上 下
141 / 566
第一部

その140 聖ミケラルド爆誕

しおりを挟む
「【固有能力】の項目に【聖加護】ってのが増えてますね」
「…………ミックは魔族だったはずだが?」
「見てみろって言ったのはリィたんでは? というか、この能力は?」

 俺がリィたんに聞くも、返ってきた答えはリィたんからではなかった。

「かつて、人間の中で【聖女】と呼ばれていた女が使う事が出来た能力だ」
「ジェイルさん? 何でここに?」
「あれだけ窓ガラスを割っておいて『何で』とは大概だな」

 それはごもっともだ。

「どういった能力なんです?」
「森羅万象に対し聖なる加護が付与出来るといった類の能力だ。【聖女】が聖なる加護を施した武器を持って戦った者。その者こそが【勇者】だ」
「つまり、魔族の弱点を付与出来るようになったという事ですね」

 これはもしかしてかなりのアドバンテージになるのではなかろうか?
 正に聖ミケラルド爆誕と言ったところか。

「それに、これでマッキリーのダンジョンに潜らなくて済むだろう」
「へ? 何でです?」
「ふむ……」

 ジェイルは【闇空間】を発動し、竹筒を取り出した。

「水だ」
「はぁ」
「【聖加護】を」

 言われた瞬間、俺は脳裏に答えが過ぎってしまった。
 これはまさか……もしかして?

「どうだミック?」
「確かに、【聖水】に変化してますね」
「薬草を栽培し、同じ事をすれば【聖薬草】も出来る。魔力が豊富にあるミックの事だ。この効率は計り知れないぞ」

 頭の中で、白金貨がジャラジャラ落ちる音が聞こえた気がした。

「リィたん、ジェイルさん……」
「「何だ?」」
「どうしよう……?」
「何とだらしのない笑みだ……」
「涎が垂れてるぞ、ミック」

 俺の目に金貨が映っていると言わんばかりに呆れる二人だったが、俺の中の白金貨カウンターは逐次カウントされていたのだった。

 ◇◆◇ ◆◇◆

 その後、俺はジェイルに薬草栽培を任せ、ミナジリ領へ戻った。
 因みにリィたんはリーガルのダンジョンへ向かっている。魔導書グリモワールの在庫を気にすればいいだけとは有り難い。当然、ダンジョンから得られる宝物は他にもある。しかし、それが欲しければ受注という形式で受ければ済む話だ。
 これからはかなり楽にお金が稼げるし、その時間も他に回す事が出来るだろう。

「シュッツ、おはよう」
「これはミケラルド様、おはようございます」
東門、、の様子は?」
「既に何人かの商人がここを通りました。中には冒険者らしき者もいましたな」
「わかった。あぁ、このマジックスクロールを渡しておく。東門の屯所内の壁に貼っておいてくれ」
「これは……?」
「俺にテレパシーが使えるアイテム……かな」
「なんと!?」
「詳しい使い方はこれを読んどいてくれ」
「かしこまりました。して、ミケラルド様はこれからどちらに?」
「屋敷をね……作らなくちゃいけないんだよ」
「それなら既に完成しておりますが?」

 …………何だって?

 ◇◆◇ ◆◇◆

「うわぁ……」

 典型的なコの字型の巨大な屋敷。
 煉瓦の配色から中庭まで……何もかもがあのワラキエル家の屋敷そのまんま。

「昨日、ミケラルド様がシェンドの町にお出かけになった後、全ダークマーダラー総動員で造り上げました」

 あぁ、彼らならそれが可能だろうね。
 そして、彼らだからこそ、この屋敷が出来上がったのだろう。

「差し出がましいとは存じましたが、領主たるものこれくらいの屋敷があって然るべきです」
「いや、よくやってくれた。ありがとう、シュッツ」
「いえ、サイトゥ殿も張り切っておいででした」
「はははは、後は家具一式と食器類、それに……お手伝いさん?」
「召使いの求人はかけてあります。既に何人かの候補も見つかっておりますし、時間の問題でしょう」

 シュバイツのやつ、真面目に働くとここまで優秀なのか。
 ……いや、そもそもシュバイツは平民ながら騎士となったんだ。優秀でないはずがない。
 目先の出世欲にさえ傾かなければ、もしかしたら本当に出世出来てたのかもしれないな。

「屋敷の前までの道の舗装も近い内に完成するでしょう。屋敷までは馬車で来られる道幅が必要なので少々お時間を頂きますが」
「俺がやる事がほとんどないな」
「現場に立つ貴族がどれ程珍しいかおわかりになったでしょう」

 くすりと笑うシュバイツに、俺は目を丸くした。
 なるほど、ランドルフやブライアン王は、きっとこのシュバイツの一面を認めていたのだろう。

「落成式はどれくらいに行えばいいんだ?」
「遠方からいらっしゃる方もおりますれば、半月は開けるべきかと」
「それじゃシュッツ、サマリア公爵家からもらった貴族リストの精査を任せる。それと、ギュスターブ辺境伯への招待状を用意しといてくれ。諸経費の請求はジェイルさんに」
「かしこまりました」

 専属執事になったかのようなシュバイツは、どこか嬉しそうに頭を下げた。
 彼がいれば、そこまで気負う必要はなかったのだ。
 さて、それなら俺は別の事を片付けてしまおう。
 そう、シェンドの町へ【テレフォン】の試作品を届けに行くのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【HIDE LEVELING】転生者は咎人だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいから、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜

久遠ノト@マクド物書き
ファンタジー
【ステータス1の最弱主人公が送るゆるやか異世界転生ライフ】✕【バレたら殺される世界でハイドレベリング】✕【異世界人達と織り成すヒューマンドラマ】 毎日更新を再開しました。 20時に更新をさせていただきます。 第四創造世界『ARCUS』は単純なファンタジーの世界、だった。 しかし、【転生者】という要素を追加してしまってから、世界のパワーバランスが崩壊をし始めていた。挙句の果てに、この世界で転生者は罪人であり、素性が知られたら殺されてしまう程憎まれているときた! こんな世界オワコンだ! 終末までまっしぐら――と思っていたトコロ。  ▽『彼』が『初期ステータス』の状態で転生をさせられてしまった! 「こんな世界で、成長物語だって? ふざけるな!」と叫びたいところですが、『彼』はめげずに順調に協力者を獲得していき、ぐんぐんと力を伸ばしていきます。 時には強敵に負け、挫折し、泣きもします。その道は決して幸せではありません。 ですが、周りの人達に支えられ、また大きく羽ばたいていくことでしょう。弱い『彼』は努力しかできないのです。 一章:少年が異世界に馴染んでいく過程の複雑な感情を描いた章 二章:冒険者として活動し、仲間と力を得ていく成長を描いた章 三章:一人の少年が世界の理不尽に立ち向かい、理解者を得る章 四章:救いを求めている一人の少女が、歪な縁で少年と出会う章 ──四章後、『彼』が強敵に勝てるほど強くなり始めます── 【お知らせ】 他サイトで総合PVが20万行った作品の加筆修正版です 第一回小説大賞ファンタジー部門、一次審査突破(感謝) 【作者からのコメント】 成長系スキルにステータス全振りの最弱の主人公が【転生者であることがバレたら殺される世界】でレベルアップしていき、やがて無双ができるまでの成長過程を描いた超長編物語です。 力をつけていく過程をゆっくりと描いて行きますので「はやく強くなって!」と思われるかもしれませんが、第四章終わりまでお待ち下さい。 第四章までは主人公の成長と葛藤などをメインで描いた【ヒューマンドラマ】 第五章からは主人公が頭角を現していくバトル等がメインの【成り上がり期】 という構成でしています。 『クラディス』という少年の異世界ライフを描いた作品ですので、お付き合い頂けたら幸いです。 ※ヒューマンドラマがメインのファンタジーバトル作品です。 ※設定自体重めなのでシリアスな描写を含みます。 ※ゆるやか異世界転生ライフですが、ストレスフルな展開があります。 ※ハッピーエンドにするように頑張ります。(最終プロットまで作成済み) ※カクヨムでも更新中

賢者への軌跡~ゼロの騎士とはもう呼ばせない~

ぶらっくまる。
ファンタジー
【第五章――月・水・金に18:30定期更新】 魔力ゼロの無能が最強の賢者に成長する!? 日本どころか召喚された世界でさえも不遇な主人公。 ついに、勇者パーティーから追放されるも、そこから彼の本当の冒険がはじまる。 奴隷や貴族を追われた娘など境遇に問題を抱えた美人美少女たちとの冒険を楽しみながらも、己の考えの甘さに悩み葛藤し成長する主人公。 やがて冒険者として頭角を現す主人公は、望む望まざるとも世界の歯車となっていく。 そんな魔力ゼロの主人公が賢者となる軌跡を描いたファンタジー冒険譚!

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

裏切り者扱いされた氷の魔術師、仲良くなった魔族と共に暮らします!

きょろ
ファンタジー
【※こちらの作品は『第17回ファンタジー小説大賞』用に執筆した為、既に書き終えてあります! 毎日1~2話投稿予定。9/30までに完結致します! 宜しくお願い致します】 勇者パーティの一員として、魔族と激戦を繰り広げた氷の魔術師・アッシュ。 儚くも魔王に辿り着く前に全滅してしまった勇者パーティ。 そこで氷の魔術師のアッシュだけが、囚われの身となってしまった挙句、 何故か彼は予期せずして魔族と親交を深めていた。 しかし、勇者パーティの一員としての使命を決して忘れずにいたアッシュ。 遂に囚われの身から解放され、仲間の待つ王都へと帰還。 だがそこで彼を待ち受けていたのは信じられない“絶望”だった。 裏切られ、全てを失った氷の魔術師アッシュ。 凍てつく程に冷たい感情が芽生えた彼が次にと行動…。 それは、親交深めた“魔族”との共生であった――。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~3巻が発売中!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  第四巻は11月18日に発送。店頭には2~3日後くらいには並ぶと思われます。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍1~7巻発売中。イラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

処理中です...