです」

 というのが俺の言い分。

「そういう訳にもいきません! ここでミケラルド様に帰られたら私たちの首が飛びます! 何卒!」

 これは最早もはや命乞いともとれるお願いである。
 というか、当たり前なんだけどな。
 俺の家にブライアン王が冒険者としてやって来て、ダイモンが書状だけ受け取って返したとなれば、国際的にやばい。これはそういう話なのだ。
 だが、こうともとれる。
 ガンドフはちゃんとした歴史ある国家なのだと。
 ガンドフ城内へ案内された俺は、高官たちのおべっかにおべっかで返しつつその時を待った。

「ささ、ミケラルド様! 是非陛下の下へ!」

 謁見の間の準備、そしてガンドフの王――【ウェイド・ガンドフ】の準備が整ったようだ。
 俺は謁見の間へと向かい、彼の登場を待った。
 奥から響く足音。その音の間隔は正に王のものだった。
 速すぎもせず、そして遅すぎもせず。優雅な足音は王の見本のようだった。
 さて、今回はこれまでとは違う立場。
 ……と言いたいところだが、先程も言ったように俺は冒険者としてここにいる。

「「っ!?」」

 一瞬ざわついた謁見の間。
 何故なら俺はひざまずいて彼を待っていたのだから。
 ウェイド王の反応こそ見えないが、その空気が俺に知らせる。
 この異常事態を理解した高官たちが小声で俺に言う。

「ミ、ミケラルド様、どうかお顔を……!」

 だが、俺が動く事はない。
 正面から聞こえる着席音。ウェイドが王座に座り、俺を見ている事だろう。
 やがて沈黙はウェイド王によって破られる事となる。

「…………おもてを上げい」

 そう、俺がガンドフの王だとしてもこの言葉を選ぶ。
 この言葉以外にこの緊張状態を崩す事は出来ないからだ。
 顔を上げる俺が見るのはガンドフの国王――【ウェイド・ガンドフ】。
 大きい。ドワーフの平均身長は非常に低いものだが、彼は違う。まず身体そのものが人間とそう変わらない。ワインレッドの太い眉と豊かなひげ
 威厳ある瞳と適度な皺。歳の頃合いは人間換算で六十前後といったところか。
 そんなウェイド王のしかめっ面……ではない、あれは少々困っている顔だ。
 なるほど、あれだけ言ったんだが伝えきれなかったか。
 ならば、開口こそ許されていないが、冒険者の自由を利用させてもらうか。

「私の名はミケラルド・オード・ミナジリ。冒険者ギルドより依頼があり、陛下に書状をお運びした次第。何卒こちらを」

 勝手に名乗り、勝手に親書を前に出す。
 流石は王なのだろう。これだけでウェイド王は理解したようだった。

「……なるほど」

 ウェイド王は小さく手を上げ、俺の親書を高官に持って来させた。
 それを受け取ったウェイド王は、開いた親書と俺を交互に見ながら言ったのだ。

「うむ、相わかった。確かに受け取ったぞ。受領書を用意させる故、しばらく待っていろ」

 再びざわつく謁見の間。
 何故ならウェイド王は他国の王を跪かせたまま、素っ気無く応対したのだから。……というのは俺の素性が複雑過ぎるからだろう。

「ミケラルドといったな?」
「はっ」
「準備に時間がかかりそうだ。茶と菓子を用意させたのでしばらく休んでいくがいい。ランクS程の冒険者だ、其方そなたの武勇を聞いてみたいのだが、よいかね?」

 そうそう、話すなら別室だよね。
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