上 下
120 / 566
第一部

その119 ワラキエル家の現状

しおりを挟む
「お疲れ様です」
「「お疲れ様でーす!」」

 まるでミケラルド商店の営業終了時間のようだが、あくまで一日目の調査終了というニュアンスなのだ。なのだが、やはり慣れって怖いな。
 不意にダンジョンに潜ろうとテレポートでマッキリーまで帰ろうとしてしまった自分は、最早もはやミケラルド商店の社畜なのだろう。

「さて、状況整理ですね」

 調査拠点にある大テーブルの上に広がる周辺一帯の地図。

「今回の戦果は一つだけ。不可解な杭……それだけです」

 事実、洞窟近くに行ってもダークマーダラーの気配はなかった。
 つまり、近辺にもう魔族はいないのだ。

「しかし、杭についてわかった事もあります。あれには闇魔法の魔力因子がありました」
「ふむ、やはりか……」

 リィたんもそこまでは行き着いたか。

「杭の数は六つ。この六カ所が……北、西、東、南西、南東、そして南です」

 木のブロックを地図上の該当箇所に六つ置き、俺は説明を続ける。

「この六カ所について、何か不自然に感じる事はありますか?」

 皆が眼下に広がる地図をジッと見つめる。

「あっ」

 すると、ナタリーが親指と中指の間の空間を使い、物差し代わりにして六カ所の距離を測る。
 これに皆が注目する。

「全て等間隔ですね……」

 クレアが顎先に手を当てながら言う。

「何でしょう、この六角形……?」
「六角形? 本当にそうか……?」

 エメラの言葉にリィたんが疑問を持つ。
 ふむ、こういう時の相場はその中央だろうか。
 俺は全ての杭の中央にブロックを一つ置いてダドリーに聞く。

「ここには何があります?」
「「っ!?」」
「……シェルフですね」
「もっと正確に言うと……?」
「っ! 精霊樹があります!」

 と、ここまでは簡単に出せる。
 だが、それ以上の正確な情報は出てこない。

「何らかの魔族的な儀式……?」
「「知らないな」」

 流石に不自然過ぎると思うぞ。リィたんにジェイルよ。
 まぁ、この二人が知らないというのであれば、それは知らない事なんだろう。

「ダークマーダラーはこの地で一体何をしていたのか。あの杭は一体何なのか。魔族の目的は。問題が一つ増えましたがやる事は変わりません。明日は洞窟に入ります。メンバーは私、リィたん、ジェイルです」

 流石に最重要地点にナタリーは連れて行けないからな。

「それ以外の方は杭周辺をもう一度調べてください」
「「わかりました!」」

 ◇◆◇ ◆◇◆

 二日目。
 ミナジリ村の三強は揃って洞窟へ入った。
【嗅覚】を使いある程度は知っていたつもりだが、やはりそこは凄惨な場だった。

「……エルフの人骨だね。それに、乾いているとはいえまだ新しい血。奴らはここを拠点に、何かをしていた」
「だが、もぬけの殻」

 リィたんの言葉に俺は頷く事しか出来なかった。
 すると、ジェイルが何かを発見した。

「ミック、これを見ろ」
「これはっ!」

 それは、人骨ではなかった。
 死体と呼べるだけの形状を留めていた。
 女のエルフの変死体がそこにあった。そして、俺はその死体に見覚えがあった。
 いや、この人を知っている訳ではない。この死に方に見覚えがあったのだ。

「干からびてるな。という事はこの件には妖魔族、、、も関わっていたのか」

 そう、人間の生気を吸い取り糧とする魔族だ。
 俺の三歳の生誕祭の時、スパニッシュの屋敷に来ていた妖魔族ようまぞく

「という事は……父親スパニッシュが親玉ですか?」

 俺がジェイルに聞くと、彼は首を横に振った。

「奴は今こんな事をしている暇はない。今頃十魔士への根回しで手一杯だろうからな」
「それはどうして?」
「「ミックのせいだろう」」

 どうやら知らない内にパパに迷惑を掛けていたようだ。

「そんなハモらなくてもいいじゃない」

 俺のジト目に、二人は呆れまなこを送ってくる。

「いいか? ワラキエル家に忠誠を尽くし奉公していたのは誰だ?」
「えっと……アンドゥ?」
「そうだ。それをミックとドゥムガが殺した」

 そんな物騒な。
 まぁ、事実だから否定は出来ないけどな。
 その後、更にジェイルは続けた。

「ダークマーダラーの元頭首でもあるアンドゥが、ワラキエル家に仕えていたのには理由がある」
「それは……十魔士の中で立場を良くするため?」
「その通りだ。当然スパニッシュもそれを理解している。野心を持って仕えていようがスパニッシュには関係ない。何故ならダークマーダラーを迎え入れる事でスパニッシュにも利があるからだ」
「あ、力を誇示出来るね」
「その通りだ。互いに利があるからこそあの二人は組んでいた。しかし、その片割れが命を落とした。これが原因で何が起きると思う、ミック?」
「……アンドゥの死により、ダークマーダラー種がスパニッシュから……ワラキエル家から離れる」
「そうだ。引退した後でもアンドゥは種に尽くしていた。ダークマーダラーの中でもその信頼は厚い。そしてアンドゥの死を隠せる程、魔界は甘くない。あの後、スパニッシュはダークマーダラー種から凄まじい糾弾を受けた事だろう」

 なるほど、そういう事か。
 ダークマーダラー種がワラキエル家から離れるきっかけを作ったのが……俺という訳だ。
 物凄い他人事ひとごとで申し訳ないが、その内、四天王を追放されるんじゃないだろうか……ワラキエル家のスパニッシュさん。

「人骨の数からして大半がダークマーダラー種の仕業だろう。だが、指揮を執っていたのは妖魔族だ。ミック、わかるか?」
「……この変死体が最奥にあったから」

 解答に辿り着いた俺に、ジェイルが笑みを見せる。

「その通りだ」

 そしてジェイルはリィたんに視線を向ける。

「リィたん、これはやはり……」
「あぁ、別の四天王、、、、、が動いてるな……」

 俺がリィたんの結論を聞いた瞬間、耳を塞ぎたくなった。
 割に合わないぞ、この仕事。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

処理中です...