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第一部
その243 希望?
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『はははは! 流石ミナジリ卿、耳が早い』
『で、エルフさん方の尖兵についてなんですけど』
『おやおや? 尖兵などとは人聞きの悪い』
『いや、どう考えてもバルト商会の従業員よこそうとしてますよね?』
『彼らは冒険者ですよ。どの国でも自由に行き来出来る冒険者です、はい』
にゃろう。
勤勉で優秀な人間が今回のアドバイザー業務のノウハウを理解すれば、当然自国でも流用出来る。こちらとしてもそれは願ったり叶ったりなのだが、それは先々の話なのだ。
断じて初手から望んでいた訳ではないのだ。
『あぁ、そうだ。クレアが受講する予定なので是非宜しくお願い致します』
『ランクB冒険者ですよね!?』
『おや? 冒険者ギルドに問い合わせた時、受講資格の項目には抵触していないと確認しておりますが?』
くそ、そんな穴想定してないんだよ。
『はぁ……まぁ受けるのはいいんですけどね。本当に上を目指している方の邪魔にならないように頼みますよ……』
『シェルフの民が上を目指していないとお思いで?』
『いえ、多分向上心は誰よりも上だと思ってますよ』
何たってバルトが選んだ人たちなのだから。
『既に代書の手はずは整えております故、教科書の量産につきましては――』
『――あ、それは結構です』
『なっ!?』
『ミケラルド商店には活版印刷施設がありますので』
『ミ、ミナジリ卿! その活版印刷施設とやらの見学を申請したいのですが、いつでしたら可能か、是非伺いたく!』
『じゃ、お世話様~』
『ミケラルド殿! ミケラルド殿ぉ!? ミ――――』
よし、ほんの少しの仕返しは完了したか。
クロードの新聞も代書が大変だったからな。こちらの事業も進めておいてよかった。
とはいえ、やる事は山積みだ。
◇◆◇ ◆◇◆
「ミケラルドさん、机はいくつ必要ですか?」
「そうだね、とりあえず三人が座れる長めの机を十台くらいかな。合わせて椅子も」
「わかりました」
「よろしくね、ネム」
「いえいえ!」
◇◆◇ ◆◇◆
「ミケラルドさん、新規受講希望者が首都リーガルから四名」
「リーガルからですか、ニコルさん?」
「えぇ、しかしリーガル周辺のモンスターのせいでミナジリ領に向かうのが困難だと。早速【お迎えサービス】を利用したいそうです」
「わかりました。すぐにサッチさんを向かわせます」
「ありがとうございます」
◇◆◇ ◆◇◆
「ミケラルド殿!」
「これはアンドリュー殿! 本日はどのようなご用件で?」
「大使館の進捗はどうなっているかと思いまして」
「頂いた資料を元に着工開始しております。見て行かれますか?」
「是非に! 我が父、ギュスターブ辺境伯も楽しみにしております故!」
◇◆◇ ◆◇◆
「坊主、最近やたら鼠が増えたぞ。昨日もラジーンが三人。儂が二人じゃ」
「どこの鼠でした、グラムスさん?」
「リプトゥア国と法王国。闇じゃなかったのう」
「リプトゥア国はわかりますけど、何で法王国が?」
「さぁな、それだけ坊主が注目されてるって事じゃないのかのう?」
「ちゃんと放流しました?」
「うむ、ラジーンがたっぷりとお灸を据えた後にのう」
◇◆◇ ◆◇◆
「あ、店長」
「はい何でしょう、エメラさん?」
「商人ギルドの方がいらしてます」
「うぇ? 何でまた?」
「何でもイグドラシルの葉についてだとか」
「……見ない方ですね」
「はるばるリプトゥア国からいらしたそうです」
「つまりリプトゥア国の商人ギルド支部から来たって事か……」
「いかがします?」
「リプトゥアのお金も増やしたいところなので、話を聞きます。通してください」
「はい、お願いしまーす♪」
◇◆◇ ◆◇◆
「ふふふふ、さぁミック! 遊ぼう!」
「ぐっ、こればっかりは避けられない……か!」
「早速【津波】からおさらいだ!」
◇◆◇ ◆◇◆
「あぁ~~~~~……死ぬぅううううう……!」
ミケラルド商店二号店のカウンターにもたれかかりながら、俺は悲痛の叫びを零していた。
「無茶し過ぎなんだよ」
対面からカウンターに肘を預け、俺にそんな指摘を言うのは毛深い熊さんだった。
「えっと……誰だっけ?」
「マックスだよ! そんな急に忘れるなよっ!」
そうだった。
久しぶりの登場なもので、このクマックスを忘れてしまうところだった。
というか忘れてた。
「申し訳ございません。当店は既に閉店時間を過ぎております。またのご来店を心よりお待ちしておりますぅううう……」
「まずその挨拶に心がこもってないぞ」
「そう? 多分熊が相手だからだと思う」
「その点はもう突っ込まない事にする。しかし大変そうだな。仲間に代わってもらえる仕事はないのか?」
「んやー、既に色々やってもらってるよー? エメラさんはほぼ店長だし、クロードさんも俺を頼らないように動いてくれてるし、ナタリーとコリンなんて大人顔負けに動いてる」
「つまり、換えがきかない事以外はやってくれてるのか」
「シュッツさんも凄い仕事してるからほとんど確認事項だけなんだけど、それでも身体が足りない」
「分裂とか出来ないのか?」
「そんな器用な魔族がいたら苦労はない」
「だよなぁー。スライムとか見てるとすげぇーってたまになるけど……――って、どうしたんだよ、ミック? そんな真面目な顔して」
「いるの? スライム?」
「雑魚モンスターの代名詞だろ?」
「いや、だってギルドに依頼なかったし」
「危険がないからな。農作物を食べに来た時くらいだよ、面倒なのは。……で、何だその顔は?」
「【分裂】……出来るかもしれない」
それは、希望なのか野望なのか。
吸血鬼の吸血鬼による吸血鬼のためのスライム狩りを決意した俺だった。
『で、エルフさん方の尖兵についてなんですけど』
『おやおや? 尖兵などとは人聞きの悪い』
『いや、どう考えてもバルト商会の従業員よこそうとしてますよね?』
『彼らは冒険者ですよ。どの国でも自由に行き来出来る冒険者です、はい』
にゃろう。
勤勉で優秀な人間が今回のアドバイザー業務のノウハウを理解すれば、当然自国でも流用出来る。こちらとしてもそれは願ったり叶ったりなのだが、それは先々の話なのだ。
断じて初手から望んでいた訳ではないのだ。
『あぁ、そうだ。クレアが受講する予定なので是非宜しくお願い致します』
『ランクB冒険者ですよね!?』
『おや? 冒険者ギルドに問い合わせた時、受講資格の項目には抵触していないと確認しておりますが?』
くそ、そんな穴想定してないんだよ。
『はぁ……まぁ受けるのはいいんですけどね。本当に上を目指している方の邪魔にならないように頼みますよ……』
『シェルフの民が上を目指していないとお思いで?』
『いえ、多分向上心は誰よりも上だと思ってますよ』
何たってバルトが選んだ人たちなのだから。
『既に代書の手はずは整えております故、教科書の量産につきましては――』
『――あ、それは結構です』
『なっ!?』
『ミケラルド商店には活版印刷施設がありますので』
『ミ、ミナジリ卿! その活版印刷施設とやらの見学を申請したいのですが、いつでしたら可能か、是非伺いたく!』
『じゃ、お世話様~』
『ミケラルド殿! ミケラルド殿ぉ!? ミ――――』
よし、ほんの少しの仕返しは完了したか。
クロードの新聞も代書が大変だったからな。こちらの事業も進めておいてよかった。
とはいえ、やる事は山積みだ。
◇◆◇ ◆◇◆
「ミケラルドさん、机はいくつ必要ですか?」
「そうだね、とりあえず三人が座れる長めの机を十台くらいかな。合わせて椅子も」
「わかりました」
「よろしくね、ネム」
「いえいえ!」
◇◆◇ ◆◇◆
「ミケラルドさん、新規受講希望者が首都リーガルから四名」
「リーガルからですか、ニコルさん?」
「えぇ、しかしリーガル周辺のモンスターのせいでミナジリ領に向かうのが困難だと。早速【お迎えサービス】を利用したいそうです」
「わかりました。すぐにサッチさんを向かわせます」
「ありがとうございます」
◇◆◇ ◆◇◆
「ミケラルド殿!」
「これはアンドリュー殿! 本日はどのようなご用件で?」
「大使館の進捗はどうなっているかと思いまして」
「頂いた資料を元に着工開始しております。見て行かれますか?」
「是非に! 我が父、ギュスターブ辺境伯も楽しみにしております故!」
◇◆◇ ◆◇◆
「坊主、最近やたら鼠が増えたぞ。昨日もラジーンが三人。儂が二人じゃ」
「どこの鼠でした、グラムスさん?」
「リプトゥア国と法王国。闇じゃなかったのう」
「リプトゥア国はわかりますけど、何で法王国が?」
「さぁな、それだけ坊主が注目されてるって事じゃないのかのう?」
「ちゃんと放流しました?」
「うむ、ラジーンがたっぷりとお灸を据えた後にのう」
◇◆◇ ◆◇◆
「あ、店長」
「はい何でしょう、エメラさん?」
「商人ギルドの方がいらしてます」
「うぇ? 何でまた?」
「何でもイグドラシルの葉についてだとか」
「……見ない方ですね」
「はるばるリプトゥア国からいらしたそうです」
「つまりリプトゥア国の商人ギルド支部から来たって事か……」
「いかがします?」
「リプトゥアのお金も増やしたいところなので、話を聞きます。通してください」
「はい、お願いしまーす♪」
◇◆◇ ◆◇◆
「ふふふふ、さぁミック! 遊ぼう!」
「ぐっ、こればっかりは避けられない……か!」
「早速【津波】からおさらいだ!」
◇◆◇ ◆◇◆
「あぁ~~~~~……死ぬぅううううう……!」
ミケラルド商店二号店のカウンターにもたれかかりながら、俺は悲痛の叫びを零していた。
「無茶し過ぎなんだよ」
対面からカウンターに肘を預け、俺にそんな指摘を言うのは毛深い熊さんだった。
「えっと……誰だっけ?」
「マックスだよ! そんな急に忘れるなよっ!」
そうだった。
久しぶりの登場なもので、このクマックスを忘れてしまうところだった。
というか忘れてた。
「申し訳ございません。当店は既に閉店時間を過ぎております。またのご来店を心よりお待ちしておりますぅううう……」
「まずその挨拶に心がこもってないぞ」
「そう? 多分熊が相手だからだと思う」
「その点はもう突っ込まない事にする。しかし大変そうだな。仲間に代わってもらえる仕事はないのか?」
「んやー、既に色々やってもらってるよー? エメラさんはほぼ店長だし、クロードさんも俺を頼らないように動いてくれてるし、ナタリーとコリンなんて大人顔負けに動いてる」
「つまり、換えがきかない事以外はやってくれてるのか」
「シュッツさんも凄い仕事してるからほとんど確認事項だけなんだけど、それでも身体が足りない」
「分裂とか出来ないのか?」
「そんな器用な魔族がいたら苦労はない」
「だよなぁー。スライムとか見てるとすげぇーってたまになるけど……――って、どうしたんだよ、ミック? そんな真面目な顔して」
「いるの? スライム?」
「雑魚モンスターの代名詞だろ?」
「いや、だってギルドに依頼なかったし」
「危険がないからな。農作物を食べに来た時くらいだよ、面倒なのは。……で、何だその顔は?」
「【分裂】……出来るかもしれない」
それは、希望なのか野望なのか。
吸血鬼の吸血鬼による吸血鬼のためのスライム狩りを決意した俺だった。
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