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第一部
その24 ミッションコンプリート
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シェンドの町。
遠目に見えるだけで、俺たちが入れる訳ではない。
当然、ハーフエルフであるナタリーも入れない。
そう、ハーフエルフという存在は迫害対象なのだ。当然、そう思わない人間もエルフもいるかもしれない。だが、大多数がそうなのだ。
したがって、ナタリーの両親もシェンドの町には住めない。
人里離れた場所に住んでいるという話だが、はて?
「ナタリー、ここからは任せたぞ」
「うん! あっち!」
俺に運ばれながら北上するナタリーが指差したのは、西の方に見えた小さな山。なるほど、あそこならばシェンドの町に近く、かつ、人にも見つからないような土地だ。
両親のどちらかがシェンドの町に買い出しに行くにしても、悪くない場所だ。
俺はナタリーとその両親が早く会えるように、出来るだけ急ぎ駆けた。
疾風迅雷、ヘルメスの靴、スピードアップ、更に特殊能力の身体能力向上、身体能力超向上を使い、山の方へ駆けた。
山が近付く程、ナタリーの顔は嬉しそうに歪んでいった。
ジェイルの感情はわからないが、どうやらリィたんはナタリーの泣き顔に困っているようだ。
そわそわしながら俺の方をちらちらちらちら見てくるが、あのナタリーの顔は、俺たちじゃどうにもならない事を、俺は知っている。
「はぁはぁ……はぁはぁはぁ、つ、着いたっ!」
俺は身体中汗だくでナタリーが指差していた山の麓に着いた。時間にして約十分程だろうか。ここからシェンドの町に行くならば、おそらく三時間は歩く道程だ。
相当頑張ったと思う。マジで誰か褒めて欲しい。
サイコキネシスで浮かべていた土椅子を下ろし、リィたんは麓を見渡す。
ほぉ、確かに奥に見える家から、嗅魔と探知が反応してるな。
周辺には他の生き物もいるが、人間やエルフの魔力ならこんなものか。一般人の魔力と考えるなら、これが普通なんだろうな。覚えておこう。
「ミ、ミック! 早く行こう!」
地面に降り、ナタリーが嬉しそうに言う。
しかし、俺は動かない。
「ミック……?」
「まずはナタリーだけで行くんだ。俺たちが行ったら大騒ぎになっちゃうし、お邪魔なんだよ」
「そんな事……!」
「いいから。落ち着いたら、ご両親に俺たちを紹介してくれればいいから。あ、ちゃんと説明するんだぞ。良い魔族だって」
このぐらいでちょうどいいのだ。
それに、感動の再会を邪魔する程、性格が曲がっている俺ではない。
「う……うん!」
涙を振り払い、そしてまた涙を溜めながらナタリーは言った。
そして、慣れ親しんでいたであろう踏み均された道を、ゆっくり、しかし踏み締めるように歩いて行く。
それはやがて速足となり、そして駆け足となった。
嬉しそうな泣き声が聞こえても、俺は……いや、俺たちは聞こえないふりをしながら、ナタリーの背中を見守った。
家に入ったナタリーの泣き声も、やはり聞こえなかった。そう、聞こえないのだ。
俺は腰を下ろし、ホッと息を吐く。
ようやくこれまでの苦労が報われた気がする。
ナタリーには随分苦労させちゃったし、回復したとはいえ、ドゥムガに腕を噛み切られちゃったりしたし……いやぁ、本当に頑張ったよな、ナタリーは。
「それで、この後はどうするんだ、ミック?」
と、ジェイルがそんな事を言っていた。
そう、ここは人界なのだ。俺たちが生き難い世界である。
しかし、魔界に戻るという判断は絶対にない。何故なら、俺にとっては、あちらの方が生き難いからだ。
となると、やはり人界で生きるしかなくなる。
「まずは、手つかずの土地を探します」
「ほぉ?」
リィたんも興味深そうに呟いた。
「そこを拠点とし……まずは生きてみようかと」
「まず――と言ったな? ゆくゆくはどうするつもりだ?」
「理想は人間との共存ですが、それが難しければ別の方向にシフトします。というかジェイルさん、顔近いっす」
「う、うむ。少し興味があってな」
軽く咳払いしたジェイル。
確かに、俺がこれからやろうとしている事は、ジェイルにとっては非常に興味深い事だろう。
何故なら、人間との共存を望む存在など、これまでいなかったのだから。まぁ、そう言い切れはしないが、ジェイルの反応から、行動に起こしたやつはいないとわかるだろう。
「手つかずの土地か。ならばここにすればいいではないか?」
「いや、シェンドの町が丸見えじゃないか。それにここにはナタリー家族だって住んでるんだぞ?」
「ならば余計に都合がいいのではないか? ナタリーともいつでも会えるし、この山の向こうは人の手が及ばない土地だ。町が近ければ、それだけ人間と接触できる機会も多いしな」
うーむ、俺の魔力じゃまだ探知出来ないから判断出来ないけど、リィたんが言うなら、この山の向こうは開拓されてないんだろうな。
確かに、最初は出来ればナタリー家族に助けて欲しい事もあるしな。悪い考えじゃないかもしれない。
……っと、ナタリーが出て来たな。
どうやら両親に俺たちの説明をしたみたいだ。
父親らしき存在は武器を持っているが、魔族の前に行く以上、それは当然の備えだろう。
ふむ、やはり父親がエルフで、母親が人間なのか。
この世界の亜人たちの環境も、出来れば詳しく知りたいものだ。
「それでミック? 先程言っていた共存が出来なかった場合の別の方向とは何だ?」
「まぁあくまで最終手段なんですけど、人魔界でも作ろうかと思いまして」
この時のジェイルの顔は、リザードマンなのにも拘わらず、かなりナイスな表情をしていたと思う。
そう、もし人間との共存が難しければ、人界でも魔界でもない――――第三勢力を作ればいいのだ。
だってそうだろ?
勇者殺しのリザードマン。
大海獣リバイアタン。
魔王と同じ能力の半端な吸血鬼。
ほら、人材としては悪くないじゃないか。
遠目に見えるだけで、俺たちが入れる訳ではない。
当然、ハーフエルフであるナタリーも入れない。
そう、ハーフエルフという存在は迫害対象なのだ。当然、そう思わない人間もエルフもいるかもしれない。だが、大多数がそうなのだ。
したがって、ナタリーの両親もシェンドの町には住めない。
人里離れた場所に住んでいるという話だが、はて?
「ナタリー、ここからは任せたぞ」
「うん! あっち!」
俺に運ばれながら北上するナタリーが指差したのは、西の方に見えた小さな山。なるほど、あそこならばシェンドの町に近く、かつ、人にも見つからないような土地だ。
両親のどちらかがシェンドの町に買い出しに行くにしても、悪くない場所だ。
俺はナタリーとその両親が早く会えるように、出来るだけ急ぎ駆けた。
疾風迅雷、ヘルメスの靴、スピードアップ、更に特殊能力の身体能力向上、身体能力超向上を使い、山の方へ駆けた。
山が近付く程、ナタリーの顔は嬉しそうに歪んでいった。
ジェイルの感情はわからないが、どうやらリィたんはナタリーの泣き顔に困っているようだ。
そわそわしながら俺の方をちらちらちらちら見てくるが、あのナタリーの顔は、俺たちじゃどうにもならない事を、俺は知っている。
「はぁはぁ……はぁはぁはぁ、つ、着いたっ!」
俺は身体中汗だくでナタリーが指差していた山の麓に着いた。時間にして約十分程だろうか。ここからシェンドの町に行くならば、おそらく三時間は歩く道程だ。
相当頑張ったと思う。マジで誰か褒めて欲しい。
サイコキネシスで浮かべていた土椅子を下ろし、リィたんは麓を見渡す。
ほぉ、確かに奥に見える家から、嗅魔と探知が反応してるな。
周辺には他の生き物もいるが、人間やエルフの魔力ならこんなものか。一般人の魔力と考えるなら、これが普通なんだろうな。覚えておこう。
「ミ、ミック! 早く行こう!」
地面に降り、ナタリーが嬉しそうに言う。
しかし、俺は動かない。
「ミック……?」
「まずはナタリーだけで行くんだ。俺たちが行ったら大騒ぎになっちゃうし、お邪魔なんだよ」
「そんな事……!」
「いいから。落ち着いたら、ご両親に俺たちを紹介してくれればいいから。あ、ちゃんと説明するんだぞ。良い魔族だって」
このぐらいでちょうどいいのだ。
それに、感動の再会を邪魔する程、性格が曲がっている俺ではない。
「う……うん!」
涙を振り払い、そしてまた涙を溜めながらナタリーは言った。
そして、慣れ親しんでいたであろう踏み均された道を、ゆっくり、しかし踏み締めるように歩いて行く。
それはやがて速足となり、そして駆け足となった。
嬉しそうな泣き声が聞こえても、俺は……いや、俺たちは聞こえないふりをしながら、ナタリーの背中を見守った。
家に入ったナタリーの泣き声も、やはり聞こえなかった。そう、聞こえないのだ。
俺は腰を下ろし、ホッと息を吐く。
ようやくこれまでの苦労が報われた気がする。
ナタリーには随分苦労させちゃったし、回復したとはいえ、ドゥムガに腕を噛み切られちゃったりしたし……いやぁ、本当に頑張ったよな、ナタリーは。
「それで、この後はどうするんだ、ミック?」
と、ジェイルがそんな事を言っていた。
そう、ここは人界なのだ。俺たちが生き難い世界である。
しかし、魔界に戻るという判断は絶対にない。何故なら、俺にとっては、あちらの方が生き難いからだ。
となると、やはり人界で生きるしかなくなる。
「まずは、手つかずの土地を探します」
「ほぉ?」
リィたんも興味深そうに呟いた。
「そこを拠点とし……まずは生きてみようかと」
「まず――と言ったな? ゆくゆくはどうするつもりだ?」
「理想は人間との共存ですが、それが難しければ別の方向にシフトします。というかジェイルさん、顔近いっす」
「う、うむ。少し興味があってな」
軽く咳払いしたジェイル。
確かに、俺がこれからやろうとしている事は、ジェイルにとっては非常に興味深い事だろう。
何故なら、人間との共存を望む存在など、これまでいなかったのだから。まぁ、そう言い切れはしないが、ジェイルの反応から、行動に起こしたやつはいないとわかるだろう。
「手つかずの土地か。ならばここにすればいいではないか?」
「いや、シェンドの町が丸見えじゃないか。それにここにはナタリー家族だって住んでるんだぞ?」
「ならば余計に都合がいいのではないか? ナタリーともいつでも会えるし、この山の向こうは人の手が及ばない土地だ。町が近ければ、それだけ人間と接触できる機会も多いしな」
うーむ、俺の魔力じゃまだ探知出来ないから判断出来ないけど、リィたんが言うなら、この山の向こうは開拓されてないんだろうな。
確かに、最初は出来ればナタリー家族に助けて欲しい事もあるしな。悪い考えじゃないかもしれない。
……っと、ナタリーが出て来たな。
どうやら両親に俺たちの説明をしたみたいだ。
父親らしき存在は武器を持っているが、魔族の前に行く以上、それは当然の備えだろう。
ふむ、やはり父親がエルフで、母親が人間なのか。
この世界の亜人たちの環境も、出来れば詳しく知りたいものだ。
「それでミック? 先程言っていた共存が出来なかった場合の別の方向とは何だ?」
「まぁあくまで最終手段なんですけど、人魔界でも作ろうかと思いまして」
この時のジェイルの顔は、リザードマンなのにも拘わらず、かなりナイスな表情をしていたと思う。
そう、もし人間との共存が難しければ、人界でも魔界でもない――――第三勢力を作ればいいのだ。
だってそうだろ?
勇者殺しのリザードマン。
大海獣リバイアタン。
魔王と同じ能力の半端な吸血鬼。
ほら、人材としては悪くないじゃないか。
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