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第一部

その245 検証結果

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「えーっと、ここまでを整理すると……分裂体はミックの魔力から出来てる。ミックだけの言う事を聞いて、【テレパシー】でも応用が出来る。ちょっと挙動はおかしいけど、外見はミック。ミック自身が【チェンジ】で外見を変えたら、以降出した分裂体もその外見になる。ミックが触れて「戻れ」と指示すると、ミックの身体の中に消えて、服だけが残る…………う~ん、こんなところ?」
「うん、そんなところ」
「この子使えるの?」

 そう言いながらナタリーが分裂体の頭を撫でる。
 そう、分裂体は今、俺の命令によってナタリーを肩車しているのだ。
 重要なのは、常に爽やかスマイルを絶やさない事だ。

「か、影武者くらいには……使えるかな」
「二体目は出せないんだよね?」
「うん」
「あ、あれは? 戦闘能力っ」

 ずびしと俺を指差したナタリー。

「確かに、それは気になるとこだね。よし、ナタリーをおろせ」

 直後、分裂体の上半身がゆっくり倒れていく。
 まるで機械のようにお辞儀し、やがて半分に折れていく。
 新体操選手レベルの前屈だ。いや、関節がない分……気持ち悪い程に折りたたまれている。ちょっと前の携帯電話のようである。
 ナタリーが分裂体から下りると、すぐに元に戻る。

「よし、俺と戦え」

 新たなる指示により、拳を固め、ファイティングポーズをとる分裂体。
 駆けた直後、右手を振りかぶった分裂体。
 攻撃を難なく避けると、次はキックを繰り出す。
 俺はこれを足の付け根で止め、身体を使って分裂体の身体を押し出した。
 コテンと倒れた分裂体は、ゆらりとまた立ち上がり、再び攻撃を繰り返す。

「よし、止まれ」
「う~~~ん…………」

 ナタリーがそう唸るのもわかる。

「弱いな」
「運動神経がないお兄さんって感じだったね」
「何より攻撃中の笑顔が恐ろしい」
「ずっと笑ってるよね。変えられないの?」
「悲しい顔をしろ」

 なったのは一瞬。すぐにリセットしたかのように笑顔に戻る。

「お、怒った顔をしろ」

 やはり一瞬。漫画の二コマ目には笑顔になっている……そんな感じだ。

「細かな変化は難しいみたいだね」
「ぬぅ……当てが外れたな」
「どういう能力を期待してたの?」
「いや、身体を二つにすれば色々出来るでしょ。貴族やりながら冒険者やる感じ?」
「もうすぐ王様になるんだから、その時には面倒なお仕事は多少減ってるでしょう」
「ん~……でもトップになったらなったで忙しそうな気が……」
「大丈夫大丈夫! ミックなら出来る! うん!」

 ナタリーの自信は一体どこからくるのか、俺には皆目見当がつかなかったが、確かにその言葉には俺にもそう感じさせる何かがあった。
 そんなナタリーに背を押されながら、俺たちはミナジリ領に戻るのだった。

 ◇◆◇ ◆◇◆

 ふむ? こんなものか?

「お兄ちゃん何やってるの?」

 屋敷の裏にある俺の遊び場もとい作業場にやって来たのは、ダイモンの娘コリンだった。
 コリンは背後から俺の作業を覗き見ながら声を掛ける。

「鉄の……板?」
「硬貨の型だよ。最近手に入れた技工師の首輪ってマジックアイテムがね? 中々良い能力だってのも証明出来た。鍛冶ブラックスミスと合わせてこの技工テクニカルを発動させたら……ほら」

 型の中身を見せると、コリンは目を見開いた。

「わぁ! これリィたん!?」
「うん、っていうか水龍なんだけどコリン見たことあったっけ? リィたんの姿」
「うん、前にナタリーお姉ちゃんと一緒に水浴びに行った時、見せてもらったー!」

 おかしい、俺は水浴びに誘われていないぞ?
 いやまぁ、誘われる訳ないんだけどね。

「これで銅貨、銀貨、金貨、白金貨を造るんだ。繊細な型だからそう易々とは偽造されないぞ」
「ニセのお金って事ー?」
「そうそう。それにちょっと仕掛けもあるしね」
「え、どんなどんなっ!?」

 俺の手を握ったコリンは、その場でぴょんぴょこ跳ねながらその情報を求めた。
 だが、それを説明する前に、守衛の仕事と父親の仕事をしに来たダイモンが現れてしまったのだ。

「こらコリン。旦那を余り困らせるんじゃないぞ」
「むー、コリン、お兄ちゃんを困らせてないもん!」
「旦那からも言ってやってくだせぇ」
「困ってないね」
「ほらー!」
「そいつぁ俺が困っちまいまさぁ……」

 軽く頭を抱えたダイモンがわざとらしく言う。
 俺とコリンは、そんなダイモンを見て見合ってくすりと笑う。
 するとダイモンは切り口を変えたのだった。

「そろそろ夕飯の準備じゃないのか?」
「あ、そうだった! 今日はシチューだよー!」

 にこやかに駆けて行くコリンの背中を追う俺とダイモン。

「子供は成長が早いね~」
「シュッツ様の指導が良いんでしょう。最近じゃ俺が怒られっぱなしですわ、ははははっ」
「子供を見て親も成長するもんだよ」
「そらそうですな」
「最近困った事ある?」

 ダイモンの仕事は屋敷の守衛。
 些細な情報でも耳に入れておくべきだ。
 しかし、ダイモンは首を大きく横に振るばかりだ。

「な~んもねぇっす。平和過ぎて眠くなっちまいやすよ」
「じゃあ、嵐の前の静けさって事だね」
「怖い事言わないでくだせぇよ、旦那」
「ラジーンに聞いてるぞ、訓練頑張ってるんだってね?」
「ははは、腕っ節にしか自信がねぇもんで」
「それならその腕に期待してるよ」
「……へい! 精進しやす!」

 仰々しく敬礼したダイモンは、豪快に回れ右をした後、仕事に戻って行く。
 皆が前に進んでいる。だから俺も、立ち止まる訳にはいかないのだ。
 その翌日の事だった。
 首都リーガルのギルドマスターであるディックが、大汗をかきながら俺の下に一通の封書を持って来たのは。
 封書の蝋にはリーガル国の紋章。
 羊皮紙を贅沢に、そして綺麗に裁断し、丸められた封書を開く。
 中にあった文字は非常に簡潔かつ簡素な一文。
 リーガル国の王――ブライアン・フォン・リーガルの直筆。
 中央に書かれた「時は来た」の文字が意味するものとは。
 肩で息をするディックが俺に言う。

「いよいよか! いよいよなんだな、ミック!?」

 ここまで長かった。
 決して障害がなかった訳ではない。
 危ない目にもあったし、死にそうな思いもした。
 それでもめげずにやってこられたのはこの時のため。
 ――その時が来た。

 俺は顔を上げ、周囲にいる仲間たちに目をやった。

「皆、国造りだ」

 やって来た、立国の刻。
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