上 下
223 / 566
第一部

その222 オベイルの条件

しおりを挟む
「条件は一つ……だが、その前に確認したい事がある。元聖女アイビスはガイアスとの交友があるって事でいいんだよな?」

 アイビスが静かに首を縦に振る。

「なら、ガイアスへの仲介を頼みたい。あの爺、俺の剣は後だとか言って造ってくれねぇんだよ」

 現在オベイルが持っている剣を見る限り、そこまで悪い剣には見えない。
 あれはミスリル素材の剣で何らかの付与エンチャントが施されている。あれ以上となると、やはりオリハルコン素材の剣になるのだろうか。
 鍛治師としては最高の剣より、今はより多くの剣を造りたい時だろう。剣鬼オベイルの身の丈に合っているとの判断だろうな。

「よかろう、わらわが無事にガンドフへ着いたあかつきには、ガイアスへの口添えをしよう」
「なら、契約違反はガンドフで報告しよう。それでいいだろう?」
「問題ない」

 ふむ、これで二人は合意に至った訳か。
 俺がホッとしていると、アイビスが俺に向いた。

其方そなたの望みはなんだ?」

 あ、これ俺にも聞くやつなのか。
 がしかし、いきなり要求を言える程、俺も図太くはない。

「いえ、特には……」
「……よかろう、では何か困った時、妾を頼るとよい」

 法王国の皇后に貸しとは、俺も出世したもんだな。
 そう思いながら、俺は小さな溜め息を吐いた。
 そんなこんなで護衛対象不在の旅は、皇后護衛の任務に変わった。
 騎士たちは気が楽になったのか、後に俺に色々声を掛けてくれた。
 荷馬車の天幕から馬車の屋根の上へ住処を移動した剣の鬼は、相変わらず仏頂面である。
 だが、剣の約束を取り付けたからか、どことなく嬉しそうだった。

 ◇◆◇ ◆◇◆

「荷馬車を置いて行く?」
「あぁ、ロッソの町に着いたからな。護衛対象を馬車に絞ってしまえば、馬の速度も上がる」

 ロッソの町に着いた俺は、騎士団が手配した宿で休む前にストラッグの話を聞いていた。
 俺の問いにストラッグが答えるも、隣の剣鬼けんきはずっと黙りこくっている。

「それは、皇后様も賛成されたのですか?」
「そうだ」

 俺がオベイルをちらりと見ると、ようやく口を開いた。

「依頼人の頼みだ、断る訳にもいかないな」

 実にらしくない。
 このタイミングで速度を上げた騎士団が移動していれば嫌でも目立つ。
 それがわからないオベイルではないはず。だが、彼は今新たな剣に夢中……となれば、俺が止める術はないか。

「わかりました、出来るだけやってみましょう」

 ◇◆◇ ◆◇◆

「おぉ! おっ! おぉおおおおおおほほほほっ!!」

 と叫びながら喜んでいるのは騎士ストラッグ。
 かつてない速度に心を踊らせているに違いない。
 そう、俺は騎士団全員が乗る馬、そして馬車に速度向上系の魔法を使ったのだ。
 馬は軽い身体に喜び勇み、馬車の御者も気合いに満ちている。
 出来れば荷馬車の爺ちゃんとはもう少し話したかったのだが、仕方なくロッソの町で別れる事に。

「やるじゃねぇか、この調子なら今夜中には着くんじゃねぇか?」

 だといいんだけどね。
 騎士団の大移動。当然、伴う危険はこれまでの倍以上。
 モンスターの攻撃然り、盗賊団の襲撃然り。

「右前方! 不審な一団を発見!」

 俺の声により皆が右を警戒する。

「隊長! レッドスカルの連中です!」

 何だその暴走族みたいなネーミングは。

「ちぃ、要人誘拐が目的か!」

 輸送隊以上に価値のある物が乗っているとわかれば、盗賊団は多少の危険もいとわない。誘拐し、身代金を要求すればオリハルコン以上の値が付く事もあるだろう。

「ミケラルド、任せた」
「いえ、オベイルさんお願いします」
「あぁっ?」
「こっちは速度の維持で手一杯です、少しは働いてください」
「……そうか……よ!」

 直後、馬車から跳んだオベイルは這うように盗賊団レッドスカルに向かい駆けた。
 やはり、身体能力だけならレミリアとは比較にならない。
 馬を圧倒する速度と盗賊を吹き飛ばす膂力。彼がこのまま鍛え続ければジェイル師匠に届くのではなかろうか。それだけの才能を感じる程だ。

「おら、終わったぞ」
「まだ残ってますけど?」
「あれだけの打撃を受けて引かない程、奴らも馬鹿じゃねぇよ」
「なるほど」

 脇目に見えるのは、戦線から離脱していく盗賊団レッドスカル
 正直、騎士団だけでは相手に出来ないレベルだった。ランクB~Aの猛者が集った一団。
 法王国やリプトゥア国で盗賊団をやるなら、それだけの実力が必要だという事だ。
 そこで一つの疑問が浮かび上がる。
 何故この騎士団は精鋭ではないのだろうか……と。
 皇后の護衛だよな? ランクSとまではいかないまでも、それこそランクA前後の力量は欲しいところだ。列強とも呼べる法王国がそれくらい出せない理由は一体?
 確かストラッグは法王国騎士団の第二部隊って言ってたな。第一部隊がこの任務に当たれない理由があるのだろうか。
 ……いや、考えていても仕方ないか。
 今は、彼らを無事ガンドフへ送り届ける事だけを考えよう。

「見えた! ガンドフのあかりだ!」

 騎士の一人が前方を指差しながら叫んだ。
 夜も遅い時刻。速度を上げた事でかなりの短縮にはなったが、遠目に見えるのは確かに揺れる光。それが外壁の松明である事は明らかだった。
 だが――、どうやら安堵するのは早かったようだ。
 馬車の屋根のオベイルが後方を向く。
 俺も屋根に乗り、その視線の先を追うと物凄い速度でこちらへ迫る人影が見えた。

「闇の連中……だな」
「魔族よりもたちが悪いじゃないですか」
「じゃーんけーん――」
「――え?」
「ぽん」

 剣鬼けんきオベイルがいきなり出した硬そうな拳は、理解が追いつけない俺のチョキの前に立ち塞がった。

「俺の勝ちだな、後方の掃除は任せた」

 にゃろう。
 皇后に何か強請ねだっておけば良かったと思うミケラルド君だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

処理中です...