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第一部
その235 KY
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「ちぃ! 分が悪いか……! 者共退けぃ!」
やはり、サブロウがリーダーだったのか。
確かに彼の実力は俺が倒しきれない相手と言えた。
逃げ帰って行く闇人たちの錬度は凄まじく、全てが徹底されていた。
彼らがこれで諦めてくれればいいのだが、それは難しいのだろう。まぁこの問題はまず置いとくとしよう。
今は、それ以上の問題が起きているのだから。
「おい爺、何だよその目は?」
剣神イヅナの視線が文字通り剣のように鋭いのだ。
向かう先は勿論……このトカゲ師匠。
『さっきの、絶対わざとでしょう?』
テレパシーで聞くと、ジェイルは俺を見ずに答えた。
『すまん、イヅナを見ていたら興奮してな。ついやってしまった』
ジェイル氏はK・Yと供述しており……。
いやまぁ、ジェイルでもそういう時があるんだろうな。
だが、この剣気の嵐はどうやって止めればいいのだろう?
「おいおい、穏やかじゃねぇな? 一体何なんだよこりゃ?」
オベイルの言葉はどちらにも届かない。彼らには、今、どんな雑音も入らない。
目と目で通じ合っている達人と達人。
俺は溜め息を吐きながらその間に人間大の土壁を造った。
が、その土壁は一瞬で十字に斬られた。
縦一閃、ジェイルの剛剣。
横一閃、イヅナの柔剣。
「邪魔をするなミック。師匠命令だ」
珍しくジェイルが熱くなっている。
「ボン、茶々を入れてくれるな」
なるほど、達人同士の熱き戦いが始まっちゃう訳ですか。
「おい……何かヤバくねぇか?」
オベイルが俺のところまで下がってくる。
彼程の男でも、この殺気のぶつかり合いはまずいと判断したのだろう。
「ふむ……」
そんな中、腕を組んで沈黙を貫いていたリィたんが足下の小石を拾った。
後方へ歩きながらそれをぽいと投げた時、俺とオベイルは確信した。
「「ヤバ……!」」
小石落下の直前、俺とオベイルはリィたんのところまで下がった。
というか、下がるしかなかった。
直後、斬り結ばれた剣と剣は、甲高い音を発し、周囲の窓ガラスを割った。
「なんつう衝撃だ……! あぁ? 何してんだミケラルド?」
耳を抑えるオベイル。
そして、【超聴覚】を発動したままにしておいた俺は、悶死する一歩手前である。
「両者の実力は拮抗していると言っていいな」
「そ、そんなに……?」
鍔迫り合いが続く中、リィたんの言葉が俺とオベイルを驚かせる。
「マジかよ……強ぇとは思ってたが、爺レベルのヤツがまだいたとはな……」
そして、俺の感想は逆。
ジェイル程の実力者は、魔族四天王のスパニッシュ以外見た事がない。
当然、リィたんは除外である。
「破壊魔パーシバルは軽く超えてますね」
「うむ、SSSの中でもやはり優劣はあるようだな」
魔力だけでは判断出来ない個の実力。
殲滅という括りで言えば、パーシバルの実力はSSS随一かもしれない。
だが、個の戦闘力で言えば、この剣神イヅナは正にトップなのだ。
「っ! 動くぞ!」
オベイルがイヅナの動きを読んだ。
常々行動を共にしているからか、読みやすいのかもしれない。
一瞬脱力したイヅナは、ジェイルの剣をわざと走らせ、その横を通り抜けるように進んだ。
「正に機を見るに敏……」
リィたんの言葉通り、イヅナの剣はジェイルの剣を走り終えると同時、ジェイルの上段を狙った。
「神剣、雷槌!」
迫るイヅナの剣。しかし、ジェイルはイヅナの剣を的確に払ったのだ。
「あれを拳で払うかよ!」
オベイルの驚きも尤もだ。
振り下りてくる剣に向かい、素手で剣の面を捉え、手の甲で押し払う。
「竜爪、叉拏の掌底……!」
何あれ、私まだ習ってない。
つまりあれか、竜剣の素手バージョンというやつか。
「ぬん!」
それを起点とし、イヅナが横から払う。
「はっ!」
残った右腕でジェイルが上段からそれを迎え撃つ。
一手一手が強力かつ繊細。これは……勿体ない。
「ミック、何だそのだらしない顔は?」
リィたんが聞く。
「いや、この戦闘、金をとらずに見るのはどうかと思いまして」
「帰ったらミナジリ領にコロセウムを造るか」
「そうしましょう」
俺のこのどうしようもない商売根性を受け、動じないあたり、リィたんも成長しているのだろう。
ドゥムガとかレミリアの戦闘も、考えてみれば興業になるじゃないか。
何て勿体ない事をしていたんだ、俺は。
「お前等の感性は一体どうなってんだ……?」
珍しくオベイルが呆れている。
「ギルドの武闘大会も良い宣伝ですからね。個別でそれを開催すれば、人も集まるし強者も集まる――ん?」
と言ったところでオベイルが俺の胸倉を掴む。
「お前んとこの領……リーガル国のミナジリ領だったな?」
「えぇ」
「コロセウムが出来たら教えろ。遊びに行ってやる」
「お待ちしております」
と言ったところでオベイルは俺の胸倉から手を放してくれた。
なるほど、彼程の強者なら戦いの場がなくて困るのか。それは良い事を聞いた。
さて、一向に決着のつかないこの戦闘をどう止めようか。
そう思うのも束の間、とある一声によって戦闘が止められる。
「何をしておる?」
ガイアスの作業場から出てきたのは、皇后アイビス。
皇后という印象からかけ離れている炭で黒ずんだ顔。
剣を止めたのはイヅナ。それに呼応してジェイルが剣を納める。
視線は鋭いまま……だが、いち早くジェイルが言った。
「イヅナよ、我が剣の秘密を知りたくばミナジリ領へ来い」
ジェイル師匠、宣伝ありがとうございます。
やはり、サブロウがリーダーだったのか。
確かに彼の実力は俺が倒しきれない相手と言えた。
逃げ帰って行く闇人たちの錬度は凄まじく、全てが徹底されていた。
彼らがこれで諦めてくれればいいのだが、それは難しいのだろう。まぁこの問題はまず置いとくとしよう。
今は、それ以上の問題が起きているのだから。
「おい爺、何だよその目は?」
剣神イヅナの視線が文字通り剣のように鋭いのだ。
向かう先は勿論……このトカゲ師匠。
『さっきの、絶対わざとでしょう?』
テレパシーで聞くと、ジェイルは俺を見ずに答えた。
『すまん、イヅナを見ていたら興奮してな。ついやってしまった』
ジェイル氏はK・Yと供述しており……。
いやまぁ、ジェイルでもそういう時があるんだろうな。
だが、この剣気の嵐はどうやって止めればいいのだろう?
「おいおい、穏やかじゃねぇな? 一体何なんだよこりゃ?」
オベイルの言葉はどちらにも届かない。彼らには、今、どんな雑音も入らない。
目と目で通じ合っている達人と達人。
俺は溜め息を吐きながらその間に人間大の土壁を造った。
が、その土壁は一瞬で十字に斬られた。
縦一閃、ジェイルの剛剣。
横一閃、イヅナの柔剣。
「邪魔をするなミック。師匠命令だ」
珍しくジェイルが熱くなっている。
「ボン、茶々を入れてくれるな」
なるほど、達人同士の熱き戦いが始まっちゃう訳ですか。
「おい……何かヤバくねぇか?」
オベイルが俺のところまで下がってくる。
彼程の男でも、この殺気のぶつかり合いはまずいと判断したのだろう。
「ふむ……」
そんな中、腕を組んで沈黙を貫いていたリィたんが足下の小石を拾った。
後方へ歩きながらそれをぽいと投げた時、俺とオベイルは確信した。
「「ヤバ……!」」
小石落下の直前、俺とオベイルはリィたんのところまで下がった。
というか、下がるしかなかった。
直後、斬り結ばれた剣と剣は、甲高い音を発し、周囲の窓ガラスを割った。
「なんつう衝撃だ……! あぁ? 何してんだミケラルド?」
耳を抑えるオベイル。
そして、【超聴覚】を発動したままにしておいた俺は、悶死する一歩手前である。
「両者の実力は拮抗していると言っていいな」
「そ、そんなに……?」
鍔迫り合いが続く中、リィたんの言葉が俺とオベイルを驚かせる。
「マジかよ……強ぇとは思ってたが、爺レベルのヤツがまだいたとはな……」
そして、俺の感想は逆。
ジェイル程の実力者は、魔族四天王のスパニッシュ以外見た事がない。
当然、リィたんは除外である。
「破壊魔パーシバルは軽く超えてますね」
「うむ、SSSの中でもやはり優劣はあるようだな」
魔力だけでは判断出来ない個の実力。
殲滅という括りで言えば、パーシバルの実力はSSS随一かもしれない。
だが、個の戦闘力で言えば、この剣神イヅナは正にトップなのだ。
「っ! 動くぞ!」
オベイルがイヅナの動きを読んだ。
常々行動を共にしているからか、読みやすいのかもしれない。
一瞬脱力したイヅナは、ジェイルの剣をわざと走らせ、その横を通り抜けるように進んだ。
「正に機を見るに敏……」
リィたんの言葉通り、イヅナの剣はジェイルの剣を走り終えると同時、ジェイルの上段を狙った。
「神剣、雷槌!」
迫るイヅナの剣。しかし、ジェイルはイヅナの剣を的確に払ったのだ。
「あれを拳で払うかよ!」
オベイルの驚きも尤もだ。
振り下りてくる剣に向かい、素手で剣の面を捉え、手の甲で押し払う。
「竜爪、叉拏の掌底……!」
何あれ、私まだ習ってない。
つまりあれか、竜剣の素手バージョンというやつか。
「ぬん!」
それを起点とし、イヅナが横から払う。
「はっ!」
残った右腕でジェイルが上段からそれを迎え撃つ。
一手一手が強力かつ繊細。これは……勿体ない。
「ミック、何だそのだらしない顔は?」
リィたんが聞く。
「いや、この戦闘、金をとらずに見るのはどうかと思いまして」
「帰ったらミナジリ領にコロセウムを造るか」
「そうしましょう」
俺のこのどうしようもない商売根性を受け、動じないあたり、リィたんも成長しているのだろう。
ドゥムガとかレミリアの戦闘も、考えてみれば興業になるじゃないか。
何て勿体ない事をしていたんだ、俺は。
「お前等の感性は一体どうなってんだ……?」
珍しくオベイルが呆れている。
「ギルドの武闘大会も良い宣伝ですからね。個別でそれを開催すれば、人も集まるし強者も集まる――ん?」
と言ったところでオベイルが俺の胸倉を掴む。
「お前んとこの領……リーガル国のミナジリ領だったな?」
「えぇ」
「コロセウムが出来たら教えろ。遊びに行ってやる」
「お待ちしております」
と言ったところでオベイルは俺の胸倉から手を放してくれた。
なるほど、彼程の強者なら戦いの場がなくて困るのか。それは良い事を聞いた。
さて、一向に決着のつかないこの戦闘をどう止めようか。
そう思うのも束の間、とある一声によって戦闘が止められる。
「何をしておる?」
ガイアスの作業場から出てきたのは、皇后アイビス。
皇后という印象からかけ離れている炭で黒ずんだ顔。
剣を止めたのはイヅナ。それに呼応してジェイルが剣を納める。
視線は鋭いまま……だが、いち早くジェイルが言った。
「イヅナよ、我が剣の秘密を知りたくばミナジリ領へ来い」
ジェイル師匠、宣伝ありがとうございます。
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