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第一部

その29 冒険者カミナ

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 ◇◆◇ カミナの場合 ◆◇◆

 私は女冒険者のカミナ。
 ランクはCで、ソロとしてシェンドの町じゃそこそこ有名な冒険者だ。
 そのフットワークの軽さから、そして私の特性から、冒険者ギルドから、直接の指名依頼がままある。
 それは、低ランク冒険者の詐称報告調査。
 今日の調査依頼は簡単よ。
 ランクFの冒険者二人組の調査。
 一人は女だ。やたらスタイルがいい。非常にいい。殴りたくなるくらいいい。豪気な態度で振る舞う、少し頭の弱そうな小麦肌の女。
 名前はリィたん。
 もう一人は男だ。……正直言って、超好みだ。
 何、あの髪は? 光り輝く黒銀の髪、そしてあの整った顔立ち。透き通るような白い肌。あんな男がこの世に存在したとは驚きだわ。
 名前はミケラルド。
 今後、彼に関してはミケラルド様と呼ぼう。そうしよう。
 身なりは普通だけど、その依頼結果が異常だというギルドマスター直接の依頼。
 最初私もめていたけど、いくらコボルトの狩りといっても、たった四時間で百八十七匹のコボルトを退治出来るはずがない。
 そして、先程の依頼報告。マミーを七十二体? ランクCの私でも不可能だ。余程の大人数で狩らなければ、これ程の成果はあげられない。
 私は、依頼報告を終えた二人の尾行を始めた。
 このマジックアイテム【隠密ブーツ】があれば、ランクAの冒険者にだって気付かれる事はない。
 これが、私の特性。
 リィたんめ、私のミケラルド様に楽し気に話し掛けやがって。きっとあの女がミケラルド様をたぶらかしているに違いないわ。
 ……え? これから町の外に出るの?
 さっき冒険者ギルドで新たな依頼を受けた様子はなかった。
 という事は、町の外に二人の棲家がある?
 益々怪しくなってきたな。これは入念に調べる必要がありそうね。まずはミケラルド様の好物、そして好みのタイプから調べよう。これは決定事項よ。

「――って、アレ!?」

 町の外に出た直後、二人は一瞬にして消えた。
 まさか、私の尾行に気付いた? いえ、そんなはずは……ないとは言い切れないけど、そんな事が出来るとすれば、ランクS以上よっ?
 正直、尾行に気付いたとは思われたくないけど、報告するしかないようね。
 私を撒ける程の実力者たちだと。

「ほぉ、カミナが撒かれたか」

 豊かな白髭を蓄えた筋骨隆々の男。
 それがシェンドの町のギルドマスターである白老ゲミッド。

「撒かれたとは思いたくないけど、私の視界から消える力を持ってる事だけは確かよ。だったらあの依頼結果も納得するしかないんじゃないの?」
「ふむ、ならば少し泳がせるか」
「でも、これだけの実力者なら、すぐにランクアップしちゃうでしょ? だとしたら、もっと上を雇わなくちゃいけないんじゃない? それなら相当な赤字を覚悟しなくちゃいけないでしょう? だったら、普通に抱き込んじゃえばいいんじゃないの?」
「無論、それも考えている。ご苦労だった、報酬は受付で受け取れ」

 これだけの調査で、報酬金貨十枚。
 非常に割りは良い。こんな好条件の依頼を受けている私だけれど、私を誘う冒険者はいない。
 低ランクの冒険者ならばままあるが、ランクC以上の冒険者であれば、私がどんな依頼を受けているか、知っているからだ。
 冒険者の内情調査。聞こえはいいけど、冒険者からしてみれば、煙たがられて然るべき仕事内容だ。
 私と共に行動しては、冒険者ギルドにチクられる。そう思っている冒険者は非常に多いでしょうね。
 冒険者でありながら、冒険者の粗を探すような行動をとる、半端な冒険者。そりゃ敵も多く作っちゃうわよね。
 でも、そんな私にも友人はいる。
 それが唯一の救いであり、唯一の宝物だ。
 彼女、、はとても美しい女だ。私が眩しいと思える程。
 初心者の頃、冒険者ギルドで出会い、何回か一緒に依頼を消化し、仲良くなったのだけど、ひょんな事から、とある亜人と恋に落ちてしまった友人は、その後とても苦労していたそうだ。
 そんな友人と久しぶりにこのシェンドの町で出会い、後日食事の約束をした。
 どうも最近まで大変だったそうで、それがようやく片付いたようだ。でも、その時の友人の嬉しそうな笑顔は、何だったのだろう。
 もしかして子供の事かな?
 確かに、人間と、亜人――エルフと結ばれれば、子供はハーフエルフとなる。私自身差別するとかしないけど、それが根強いのが人間の文化なのだ。
 だから、私は、私だけは、しっかりとその友人を支えてあげたいと思う。
 さぁ、これからその友人に会いに行くんだ。
 会って久しぶりに、沢山話して、沢山笑うんだ。

「あ、来た来た。こっちよカミナ!」

 店外の四人掛けのテーブルから声がした。
 勿論、それは友人の声だった。

「久しぶり――じゃないわね、昨日ぶりだね、エメラ、、、! ……え?」
「「あ」」

 おかしいわね。私の幻覚じゃなければ、エメラと一緒に座っているのは……あの冒険者二人組。
 私もそうだけど、向こうの二人も変な声を漏らしていた。
 やっぱり昨日の尾行に気付いてたと思うのが正解でしょうね。
 でも、この出会い……いえ、この出逢いを無駄にしちゃいけないと思うの。

「えっと……エメラのご友人の方ですか? 私はカミナといいます。宜しくお願いします♪」
「ミ、ミケラルドです……」
「……リィたんだ」

 だって、ミケラルド様を押し倒せる――お近づきになれるチャンスだもの!
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