上 下
165 / 238
19.魔の森での生活

魔の森を駆け巡る黒い影

しおりを挟む
「「「ニャニャニャニャニャ!!」」」

森の中を三つの黒い影が駆け抜ける。
その後ろからは神々しい光を放ちそうな人物が、魔物を回収している。

「ニャニャ!! あっちだラウールサクラ!!」

一番小さな黒いものが言葉を発した。

「ニャニャに!! わかったニャン! 行くわよニャンラウール!」

メスと思われる、1mほどの黒いものが答える。

「行くニャンサクラ!! あっちだニャン! にゃんが抜けてるニャンクロウ!!」

オスらしき黒いものが突っ込む。

「我忘れてたニャン! 御免ニャンラウール!」

小さな黒きものが反省している。


・・・・
・・・・

そう、ここには三匹の黒猫がいる。
黒猫というには大きいものが二匹いるが、黒猫たちが森を駆け巡っている。

「これはどういう事でしょう? ラウール達が生き生きしていますね・・・。」
三匹の後ろをついて走っているソフィアが呟いた。



お判りいただけただろうか・・・。
今この魔の森を駆け抜けている者の正体。
それは、ラウールとサクラ、クロウが変化の術を使い、黒猫の姿で森の魔物を狩っている現場である。

少し時はさかのぼる・・・・。

・・・・・
・・・・・
・・・・・

「ねえラウール? 変化の術も完璧になって来たし、周りには人もいないし・・・・、あれをしない?」

夕食を食べ終わり、体もきれいにしてくつろいでいるときだった。
サクラが唐突に提案してきたのは、あれをしない? だった。

「あれって何? 変化の術はほぼほぼ完ぺきだと思うけど・・・、変化の術を覚えて、あれって?」

ラウールは今の会話だけでは何のことを言っているのか理解できなかった。

「あれって言ったらあれよ! 私も恥ずかしいんだから察してよ!」

ラウールはそう言われても理解できなかった。
言葉にしてもらわないと理解できな男。
察することは難しい男、それがラウールだ。

「あれでなくて、ちゃんと言ってよ・・・。わからないよあれだけで・・・。何をしたらいいのサクラ?」

「ん~、恥ずかしいな・・・。ちゃんと言うから一回でちゃんと聞いてね。・・・・・・、黒猫モードよ!」

ラウールは、あ~! と心の中で叫んだ。
サクラが意外に気に入っていることに気づかなかったことを後悔もした。

「あ~それね! それで分かったよ! それそれ、それをしたいんだね!」

そこにクロウも口を挟んできた。
クロウは今の会話を聞いても何も浮かばなかった。
なんとなく仲間外れになっているようで悲しかった。

「ラウール? サクラ? 黒猫モードって何? 我知らない?」

ラウールとサクラはクロウの前で黒猫モードになったことがなかったか考えた。
うん、あの時はクロースとクリスに猫モードをさせただけだったなと思い出した。

「ごめんクロウ。僕達だけで冒険者をしているときにやった事だった。たとえるなら、クロースとクリスがやっていたことを僕たちがするんだよ!」

「そうよクロウ! 黒い猫ね! 見た目が黒猫で魔物を殲滅するのよ!! 面白そうでしょクロウ! 変化の術を覚えたから、本物の黒猫モードよ!」

サクラは興奮している。
変化の術を覚えたことで、まねではなく、姿は黒猫になる。
黒いものを装備するのではなく、黒猫になることを想像して。

「黒猫? あの姿だったら我もする! 我も黒猫モードで魔物を殲滅する!」

その言葉が決定打となった。
ラウールとサクラ、クロウで次の日は一日黒猫の姿で魔の森を駆け巡ると決まった瞬間だった。

「私はやりませんよ? 私は変化の術は覚えていませんし、黒猫にはなれませんので。でも、仲間外れは悲しいので、後ろをついて魔物を回収していきます。題して・・・・、ハイエルフと三匹の黒猫作戦ですね?」

ソフィアは名前の付け方のセンスがなかった・・・。


・・・・・
・・・・・
・・・・・

そして現在に至る。
すでに半日が過ぎており、拠点の周りの魔物は大多数が狩られていた。
Sランクの魔物もいたであろうに、すれ違いざまに、一撃で死を迎えている。

後ろをついて走っているソフィアは、産まれてから見たことのない状況にワクワクしていた。

その後も魔物を狩り続け、ラスボスの緑龍に到着した。

緑龍には、念話の腕輪を渡し、会話できる状況になっていた。
緑龍もノリノリで、最後は俺と戦えと言い出した。
変化の術を教えたお礼は、戦いでいいと。

ここに、【黒猫】と緑龍の戦いの火ぶたが切って落とされた。

「行くニャンサクラ! 緑龍をやっつけるニャン!」

「は~はははっ!! 俺を簡単に倒せると思うなよ! 我こそは緑龍! 魔の森の支配者である!!」

「我はニャンクロウニャン! 今こそお前を倒すニャン!!」

そう言うとクロウは緑龍の、体のわりに短い腕を切りつけようとした。

「そんな攻撃はくらうか!」

緑龍は身を引いて躱した。

「今ニャンラウール! 私が右ニャン! ラウールは左をニャン!」

サクラは右に回り込み、爪で背中を切り裂こうと前足を振り上げた。
ラウールは左から攻め込み、腹部に頭突きをするように突っ込む。

「くっ! やるな! だが!」

そう言って緑龍は体を回転させ、前に出ることで爪と頭の攻撃をかわそうとした。
しかし二匹で攻め込んでいたため、背中の鱗が一枚はげることになった。

「痛!!」

緑龍の体がラウールとサクラの攻撃から逃れようとしたとき、クロウも動き出した。

「我を忘れるなニャン! 我の噛みつきを喰らうニャン!」

クロウが小さい体で大きく口を開けて、緑龍の鬚にかみついた。
そして緑龍の鬚にぶら下がり、食い下がっている。

「おい! バランスが取れないぞ! クロウ! 離れろ!」

「離れろって言われて、離れるわけがないニャン!!」

バランスを崩している緑龍。
そこへラウールとサクラの渾身の攻撃が加えられた。

「「肉球パンチニャン!!」」

クロウも鬚から離れて攻撃をし始めた。

「我も肉球パンチニャン!!」

三匹から放たれる肉球パンチ。
斬撃とは違い、肉体の外部に傷がつくことはない。
しかし、肉球を通して与えられる攻撃は、肉体内部にダメージを与える。

「おい! 結構・・・、いや、かなりやばいぞ俺は~! 龍を殺す気か~!!」

思っていた以上にダメージを喰らった緑龍は叫んでしまった。
肉球パンチはやばい!
肉体の内部から殺していく・・・。

回復魔法も使いながら、四匹の御遊びは続いた。
みんながいい笑顔でじゃれているような、少し間違うと誰かが死ぬような・・・。

それを見たソフィアがポツリと呟いた。

「みんな楽しそうですね。そんなみんなを見ている私も楽しいです。これまでの長い人生の中でも、きっと一番楽しいとき。これからも長いときを生きていくことになりますが、一生忘れませんよ。ありがとう、【黒猫】。緑龍もありがとう・・・。」

ソフィアの思いは伝わっていないが、ハイエルフの長い人生に影響を与えた【黒猫】だった。
しおりを挟む
感想 100

あなたにおすすめの小説

灯る透明の染色方法

ナナシマイ
ファンタジー
時波の世界にまだ聖人が存在していた時代。世界がやわらかで、理はよく揺らぎ、不安定だった時代。 穏やかな魔女と苛烈な聖人は出会い、そして突然に婚姻を結ぶ。 ――ちょうどよかったんだ。俺はどこかの国に肩入れする気はまったくないからな。 ――あなたの事情に巻き込まないでください。わたしは静謐の魔女。騒がしいのは好みません。戦なんて、もってのほかです。 静謐と戦火。正反対ともいえる性質を持つふたり。 しかし魔女と聖人が一度結んだ繋ぎは解くことができない。好まない戦の要素を削ろうにも、婚姻によって紐づいてしまった自身の要素を崩すわけにもいかない。 静謐と戦火の繋ぎは成されたのだ。 しかたなく伴侶としての役目を果たすことにした静謐の魔女は、肌に合わぬ要素を最小限に抑えるため、友である明星黒竜たちに協力を仰ぎ魔法具を作ることにした――。 迷子が趣味な魔女と、国落としに精を出す聖人。 世話焼きお父さんな冬の竜と、貢物でレストランを営む秋の竜。 これは、最後の聖人を育んだ人ならざる者たちが紡ぐ、対話と幸福についての物語である。

転生貴族の異世界無双生活

guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。 彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。 その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか! ハーレム弱めです。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙
ファンタジー
真実を司りし神ウェルスの名のもとに、 魔法公証人が秘められし真実を問う。 舞台は多くのダンジョンを近郊に擁する古都レッジョ。 多くの冒険者を惹きつけるレッジョでは今日も、 冒険者やダンジョンにまつわるトラブルで騒がしい。 魔法公証人ルロイ・フェヘールは、 そんなレッジョで真実を司る神ウェルスの御名の元、 証書と魔法により真実を見極める力「プロバティオ」をもって、 トラブルを抱えた依頼人たちを助けてゆく。 異世界公証人ファンタジー。 基本章ごとの短編集なので、 各章のごとに独立したお話として読めます。 カクヨムにて一度公開した作品ですが、 要所を手直し推敲して再アップしたものを連載しています。 最終話までは既に書いてあるので、 小説の完結は確約できます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

処理中です...