上 下
263 / 566
第一部

その262 雷龍シュガリオン

しおりを挟む
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

 世界を揺るがすかのような巨大な咆哮ほうこう

「しゃらくさい! おぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 それに対しリィたんがハルバードを振り払って叫ぶ。
 大気がバチバチと音を発し、俺とジェイルの緊張を高める。

「なるほど、五色の天災か……っ!」

 ジェイルの言葉通り、雷龍シュガリオンがミナジリ共和国へやって来ていたらと思うとゾッとする。龍族の咆哮……下手すればこれだけで民が死ぬ。
 それだけの威力を有している事は理解出来た。俺としてはとても理解したくないが。
 直後、リィたんが跳んだ。
 振りかぶられたハルバードと巨大な前脚。
 かち合った一瞬、弾ける音の衝撃波はまるで突風だった。
 だが、リィたんは言っていた。

 ――――なるほど、私がここにいるからこその相手という事か……!

 水を司る龍では雷龍相手は分が悪い。
 リィたんだけに任せる訳にはいかない。
 そう、俺たちは助け合ってこの場を乗り切らなくちゃいけない。

「「竜剣、咆哮っ!!」」

 俺とジェイルによる重き飛剣。
 飛ぶ斬撃は雷龍シュガリオンを的確に狙うも、

「ふんっ!」

 それは雷龍の尻尾によって簡単に弾かれてしまった。
 幾度もぶつかり合うリィたんとシュガリオンの攻撃は、瞬く間に周囲の地形を変えていく。

「ミック、行くぞ!」
「勿論っ!」

 ジェイルと共に駆ける俺。

「竜剣、剛翼っ!」

 ジェイルがシュガリオンの上部から、

「竜剣、鉤爪っ!」

 俺はシュガリオンの下部から攻撃する。
 ――――がしかし、俺の攻撃では傷一つ付かなかったのだ。

「っ! ハァアアアアアアアアアアアッ!!」

 次の瞬間、ジェイルがえた。
 ジェイルを取り巻く魔力の質が変わる。
 なるほど、これがジェイルの【覚醒】か。
 直後、ジェイルの一撃はそのまま上部から鱗の一枚を弾き飛ばしたのだ。

「さっすがウチのトカゲ師匠!」
「聞かなかった事にしておいてやる!」
「鱗一枚ではしゃぐな下郎っ!」

 シュガリオンが苛立ちめいた声で威嚇し、尻尾を揺らす。

「くっ、ぐぉおおっ!?」

 尻尾はジェイルを捉え、吹き飛んだ姿はまるで水面みなもに石が跳ねるかのようだった。

「ジェイルさん!」

 跳んでジェイルを追う俺の背後から、シュガリオンの尻尾が動く。

「行かせるとでも思ったか?」
「くっ! 全! 開! だっ!!」

 この一瞬に対し、的確な能力なんてあるはずもなかった。
 だから俺は全ての能力を発動し、打刀うちがたなでシュガリオンの尻尾を捉えた。
 ガキンとぶつかった衝撃はかつてないものだった。
 それは、リィたんとの訓練がまだ最終段階にない事を物語っているかのようだった。
 何とか耐えた。息も絶え絶えになりながらもギリギリで受け切った。
 着地した俺は、脱臼した腕をハメながらジェイルに近づく。

「ジェイルさん!」
「ミック、無事か?」

 倒れ、不動の状態でジェイルは俺を気遣った。

「どう見てもアナタのが重症だよ!」
「うむ、肋骨に肺、それと胃だな。その他骨が十数本折れている」

 俺は【ダークヒール】を発動しながらジェイルに補助魔法をかけていく。

「これでまた……戦える」
「まだ戦える、の間違いでは?」
「そうとも言うな」

 絶望とも言える状況下で俺たちがこんな軽口を言い合えるのは、きっと俺たちのこれまでがあったからだろう。
 再び駆け始めた俺たちの間に……リィたんが吹き飛んでくる。

「「っ! キャ、キャッチだ!」」

 二人でリィたんを受け止め、更に吹き飛びながらも何とか彼女を守り切る。

「すまんミック! 援護を!」
「おう! 傷一つ! いけそう!?」
「何とかやってみるさ!」

 いつもは頼もしいリィたんの言葉が、どこか自信に欠けていた。
 俺は勿論、ジェイルもそう感じた事だろう。
 だが、そんな事当たり前なのだ。相手はリィたんと同格の雷龍。
 たとえ三人がかりと言えど、戦力差があるとは言えない。
 なるほど、雷龍は剣鬼けんきのように戦闘が大好きみたいだな。
 嘆きの渓谷で隠居していたリィたんとは戦力そのものに差がある。
 俺たち二人でその戦力差を埋める。これが出来るかどうかが鍵だ。
 俺はリィたんに補助魔法を掛け、更に回復魔法を掛けた。

「三位一体か、面白い! 来い!」

 行きたくないが行くしかない。帰ってベッドに入って布団にくるまりたいが行くしかないのだ。俺とジェイルが駆け、リィたんが後方で力を溜める。

「「竜剣、稲妻っ!!」」
「遅い! 本物の稲妻を見せてやろう!」

 竜剣の中でも最速の剣は、文字通り稲妻の如き攻撃により簡単に跳ね返されてしまう。吹き飛ばされた俺たちの間を抜けるのはチームミナジリ最強の矛――リィたんの一撃。

「ハァアアアアアアアッ!!!!」
「ぬるいわぁっ!!」

 シュガリオンはそんなリィたんのハルバードを噛みとらえ、玩具の如く振り払う。
 武器を奪われてしまったと思ったリィたんだったが、そうじゃなかった。
 あれは作戦!?

「本命はコッチだっ!」

 握られた硬き拳が雷龍シュガリオンの顎を打つ。

「っ!?」

 だが、打ち抜くかと思った瞬間、リィたんの拳はピタリと止まってしまったのだ。

「……ふっ、狙いはよかったぞ、狙いはな?」

 あんなのどうやって倒すんだよ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

処理中です...