床下ダンジョンは刻の部屋〜平凡男の成り上がり〜

19話 予想外

いよいよ2階層のボスに挑戦だ。
やっぱり緊張するな。

ボスの扉を少し開け、中を覗いてみる。
やはり、いるよな
中に居たのは赤色のスライム騎士
まさかの色違いかよ
いや、ちょっと違うな
持ってる武器が"レイピア"になっている。
見た目は色と武器以外ほぼ一緒だが、油断せずに行こう。

とりあえず【移動】は使わずに様子を見てみるか
俺は距離を取ったまま赤スライム騎士の周囲を動き回り、攻撃のパターンを探っていく。
　こいつの攻撃は基本的にスライム騎士と同じようだ。
　違うのは溶解液の弾丸では無く、赤スライムの爆発液の弾丸を放ってくる点と後は近距離でレイピアの連続突きを放ってくる点だ。
　爆発液の弾丸は【移動】を使用すれば避けれるが、爆発する為注意が必要だ。
　更にレイピアの突きは軟体の身体を変形させて突いてくる為、軌道が読みづらい。

ーーだが、苦戦する程ではないな

俺は爆発液の弾丸をシンプルな速度でかいくぐり抜け、接近。
レイピアの突きを2連続の【移動】で避け、範囲が1mになった【飛ぶ斬撃】で赤スライム騎士の核を切り裂いた。

さぁ、ドロップアイテムの時間だ。

赤スライム騎士が粒子となり消える。
その場にポトリと落ちたのは……来た！
一つは赤色の少し大きめの魔石
1階ボスのスライムよりやや大きいくらい。

そして、ドロップアイテムは

赤色のスライム素材の……スリッパ？？

これは予想外すぎる。
座布団が来たから家具系かなって思ってたのにスリッパ
座布団の次はスリッパだと
統一感が無さすぎてもうわけが分からない。

だけど、このスライムスリッパ、めっちゃ履きたくなる。
見るからにぷにぷにで絶対気持ちいいじゃん！
お楽しみは後にして、3階層を少しだけ、下見しに行こう。
3階層へ続く扉は開けたままにしてリスポーン対策をし、俺は3階層への階段を降りた。

ついに3階層。
結構いいペースなのでは無いかと自分ながら思う。
2階層の攻略も結構余裕があったしな。
ダンジョンによって階層数は違う為、何階層だから中堅冒険者みたいな事は無いらしいが、脱初心者も近いと思いたい。

で、3階層の魔物は何かな。
定番のゴブリンとか？うさぎっぽい魔物とか？
薄暗いダンジョンの通路を進んでいく、もう少しで広間だ。

だよな

やっぱりスライムだ……

広場に居たのは、半透明の黄色のスライム。
大きさは通常スライムと同じくらいだ。
このダンジョンはスライム系しかいないのかよ。
まぁ出てくる魔物の系統が決まっているダンジョンは多いらしいし、
1、2、3階層と全てスライムで1、2階層のボスもスライム。
これはスライム系統ダンジョンもあり得る。
うーん、何とも言い難いな……

とりあえずは黄色スライムをそっと観察だ。

黄色スライムはコロコロと広場内を転がっている。
移動方法が跳ねるから転がるに変化したようだな
確かに跳ねるより転がる方が移動効率はいいもんな

一体どのような闘い方をするのだろうか？
気になるな。
下見だけにしようかと思ったけど、今日はまだまだ余裕もあるし、戦ってみるか。

そう決めた俺は広場に入り、短剣を構え、黄スライムに対峙する。
最初の闘いは奇襲はせずに相手の攻撃を全て見ると決めている。
俺の謎スタイルだな。

黄スライムは俺に向かって、転がって来る。
ボーリングの球みたいだな。
それにかなりの速度だ。
数十メートルあった距離が一気に狭まる。
更に高速回転で核の位置が見えない。

だが、まだまだ避けれない速度ではないな

俺は黄色スライムの転がりを左にサイドステップで避ける。
だが何かが右腕を掠めた気がする。

ーーその瞬間、右手に強い痺れが走る。

あっ！

痺れのあまり短剣を落としてしまった。
黄色スライムはUターンし、再びこちらに向かってきている。
右手も痺れてるし、拾うには時間がない。
俺は混乱する思考を落ち着かせ、3連続【移動】を使い、距離を取る。
これでとりあえずは安全圏だ。

しかし、黄色スライムはしつこく転がってくる為、俺は距離を取るように走りながら考える。

おそらくだが、右腕の痺れは回転の際にスライムから飛び散った液体だろう。
ギリギリで避けていたのが失敗の要因だ。
紙一重で避けるっていうのは、アニメみたいでカッコいいが、俺みたいな初心者がしてはダメだな。
この液体が痺れでは無く、致死性の毒であったら俺は死んでいた。
もう一度気を引き締め直そう。

とは言ってもどうしたものか悩むな。
　スライムボディの飛び散りがある為、あまり近づく事は出来ない。
今までのスライムは放つ液体には強い効果があったが、本体ボディには若干の溶解作用があるだけで飛び散り程度では特に身体にダメージや影響はなかった。
　だが、こいつはおそらくスライムボディ全体が強い効果を持っている。
　更に常に高速で回転している為、核の位置を見定めるのも難しい。
【斬撃】でスライムボディを削って、動きを止めて、核を切り裂くしかないか……だが【斬撃】の飛距離は1メートル。斬った際にスライムボディが飛び散る可能性もある。

　うーん、どうする？後スライムボディの痺れは電気なのか麻痺毒なのかも気になるな。
通電による痺れならば短剣でスライム液に触れただけで電気が通って痺れてしまう。
　対して麻痺毒であれば、剣で切っても痺れないし、うん？？
飛び散った液が着いたのは腕だけど、服の上だったよな？
という事は直接触れてないのに痺れたって事だ。
　電気かは謎だが、服は貫通するようだな。
ただの作業服服だから撥水加工などはしていない為、染み込んだ可能性もゼロではないが……直接剣で切る選択肢は危険だ。

　となると、やはり攻撃手段は"飛ぶ斬撃"しかない。
だが、先程も考えたが切った際の飛び散りが怖い……
うーん、考えてても悩むばかりなら、1回やってみよう。
時には勇気も必要だ。リスク無くして成功無しだ。
　まずは落とした短剣を拾おう

そう思った瞬間、げっ…
黄スライムの転がりが短剣の上を通過した。
短剣に黄色の液がべっとり付着している。
これは触ったら絶対痺れるよな。
俺は武器を失ってしまった。

どうする？一旦退却するしかないか……いや、ひとつだけ試してみたい事があるな

今、思いついたとっておきの秘策だ。
退却するのはそれからにしよう。