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第一部

その23 リーガル国

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「呼び戻しの風やエアウォール、突風ってのはわかるけど、この探知ってスキルは何なの、リィたん?」
「探知まで使えたのですか」

 ジェイルがリィたんを見て聞く。
 リィたんはジェイルに頷き、風魔法の探知の説明をしてくれた。

「魔力量に応じて、風が届く範囲の存在を探知出来る。小さな虫……ともなると難しいが、小動物くらいならばそれで見つけられる」

 なるほど、リィたんが俺を追いつめた時、俺を察知したのがこの魔法だな。あの時は弄ばれた感が強すぎて困ったものだ。
 何にせよ、この魔法があれば……――ってあれ?

「リィたん、ならこの魔法で人間との遭遇を避けられたんじゃないの?」
「何故避ける必要がある?」

 不敵……というよりまるで「そんな小さい存在に何故注意する必要があるのか?」という顔だ。なるほど、構う必要すらないという事か。
 確かにリィたんの実力なら納得だ。

「ところでミック?」
「何ですジェイルさん?」
「アンドゥの血も吸ったのだな?」
「えぇ、超回復と硬化もしっかり修得してます」
「なら戦闘時、いや、非戦闘時を含め、硬化は常に使っておく習慣を心掛けるべきだ」
「っ! あぁそうか、硬化は自分が使える魔法属性にも強くなる……か」

 ジェイルが頷く。
 そう、俺はこの短期間で全ての属性魔法が使えるようになった。つまり、硬化を常に発動していれば、物理、魔法攻撃に対して、相当な耐性を得られるのだ。
 いずれ覚えたであろう……しかし、ドゥムガの血によって得た雷魔法、ナタリーの光魔法、ドゥムガの土魔法、ジェイルの火魔法、リィたんの水魔法。そして元々吸血鬼が使える風魔法と闇魔法。
 うーむ、いよいよナタリーが俺を人として見てくれなくなったような気がする。いや、元から人ではないんだけどな。

「む、見えたな!」
「あっ!」

 ジェイルの言葉に続き、嬉しそうな声を出したのはナタリーだった。遠目に見える長蛇の柵。しかし、木製のもので簡単によじ登れそうだ。その柵の先には、石造の壁のような物が見える。おそらくあれは関所。

「あれが、リプトゥア国からリーガル国への国境!」
「そういう事だ」

 つまり、あの国が……ナタリーの国!
 目に涙を潤ませたナタリーに、俺も嬉しくなった。
 そう、俺たちの第一目標は、ナタリーを人間界の親の下へ帰す事だったからだ。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 当然、ナタリー以外は関所を通る事も出来ない。
 そしてナタリー一人を関所に向かわせるのも危険なため、木製の柵をよじ登る他ない俺たち。
 といっても、よじ登ったのはナタリーだけだ。
 リィたんとジェイルは普通に跳び越え、俺も身体能力向上の特殊能力を使っただけで跳び越えられた。

「むぅ~、皆ずるい!」

 と、剥れていたナタリーだが、この中で浮いてしまうのも仕方ない気がする。一番普通なんだけどな。

「まぁまぁ、早く帰ってお父さんとお母さんを喜ばせてあげないとな」
「むぅ~なんだかはぐらかされた気分~!」

 と、剥れ続けるナタリーだが、内心は嬉しくて仕方ないのだろう。おそらく、剥れる事で、綻びる顔を隠している……そんな様子だ。
 だが、早く両親にナタリーを届けたいのは事実。
 何故なら、ナタリーの父親はテレパシーの特殊能力を持っているからだ。ナタリーが人界に入った今、いつでもナタリーに父親からのテレパシー連絡が入ってもいいはず。しかし、それがきていないという事は、ナタリーの父親は、もうナタリーの生存を諦めている可能性があるという事だ。
 その推測から何が起きるかというと、心的衰弱による病気や、心中なんて事も考えられる。
 勿論最悪の場合の話だが、そうなっては、ナタリーの心が壊れかねないからな。

「ナタリー、ここら辺は知らない土地なんだよな?」
「うん、シェンドの町近郊からあんまり離れた事ないし……」
「ジェイルさん、シェンドの町まではどれくらいですか?」
「歩いて十日といったところか」
「なら走れば三日ですね」
「「ほぉ?」」

 リィたんとジェイルが口を揃えて言った。
 まぁ、皆で元の姿のリィたんに乗ればもっと早いんだろうけど、そんな事してたらリーガル国が混乱するだろうから無理だしな。

「ナタリーはどうする? また私が?」

 ジェイルの言葉。この中でナタリーのみ体力に難がある。その指摘という事だろう。

「任せてください」

 俺はそう言うと、地面に魔力を放った。大丈夫だ、アンドゥの血が使い方を教える。どの特殊能力もそうだった。魔法に関しても同じ事が言えるはずだ。
 発動したのは土塊つちくれ操作。
 これにより、大地は軟化するようにウネウネと動き、適量の土を大地から剥がす事に成功した。
 そして更にこれを操作して……!

「これは……椅子?」
「手すり付きの土椅子だ。ナタリーはこれに座ってればいいよ」
「なるほど、それは面白いな」

 リィたんは物珍しそうに俺が作った土椅子を見ている。
 椅子自体珍しいものではないだろうが……っていや、リィたんは「それは」と言った。「これは」ではないって事は俺の狙いに気付いたのか。

「ならミック、もう一脚作るといい」
「……どうしてそういう事に?」
「いや、もう二脚だ」

 ……くそ、ジェイルも俺の狙いに気付いたか。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ふははははは! いいぞミック! もっと! もっと速くだ!」
「ミックー! 頑張ってー!」
「なるほど、中々どうして、快適だな」
「くそ! お前ら覚えてろよ!」

 そう、ベンチのように連ねた土椅子が三脚、俺の横を並走しているのだ。
 俺? 勿論俺は地獄のランニングの真っ最中である。
 俺は全力でジェイルの指示する方向に走り、他の三人は、土椅子に座りながら、俺のサイコキネシス運搬列車に乗車中なのだ。
 勿論、人間単体でも運べるが、それにはどうしても身体を一部拘束してしまう。ならば、土台を拘束してしまえばいいわけだ。そうすれば、土台の上にいる三人はとても快適無敵なのだ。くそ、羨ましい。
 しかも俺は、探知の魔法を同時発動しているので、体力魔力以上に精神力が削られていくのだ。
 探知に関してはリィたんがやればいい? いや、ジェイル師匠曰く、これも修行なのだそうだ。
 魔法と超能力の併用は、確かに今後重要になってくるからな。仕方ないと割り切るしかないだろう。
 リィたんとジェイルがいくら速かろうが、一番遅いのは俺なのだから、最終的に、俺一人で走っても速度は変わらないというパワハラ的判断。
 集中力の途切れから、絶対に遅くなると思うのだが、三人のあの楽しそうな顔を見てると何も言えなくなる。
 まぁ、魔界からここまで、なんだかんだで一ヵ月近くも一緒にいるのだ。仲良くもなるだろう。

「見えた!」

 三日目の昼、ナビゲーターのジェイル以上に、その懐かしき光景を嬉しそうに叫んだのは、やはりナタリーだった。
 大きくも小さくもないが、遠目に見えるのは確かに町だった。

「あれが、シェンドの町か!」
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