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第一部

その166 強者との対峙

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 佇まい、漂う魔力、静かな殺気、ブレのない体幹、どれをとっても一流の相手。

「ミック、SSダブル程度の実力はあると思え」

 リィたんの助言に俺はこくりと頷いた。
 SSランク相当の敵……となると、最初から全開でいった方が――って?

「あれ? 何で二人とも下がってるの?」

 いつの間にか俺の背後に移動していたジェイルとリィたん。

「丁度良い、先月抜いた訓練分はこれで賄うぞ」

 いや、確かに先月はジェイルの訓練余り受けられなかったけどさ。

「いざという時は代わるぞ」

 最初こそ「いざ」ってタイミングだと思うよ、リィたん?
 目の前の男はぷるぷる震えてるみたいだ。何となく理由を察せるのは、俺がまだ人間的感覚を有しているからに他ならないだろう。

「この俺を……これ、、だと?」

 男がジェイルを睨む。
 しかしジェイルは涼しい顔をしながらその視線を受け流した。

「殺気だけは一人前だが、殺しに慣れ過ぎている。戦闘は未熟と見た、今はまだな」

 煽るね、このトカゲ師匠は。
 凄いぞ、男の額に青筋が出来ている。あんなに見事に浮き上がるものなのか。

「護衛が……あるじを守らないと……?」

 今度はリィたんに矛先が向かう。

「守ると言っている、お前がそれ程の実力者ならな」

 何なの? 最近倒置法が大流行なの?
 一人前の殺気がどんどん膨れあがっているのは、多分気のせいじゃない。
 まぁ、良い隙だ。この際【鑑定】で奴の能力を見ておくか。

 ラジーン:人間
 ◆魔法◆
 闇魔法:ダークオーラ・ヘルダウン・グラビティコントロール・フェイクスルー
 ◆技◆
 暗殺術・壁走り
 ◆特殊能力◆
 身体能力超強化・五連撃・罠感知・狙撃スナイプ・隠形・超感覚
 ◆固有能力◆
 闘志・操意そうい

 名前は【ラジーン】。珍しくも闇魔法の使い手か。
 特殊能力は流石のラインナップだ。だがしかし多いな? これは人間の特徴……なのかもしれない。訓練次第で特殊能力を得る事が出来るのだろう。
 技に暗殺術があるところを見るに、警戒を怠らない方がいいな。
 人間の固有能力は【闘志】のみだと思っていたが、このラジーンには【操意そうい】なる固有能力がある。これにも要注意だな。

「なるほど、お前には鑑定の能力があるのか。で、どうかね? 戦力分析は終わったか――なっ!?」

 俺はラジーンがそう言い切る前に動いていた。
 下段からの斬り上げに、ラジーンが驚く。

「くっ!」

 何だ、いきなり打刀うちがたなが重く?
 カクンと減速した剣撃。ラジーンはその上を跳び越えながら俺に膝蹴りを放った。
 俺は咄嗟に固有能力【石頭】と【打撃耐性】を発動させ、頭突きする事でラジーンの膝を受けた。

「つぉっ!?」
「いってぇ~っ!?」

 頭部に鈍痛は残るも、ラジーンの体勢は崩した。
 身体を捻りながら着地したラジーンが腰のダガーを抜き、俺を睨む。

「貴族にあるまじき行動だな……!」
「ジェイルさんが『戦闘は未熟』って言ってたのは本当だったみたいですね」

 俺はジェイルに言ったつもりだったが、当然ラジーンはそうとってくれなかった。

「嘗めるな糞ガキがっ!」

 速いっ!
【斬撃耐性】、【切断耐性】、【恐怖耐性】、【危険察知】を発動。
【突進力】を使いこちらからも動く。

「「っ!」」

 ぶつかり合った互いの斬撃に、互いが怯んだ。

「これでランクAだと!? 末恐ろしいガキだ!」
「何でダガーでそんな威力出るのっ!?」

 驚きに違いはあれど、ジェイルがラジーンを俺の訓練相手としたのは理解が出来る。
 こいつ……俺とそう変わらない実力だ。
 膂力としてはあちらが上、こちらのメリットは……速度か。

「ふっ!」

 風魔法【ヘルメスの靴】で単純な速度を、雷魔法【疾風迅雷】で瞬発力を上昇。
 そして風魔法の【突風】を発動!

「猪口才な!」

 ラジーンは後方へふわりと跳んで【突風】を受け流す。
 滞空時間が長い。これがおそらく闇魔法【グラビティコントロール】だな。自分の周りの重力を操ってるのか。つまり、先程剣が重くなったのはこの魔法のせい。
 俺はラジーンの着地地点に駆けるも、向上したはずのスピードに疑問が残る。

「はぁっ!」
「ぐっ!」

 着地と共にラジーンの攻撃力が上がったのか、物凄い威力の攻撃を繰り出した。
 俺はそれを打刀で受け、後方へ飛ばされる。

「っと、なるほど……降下の直前に重力を上げたのか」
「頭の回転は良いようだな、流石は王商おうしょうと言ったところか」

 王商おうしょうになったのは頭の回転よりかはダンジョンの回転率だと思うけどな。

「ならばこれはどうかな?」
匕首ひしゅっ!? くっ! 竜剣、竜巻!」

狙撃スナイプ】を利用した的確な遠隔攻撃。

「後ろががら空きだな」
「速っ!?」

 強引に身体を捻る事で致命傷は避けたが、俺の腕には確かな傷が出来ていた。

「……それが【ダークオーラ】だな」
「その通り、闇の身体能力向上魔法【ダークオーラ】だ」
「ダガーで何でそんな威力がとも思ったけど、剣撃すらも重力操作してるのか」
「ほぉ、よくわかったな」

 こんなところでも【交渉】の能力が使えるとは思ってもみなかった。
 あいつから情報がザクザク出てくるな。

「それで、俺の能力向上に歯止めを掛けたのが【ヘルダウン】か。動きづらいったらありゃしない」
「くくく、俺はこの力を使いここまでのし上がって来た。果たして、その腕で我が攻撃を防ぎきれるかな?」
「腕? 何の事?」
「ふん、強がりを――っ!?」

 一瞬で間合いを詰め、俺は上段から打刀を振り下ろしていた。
 ラジーンはそれを受けるも、咄嗟の事にグラビティコントロールを発動し損ねていた。
 先程の俺のように身体を逸らす事でそれをかわすも、ラジーンの胸元に傷を負わせた。

「お返しって事で」
「っ! 薄皮一枚斬ったくらいで喜ぶな、ガキがっ!」

 惜しいな、打刀に奴の血が付着していない。
 まぁ、それも時間の問題……か。

「それじゃあやろうか。勝ちの決まった消耗戦を」
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