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第一部
その11 決意
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息苦しい……。ん、何だこれ? ……ドゥムガ?
何で俺、ドゥムガと戦ってるんだ? 何が起こったんだ?
……あぁ、思い出した。ナタリーに呼ばれて急いで部屋に入ったら、ドゥムガが血だまりの上に立ってたんだ。
何かを咀嚼していた。それが見えた時、横たわるナタリーの右腕が無くなってた時、俺の意識はどこかへ飛んだ。
くそ、苦しいな。早く何とかしないと。
「喝!」
はい、先生! ……って、え? ジェイルさん?
「ぐっ!? な、何しやがるジェイル!」
「黙れ外道」
「な、何を……!」
おぉ、何かジェイルさんがかっこいいぞ! そうだ! もっと言ってやれ!
「坊ちゃん……」
「……ギッ」
あ、私でしたか。
「……このままでは娘が本当に死んでしまいます。今は熱くなっている場合ではないでしょう。今日教えたでしょう? 明鏡止水です。心を落ち着け己の底を知るのです。底を知れば己の全てが視えます。底を知れば相手の分析も早く、そして的確です」
「ギィ……ガッ!」
くそ、喋れない! えーっと……明鏡止水、明鏡止水。そうだ、さっき教わっていたやつだ。
落ち着け俺……ひっひっふーだ。早くナタリーをなんとかしなくちゃ。今はこんな奴に構っている暇はない。
「……さぁ、坊ちゃん」
ひっひっふーひっひっふー…………おや? ……俺の、様……子、が……ぁあああああああああっ!
「……ガッ…………はぁっ、はぁっはぁっ…………ふー。あー、辛かったっ」
「馬鹿な……ジェイルの声が届いたってのか」
「き、聞こえてたよ、ジェイルさん。ありがとう」
「ふん、私は手を出せませんからね」
「構いませんよ。今から…………――――
そうだ、こんな事が起きるんだ。
ナタリーを早く両親のところに戻してやるんだ。
どうやらこいつは俺を煽って精神的な部分を揺さぶっていた。これはきっとアンドゥの、いや、もっと言えばスパニッシュの命令だろう。
魔族らしからない俺の生態、感情に痺れを切らした……こういう事だ。
俺は変わらなくちゃいけない。しがないコンビニ店員はもう終わりだ。
俺は魔族の吸血鬼。そして人間だ。
半端者の変な男だが、俺は変わらなくちゃいけない。
魔族が朝昼晩と食事する度に人間が減る。怯えていたら何も変えられない。だから俺は変わらなくちゃいけないんだ!
俺が、変えなくちゃいけないんだ!!
「――――、いえ、今日から本気で行きます!」
「何を小癪な、ガキがぁっ!」
「エアスライス!」
「効くか、んなもんっ! っしゃあああああっ!」
弾かれた――が、俺の狙いはそこにない!
力強く振ったドゥムガの拳に、更に力を加えるようにサイコキネシスを放つ!
「お? おぉ? おぉおおおっ!? くそ、やはり超能力が使えるのか!?」
サイコキネシスで振られ続けぐるぐると回転しているドゥムガ。
足をもつれさせこちらへ向かって来るドゥムガに、俺は木剣で渾身の一振りを放った!
「ぐはぁああっ! がふっ! な、何だこの力は……まさかっ」
仰向けに倒れたドゥムガに追い打ちを放つ! 狙いは……腹部っ!
「まさか既に血の解放をっ!?」
「その通りだよボケナスッ!! おぉおおおおおおおおおっ! どっっっっせいっ!!」
「げはっ!?」
さぁ、出て来い!
「お……おぉ……うぐぅっ…………っ!!」
強烈なダメージにドゥムガが蹲った瞬間、臨界点を越えたドゥムガの口からは吐しゃ物が出てきた。
……くそ、出るには出たがあれはもう腕とは言えないものだ。ぐちゃぐちゃで見る影もない。
これじゃ手の施しようがないじゃないか!
「く、ナタリー!」
俺が駆け寄っている間にジェイルがドゥムガの後ろに立った。余計な動きを止めるためだろう。
「大丈夫か……おいっ」
ひ、酷い……。流れた血は多く、傷口の損傷もかなりのものだ。
鼓動はまだあるが、止血のしようがない。けど……けど、なんとか助けなくちゃ!
「ぐぅ……ふふ……ふふふふ。治る訳がない。もう助からんよ、その娘は」
「うるさいバカ野郎!」
「かはっ……む、娘自身が成長していれば話は変わっていたかもな。……いや、どっちにしろ意識がなければ意味もない。フハハハハハッ!」
「エルフの……光魔法か」
光魔法……そうか、光魔法は人間にとって回復魔法だって書庫の本に書いてあった。
ドゥムガが言っていたのはそういう事か。
回復魔法……魔族にとって回復魔法は闇魔法だ。俺が今使えるのはダークヒールのみ。そうか、ドゥムガに吐き出させて俺が回復する事は元々できないじゃないか。くそ、いくらダークヒールを使ってもナタリーに効果はない。
一体……一体どうすりゃいいんだよ!
「ふ……もはや手遅れよ」
「っ! そ、そうだ!」
『ナタリー、意識がないままでいい。生きているなら立て!』
俺のテレパシーでの【呪縛】に、ナタリーは虚ろながらも目を開いて立ち上がった。
「……ばかな。意識が戻っただと……?」
「いや、これは……血の呪縛」
「じょ、冗談じゃねぇ。意識を失った相手に命令を与えるなんて出来るはずがねぇ。第一、今このガキは喋って……ねぇ」
「どうやったかは知らないが、坊ちゃんにはそれだけの力があるという事だ。やはり末恐ろしい……」
『光魔法だナタリー。使えなくていい、イメージしろ。温かい光だ。太陽の光をイメージすればいい。足りない魔力は……俺が送る!』
するとナタリーは、意識のないまま、左手を正面に出した。
『出来る。出来るはずだ! 強く念じろ!』
ナタリーの神経をなぞるように、ナタリーに語りかけるように、俺はナタリーと同じ感覚を共有した。
すると、いつの間にか俺の左手も前に出ていた。
俺からも……出る? ……ええい、どうにでもなれだ!
『「天使の囁き」』
瞬間、俺とナタリーが放った神々しい光によって、部屋全体が包まれた。
暖かく温かい……。知らない魔法を無意識に出した気がする。これは、ナタリーの記憶が流れ込んできたのか?
「これは……伝説級魔法、天使の囁き……」
「な、何の冗談だよ。手が、手が生えてやがる……」
「……ふぅ」
俺が【呪縛】を解くと、ナタリーの膝は床につき、そのまま俺の腕に倒れてきた。
ちょっと無理させちゃったけど……大丈夫そうだな。
良かった……本当に、本当に良かった……。
◇◆◇ ◆◇◆
「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿なっ! ドゥムガを制し小娘を助けただと!? そして、小娘を救った魔法が伝説の光魔法……だと!?」
「これはちとまずいですな……」
「あぁ、最悪だ! 由緒正しい吸血鬼が、忌まわしい光魔法、それも伝説級魔法の使い手だ! こんな事が他の奴等にバレたら我が家の地位は地に落ちる。私の四天王の座も危うい……!」
「いかがされましょう?」
スパニッシュは考えていた。
跡取りのいないワラキエル家は、昔から「次代を担う子供がいないのであれば四天王を降りろ」と言われていた。
腕力だけでは魔族四天王を支える事は出来なかった。優秀な子孫がいない一族など、守る価値がないからだ。
だからこそスパニッシュは他の種族を欺き、「病弱だった息子を、三歳になってようやく表に出せた」事を演出したが、寄生転生で生みだした偽の息子は、人間味のある優しい子供だった。
人間の食事を欲し、吸血衝動は皆無で、奴隷を飼う始末。
自分の不利益にしかならない息子など、スパニッシュには必要なかった。自分の地位を危ぶめる存在。
そう、既に彼の頭の中で、ミケラルドはいらない存在だったのだ。
「……旦那様?」
「………………殺せ」
「は?」
「殺せ。ミケラルドも、小娘も、あの役立たずのドゥムガも!」
「しかしながらそれでは――」
「構わん」
アンドゥの言葉を遮ったスパニッシュはにやりと口の端を上げた。
「私に考えがある」
「……かしこまりました。ジェイルはいかが致しましょう?」
「あの現場にいた者は皆殺しだ。が、しかし、奴はお前にはちときつかろう。あれは……私が殺る」
冷たく暗い寝室で、スパニッシュの拳に力が入った。
何で俺、ドゥムガと戦ってるんだ? 何が起こったんだ?
……あぁ、思い出した。ナタリーに呼ばれて急いで部屋に入ったら、ドゥムガが血だまりの上に立ってたんだ。
何かを咀嚼していた。それが見えた時、横たわるナタリーの右腕が無くなってた時、俺の意識はどこかへ飛んだ。
くそ、苦しいな。早く何とかしないと。
「喝!」
はい、先生! ……って、え? ジェイルさん?
「ぐっ!? な、何しやがるジェイル!」
「黙れ外道」
「な、何を……!」
おぉ、何かジェイルさんがかっこいいぞ! そうだ! もっと言ってやれ!
「坊ちゃん……」
「……ギッ」
あ、私でしたか。
「……このままでは娘が本当に死んでしまいます。今は熱くなっている場合ではないでしょう。今日教えたでしょう? 明鏡止水です。心を落ち着け己の底を知るのです。底を知れば己の全てが視えます。底を知れば相手の分析も早く、そして的確です」
「ギィ……ガッ!」
くそ、喋れない! えーっと……明鏡止水、明鏡止水。そうだ、さっき教わっていたやつだ。
落ち着け俺……ひっひっふーだ。早くナタリーをなんとかしなくちゃ。今はこんな奴に構っている暇はない。
「……さぁ、坊ちゃん」
ひっひっふーひっひっふー…………おや? ……俺の、様……子、が……ぁあああああああああっ!
「……ガッ…………はぁっ、はぁっはぁっ…………ふー。あー、辛かったっ」
「馬鹿な……ジェイルの声が届いたってのか」
「き、聞こえてたよ、ジェイルさん。ありがとう」
「ふん、私は手を出せませんからね」
「構いませんよ。今から…………――――
そうだ、こんな事が起きるんだ。
ナタリーを早く両親のところに戻してやるんだ。
どうやらこいつは俺を煽って精神的な部分を揺さぶっていた。これはきっとアンドゥの、いや、もっと言えばスパニッシュの命令だろう。
魔族らしからない俺の生態、感情に痺れを切らした……こういう事だ。
俺は変わらなくちゃいけない。しがないコンビニ店員はもう終わりだ。
俺は魔族の吸血鬼。そして人間だ。
半端者の変な男だが、俺は変わらなくちゃいけない。
魔族が朝昼晩と食事する度に人間が減る。怯えていたら何も変えられない。だから俺は変わらなくちゃいけないんだ!
俺が、変えなくちゃいけないんだ!!
「――――、いえ、今日から本気で行きます!」
「何を小癪な、ガキがぁっ!」
「エアスライス!」
「効くか、んなもんっ! っしゃあああああっ!」
弾かれた――が、俺の狙いはそこにない!
力強く振ったドゥムガの拳に、更に力を加えるようにサイコキネシスを放つ!
「お? おぉ? おぉおおおっ!? くそ、やはり超能力が使えるのか!?」
サイコキネシスで振られ続けぐるぐると回転しているドゥムガ。
足をもつれさせこちらへ向かって来るドゥムガに、俺は木剣で渾身の一振りを放った!
「ぐはぁああっ! がふっ! な、何だこの力は……まさかっ」
仰向けに倒れたドゥムガに追い打ちを放つ! 狙いは……腹部っ!
「まさか既に血の解放をっ!?」
「その通りだよボケナスッ!! おぉおおおおおおおおおっ! どっっっっせいっ!!」
「げはっ!?」
さぁ、出て来い!
「お……おぉ……うぐぅっ…………っ!!」
強烈なダメージにドゥムガが蹲った瞬間、臨界点を越えたドゥムガの口からは吐しゃ物が出てきた。
……くそ、出るには出たがあれはもう腕とは言えないものだ。ぐちゃぐちゃで見る影もない。
これじゃ手の施しようがないじゃないか!
「く、ナタリー!」
俺が駆け寄っている間にジェイルがドゥムガの後ろに立った。余計な動きを止めるためだろう。
「大丈夫か……おいっ」
ひ、酷い……。流れた血は多く、傷口の損傷もかなりのものだ。
鼓動はまだあるが、止血のしようがない。けど……けど、なんとか助けなくちゃ!
「ぐぅ……ふふ……ふふふふ。治る訳がない。もう助からんよ、その娘は」
「うるさいバカ野郎!」
「かはっ……む、娘自身が成長していれば話は変わっていたかもな。……いや、どっちにしろ意識がなければ意味もない。フハハハハハッ!」
「エルフの……光魔法か」
光魔法……そうか、光魔法は人間にとって回復魔法だって書庫の本に書いてあった。
ドゥムガが言っていたのはそういう事か。
回復魔法……魔族にとって回復魔法は闇魔法だ。俺が今使えるのはダークヒールのみ。そうか、ドゥムガに吐き出させて俺が回復する事は元々できないじゃないか。くそ、いくらダークヒールを使ってもナタリーに効果はない。
一体……一体どうすりゃいいんだよ!
「ふ……もはや手遅れよ」
「っ! そ、そうだ!」
『ナタリー、意識がないままでいい。生きているなら立て!』
俺のテレパシーでの【呪縛】に、ナタリーは虚ろながらも目を開いて立ち上がった。
「……ばかな。意識が戻っただと……?」
「いや、これは……血の呪縛」
「じょ、冗談じゃねぇ。意識を失った相手に命令を与えるなんて出来るはずがねぇ。第一、今このガキは喋って……ねぇ」
「どうやったかは知らないが、坊ちゃんにはそれだけの力があるという事だ。やはり末恐ろしい……」
『光魔法だナタリー。使えなくていい、イメージしろ。温かい光だ。太陽の光をイメージすればいい。足りない魔力は……俺が送る!』
するとナタリーは、意識のないまま、左手を正面に出した。
『出来る。出来るはずだ! 強く念じろ!』
ナタリーの神経をなぞるように、ナタリーに語りかけるように、俺はナタリーと同じ感覚を共有した。
すると、いつの間にか俺の左手も前に出ていた。
俺からも……出る? ……ええい、どうにでもなれだ!
『「天使の囁き」』
瞬間、俺とナタリーが放った神々しい光によって、部屋全体が包まれた。
暖かく温かい……。知らない魔法を無意識に出した気がする。これは、ナタリーの記憶が流れ込んできたのか?
「これは……伝説級魔法、天使の囁き……」
「な、何の冗談だよ。手が、手が生えてやがる……」
「……ふぅ」
俺が【呪縛】を解くと、ナタリーの膝は床につき、そのまま俺の腕に倒れてきた。
ちょっと無理させちゃったけど……大丈夫そうだな。
良かった……本当に、本当に良かった……。
◇◆◇ ◆◇◆
「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿なっ! ドゥムガを制し小娘を助けただと!? そして、小娘を救った魔法が伝説の光魔法……だと!?」
「これはちとまずいですな……」
「あぁ、最悪だ! 由緒正しい吸血鬼が、忌まわしい光魔法、それも伝説級魔法の使い手だ! こんな事が他の奴等にバレたら我が家の地位は地に落ちる。私の四天王の座も危うい……!」
「いかがされましょう?」
スパニッシュは考えていた。
跡取りのいないワラキエル家は、昔から「次代を担う子供がいないのであれば四天王を降りろ」と言われていた。
腕力だけでは魔族四天王を支える事は出来なかった。優秀な子孫がいない一族など、守る価値がないからだ。
だからこそスパニッシュは他の種族を欺き、「病弱だった息子を、三歳になってようやく表に出せた」事を演出したが、寄生転生で生みだした偽の息子は、人間味のある優しい子供だった。
人間の食事を欲し、吸血衝動は皆無で、奴隷を飼う始末。
自分の不利益にしかならない息子など、スパニッシュには必要なかった。自分の地位を危ぶめる存在。
そう、既に彼の頭の中で、ミケラルドはいらない存在だったのだ。
「……旦那様?」
「………………殺せ」
「は?」
「殺せ。ミケラルドも、小娘も、あの役立たずのドゥムガも!」
「しかしながらそれでは――」
「構わん」
アンドゥの言葉を遮ったスパニッシュはにやりと口の端を上げた。
「私に考えがある」
「……かしこまりました。ジェイルはいかが致しましょう?」
「あの現場にいた者は皆殺しだ。が、しかし、奴はお前にはちときつかろう。あれは……私が殺る」
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