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第一部
その197 強い癖
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「これまでランクAの依頼もなかったのに、いきなりリーガル国にランクSの依頼がきます?」
俺がディックにそう聞くも、ディックは目を合わせてくれなかった。
「ランクAはなかったぞ、ランクAはな」
「……ランクSはあったと。その言い方だと私がシェンドで活動するより前にあったのでは?」
「はっ、流石に察しがいいな」
ようやく目を合わせてくれたディックは、肩を竦めて言った。
「でも、ディックさんやゲミッドさんなら対処出来たのでは?」
「俺もゲミッドも引退済みだ。対処出来るのはランクS以上。ランクAの段階でミケラルドたちに教える訳にもいかないからな」
なるほど、冒険者ギルド故の弊害というやつか。
「でもなぁ、これから忙しくなるんですよね……私」
「そうかい? ミケラルドにも決して悪い話って訳じゃないんだがな」
「それはどういう?」
俺が聞くと、リィたんが割って入ってきた。
「いいミック、ならば私が行こう」
「そう? なら助かる――」
と、俺が言い掛けると、
「――おっと待った」
すかさずディックが話を止めた。
「へ?」
「悪いなリィたん、今回は冒険者ギルドからミケラルドへの依頼だ」
「何?」
リィたんの鋭い視線がディックを襲う。
ディックは俺を横目で見ながら小さい声で言った。
「おい、助けろ」
「金縛りにでもあってるんですか?」
「あぁ、正に蛇に睨まれた蛙といったところだ」
まったく、どうしてリィたんを怒らせるような言動をとるのか。
いやまぁ、ディックがそういう判断を下した訳ではないのだろう。
「リィたん、ストップ。まずは話を聞いてから。ね?」
「……ふん」
つんとするリィたん。どうやら言う事を聞いてくれたようだ。
「ふぅ……」
ホッと胸をなで下ろすディックに俺が聞く。
「で、何で私に指名依頼が?」
「冒険者ギルド本部がミック、お前に目を付けた。そういう事だ」
「……回答になってないですよ」
「表向きには『ミケラルド・オード・ミナジリ』の実力を精査し、今後の指名依頼に耐えうる存在かを見分したい……との事だ」
「回りくどいですね。本音はどこにあるんです?」
「俺の私見が交ざってるかもしれないが……聞いておくか?」
「是非」
するとディックは深い溜め息を吐いた後、気まずそうにリィたんを見たのだ。
「冒険者ギルド本部は、リィたんとの摩擦を起こしたくないように思える」
「ほぉ、それはどういう事だ?」
リィたんの疑問は当然だ。
ディックはナタリーとジェイルを見た後、更に周囲を見渡す。
そして、他に誰もいないとわかったところで更に声を落とした。
「Z区分という異常な存在。たとえギルド本部であろうとも手に余る。これ以上、リィたんに特権を与えたくないんじゃないか……ってのが俺の考えだ」
「ふむ……どう思う? ミック」
「まぁ、本部の気持ちになればそれは当然かもしれないよね。ギルド公認の武闘大会で覇者という成績を残したのであれば、当然、主催者としてランクSの称号を与えざるを得ない。でもそれ以上の力を持ってもらっては困る。ギルド本部はそう考えている……か。ん? 待てよ?」
俺が首を少し捻り考えてると、ディックが俺を指差したのだ。
「そういう事だ。リィたんよりミケラルドの方が御しやすい」
「やっぱり……」
「つまりギルド本部は、早いとこミケラルドをSSに上げたいんだろう」
「SSに? 何でまた?」
「言ったろう? 手綱を握るならリィたんよりミケラルドだって」
「いや、それならレミリアさんとかでもいいのでは?」
「長期的に見ればそうなのかもしれない。だが、ギルド本部は即戦力を求めているようだ」
「……読めませんね?」
「ミケラルド、お前はSSSに近い実力者だぞ? 剣鬼や魔皇とは違い、癖も強くないというギルド本部の判断だろう。つまるところ、早い段階で唾を付けておきたいんだよ」
これは褒められているのか、それとも貶されているのか。
しかし、SSの剣鬼と魔皇はそんなに癖が強いのか? なら何故SSにしたのかとギルド本部長を問いただしたい気分だ。
「ま、破壊魔よりかはマシだがな」
パーシバルはやはり問題児なんだな。
「剣神は他の三人に比べるとまともだが、放浪癖があってな。呼び出したい時にいないってのがほとんどだ。そこで目を付けられたのが――」
全員の目が俺に集まる。
「……何ですそれ? ギルド本部の操り人形って事です?」
ディックはまた肩を竦めた。今度は無言で。
「首都リーガルのギルドマスターとして何かコメントが欲しいところです」
「ギルド側の俺がそれを認める訳にはいかねぇよな」
「だから私見……ですか」
「ま、傀儡になりたきゃなればいいさ」
「そんな他人事な……」
「俺はそうは思ってないからな」
「は?」
「だからここに来たんだ」
「ど、どういう事です?」
俺がそう聞くも、ディックはリィたんを見るのだ。
うんうん頷くリィたん、そしてジェイル。
くすりと笑うナタリーに視線を向けると、ナタリーは無邪気な笑みを見せて言った。
「ふふふ、どう考えても、その中で一番癖が強いのはミックだよね♪」
……これは褒められているのか、それとも貶されているのか。
「そういうこった」
「じゃ、じゃあ何で来たんですかっ?
「だから来たんだって」
「んな支離滅裂な……」
俺が呆れ眼でディックを見る。
するとディックは腰に手を当て、威張るように言ったのだ。
「ミケラルド、お前がギルド本部を手玉にとるのを見たくてな!」
ニカリと笑ったディック。
「冒険者は自由でナンボだ。今回ばかりは本部のやり方が気に食わん。だから俺は敢えて今回の一件に乗ったんだよ」
「……乗ったのは泥船かもしれませんよ?」
「だったら言ってくれよミケラルド……『大船に乗ったつもりでいろ』ってなっ!」
バシンと肩を叩くディックの期待に押され、俺は再び溜め息を吐いた。
「はぁ……ならまずは材料選びから始めましょうか……泥以外でね」
「ははははは!」
快活に笑うディックの声が、屋敷に響き渡った瞬間だった。
さて、『俺にとって悪い話じゃない』ってどういう事なのか。
ランクSさえ躓く依頼とは一体……?
俺がディックにそう聞くも、ディックは目を合わせてくれなかった。
「ランクAはなかったぞ、ランクAはな」
「……ランクSはあったと。その言い方だと私がシェンドで活動するより前にあったのでは?」
「はっ、流石に察しがいいな」
ようやく目を合わせてくれたディックは、肩を竦めて言った。
「でも、ディックさんやゲミッドさんなら対処出来たのでは?」
「俺もゲミッドも引退済みだ。対処出来るのはランクS以上。ランクAの段階でミケラルドたちに教える訳にもいかないからな」
なるほど、冒険者ギルド故の弊害というやつか。
「でもなぁ、これから忙しくなるんですよね……私」
「そうかい? ミケラルドにも決して悪い話って訳じゃないんだがな」
「それはどういう?」
俺が聞くと、リィたんが割って入ってきた。
「いいミック、ならば私が行こう」
「そう? なら助かる――」
と、俺が言い掛けると、
「――おっと待った」
すかさずディックが話を止めた。
「へ?」
「悪いなリィたん、今回は冒険者ギルドからミケラルドへの依頼だ」
「何?」
リィたんの鋭い視線がディックを襲う。
ディックは俺を横目で見ながら小さい声で言った。
「おい、助けろ」
「金縛りにでもあってるんですか?」
「あぁ、正に蛇に睨まれた蛙といったところだ」
まったく、どうしてリィたんを怒らせるような言動をとるのか。
いやまぁ、ディックがそういう判断を下した訳ではないのだろう。
「リィたん、ストップ。まずは話を聞いてから。ね?」
「……ふん」
つんとするリィたん。どうやら言う事を聞いてくれたようだ。
「ふぅ……」
ホッと胸をなで下ろすディックに俺が聞く。
「で、何で私に指名依頼が?」
「冒険者ギルド本部がミック、お前に目を付けた。そういう事だ」
「……回答になってないですよ」
「表向きには『ミケラルド・オード・ミナジリ』の実力を精査し、今後の指名依頼に耐えうる存在かを見分したい……との事だ」
「回りくどいですね。本音はどこにあるんです?」
「俺の私見が交ざってるかもしれないが……聞いておくか?」
「是非」
するとディックは深い溜め息を吐いた後、気まずそうにリィたんを見たのだ。
「冒険者ギルド本部は、リィたんとの摩擦を起こしたくないように思える」
「ほぉ、それはどういう事だ?」
リィたんの疑問は当然だ。
ディックはナタリーとジェイルを見た後、更に周囲を見渡す。
そして、他に誰もいないとわかったところで更に声を落とした。
「Z区分という異常な存在。たとえギルド本部であろうとも手に余る。これ以上、リィたんに特権を与えたくないんじゃないか……ってのが俺の考えだ」
「ふむ……どう思う? ミック」
「まぁ、本部の気持ちになればそれは当然かもしれないよね。ギルド公認の武闘大会で覇者という成績を残したのであれば、当然、主催者としてランクSの称号を与えざるを得ない。でもそれ以上の力を持ってもらっては困る。ギルド本部はそう考えている……か。ん? 待てよ?」
俺が首を少し捻り考えてると、ディックが俺を指差したのだ。
「そういう事だ。リィたんよりミケラルドの方が御しやすい」
「やっぱり……」
「つまりギルド本部は、早いとこミケラルドをSSに上げたいんだろう」
「SSに? 何でまた?」
「言ったろう? 手綱を握るならリィたんよりミケラルドだって」
「いや、それならレミリアさんとかでもいいのでは?」
「長期的に見ればそうなのかもしれない。だが、ギルド本部は即戦力を求めているようだ」
「……読めませんね?」
「ミケラルド、お前はSSSに近い実力者だぞ? 剣鬼や魔皇とは違い、癖も強くないというギルド本部の判断だろう。つまるところ、早い段階で唾を付けておきたいんだよ」
これは褒められているのか、それとも貶されているのか。
しかし、SSの剣鬼と魔皇はそんなに癖が強いのか? なら何故SSにしたのかとギルド本部長を問いただしたい気分だ。
「ま、破壊魔よりかはマシだがな」
パーシバルはやはり問題児なんだな。
「剣神は他の三人に比べるとまともだが、放浪癖があってな。呼び出したい時にいないってのがほとんどだ。そこで目を付けられたのが――」
全員の目が俺に集まる。
「……何ですそれ? ギルド本部の操り人形って事です?」
ディックはまた肩を竦めた。今度は無言で。
「首都リーガルのギルドマスターとして何かコメントが欲しいところです」
「ギルド側の俺がそれを認める訳にはいかねぇよな」
「だから私見……ですか」
「ま、傀儡になりたきゃなればいいさ」
「そんな他人事な……」
「俺はそうは思ってないからな」
「は?」
「だからここに来たんだ」
「ど、どういう事です?」
俺がそう聞くも、ディックはリィたんを見るのだ。
うんうん頷くリィたん、そしてジェイル。
くすりと笑うナタリーに視線を向けると、ナタリーは無邪気な笑みを見せて言った。
「ふふふ、どう考えても、その中で一番癖が強いのはミックだよね♪」
……これは褒められているのか、それとも貶されているのか。
「そういうこった」
「じゃ、じゃあ何で来たんですかっ?
「だから来たんだって」
「んな支離滅裂な……」
俺が呆れ眼でディックを見る。
するとディックは腰に手を当て、威張るように言ったのだ。
「ミケラルド、お前がギルド本部を手玉にとるのを見たくてな!」
ニカリと笑ったディック。
「冒険者は自由でナンボだ。今回ばかりは本部のやり方が気に食わん。だから俺は敢えて今回の一件に乗ったんだよ」
「……乗ったのは泥船かもしれませんよ?」
「だったら言ってくれよミケラルド……『大船に乗ったつもりでいろ』ってなっ!」
バシンと肩を叩くディックの期待に押され、俺は再び溜め息を吐いた。
「はぁ……ならまずは材料選びから始めましょうか……泥以外でね」
「ははははは!」
快活に笑うディックの声が、屋敷に響き渡った瞬間だった。
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