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第一部

その138 忙しき日々

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「くそ!? 何だそれ!? 知らない! 何で家如きが出来ただけで人呼んでパーティーしなくちゃいけないんだ!? 失礼のない料理、食器、家具、マナー、人員、どれをとっても俺にとって無縁の話だ!」

 と、叫びながらマッキリーに向かう中、俺はサマリア領とマッキリーまでの道を【土塊つちくれ操作】の魔法で舗装していた。
 これはランドルフが俺に気を遣ってくれたようだ。ランドルフ曰く、「道の舗装はそもそもサマリア公爵家からの依頼だったと言えばいい」と。「ギュスターブ辺境伯家へのプレゼンになるし、私がミナジリ子爵家を紹介する事も出来るから、ギュスターブ辺境伯家に近いミナジリ領でデモンストレーションをした。気に入ったのなら落成式来なよ。私がミナジリ卿と仲介しよう。ミナジリ卿からの招待状を待っててくれ」みたいな手紙をギュスターブ家に送るそうだ。これにより、貴族の顔に泥を塗った事にはならなくなる。
 みたいなランドルフスマイルをくれたのだが、これは体の良い言い訳、、、だ。
 ランドルフの顔には確かに書いてあった。「無料タダで道路舗装♪ 無料タダ~♪」みたいな欲望満載の文字が。
 相変わらず抜け目のないおっさんである。

「あ、ミケラルド様! お帰りなさい!」
「あぁカミナ、ただいま~」

 マッキリーにあるミケラルド商店三号店、そこで店番をしていたカミナが俺を迎える。

「何度も言うけど、ミケラルド『さん』とかでいいよ?」
「何度も言いますけど、ミケラルド『様』で通させて頂きます♪」

 まぁ、これはいつものやり取りだ。

「はぁ、それで今日の店の在庫は?」
「ん~、聖水と聖薬草がこころもとなくなってきたかなーって感じです」
「わかった、夜はマッキリーのダンジョンに潜るよ」

 ◇◆◇ 夜、マッキリーのダンジョン内 ◆◇◆

 ダイアウルフ(亜種)を倒した後、俺はダンジョンの最終階層で休憩をとっていた。
 ダンジョンのシステムは、大体把握してきたという自負がある。
 最終階層では、ダイアウルフ(亜種)……つまりそのダンジョンのボスを倒す事で宝箱が出現する。しかし、備え付けのように置いてある【聖薬草】と【聖水】は、最終階層に辿り着いた時に現れるようだ。つまり、俺が最終階層に降りた時点で、ボスと二つのアイテムが出現する。そして、ボスを倒した事により、最後の宝箱が出現する。
 因みに、ダンジョン内で転移魔法は使えない。何らかの妨害魔法が働いているのだろう。という訳で、ボスを倒す以外では、引き返さない限りこのダンジョンからは出られないというのだ。
 問題は転移装置の起動タイミング。これはダンジョン産のアイテムを取った瞬間に起動するものだ。つまり、ボスを倒した後、【聖薬草】と【聖水】をとらないと転移装置は起動しない。とらずに引き返す事も可能だが、そうする冒険者はいないだろう。
 しかし、ボスを倒した後、ゆっくりする事も可能なのだ。
 リーガルのダンジョンは岩肌がゴツゴツしているが、ここは緑溢れるマッキリーのダンジョン最終階層。夜なのに明るい場所で緑を満喫出来る絶好の休憩ポイントと言える。
 この間、他の冒険者が現れる事はない。リィたんも今マッキリーのダンジョンに潜っているが、別行動である。仮にリィたんが最終階層に着いたとしても、それはそれで別の最終階層に向かうだけ。同じタイミングでダンジョンに潜った者でないと合流出来ないのだ。
 従って冒険者ギルドでは、ダンジョンの冒険者救出といった類の依頼はない。

「おーし、【テレフォン】の魔法完成っと。後はこれをドマーク商会で買ったマジックスクロールに付与すれば……紙の電話が完成」

 やはり見栄えが悪い。紙に話しかけるネムやニコルを想像するだけで笑えてくる。
 そもそもマジックスクロールは羊皮紙に錬金術アルケミーの技を発動させるだけで出来るものだ。そしてマジックスクロールに付与魔法を施す事で、魔力の少ない者……たとえば戦士でも火の魔法を使えたりする訳だ。因みに、各ミケラルド商店に設置しているテレポートポイントも同じ原理である。箪笥チェストに付与魔法を施せるように錬金術アルケミーの能力を使っているのだ。
 ならば、羊皮紙ではなく別の物を媒体としても問題ない。それこそ、そこらへんに落ちている木の棒でもいいのだ。でもそれだと審美的によろしくない。やはりカッコいいのは水晶だが、それでは二番煎じである。もっと何かないか?
 現代地球人ならではの通信道具。
 その後、小一時間悩んだ結果、ある一つの答えに辿り着いた。

「よし! これならそこそこ格好がつくんじゃないか? あぁ~、喉渇いた!」

 そこまでは良かった。
 そこまでは良かったのだ。
 俺は無意識の内に手を伸ばしてしまった。
 自分でウォーターの魔法を使えば良かったのだ。しかし、そうしなかったのは現代地球で過ごした時間の長さが原因だろう。そう、俺は無意識の内に手を伸ばしてしまった。
 それは、マッキリーのダンジョン産の高価な水。
 ミケラルド商店で金貨四十枚で売られているあの水……そう、【聖水】に。
 気付いた時は遅かった。
 豪快に【聖水】のピッチャーを取り、嚥下えんげする事――二回。

「カッハッッ!?!?」

 過去数億年遡っても、聖水を呑んだ吸血鬼は俺みたいな馬鹿しかいないだろう。
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