上 下
157 / 566
第一部

その156 ランクアップ

しおりを挟む
 オリハルコンの塊に触れるドマークの手が震える。
 大きさは成人男性の人間頭大。ボーリング玉程の大きさである。

「本物……ですな」
「えぇ、ダンジョン産のオリハルコンの欠片を固めました」
「そうでしたか……確かにリーガルのダンジョンからはオリハルコンの欠片を得られる。しかし、これ程の量を……? いや、あの魔導書グリモワールの数を考えれば必然なのかもしれませんな」

 実際にはもっとあるけどな。
 事実、リィたんは嬉しそうにオリハルコンのハルバードを頬ずりをしながらリーガルのダンジョンに向かった。きっと今頃魔導書グリモワール以上にオリハルコンの欠片を集めているに違いない。

「……して、ミナジリ卿は私にこれをどうしろと仰るのかな?」

 流石のドマークにも動揺がうかがえる。
 オリハルコンをチラチラと見ながら俺の返答を待っているようだ。

「是非ドマークさんにご購入を――」
「――買いましょう」

 神速だった。
 一瞬、時が止まったかと思ったくらいだ。

「……ま、まだ値段の話をしていないのですが」

 ここは【交渉】を発動しておくべきだろう。

「む、そうでしたな。いかほどでしょう?」
「リーガル白金貨一万二千枚……でどうでしょう?」
「……一万枚でいかがでしょう?」

 凄いな、ぼったくったとは思ったけど、ちゃんと食らいついてきた。

「一万二千です」
「一万一千でいかがでしょう?」
「一万二千です。その代わり、この場でドマークさんの望む形に加工しましょう」
「おぉ、本当ですか! ならば一万二千出しましょう」

 交渉材料に加工オプションを残しておいて良かった。

「それで、どのような形をご所望ですか?」
「そうですな……国宝以上の価値を見出しつつ、注目を集められる。加工品となると、やはり美術品でしょうか」
「壺や皿のようなものでしょうか?」
「いえ、出来れば信仰すら集められるようなモノがいいかと」
「ならば何かをかたどった像……でしょうかね」
「それです! そうですな、龍を象っていただけますかな?」
「かしこまりました」

 俺が知ってる龍なんて一人しかいないけどな。

「な、何だか部屋が温かくなったような……?」
「魔力で抑えてはいますが、加工しやすいように超高熱でオリハルコンを熱しています」
「なるほど、それで欠片を塊に……。いやはや素晴らしい能力だ」
「こんな、ところで、どうで、しょう、っと」
「これは!」
「水龍リバイアサン、、、、、。オリハルコンの青白い発光がよく合うと思います」
「おほぉ~……素晴らしい!」

 珍しくドマークが興奮している。
 この人でもこんな笑い方するんだな。

「ミナジリ卿、神技のごとき技術、しかと拝見致しました。今後加工の依頼をお願いしても?」
「問題ありませんよ。我がミケラルド商店は【鍛冶ブラックスミス】、【錬金術アルケミー】、【修理リペア】、【付与エンチャント】と色々対応しておりますよ」
「ほぉ、さぞかし素晴らしい職人を抱えていらっしゃるのでしょうな……」

 全てお前がやっているんだろ? って感じの視線だ。
 ダンジョン産のマジックアイテムを使えば出来るし、簡単なものだったらエメラやクロードでも出来る。まぁ、難しいのは俺がやるしかないけどな。

「はははは、こちらは助かってますよ」
「ですが一つ忠告を」
「はい? 何でしょう?」
「加工という手札カードを持っていたのであれば、最後の交渉で一万三千に上げた方が良かったですよ」

 凄まじい忠告だった。

「……もしかして、少々演技を?」
「ほんの少しですがね」

 やられた。
 どこからどこまで演技だったのかと聞きたくなるが、【交渉】で得られた戦果は薄かったと言わざるを得ないだろう。
 くすりと笑っていたドマークは人差し指を立てて丁寧に説明してくれた。

「このオリハルコンの塊、単体でリーガル白金貨一万二千枚は正に妥当な金額です。しかしこれは加工されていない状態の価格です。なので私は、予算の中から加工代として白金貨二千枚を引いた額を提示したのです」
「それが一万……」
「その通りです。ですがミナジリ卿は一歩も引かなかった。ここまでは流石でした」
「つまり、そこからがダメだったと」
「まぁ、別の意味で流石でしたが」

 苦笑するドマーク。
 これは加工の腕の話をしたのだろう。

「因みに、加工済みの水龍像コレだと、どれくらいが適正価格だったのでしょう?」
「うーん、そうですね……リーガル白金貨にして、およそ一万五千」
「ごっ!? 三千枚も損したんですか!?」
「ふふふ、勉強代と思う事ですな」
「ぬぅ……今日を朝からやり直したい……」
「ははははは! ではもう一度交渉されますか? 私は引きませんが?」
「いや、勝てる気がしないのでもうそれでいいです」
「引き際は心得ていらっしゃるようですな」
「ははは……」

 大人の世界って……何て怖いんだろう。

「しかし、今回の売買をもってミナジリ卿も商人ランクAですな」
「え、そうなんです?」
「商人ランクをBからAに上げるには、各国の白金貨で、一度に五千枚以上の取引及びランクB以降白金貨を一万枚稼ぐ事にありますから」
「つまり、一度に全て行ってしまったと」
「こちらに関しては、心の底から流石と言わせて頂きます。あぁそうだ、実はミナジリ卿にお願いがありまして」
「何でしょう?」
「そちらの水龍像、マッキリーから首都リーガルまで輸送を頼まれてはくれませんか? 流石にそれを持ち歩く度胸は持ち合わせておりませんので……」
「かしこまりました。では後日、ドマーク商会へお届けにあがります」

 こうして、俺は商人ランクAに上がった。
 リーガル国王ブライアンの提示した白金貨一万枚。
 来年の税金を見越した二千枚も得て、ミナジリ領を購入する準備は整った。
 しかし、まだその時期ではない。リーガルとシェルフとの同盟、そして落成式。自国の自給問題の解決等々、やる事は非常に多い。
 これら全ての問題が解決した時、俺は、俺たちの国は……誕生するのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...