243 / 566
第一部
その242 冒険者の食卓
しおりを挟む
「おいおいおい、何だよこのメンバーは……?」
「あ、サッチさん。その席、空いてますよ」
武闘大会で引き抜いたランクA冒険者のサッチが屋敷の食堂へやって来た。
周囲を見渡す事数十秒……彼はこの異様な現場に瞠目している様子だ。
「剣聖レミリア、魔帝グラムス、それに剣神イヅナとはまたとんでもないな」
「サッチ、この私を忘れているのではないだろうな?」
「リィたんは元からリィたんじゃねぇか」
それは一体どういう概念なのだろう?
「ふむ、それもそうか」
リィたんも納得しちゃったぞ?
ジェイルへの説明も終わり、イヅナとの一件はひとまず落ち着きを見せた。
今も尚、睨み合っているが落ち着きを見せたのだ。多分。
「はーい、たーんと召し上がれっ!」
ナタリーとコリンが運んできた食事に向かい手を合わせる。
「いただきます」
「「いただきます」」
俺の言葉に続き、ジェイルとリィたんが続く。
この行為に対し、グラムスが目を見張る。
「何とも面妖な文化じゃのう」
すると、今度はレミリアが言った。
「郷に入っては郷に従うまでの事です。……いただきます」
「儂ゃやらんぞぃ」
「ははは、別に強制するものじゃありませんから。好きにされて結構ですよ」
そもそも、俺がずっとやっていたせいもあり、ジェイルとリィたんが真似するようになっただけなのだから。
「う~ん、相変わらず美味いのう!」
「私はこの蜜菓子が好きです」
「これは酒によく合うんじゃ!」
「いえ、これは紅茶に合います。たとえ魔帝殿でもここは譲れません」
魔帝だろうが剣聖だろうが、美味い物の前ではただの人である。
「ボン、これは?」
「お好み焼きです。ソースの再現が難しいので、まだ完成とは言えないんですけど、ナタリーが出したって事は、更に美味しくなったんだと思いますよ」
イヅナがお好み焼きをナイフとフォークで切る。
こちらとしては、この絵面のが面妖と言える。
時折聞こえるキャベツの咀嚼音が何とも心地良い。
「……旨い」
「だってさ」
俺がそう言うと、ナタリーはトレイで顔を隠しながら恥ずかしそうに「あ、ありがとうございます」と言ったのだった。
やはり、素のナタリーも可愛いが、こういう照れ隠しするナタリーもいいものだな。
「そうだ、ミケラルド」
食事が落ち着いた頃、サッチが俺に言った。
「何でしょう?」
「頼まれてたアレ、完成したぜ」
「おぉ、それは助かります」
「ネムに渡しておいたから、後で精査してくれや」
「わかりました」
そんな会話を拾ったのか、イヅナが俺に聞く。
「ボン、アレとは?」
「【新人冒険者アドバイザー業務】の教科書です」
「……つまるところの新人冒険者への指南書?」
「そういう事です。武器別役割別のモンスターの倒し方、旅の心得、ダンジョンでの立ち回り、色々書いてありますよ」
この説明に反応し、グラムスが首を傾げる。
「業務って言ったのう、坊主? それが本当に金になるのかのう?」
「直接的にはお金になりませんよ。ただ選択肢に迷っている冒険者たちを、このミナジリ領に呼び込む事を目的としています」
「選択肢とな?」
「命のやり取りが行われる世界です。冒険者になりたくても踏ん切りがつかない方もいるでしょう。そういった方も対象とした育成機関。まぁ簡単に言うと自信をつけてもらう場所ですね」
「はん! そんな気弱なやつ、どうやったって冒険者になんかなれんわい」
「得手不得手は当然あるでしょう。だから、卒業時に別の仕事の斡旋も考えています。言ってしまえば、夢への決別の場でもあると思います」
「何じゃ、アコギな商売かと思ったらいやに現実的じゃのう」
「彼らの戦力に期待しない訳じゃないです」
「どういう事じゃ?」
「たとえばグラムスさんやイヅナさんがそうですね……ゴブリンと対峙した時、数を気にせず倒す事が出来るでしょう」
グラムスとイヅナが見合ってから頷く。
「ですが彼ら一人一人がゴブリンと対峙した時、倒せるのはおそらく数匹。新人冒険者なら当たり前の事です。しかしサッチさんが用意した教科書には、子供の腕力でもゴブリンを倒す術が書かれています。これが世界に広まった時、それこそ彼らはその人口分のゴブリンを倒す事が出来る……と、まぁ夢物語なんですけどね」
「なるほど、万人がモンスターを倒せる術を知れば、それだけ各国の冒険者ギルドは助かるという事か」
イヅナが顎を揉みながら言った。
「いずれは、というだけであって、そう簡単に出来るとは思っていませんが」
「いんや、そうとも限らねぇぜ」
「え? どういう事です、サッチさん?」
「ニコルだよ」
「へ?」
「あの美人、かなりのヤリ手だぜ。まるで絡め取るかのように冒険者を狩ってるぜ。男女問わずだ」
いつニコルはモンスターになったのだろう?
まぁ、ニコル相手なら男だろうが女だろうが籠絡されてしまうかもしれない。
「既に何人かの新人冒険者が受講を希望してる。だから今日はその話もしたくてよ」
「わかりました。早急に場所の用意とカリキュラムを組みましょう」
「あ、その件なんだけど――」
今度はナタリーが手を挙げた。
「――シェルフの人たちも受講を希望してるって。実は――」
「――いや、言わなくてもわかる」
「え?」
久しぶりにしゃしゃり出てきたな……バルトめ。
「あ、サッチさん。その席、空いてますよ」
武闘大会で引き抜いたランクA冒険者のサッチが屋敷の食堂へやって来た。
周囲を見渡す事数十秒……彼はこの異様な現場に瞠目している様子だ。
「剣聖レミリア、魔帝グラムス、それに剣神イヅナとはまたとんでもないな」
「サッチ、この私を忘れているのではないだろうな?」
「リィたんは元からリィたんじゃねぇか」
それは一体どういう概念なのだろう?
「ふむ、それもそうか」
リィたんも納得しちゃったぞ?
ジェイルへの説明も終わり、イヅナとの一件はひとまず落ち着きを見せた。
今も尚、睨み合っているが落ち着きを見せたのだ。多分。
「はーい、たーんと召し上がれっ!」
ナタリーとコリンが運んできた食事に向かい手を合わせる。
「いただきます」
「「いただきます」」
俺の言葉に続き、ジェイルとリィたんが続く。
この行為に対し、グラムスが目を見張る。
「何とも面妖な文化じゃのう」
すると、今度はレミリアが言った。
「郷に入っては郷に従うまでの事です。……いただきます」
「儂ゃやらんぞぃ」
「ははは、別に強制するものじゃありませんから。好きにされて結構ですよ」
そもそも、俺がずっとやっていたせいもあり、ジェイルとリィたんが真似するようになっただけなのだから。
「う~ん、相変わらず美味いのう!」
「私はこの蜜菓子が好きです」
「これは酒によく合うんじゃ!」
「いえ、これは紅茶に合います。たとえ魔帝殿でもここは譲れません」
魔帝だろうが剣聖だろうが、美味い物の前ではただの人である。
「ボン、これは?」
「お好み焼きです。ソースの再現が難しいので、まだ完成とは言えないんですけど、ナタリーが出したって事は、更に美味しくなったんだと思いますよ」
イヅナがお好み焼きをナイフとフォークで切る。
こちらとしては、この絵面のが面妖と言える。
時折聞こえるキャベツの咀嚼音が何とも心地良い。
「……旨い」
「だってさ」
俺がそう言うと、ナタリーはトレイで顔を隠しながら恥ずかしそうに「あ、ありがとうございます」と言ったのだった。
やはり、素のナタリーも可愛いが、こういう照れ隠しするナタリーもいいものだな。
「そうだ、ミケラルド」
食事が落ち着いた頃、サッチが俺に言った。
「何でしょう?」
「頼まれてたアレ、完成したぜ」
「おぉ、それは助かります」
「ネムに渡しておいたから、後で精査してくれや」
「わかりました」
そんな会話を拾ったのか、イヅナが俺に聞く。
「ボン、アレとは?」
「【新人冒険者アドバイザー業務】の教科書です」
「……つまるところの新人冒険者への指南書?」
「そういう事です。武器別役割別のモンスターの倒し方、旅の心得、ダンジョンでの立ち回り、色々書いてありますよ」
この説明に反応し、グラムスが首を傾げる。
「業務って言ったのう、坊主? それが本当に金になるのかのう?」
「直接的にはお金になりませんよ。ただ選択肢に迷っている冒険者たちを、このミナジリ領に呼び込む事を目的としています」
「選択肢とな?」
「命のやり取りが行われる世界です。冒険者になりたくても踏ん切りがつかない方もいるでしょう。そういった方も対象とした育成機関。まぁ簡単に言うと自信をつけてもらう場所ですね」
「はん! そんな気弱なやつ、どうやったって冒険者になんかなれんわい」
「得手不得手は当然あるでしょう。だから、卒業時に別の仕事の斡旋も考えています。言ってしまえば、夢への決別の場でもあると思います」
「何じゃ、アコギな商売かと思ったらいやに現実的じゃのう」
「彼らの戦力に期待しない訳じゃないです」
「どういう事じゃ?」
「たとえばグラムスさんやイヅナさんがそうですね……ゴブリンと対峙した時、数を気にせず倒す事が出来るでしょう」
グラムスとイヅナが見合ってから頷く。
「ですが彼ら一人一人がゴブリンと対峙した時、倒せるのはおそらく数匹。新人冒険者なら当たり前の事です。しかしサッチさんが用意した教科書には、子供の腕力でもゴブリンを倒す術が書かれています。これが世界に広まった時、それこそ彼らはその人口分のゴブリンを倒す事が出来る……と、まぁ夢物語なんですけどね」
「なるほど、万人がモンスターを倒せる術を知れば、それだけ各国の冒険者ギルドは助かるという事か」
イヅナが顎を揉みながら言った。
「いずれは、というだけであって、そう簡単に出来るとは思っていませんが」
「いんや、そうとも限らねぇぜ」
「え? どういう事です、サッチさん?」
「ニコルだよ」
「へ?」
「あの美人、かなりのヤリ手だぜ。まるで絡め取るかのように冒険者を狩ってるぜ。男女問わずだ」
いつニコルはモンスターになったのだろう?
まぁ、ニコル相手なら男だろうが女だろうが籠絡されてしまうかもしれない。
「既に何人かの新人冒険者が受講を希望してる。だから今日はその話もしたくてよ」
「わかりました。早急に場所の用意とカリキュラムを組みましょう」
「あ、その件なんだけど――」
今度はナタリーが手を挙げた。
「――シェルフの人たちも受講を希望してるって。実は――」
「――いや、言わなくてもわかる」
「え?」
久しぶりにしゃしゃり出てきたな……バルトめ。
0
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す
佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。
誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。
また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。
僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。
不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。
他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる